【石巻市内医療機関】原子力災害時広域避難計画についての調査報告書(2019.2.18)


【石巻市内医療機関】

原子力災害時広域避難計画についての調査報告書

2019年2月18日
宮城県保険医協会
理事長     井上 博之
公害環境対策部長 島 和雄

【はじめに】
 宮城県による原子力災害を想定した避難計画[原子力災害]作成ガイドラインによれば、「第5章(4)病院等の入院患者①基本事項」には「・・・あらかじめ機関ごとに定めた避難計画等に基づき・・・」と記載されており、また、「② 避難手段」には「病院等が所有する車両を最大限活用し、自力による避難に努めること」など、病院等医療機関がそれぞれの責任において準備することを基本にするかのような記載がされています。
公・民を問わず病院運営が厳しい今日、県市町が示している避難計画等に基づいて、病院等医療機関のみで「自力による避難」が可能なのかどうか、そこには全く困難性はないのかなど、検証しなければならない課題があるように思われます。
東北電力株式会社では、本年中にも女川原子力発電所2号機の再稼働を計画していますが、再稼働に当たっては、常に突発的重大事故を想定しておかなければならないことは論を俟ちません。医療法人博文会双葉病院で生じたような悲劇が繰り返されてはならないのです。
当協会は、過去2回アンケート調査を実施しました。2015年の調査では「避難先の確保」、「避難車両の手配」、「避難先の確保(受け入れ先の確保)」が最も困難な問題となっており、県に対し意見書を提出しました。また、2016年の結果でも避難計画作成上の困難な点として、「避難(転医)先の確保」、「情報の収集や誘導体制の確立」、「車両等避難手段の確保」が上位を占めたことから、その間に避難計画作成上の困難性は解決されていないと結論付け、要望書を提出いたしました。
 その後、2017年3月に石巻市の避難計画が策定されたこと、女川原子力発電所2号機の再稼働の計画が進められていることなど状況の変化を受け、改めて石巻市内の病院・有床診療所からご意見を承りたいと考え、別紙の通り「質問票」を作成しました。
 今回はその結果を、若干の考察を添えた上でご報告し、ご回答の御礼に代えさせて頂きたいと思います。
なお、当結果並びに考察を基に、宮城県並びに石巻市に対し何らかの質問もしくは要望を提示したいと思います。それに当たりまして、ご意見等がございましたら、参考にしたいと思いますので、ご教示いただきたくお願い申し上げます。
(追記)
回答は医療機関ごとに得られましたが、本報告に際して医療機関の特定が懸念される回答・意見等につきましては、その趣旨をできるだけ変えずに文言を変更しました。
当報告に対して忌憚のないご意見お寄せ頂ければ幸甚の至りです。

【結果】
女川原発過酷事故発生に対する避難に関して、2018年11月時点での実態を把握するため、石巻市内の病院・有床診療所に対して調査を行いましたので、以下の通りその概要を報告します。なお、結果部分は敬称等を略しますので宜しくご了承お願い申し上げます。

回収
石巻市内の病院・有床診療所の総ベッド数は12医療機関1743床となっている(2018年4月1日時点)。その内の50%に当たる6件(病床数1112床、約64%)の医療機関から回答が寄せられた。
医療機関独自の避難計画に関する質問について
問1. 避難計画作成について
回答
計画を「作成している」のは6件中4件で、「作成していない」2件については、理由として「県・市との連携が無いから」や、「避難先の手配や自力の避難等問題が多い」などが挙げられている。なお、計画作成済みの医療機関では、県に対して「報告している」との回答だった。
県の作成したガイドラインに関する質問について
問2. 医師、看護師、職員の引率等体制
回答
「整っている」としたのは2件であり、4件は「整っていない」としている。
問3. 転院先医療機関の確保
回答
一部で「調整中」と回答していたが、全件で「未確保」であり、「県が準備することになっている」、「県が調整することになっている」との記載があった。
問4. 県に対する速やかな連絡体制
回答
5件が県への連絡体制が「整っている」との回答だった。
問5.  入院患者の転院先となる医療機関の調整等について説明
回答
2件で説明が「されていない」との回答だった。
問6.  屋内退避の場合の放射能汚染対策について
回答
屋内退避の対策については、3件で「整っている」としているが、半数の3件は、「整っていない」もしくは「不明」と答えている。
問7. 屋内退避の場合の場所・設備等の確保
回答
3件で「できている」としているが、半数の3件は「できていない」もしくは「不明」と答えている。
また、問7で「できていない」と回答頂いた医療機関に、どの様にすれば確保できるかについてたずねたところ、「財源があれば確保できる」とした意見が出された。
問8.-A  自力避難について
回答
回答を寄せた医療機関のうち、1件を除いた残り5件で「自力避難はできない」と答えている(回答頂いた医療機関のベッド数割合の90%以上は自力避難ができないと答えている)。
問8-B
「自力避難はできない」との回答のうち、市との連絡体制について
回答
5件で連絡体制は「できていない」と答えている。その中で出された意見では、「協議はしているものの市には輸送手段の準備がない」との意見があった。
問9.  避難経路やその道路交通情報等の情報手段の確保
回答
5件が「できていない」との回答だった。意見として、「県からの指示があることになっている」との回答があった。
問10.  避難経路や検査所、避難所、行政との連絡体制等について
回答
5件で「できていない」との回答だった。
問11.  県からの情報
回答
「入ってきている」との回答は得られず、半数以上の5件で「入ってきていない」と回答している。「その他」が1件だった。「その他」の回答は、「宮城県災害医療コーディネーターと相談して決めると聞いています」との意見が寄せられた。
石巻市の作成した広域避難計画に関する質問について
問12.  市に対する準備状況の確認
回答
確認が「できている」が1件、「できていない」との回答が5件だった。
問13.  石巻圏外までの道路交通情報等の確保
回答
全件で「できていない」と答えている。
問14.  石巻市の避難計画についての意見
回答
石巻市の避難計画に関する意見記入については、
・現状では入院患者を早急に避難させることは難しい
・被災地の市としては難しいので県に応援を求めると聞いています。県でも借り上げバスの確保等少しずつ体制構築を進めていると聞いています。
以上、2件の意見があった。

【まとめ】
今回の設問を1.避難計画、2.避難引率態勢、3.転院等避難先、4.屋内退避、5.避難手段、6.避難(経)路、7.一時避難場所、8.県・市との連絡・連携態勢に分け、まとめてみると、

  1. 「避難計画」については、4件で作成されています。計画作成に際して県では国・医師会等関係機関とあらかじめ連携するよう定めていますが、6件中5件の医療機関で情報等は「入ってきていない」と答えています。

  2. 「避難引率態勢」については、「整っている」とした医療機関は2件、「不明」も含めて「整っていない」は4件(医療機関のベッド数割合*では約90%)となっています。

  3. 「転院等避難先」については、「調整中」の回答1件を含めて、全件が「未確保」としています。

  4. 「屋内退避」については、場所並びに設備が「整っている」としている回答が3件、「未整備」が3件の半々ですが、整備されていない医療機関のベッド数割合は、70%以上にのぼります。

  5. 「避難手段」については、5件で自力での避難は「できない」と答えています。自力避難が困難となっている医療機関のベッド数割合は、90%以上にのぼります。

  6. 「避難(経)路」については、その緊急性から任意の径路で避難して良いことになっています。その場合、道路交通情報等情報による手段の確保が重要となりますが、5件が「できていない」と回答しています。

  7. 「一時避難場所」については、避難経路や検査所、避難所、行政との連絡体制等に関して県・市との協議・確認は、5件で「できていない」との回答でした。

  8. 「県・市との連絡・連携態勢」については、「入院患者、外来患者、見舞客等を避難させた場合は、県に対し速やかにその旨連絡すること。」について、医療機関から県・市に対する連絡確保はできていると答えていますが、転院等避難先、避難手段、避難(経)路、避難計画作成について、県・市から医療機関に対しては、6件中5件で態勢が「できていない」と答えています。

(* 医療機関のベッド数割合:回答頂いた医療機関6件の総病床数1112床を100%としたときのベッド数割合)

【考察】
2015年並びに2016年の調査では、

  • 避難計画作成上困難な点は「避難先の確保」、「避難車両の手配」、「情報の収集や誘導体制の確立」が最も困難な課題となっており、その困難性は解決されていないことが明らかになりました。これらの困難性の解決について、回答を寄せられたうちの70〜80%が県もしくは市・町が責任を持って行うよう望んでいました。また、「搬送・移送に必要な資機材の確保」についても、回答者の0%が県、市町のいわゆる「公」での責任を求めており、搬送・移送に必要な資機材の確保についても「公」に依拠するところが大きいことが明らかとなっています。

  • 「連携体制」が現在「できていない」と答えている機関・施設等の状況をみると、「避難(転医)先の確保」と「情報の収集や誘導体制の確立」となっています。

  • 「車両等避難手段の確保」については、「自力手配ができない」が5%、その内「連携体制」が「できていない」は93.9%となっており、車輌等の搬送手段が手つかず状態と言って良いほどでした。

  • 「避難ルートの選定」は8%、「避難時の要員確保」は90.2%、「避難中、患者・利用者のケア」85.4%と、極めて高い割合で「できていない」と答えています。「公」並びに関係組織は早急に連携体制を確立し、さらに県外の自治体、機関・施設等との連携を進める必要が明らかとなりました。

  • 所有する車輌を最大限活用した自力避難については、女川原発において福島第一原発と同様の事故を想定し、一般市町民の避難行動も加味した上で、寝たきりの方や車いすの方の搬送を想定した場合、さらに看護師、介護士等スタッフも含めた場合は、自力での緊急な手配は不可能に近いと報告しました。

今回の調査から、

  • 11の東京電力福島第一原発事故に対するPAZならびにUPZ医療機関の避難では、入院患者の状態に応じて屋外への退避と屋内退避が同時に行われていたことが報告されています。したがって、実際には屋内退避可能な環境の整備と避難引率態勢、屋外への退避のための避難(移動)手段の確保、避難(経)路の整備と道路交通情報等による経路の把握、転院等(一時避難場所も含む)避難先の確保、これらを統括する連絡・連携体制(命令系統)の確立が同時に必要になると考えられます。そして、このうち一つでも不備があれば、その医療機関の避難行動全体が滞ることになり、この点を考慮して避難計画とその準備がなされなければならないと考えます。

  • 避難引率態勢について、ガイドラインでは「医師、看護師、職員の指示・引率のもと」となっていますが、「不明」も含めて「整っていない」は4件(医療機関のベッド数割合では約90%)となっており、「医師、看護師、職員の指示・引率のもと」としている県のガイドラインについて、その実効性についての根拠を問わなければならないと考えます。

  • 屋外への退避の場合には、避難引率態勢、避難(経)路の整備と道路交通情報等による経路の把握、転院等(一時避難場所も含む)避難先の確保が決まっていなければならず、この点も不安の残る状況と言わざるを得ません。

  • 転院等避難先について、ガイドラインでは「国の協力のもと病院等医療機関の避難に備え、医師会等の関係機関と連携し、入院患者の転院先の調整方法についてあらかじめ定めておくものとする。」としています。しかし、転院先等避難先の確保については、医療機関単独では困難な場合が多く、県では「調整方法を定める」だけでなく、受け入れ先医療機関の確保についても、紹介・仲介態勢がとれるよう早急に準備すべきであると考えます。

  • 避難(移動)手段の確保について、宮城県の「避難計画〔原子力災害〕作成ガイドライン」では、避難計画を立案するにあたり、「自力による避難に努め」、県及び関係市町と連絡等の連携をするよう要請しています。しかし、回答をお寄せ頂いた6医療機関で1件当たり平均180床以上の対象者を自力で避難させることは不可能に近く、県・市の対応が必要であると考えます。前二回の調査では、大多数の民間医療機関・介護福祉施設等のみでの避難計画を立案することは、はじめから不可能であることを示していました。その際に当協会では、「もし、自力による避難が可能ならば、県はその根拠を示すべきである」旨記述しましたが、現時点においても何の進展も見られないと言って良い状況です。

加えるならば、「自力による避難に努めること」などの文言がなくとも、病院等医療機関が患者と病院並びにその関係者の身を守るために努力をすることは、自明であろうと思います。それにもかかわらず、あえて文言にするのは、医療機関側に対する「自己責任追求」への布石であると見るのは穿ち過ぎでしょうか。

  • 一時避難場所も含む避難先へ避難(経)路の整備と道路交通情報等による経路の把握は、県または市が一括して行うべきです。時々刻々変わる道路交通情報を包括的に把握し管理できるのは、県・市またはその監督下にある組織であると考えられますので、早急に態勢を整えるべきです。

  • 東京電力福島第一原発事故で双葉病院と病院が運営する介護老人保健施設の436名の患者・施設利用者の避難行動の中で、犠牲者が50名も出たことは、よく知られています。その要因の一つに、情報伝達の失敗が指摘されています。今回の調査では、「県・市との連絡・連携態勢」について転院等避難先、避難手段、避難(経)路、避難計画作成について、6件中5件で態勢が「できていない」と答えています。また、過去2回の調査においても、情報の収集や誘導体制の確立が最も困難な課題となっており、県・石巻市は、実効性ある具体的対策として自衛隊・警察も含めた命令系統、連携体制等を確立、避難態勢等実働的計画の提示をするべきであると考えます。

【結論】
たとえ原子力発電の再稼働をやめ、廃炉の方向に向かったとしても、核燃料は残り、高レベル核廃棄物は存在し続けます。しかも廃炉が遅くなればなるほどその経費も増加すると言われています。実効性ある避難計画は、原子力発電を始めたからには廃炉が完結するまでは、時と場所を問わず必須と言わざるを得ません。これは原発の稼働を認めた国・自治体に課せられた責務と言っても過言ではありません。
以下の結論は再稼働のための条件を示したものではないことはもとより、廃炉にすれば終わる話でもありません。原発事故に対する避難計画とその実行は、原発立地を認めた県並びに立地自治体と関係自治体に課せられた責任であることを、再度強調しておきたいと思います。
上記の点を踏まえ、国も含めた県・市・町等行政機関は以下の通り対応すべきであると考えます。
県並びに市・町は、屋内退避可能な環境の整備と避難引率態勢、屋外への退避のための避難(移動)手段の確保、避難(経)路の整備と道路交通情報等による経路の把握、転院等(一時避難場所も含む)避難先の確保と統括する連絡・連携体制(命令系統)の確立が同時に必要になる点を考慮して、避難計画とその準備をすること。

  • 避難引率態勢について、県並びに市・町は「医師、看護師、職員の指示・引率のもと」と提示するだけでなく、その実効性についての根拠を示すべきである。

  • 屋外への退避の場合には、県並びに市・町は医療機関の避難引率態勢に対して必要な支援を行い、避難(経)路の整備と道路交通情報等による経路の把握、転院(一時避難場所も含む)避難先の確保等をあらかじめ示しておくべきである。

  • 転院等避難先について、県では「調整方法を定める」だけでなく、受け入れ先医療機関の確保において、必要に応じ紹介・仲介態勢がとれるよう早急に準備すべきである。

  • 避難(移動)手段の確保について、1000床以上の対象者を自力で避難させることは不可能であり、県・市の対応が必要である。

  • 一時避難場所も含む避難先へ避難(経)路の整備と道路交通情報等経路の把握は、県または市が一括して行うべきである。

  • 県・石巻市は、実効性ある具体的対策として自衛隊・警察も含めた命令系統、連携体制等を確立、避難態勢等実働的計画の提示をすべきである。

宮城県保険医協会の考え方
当協会での避難計画に関するこれまでの調査等により、要配慮者への避難対応や避難経路(石巻市も含め大渋滞が発生、避難が遅れる)などの問題が生じることは明らかであり、一医療機関の努力だけでは実効性ある避難計画はもとより、実際の避難そのものも困難なことが明らかになっています。
つまり、 現時点で実効性のある避難計画は破綻しており、且つ今後も作成不可能と考えます。
私達は、住民の命と健康を守る医療者の立場から、このような大きなリスクを伴う原子力発電を容認する事は出来ません。原発は可及的速やかに廃炉とし、再生可能エネルギーへの転換を早急に行う事を強く要望いたします。

以上

参考)
A) 避難計画[原子力災害]作成ガイドライン 「原子力災害における広域避難の対応について」宮城県 2014年12月
B) 原子力災害時における 石巻市広域避難計画 石巻市 2017年3月
C) 女川原子力発電所 過酷事故時における避難計画についての調査結果報告書 宮城県保険医協会2015.10.8
D) 女川原子力発電所過酷事故時における原発30Km圏内自治体にある医療機関・介護施設等における避難計画に関する意見書 宮城県保険医協会2015.10.8
E) 保団連原発問題学習交流会報告「女川原子力発電所30Km圏内自治体にある医療機関・介護施設等に対する避難計画についてのアンケート調査から見えてきたこと」 宮城県保険医協会 2016.4.24
F) 女川原子力発電所過酷事故時における原発から30km圏にある医療・介護福祉施設等の避難計画に関する調査(二次)報告①② 宮城県保険医協会2016.11.24
G) 女川原子力発電所過酷事故時における避難計画に関する要望書 宮城県保険医協会2017.1.20
H) 双葉病院ーWikipedia
I) “原発避難”7日間の記録〜福島で何が起きていたのか〜 NHKスペシャル2016.3.5放送
J) 病院避難の実際と課題〜大規模災害における病院避難が意味すること:重富秀一JA福島厚生連双葉厚生病院院長著」(日本医事新報2016.11.19)
K) 避けて通れない原発事故対策 病院が直面する隠れた弱点『 医療ガバナンス研究所理事長』上昌広https://ironna.jp/article/1160
L) 原発事故が起きたら本当に避難できるのか〜双葉病院の事案から考える〜 石森総合法律事務所 HP
M) なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか 森功 著(講談社)

This entry was posted in 公害環境対策部. Bookmark the permalink.

Comments are closed.