投稿「シンポ『HPVワクチンをめぐる現状と課題』報告」


シンポ「HPVワクチンをめぐる現状と課題」報告

宮城県保険医協会 理事 北村龍男

 2019年保団連地域医療交流集会が11月24日に新宿農協会館で開催され、「HPVワクチンをめぐる現状と課題」をテーマにシンポジウムが行われた。宮城協会理事会でもHPVワクチンについて議論が交わされており、シンポジウムの要点を報告する。
 企画の開催趣旨によると、このシンポは「(保団連)会内でも積極的接種再開を国に求めるべきという意見がありますが、その一方で、副反応リスクへの懸念から慎重な検討が必要との意見があります。こうしたことから、HPVワクチンによる子宮頸がん予防効果や副反応症状の実態などについて学習を深めることを目的に、幅広い視点でのシンポジウムを開催したいと考え」企画されました。シンポジストは、JR東京総合病院前副院長奥山伸彦氏とジャーナリスト齋藤貴男氏でした。(以下、斜字は、シンポジストが触れなかった点、或いは北村の見解)

奥山伸彦氏講演の要点
 奥山氏の配付資料、講演時・質疑応答時のメモから要点を報告する。
〇2013年春以後、HPVワクチン接種後に身体疼痛を中心とする多様な症状を呈する症例を直接診療する機会を得た。それ以前より、外傷などの痛みを契機にして同様の症状を呈する症例を経験していたため、ともに「小児のCRPS(複合性局所疼痛症候群)」の類縁疾患として診療してきた。
〇自験例は8例で、3例を例示していた。
 症例1 治療方針は機能性の疼痛として、痛みがあっても、これまでの生活を可能な限り維持し、運動も制限しないように指導した。鎮痛剤などの薬物療法を検討し、積極的に運動するようになり、痛みが自制範囲になった。以後痛みとの付き合い方が分かったと言い、無治療でほぼ通常の生活が可能となった。
 症例2 HPVワクチン接種後にこういった症状がでることがあることと、時間がかかるが必ず良くなることを説明した。握力は計測下限であったが、ピアノ演奏が可能であったため、それを運動療法として再開、プレガバリンも使用したが、服用を本人に任せていたところ、数ヶ月後に(本人が)なくても大丈夫と言い中止した。以後変動はあるが、登校可能で、生活を障害する程度の再燃はない。
 症例3 ワクチン接種後にこういうことがあること、時間がかかるが必ず良くなること、体を動かしても障害が起こることはないことを説明した。痛みを押して運動することと、痛み部分をマッサージすることをすすめた。日中食事を制限すると体調が崩れないなど、良い状態を自分で探して体調管理するようになり、最低限の学校生活は可能になった。翌年春、課外活動の参加を契機に、慢性的な疲労感は改善し、日常生活はほぼ可能となった。
〇HPVワクチン接種歴のない慢性疼痛には同様の経過を示す例がある。また、CRPSでは、運動療法と認知行動療法により、寛解率は5年で90%程度の報告があると紹介した。
〇多くの原告等は、医療機関で詐病扱いを受けており、厚労省指定の協力医療機関も例外でない。
〇機能的身体症状の一つとして理解し、これまで有用性が示唆されている認知行動療法、運動療法及び薬物療法を時間をかけて試みていく慎重さが求められる。
〇患者も診療医も孤立させない診療体制が求められるとして、かかりつけ医の積極的な参加と切れ目のない診療、関係学会・医師会には、診断後も継続的に患者と主治医を支援する体制を作り、機能性身体症状の啓発と標準化を求めていた。

 講演を伺って、症状が改善し、日常生活に戻れるという症例があることに希望を持った。
 信州大学の池田氏、愛知医科大学の牛山氏はワクチン接種再開についての立場は異なるが、それぞれ症状の改善を見た症例を紹介している。これらの症例の集積を望む。そして、被害者の苦悩を軽減する治療法を導き出してほしい。
 尚、詐病などとレッテル張りをする医師・医療機関は、この取り組みを止めてほしい。そのような観点での取り組みは、何ら前向きな成果は得られない。

齋藤貴男氏講演の要点
 齋藤氏の講演時・質疑応答時のメモ、及び著書「子宮頸がんワクチン事件」(集英社、2015年)を参考に講演の要点を報告する。
〇私は如何にして慎重派の立場になったか。取材の契機、訴訟リスク。
・MMRではおたふく風邪ワクチンが主因とみられる無菌性髄膜炎が多発した。齋藤氏がワクチンに取り組んだのは、娘さんのかかりつけ医から「MMRは打たない方が良いですよ」と言われたのがきっかけだった。MMR予防接種禍のルポルタージュを発表した。その経験を踏まえHPVワクチンに取り組んだ。
・齋藤氏が「子宮頸がんワクチン事件」を書き上げ、出版社に持ち込んだところ、翌日断りの話が来た。訴訟を恐れてのことであった。米国での訴訟となる可能性が大きく、賠償額は多額となる可能性があり、当初は出版を断念した。
〇少女達、母親達の苦悩と将来
・ワクチンのメリットは実感されにくい。ワクチンを打たれた個人だけでなく、感染症の流行が押さえられる社会全体に及ぶのだから、大変なものだ。・しかし、何もしなければ病気にならなかった乳幼児や少女の輝かしい未来を、社会全体、或いは国家が奪ってしまいかねない危険と表裏一体だということでもある。
〇賛否それぞれの主張について
・HPVワクチンの定期接種化にはじめに動いたのは、経産省バイオ課(注1)だった。国民の健康に関わる問題なのに、厚労省でなく、ビジネスの役所がやる。違う目的があると考える。
・2つのメガファーマは、ロビー活動、市民運動を組織し、国の承認を勝ち取っている。他の各種ワクチンと比較し、極めて短期間の間に、承認されている。
・日本だけが騒いでいるわけではない。米国では、指定された予防接種を受けないと就学できないが、HPVワクチンは対象でない。米国で3回接種は37%に止まっている。インドでは20%である。
・片平洌彦氏らはワクチン接種被害が社会問題化した国々が時間経過と共に増加していると報告している。(第56回日本社会医学会一般演題、2015.7.25,於:久留米大学)
・WHOは権威であっても神ではない。加盟各国の政府や医学界は、それぞれの知見・基準に基づく判断を最優先しなければならない。新型インフルエンザの時の偽りの宣言、WHOは内部のグループが製薬会社と繋がっているなどの批判がある。
〇サイエンスという言葉の違和感
・サイエンスという言葉への違和感を感じる。HPVワクチン推進派の人々は、自信を持って、サイエンスに裏付けられていると強調している。だが、本当だろうか。現行のテクノロジーや疫学は絶対的なのか。100%などは望み得ないにしても、予防接種という制度は「科学」の枠組みだけで議論されるべきものなのか。日本におけるHPVワクチンの導入過程に問題はないか。
・ワクチン・ビジネスの最大の特徴は、市場の大部分が「予防接種」という公共事業であること。どれほどマスメディアを動かし、世論を束ねてみたところで、政治を動かさなければ意味がない。
〇ワクチン・ビジネスの世界
・ワクチン・ビジネスは、社会防衛論を武器に、グローバルビジネス化しており、ワクチンの市場開放を進めている。
・公の機関ではないが子宮頸がん制圧を目指す専門家会議はGSKから1500万円、MSDから2000万円の寄付を受けていた。専門家会議は啓蒙活動のための機関だから、薬害オンブズマン会議は「製薬会社の資金でHPVワクチンの販促活動を行っている」という疑念を抱き、質問書を出している。
・法制化にあたって有効性と安全性を保証した合同会議(注2)は、全委員15人のうち9人がGSK、MSDの両メーカーのいずれか、或いは両者から金銭を受領していた。会議の内規により、このうち3人は議決に参加できなくなった。この合同会議が諸症状を「心身の反応」が慢性化したものと結論づけている(2014年1月)。
〇マスメディアの果たした役割について厳しく批判していた。
・マスコミは批判されて当然である。最初は推進の当事者になり、情勢がお墨付きを与えると批判し、ほとぼりが冷めて推進派の力が強くなるとそれに乗る。マスコミのどうしようもない部分である。
〇思想・哲学の問題
・日本でもVPDの運動が高まった背景には、人々の合計した幸福が最大になるよう求める功利主義の世界観が支配的になりつつある国際社会の潮流があるのではないか。
・強い者が残ればそうでないものが犠牲になっても当たり前ではないかという考えがこのワクチンが推進された背景に強くある。
・ワクチン問題は、原子力の問題、ビッグデータの問題などと同様に科学の進歩に伴って出てきた。使い方を誤るととんでもない結果になる。深く考察を加えながらやるかやらないかを決めなければならない。
〇積極的勧奨再開への動きが強まっている。なぜ再開が遅れているのか。
・社会そのものの信頼性の問題があり、国に対する不信感がある。国による責任ある実態調査が必要である。
・積極的勧奨を進める意見が増える中で、厚労省が積極的勧奨に踏み切らないのは、厚労省担当者の事なかれ主義がある。
〇齋藤氏の提案
・接種呼びかけ再開には慎重を期す。
・副反応の研究を徹底させる。
・社会的な合意をえられるだけの安全性を備えた新ワクチンの完成をみてから、以後の方向性を決める。
・避けられない被害に対して欧米並みの補償制度を用意する。
・予防接種行政や立法に絶えず細心の注意を払う。
・近い将来普及するあらゆるVPDワクチンに対しても同様の方針を望む。

 

まとめ:保団連、保険医協会への提案。
①認知行動療法等で日常生活が可能となった被害者がいることは、明るい展望である。特に、症状の改善を見た治療法、治療に当たった医療機関を開示し、医師間の率直な意見交換を求める。詐病と判断し、症状の改善を目指さない医師・医療機関は、対象者の診療から退くべきである。
②補償制度の確立を求める。
③正確な情報を明らかにするため、国が責任をもった実態調査をすること。
④現時点で、保団連に求められていることは、上記3点を国に求めるとともに、併せてこのような混乱を再び起こさないため、定期接種になった経過、積極的勧奨を中止した経過について、情報開示を求め、混乱の根源を明らかにすることである。

 

注1:経済産業省製造産業局生物化学産業課
注2:厚生科学審議会「予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会」と薬事・食品衛 生審議会「医薬品等安全対策部会安全対策調査会」の合同会議。

 

謝辞
本稿は、保団連地域医療対策部の齊藤先生、中島先生、滝本氏のアドバイスをいただきました。感謝します。

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