投稿「水道事業をどうする 最悪の選択『みやぎ型管理運営方式』」


水道事業をどうする
最悪の選択「みやぎ型管理運営方式」

宮城県保険医協会理事 北村 龍男

水道事業の3つの問題
 水道事業は曲がり角に来ている。水道事業には、三つの問題がある。①水の必要量が減少している、②水道管・浄水場など施設が老朽化している、③水道職員が減少しているである。
 安全な水を県民が引き続き利用するためには、早急に対応する必要がある。県の提案している水道事業のみやぎ型管理運営方式(以下、みやぎ方式)はこれに応える内容か、大きな危惧がある。

改正水道法のコンセッション(橋本淳司氏の書籍より紹介)
 今回の宮城県の取り組みは、改正水道法の下で導入が進められている。改正水道法のコンセッションについて、橋本氏の見解を紹介する。
 2018年の法改正で可能となった水道事業のコンセッションでは。自治体が「事業認可を取得し水道法上の法的な責任を負う」ことと、民間企業が水道料金を直接収受して水道サービスを実施する」ことが同時に可能になります。改正前の水道法でも、事業認可を受け、義務と責任を負えば、民間企業でも水道事業を行うことができました。
 しかし、民間企業にとっては、水道法上の法的責任を追うこと、将来にわたる事業の遂行や災害時の対応、復旧の責任を負うことは、経営上大きなリスクでした。水道法改正によって企業は水道事業に参入しやすくなったといえます。

みやぎ型管理運営方式の特徴は県と民間業者が業務を分担
 宮城県は水道事業について、みやぎ方式を提案している。コンセッション方式であり民営化ではないと主張している。みやぎ方式の特徴は、水道事業で宮城県と民間業者が業務分担することである。 宮城県企業局水道経営課はみやぎ型管理運営方式『Q&A』の中で次ページの表の様に整理している。民間業者が受け持つ業務は、これまでの水の製造工程に関する業務に新たに薬品等の調整、動力費等の負担、設備等の更新が加わる。一方、県に残る業務は事業全体を総合的に管理・モニタリング、管路の維持管理・更新、建物等の改築である。後に示すが、この業務分担は県に重い負担を課す。

村井知事の見解
 県と民間業者の業務分担について、村井知事のこれまでの発言を見てみる。
 第3回未来投資会議で、「上工水一体での民営化を考えている」「公共性を担保できるのか。全てのリスクを民間が負うのは難しい。すぐに(民間業者の)手が上がってこない」「管路の新しい敷設といったものは我々がやらなければならない」と述べている。リスクのないところを民間に、リスクのあるところは県営にということである。

みやぎ型管理運営方式『Q&A』より


 村井知事は「とにかく民間業者がやりやすいように。投資意欲をもつ民間業者の参画、民間業者の自由度、現行制度での枠内での議論をさけ新たな発想」と指示したと自慢している。投資、もうけ口を作るということである。
 上水・工水・下水一体管理運営検討懇話会(2016年6月3日設置)の第3回で「みやぎ型管理運営方式」を決定しているが、構成メンバーは、投資家:三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅が、オペレーション部会にはウオーターエージェンシー、ヴェオリア・ジャパンなどが参加。このメンバーから考えると、宮城の水道をどうするか、ビジョンを作るということでなく、投資し易くし、民間にもうけ口をという懇談が行われたであろう。

水道問題を解決出来ない
 みやぎ方式は、先に上げた水道事業の抱えている三つの問題を解決できるか? それどころか、問題を検討することすらしていない。
 ①水道の必要量の減少の原因は、人口増加の想定、ダム・水道施設の過剰投資、節水型便器など節水技術の進歩、病院やホテルで地下水の利用が増えているなどである。宮城県の2018年の実績水量をみると、水道用水施設処理能力の67%、工業用水は34%、下水道は63%しか使っていない。このためには、過剰な施設を小さくするダウンサイジングの発想が求められるが、検討されていない。
 ②多額の費用がかかる施設の老朽化、特に管路の維持管理・更新は県の業務として残す。老朽化のため、破裂事故がどが増えている。厚労省は管路の更新を勧めているが、1キロ当たり、1~2億円かかるため進まない。これが県の業務として残り、県民の負担となる。
 ③水道職員の減少は一層進むと思われる。災害の時に漏水箇所が中々見つけられない、被災者の立場で水道復旧を考える人材が必要である。東日本大震災では水道復旧に応援の水道職員が大きな力を発揮したと聞いている。民間業者に委ねることができるか? また、県或いは市町村の水道ビジョンを作るためには、人材が必要である。民間業者が災害時の対応ができるのか? 県民のための将来ビジョンが作れるのか? 民間事業者は、投資家のために事業を考える。東日本大震災の折りの東電を考えれば、民間事業者に公共性の高い水道事業を任せることはできない。

更に危惧されているリスク
 みやぎ方式の検討を通じて、命の水を守る市民ネットワーク・宮城など市民の間からは、ずさんなリスク管理・取り組みが指摘されている。主なものを上げると下記の通り。
①民間業者が適正なサービスを供給しているかをチェックすることになっているが、県が 行う「モニタリング」のコストが明らかにされていない。
②県は事業継続に責任を持つとしているが、「水道専門職員の育成」が軽視されている。③下水処理場からの放流水の水質悪化の懸念がある。
④管路事故、自然災害時の危機管理が民間業者にできるのか? 
⑤情報開示が後退する。
⑥民間業者は、改築改装を行わず、契約が切れる20年たったらボロボロの建物設備だけ が残る可能性がある。
⑦民間業者による無理をしたコストの削減は水の安全を低下させる。
⑧海外の多くの失敗、民営化を公営に戻している例に学ぶべき。などなど。

 命の水を守る市民ネットワーク・宮城はみやぎ方式の問題を下図の様にまとめている。参考にしてほしい。

負担は県民に、みやぎ方式は再悪の選択
 みやぎ方式の特徴は、管路の維持管理・更新を県の業務として残すことである。今後、最も財政負担の大きな業務を県に残し、リスクの少ない業務を民間に委ね、民間業者に利益をもたらすのがみやぎ方式である。県民にとっては最悪の選択である。

まず、取り組むべきこと
 必要なことは、人口減少社会での水道ビジョンを考えはじめることである。ダウンサイジングという発想が注目を集めている。隣の岩手県の岩手中部水道企業団はダウンサイジングを成功させている。しかし、岩手と宮城では元々の水源などの条件が異なる。宮城独自の方策を考えねばならない。長く水道事業に携わった水道専門家と水道に関心を持つ市民が意見を寄せ合い、人口減少の下での水道事業のビジョンを作ることを期待する。

参考資料
・橋本淳司:水道民営化で水はどうなるのか、岩波ブックレット、2019年6月5日。
・日本共産党:水道民営化は暮らしに何をもたらすか、2019年9月県政資料。
・小川静治:水道民営化「みやぎ型管理運営方式」実施方針素案からみえるもの、命の水を守る市民ネットワーク・みやぎ市民集会、2019年10月5日。
・菊池明敏:水道事業の未来は民営化しかないのか、宮城県保険医協会講演、2019年9月28日。
・宮城県企業局水道経営課:みやぎ型管理運営方式『Q&A』、令和元年9月2日。

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