女川原子力発電所過酷事故時における原発から30km圏にある医療・介護福祉施設等の避難計画に関する調査(二次)報告①


平成29年1月20日
宮城県保険医協会
理事長 井上 博之
公害環境対策部長 島 和雄

女川原子力発電所過酷事故時における原発から30km圏にある医療・介護福祉施設等の避難計画に関する調査(二次)報告①

【はじめに】
 宮城県の「避難計画〔原子力災害〕作成ガイドライン」では、各医療機関・介護福祉施設等(以後、「機関・施設等」と称す)に対して避難計画を立案するにあたり、「自力による避難に努め」、県及び関係市町と連絡等連携するよう要請している。しかしながら、はたして「民間」の立場だけで実効性のある計画立案が可能なのかどうか。宮城県保険医協会は、この点について同じ医療に携わる者としてきわめて難しい思われることから、昨年に引き続き今年も調査を行うこととした。

 昨年の調査において明らかになったことは、県は、避難計画作成の要請をしているだけで、情報の提供や作成の方法などについて十分に指示や説明を行っていないこと、そのため計画策定は全くと言って良いほど手付かず状態に置かれていることであった。
 昨年の調査を基に宮城県保険医協会では、国、県並びに女川原発から30km圏にある自治体(以下UPZ自治体と称す)は、避難先、避難路や避難方法、手段等についての要件を提示するだけでなく、地域の「機関・施設等」の要望を具体的に汲み取ること、県の責任において他の県・地域自治体と連携を図り、県としての対策と避難計画の策定に必要な情報、具体的な説明と保障を早急に提示すべきである旨、意見書として提出した。

 なお、このアンケート調査から導き出された意見書は、今ある原発を廃炉にし、その危険性がなくなるまでの期間に起こりうる事故に対応すべく、県並びにUPZ自治体に積極的かつ具体的関与を求めるものであり、女川原発再稼働のための避難計画策定とは考えていないことを改めて強調したい。

 今回は、昨年の調査結果に基づいて、各「機関・施設等」での避難計画作成の進捗状況(計画の困難性)の把握とともに、本来どの機関・組織が責任を持って行うべきか(責任の所在)、また連絡体制等連携状況(連絡体制)はどうか等を中心に、UPZ自治体内の「機関・施設等」での意見・考え方等について調査した。結果、介護福祉施設114件(前回113件)中43件(37.7%)(前回66件)の回答を頂いた。

【結果の概要】
設問1.区分(回答率内訳)
 機関・施設等の区分で回答率が最も高かったのは病院の20件中11件(55.0%)であった。回答数が多かったのは介護福祉施設からの22件(36.7%)であった。

設問2.所在地(回答率内訳)
 所在地別で回答率が最も高かったのは、南三陸町の7件中4件(57.1%)だった。回答数で最も多かったのは石巻市と登米市の15件であったが回答割合は登米市(32件中15件)46.9%と石巻市(45件中15件)の33.3%を上回っている。

設問3. 女川原発からの距離
 女川原発から機関・施設等までの距離別では30Km圏外からの回答が22件と最も多く、次が10〜30Km圏内の19件だった。(表3-1、表3-2)

設問4.病床数・施設の規模
回答を寄せられた機関・施設の規模は下記の通りであった。
・病院(回答数11件)      病床総数 1183床      平均:107.5床
・有床診療所(回答数6件)     病床総数     83床    平均: 13.8床
・介護福祉施設等(回答数22件) 入所者総数1399人     平均:   63.6人

設問5.避難計画の作成状況
 昨年の調査では回答を寄せられた66の機関・施設等のうち作成が1件、未作成は98.5%であった。今回の調査では、昨年に比べ1件しか増えておらず、未作成は41件95.3%であった。(表5-1、図5-1)その内「当分作成予定がない」としたところが41件中21件51.2%あった。(表5-4、図5-2)

設問6.未作成の理由(設問5で「いいえ」と答えた機関・施設41件が対象の設問)
 昨年度の調査では「作成方法そのものがわからない」とする回答が半数を占め、「県・自治体からの説明を受けていない」が9割を超えていたが、今回の調査では「現在作成検討中」が14.6%と、作成に取り組もうとしていることが推認できる。しかし、県・自治体からの説明不足と情報不足については、回答者の半数近くが不足と答えている。(図6-1)

設問7.作成上困難な点
 設問5で「いいえ」と答えた機関・施設41件のうち、計画作成上難しい点として、「①避難(転医)先の確保」が73.2%と最も多く、続いて「⑤車両等避難手段の確保」が70.7%と7割を超え、「②情報の収集や誘導体制の確立」も68.3%と7割近くが指摘しており、他の項目(約42%〜49%)にくらべ20ポイントほど高くなっている。(図7-1)
 施設区分別に見ると、患者・利用者が多いと思われる病院と介護福祉施設において、「①避難(転医)先の確保」と「⑤車両等避難手段の確保」が共に回答数が一番多くなっている。(表7-1)
 昨年の結果も「避難先の確保」89.3%、「避難車両の手配」60.6%となっており、「避難先の確保(受け入れ先の確保)」が最も困難な問題となっており、現時点においても計画作成上の困難性は解決されていないことが明らかとなっている。

設問8.解決責任の所在
 作成上難しい点の解決はどこが責任を持って行うべきかについて、41件から総数155件の指摘があったが、そのうちの概ね3/4が当該市町(31.0%)と県(43.2%)のいわゆる「公」(74.2%)であった。(図8-1,表8-1)
*「自院・自施設」・「市町」・「県」の指摘状況を見ると、
 「自院・自施設の責任」で調整・解決すると指摘した40件(155件中)の割合を見ると、①〜⑦の7項目において5〜7件の指摘数で、20%未満となっている。(図8-2-1)
 「市町の責任」で解決すべきと指摘した48件中最も多かった項目は、②情報の収集や誘導体制の確立で11件22.9%、⑤車両等避難手段の確保が8件16.7%と続いている。(図8-2-2)
 「県が責任」を持って調整・解決すべきとする指摘数は67件と、全指摘数の43.2%に上っている。その割合を見ると④避難時の誘導責任者と要員の確保、⑥関係機関との連携が10%以下で、⑨(0件)を除く他の6項目全て10%台となっている。(図8-2-3)
*「責任性」の対象の項目別分類(項目別回答数における責任割合)
 指摘のあった項目のうち最も多かったものは、「②情報の収集や誘導体制の確立」で、回答者41件中25件61.0%と6割以上となっており、その80.0%が県もしくは市町のいわゆる「公」(25件中、県が9件36.0%、市町が11件44.0%)の責任でと答えている。以下、同様に指摘の多かった項目別に見ると、次が、「①避難(転医)先の確保」で41件中23件56.1%、その78.3%が「公」の責任でとし、続いて「⑤車両等避難手段の確保」が53.7%、その77.3%が「公」の責任で行うよう望んでいる。(表8-3)
*各項目についての責任割合の詳細をみると
 ①避難(転医)先の確保(指摘数23件)については、
有効回答41件中23件56.1%の指摘のうち、52.2%が県の責任での解決を指摘している。続いて市町の責任では26.1%で、自院・自施設での責任で(いわゆる民間の自前で)は21.7%と、県、市町のいわゆる「公」での責任を求めているのは78.3%となっている。(図8-3-①)
 ②情報の収集や誘導体制の確立(指摘数25件)については、
有効回答41件中25件61.0%の指摘のうち、44.0%が市町の責任での解決を指摘している。続いて県の責任が36.0%で、自院・自施設での責任で(いわゆる民間の自前で)は20.0%と、県、市町のいわゆる「公」での責任を求めているのは80.0%となっている。(図8-3-②)
 ③避難径路の選定(指摘数19件)については、
有効回答41件中19件46.3%の指摘のうち、42.1%が県の責任での解決を指摘している。続いて自院・自施設の責任が31.6%で、市町での責任では26.3%と、避難経路については県への責任を求めていると同時に自らの判断での径路選定を求める傾向も見られる。径路選定についてはいわゆる公と民での綿密な協議が求められているといえる。(図8-3-③)
 ④避難時の誘導責任者と要員の確保(指摘数12件)については、
有効回答が41件中12件29.3%の指摘のうち、自院・自施設での責任で(いわゆる民間の自前で)は50.0%となっている。続いて県の責任が33.3%で、市町の責任が16.7%となっている。県、市町のいわゆる「公」での責任を求めているのは50.0%となっている。
(図8-3-④)
⑤車両等避難手段の確保(指摘数22件)については、
 有効回答41件中22件53.7%の指摘のうち、40.9%が県の責任での解決を指摘している。続いて市町の責任は36.4%で、自院・自施設での責任で(いわゆる民間の自前で)は22.7%と、県、市町のいわゆる「公」での責任を求めているのは77.3%となっている。なお、多数の利用者がいる病院並びに介護施設については、指摘件数22件のうち病院が6件、介護福祉施設等が11件の17件が県並びに市町のいわゆる「公」の責任で解決を求めている。(図8-3-⑤)

【参考】「車両等避難手段」解決の責任性:指摘件数22件中
病院6件、そのうち県の責任3件、市町の責任2件、自分1件
(規模総数698床、平均116床)
介護福祉施設等11件、そのうち県の責任3件、市町の責任4件、自分4件
(規模総数763人、平均69.4人)

⑥関係機関との連携(指摘数18件)については、
 有効回答41件中18件43.9%の指摘のうち、38.9%が市町の責任での解決を指摘している。続いて県の責任では33.3%で、自院・自施設での責任で(いわゆる民間の自前で)は27.8%と、県、市町のいわゆる「公」での責任を求めているのは72.2%となっている。(図8-3-⑥)
⑦避難先での患者・利用者のケア方法(指摘数16件)については、
 有効回答41件中16件39.0%の指摘のうち、県の責任と自院・自施設での責任(いわゆる民間の自前)での解決を指摘しているのが43.8%と同数で、市町の責任が12.5%となっている。(図8-3-⑦)
⑧搬送・移送に必要な資機材の確保(指摘数20件)については、
 有効回答41件中20件48.8%の指摘のうち、60.0%が県の責任での解決を指摘している。続いて市町の責任では35.0%で、自院・自施設での責任で(いわゆる民間の自前で)は5.0%と、県、市町のいわゆる「公」での責任を求めているのは95.0%となっている。搬送・移送に必要な資機材の確保については公に依拠するところが大きい。(図8-3-⑧)
*「責任性」選択の理由(記載15件)

  • 避難先確保や避難手段の確保は病院単独で確保するのは難しい
  • 県および市のガイドラインに添った対応が必要になるため
  • 基本的には自院で賄う予定でおります
  • 施設や町での解決は困難
  • 原発事故となれば広範囲(遠距離)での避難をよぎなくされる場合がある
  • 行政の介入が必要
  • 自院で解決するには限界がある
  • 全体の把握が困難と思われるため
  • 有事の状況により転医先が違ってくるのではないか?避難車輛の確保について、合理的に配車されている事が望ましいと考える
  • 問題が大きすぎて民間で対応するのは困難、情報収集が困難
  • 個々の企業における判断で避難することではないと思います。広域であれば県、市が対策を考えるべきではないか?
  • 女川原発の避難計画等について県や市の立場、権利等が分からない為
  • 町自体が全町避難する可能性があり町に避難支援を求めても医療センター老健のみを優先することは不可能。他にも多数の要介護者、要支援者がいる
  • 広域的に問題が生じることが予測される為、一事業者での解決範囲ではない
  • 女川原発の事故等でどのように移動できるかも分からないし、国さえもきちんと責任、説明をしていないのにどう避難すればいいのかも、手段も分からない

設問9.連携体制
 今回は、「避難先の確保」、「避難車両の確保」、「人員の確保、避難ルート」など計画作成上難しいとされる項目に加え、「情報収集や誘導体制」、「避難中の患者・利用者のケア」も含め、県及び市町との連携について調査した。
 結果、連携ができていないとの答えが80%を超えていた。とりわけ、「避難車輌の確保」については41件中33件(80.5%、ほか1件は無回答)で確保ができず、そのうちの31件(41件中75.6%、33件中93.9%)が「避難車輌の手配についての連携」ができていないと答えている。(図9-5-1、表9-5-2-1)
*項目についての詳細を見ると、
1)避難先の確保について連携ができているかの問いには、
 41件中35件85.4%の機関・施設等が「できていない」と答えている。
 「できている」と答えた機関・施設等は3件中病院が1、介護福祉施設が2であった。(図9-1、表9-1-1)
2)情報の収集や誘導体制について連携ができているかの問いには、
 41件中35件85.4%の機関・施設等が「できていない」と答えている。
 「できている」と答えた機関・施設等は病院が4件中1、介護福祉施設が2であった。(図9-2、表9-2-1)
3)避難ルートの選定について連携ができているかの問いには、
 41件中36件87.8%の機関・施設等が「できていない」と答えている。
 「できている」と答えた機関・施設等は3件中病院が1であった。(図9-3、表9-3-1)
4)避難時の要員確保について連携ができているかの問いには、
 41件中37件90.2%の機関・施設等が「できていない」と答えている。
 「できている」と答えた機関・施設等は3件中病院が1、介護福祉施設が2であった。(図9-4、表9-4-1)
5)-1避難車輌について、所有する車輌を最大限活用した自力避難ができるかどうかについては、
 「できる」としたところは7件17.1%で、病院・有床診療所・在宅支援診療所が各1件と介護福祉施設が4件であり、「できない」との答えは33件80.5%であった。
 「できない」との答えの詳細は、病院が11件中9件81.8%、有床診療所が6件中5件83.3%、在宅支援診療所が3件中2件66.7%、介護福祉施設が21件中17件80.9%であった。(図9-5-1、表9-5-1-1)
5)-2 避難車両の手配ができないとも答えた33件について、
 連携はできているかどうか尋ねたところ、「できている」と「調整中」が病院でそれぞれ各1件の他、31件93.9%は「できていない」とのことであった。(図9-5-2、表9-5-2-1)

【参考】設問9の5)-1で「できない」と答えた33件の規模内容は
病院9件(規模総数1,234床)、
有床診診療所5件(規模総数73床)、
介護福祉施設17件(規模総数1176床)

6)避難中、患者・利用者のケアについて連携ができているかの問いには、
 41件中35件85.4%の機関・施設等が「できていない」と答えている。
 「できている」と答えた機関・施設等は3件中病院が2件、介護福祉施設が1件であった。(図9-6、表9-6-1)

自由記入欄記載11件(25.6%)

  • 今後どのような天災がおこりうるか全く予測ができないため、被害を未然に防ぐ、あるいは最小限におさえられるよう県でしっかりとした避難計画を策定していって欲しい
  • 石巻市の避難計画、マニュアル等の早期作成が必須!!福祉施設のみでの避難は無理である。半島の末端に位置し、公用車も軽乗用車含め6台のみの所有となっており、再稼働の話であれば、まだまだ検討しなければならない事柄が多い。災害時にはお年寄りを置いて避難出来ない施設職員なのだから(入居者:50人、職員50人程)2回程原発の避難訓練に参加し、登米と隣接の施設への避難訓練に参加したが、集まった方々はほんの少数であった危機感のなさにガッカリした。私は施設の管理者で施設も末端の鮎川浜に位置している。60人の入居者と50人程の職員を守らなければならない立場にある。大きな課題である。
  • 地震、火災、津波等の消防計画はあるがBPCも含めて原発事故に関する計画は現在検討中です。
  • 自衛隊の部隊は衛生部隊単独で行動する事がないため、避難計画については作成しておりません。ご理解の程宜しくお願い致します。
  • 原発再稼働しないよう強く働きかけて下さい。原発再稼働が前提のアンケートには今後お答えできません。
  • 国→県→市町村→施設と弱い立場に丸投げでは解決しない。避難車輛を自前で確保できる施設がどれだけあるのか把握して、ガイドラインを作っているのか怪しい。
  • 県や市から何も情報がない。
  • 避難対象地域に指定されてないため(30km圏外)、計画の策定を検討していない。
  • 市立病院なので、基本的には市の防災計画に則り行動する。
  • 福島原発事故の教訓を活かして、国や県が責任を持って各事業所に計画作成の為の情報や助言、指導を具体的に行って欲しい。特老では重度の障害を持ってる方が多く、避難時の車輛や途中の健康管理等、複数の解決すべき課題があります。
  • 登米市が平成28年6月に策定した「原子力災害時における避難計画(豊里町・津山町編)」の中では、病院等医療機関の管理者が市及び県と連携し・・・(中略)避難計画を作成すると記述されています。従って本院の避難計画は登米市病院事業管理者(登米市医療局)が主となり作成することになると思います。

【まとめ】
 今回は、UPZ自治体内各医療機関・福祉施設等での避難計画作成上の困難性の把握とともに、実効性のある避難計画を立案する上での責任の所在、また連絡体制の状況等を中心に、当該医療機関・福祉施設等での意見・考え方等について調査した。
《困難性》

  • 今回の調査では「現在作成検討中」は6%であったが、しかし、回答を寄せられた機関・施設等の95.3%は未作成であった。未作成の理由として県・自治体からの説明不足と情報不足が回答者の半数近くを占めている。
  • 避難計画作成上困難な点は「①避難(転医)先の確保」「②情報の収集や誘導体制の確立」「⑤車両等避難手段の確保」が上位を占めている。昨年の結果も「避難先の確保」、「避難車両の手配」、「避難先の確保(受け入れ先の確保)」が最も困難な問題となっており、現時点においても計画作成上の困難性は解決されていないことが明らかとなっている。

《責任性》

  • 作成が難しい点の解決はどこが責任を持って行うべきかについて、41件から合計155件の指摘があったが、そのうちの概ね3/4が当該市町(0%)と県(43.2%)のいわゆる「公」(74.2%)であった。
  • 責任性についての指摘が多かった項目を見ると、「②情報の収集や誘導体制の確立」で、回答者41件中25件0%となっており、その80.0%が県もしくは市町のいわゆる「公」(25件中、県が9件36.0%、市町が11件44.0%)の責任でと答えている。次が「①避難(転医)先の確保」で、41件中23件で56.1%、その78.3%が「公」の責任でとし、続いて「⑤車両等避難手段の確保」が、53.7%、その77.3%が「公」の責任で行うよう望んでいる。(表8-3)
  • 以上のように「①避難(転医)先の確保」「②情報の収集や誘導体制の確立」「⑤車両等避難手段の確保」については計画作成上でも困難な点として指摘されており、また、『「責任性」選択の理由(記載15件)』を見ても明らかなように、県もしくは関係市町にとってどのような解決策を持って責任性を明確にするか、われわれ県民にとっても注視すべき重要な課題と言える。
  • なお、「⑧搬送・移送に必要な資機材の確保」についても指摘した回答者の0%が県、市町のいわゆる「公」での責任を求めており、搬送・移送に必要な資機材の確保についても「公」に依拠するところが大きいと思われる

《連携体制》

  • 避難計画作成の上で困難であるとの指摘が多かった「①避難(転医)先の確保」と「②情報の収集や誘導体制の確立」、「⑤車両等避難手段の確保」について、いずれも県並びに関係自治体のいわゆる「公」での解決責任を求める意見も上位を占めているが、これらについて、「連携体制」が現在「できていない」と答えている機関・施設等の状況を見みると、「①避難(転医)先の確保」と「②情報の収集や誘導体制の確立」は41件中35件4%となっている。「⑤車両等避難手段の確保」については「自力手配ができない」が41件中33件80.5%となっており、その内「連携体制」が「できていない」は33件中31件93.9%となっており、車輌等搬送手段が手つかず状態と言って良いほどである。
  •  このほか「避難ルートの選定」は41件中36件8%、「避難時の要員確保」は41件中37件90.2%、「避難中、患者・利用者のケア」41件中35件85.4%と、極めて高い割合で「できていない」と答えている。「公」並びに関係組織は自らの責任で早急に連携体制を確立し、さらに県外の自治体、機関・施設等との連携を進めるべく仲介の労を執らなければならないのではないか。

《避難車輌等の確保》

  •  所有する車輌を最大限活用した自力避難ができるかどうかについて(「設問9」の5)-1 避難車輌について)、「できない」とした33件の内訳は、病院9件1234床、有床診療所5件73床合計で1307床、介護福祉施設等17件1176人となっており、「車両等避難手段の確保」を必要としている人数は、回答を寄せられただけで2483名になる。これらの人々の搬送を40人乗り大型バスで移送するとして、63台余の車輌準備が一気に必要となる。
     女川原発において福島第一原発と同様の事故を想定し、一般市町民の避難行動も加味した上で、寝たきりの方や車いすの方の搬送を想定した場合、さらに看護師、介護士等スタッフも含めた場合は、どの様な車輌をどれだけ準備しておく必要があるのだろうか。民間での緊急な手配は不可能に近いのではないだろうか。
  •  宮城県の「避難計画〔原子力災害〕作成ガイドライン」では、避難計画を立案するにあたり、「自力による避難に努め」、県及び関係市町と連絡等連携するよう要請している。しかし、今回のアンケートは、大多数の民間医療機関・介護福祉施設等のみでの避難計画を立案することは、はじめから不可能であることを示している。もし、「自力による避難」が可能ならば、県はその根拠を示すべきである。

《意見》

  •  自由記載欄への意見は43件中11件であったが、大変示唆に富む内容であった。医療機関・介護施設等は公立であれ民間であれ情報の共有は必須と思われる。UPZ自治体内の医療機関・介護施設等114件が一堂に会し連携する事も必要である。

【考察】
 福島第一原発事故での医療法人博文会双葉病院の避難行動は多くの教訓を残した。多数の患者が犠牲になったことは、決して忘れてはならない。双葉病院は、事故翌日12日、移送可能な患者209人と医師らがバス5台で避難した。簡単には移送できない患者・入所者と病院の院長、施設長らは次の移送を待って待機したが、この情報は共有されず、13日は丸一日放置された。翌14日、残留の患者・入居者の一部が自衛隊の車輌でいわき市まで移送。14時間を要する。その夜、警察から院長・スタッフらに避難が命じられ、病院への帰還は許可されなかったと言う。15日以降も自衛隊による残留患者・入居者の移送が行われたが、残留患者数や状況は把握されていなかった。15日午後までに避難は完了したが、その間の犠牲は患者・入居者合わせて50名にのぼった。しかも、双葉病院の場合は「病院関係者が責任を放棄した」という「公」的な誤報まで加わった。
 この中で問われたことは、情報の共有も含めた連携体制の不備、患者・入居者等の移送の難しさ、国や行政の責任の所在ではなかったか。
 今回の調査対象114件のうち在宅療養支援診療所(無床診)を除く待避対象者は、得られた回答37機関・施設等だけでも、満室(満床)で2665名、そこに介護士・看護師等スタッフを加えると3000名を遙かに超えることが推測できる。
 双葉病院の場合、被災時患者入所者は440名弱と報じられている。避難完了までに4日間かかった。移送手段は大型バス5台はじめ警察車輌、自衛隊車輌・ヘリ等を利用した。しかし径路は渋滞し、移送先も混乱していた。その中で50名もの犠牲者を出した。この事実を、2500名を超える避難対象者に、単純に当てはめることはできないが、このままでは犠牲者数が三桁になる可能性もある。(資料:Wikipedia NHKスペシャル2016.3.5放送、)

 「公」が掛け声だけで「民」に丸投げするところに無責任な悲劇が生ずるのではないかと考える。双葉病院のような悲劇を繰り返さないためには、情報の共有と連携体制の完備、患者・入居者等の移送における確保を国や行政が財政面も含め、責任をもって具体的・実数的に示さない限り実効性ある計画の立案は難しいのではないだろうか。
 繰り返しになるが、宮城県は、機関・施設等に対し「自力による避難に努め」、県及び関係市町と連絡等連携するよう要請している。しかし、大多数の民間医療機関・介護福祉施設等のみでの避難計画立案がきわめて困難なことは、現場の感触として明確であり、避難計画不備の中での「自力による避難」が不可能な機関・施設等は多数ある。
 今一度確認したい。もし、全医療機関・介護福祉施設等での「自力による避難」が可能と言うのならば、県はその根拠を示すべきである。

 今回の調査では屋内退避については対象にしなかったが、JA福島厚生連双葉厚生病院院長の重富秀一氏は原発過酷事故の際に発生するであろう「放射能雲」に触れ、事故発生直後に住民を閉鎖型の施設に避難させることができれば無用な混乱は避けられたとして、「地域の人口に応じて環境の良い閉鎖型施設を建設するとともに、近隣の病院を放射線防護機能を持った耐震(免震)棟に改築するならば、・・・混乱は回避できると思う」(「病院避難の実際と課題〜大規模災害における病院避難が意味すること:重富秀一JA福島厚生連双葉厚生病院院長著」(日本医事新報2016.11.19))と提案している。「公」はこの点も考慮すべきであろう。

 今月(11月)22日午前5時59分頃、福島県沖を震源地としたマグニチュード7.4の地震が発生した。停止中の福島第2原発3号機の使用済み燃料プールの冷却が止まったという報道があった。幸い、程なく回復したとのことであったが、重大事故へ繋がる可能性も示している。また、津波警報が発せられた宮城県では車での避難による大渋滞が発生した。これが今日の現況である。実効性ある避難計画の早急な作成が求められるところであるが、ここで改めて強調したいことは、避難計画は原発再稼働のために策定されるものではないことである。そして、今ある原発を早急に廃炉にし、その危険性がなくなるまでの期間に起こりうるすべての事故に対応するための避難計画でなければならないと考える。
 以上の点を付け加え考察とする。

以上

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