投稿「新型コロナウイルス感染症 基本方針の実行を 特措法改正は不要」


新型コロナウイルス感染症

基本方針の実行を、特措法改正は不要

北村神経内科クリニック 北村 龍男

 1月15日に、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)患者が国内で初めて確認された。その後クルーズ船内での感染が明らかとなり、船内での乗客・乗員、更に検疫官にも感染が拡大した。政府は、専門家会議などは開催せず、方針決定過程が不透明なまま対応してきた。今回の感染拡大は安倍政権にも大きな責任がある。政府に求められるのは、情報の開示、専門家の意見を聞き方針を作る、必要な予算措置を行うことである。
 2月16日に初めての専門家会議が開催され、2月24日に専門家会議の見解を発表した。それを受け、政府の新型コロナ対策本部は基本方針を決定した。基本方針の感染症拡大防止策では、地域で患者数が増えている状況で、疫学調査や、濃厚接触者に対する健康観察は縮小し、広く外出自粛の協力を求める対応にシフトする。学校等の感染対策の方針提示、臨時休業等の適切な実施に関し都道府県等から設置者に要請する。今後の進め方については、厚労省をはじめとする各府省が連携の上各対策の詳細を示してゆく、地域ごとの各対策の切り替えのタイミングについては、厚労省がその考え方を示し、地方自治体が厚労省等に相談しつつ判断するとしている。また、対策の推進に当たっては、地方自治体等の意見を良く聞きながら進めるとしている。方針の修正が必要な場合は、専門家の議論を踏まえつつ、方針を更新し、具体化してゆくとした。クルーズ船対応をはじめ、これまでの不透明な政府方針を考えると、この基本方針はいくつかの危惧はあるが、専門化会議の見解とともに、概ね納得できるものであり、国を挙げての対策がやっとスタートラインに立った感があった。
 安倍首相は2月27日に、突然小中高校の全国一律休校を要請した。この方針は、専門化会議の見解、政府の基本方針に外れるものである。大きな混乱をもたらした。地域状況に応じて、休校は必要であるが、全国一律に休校とする根拠は見当たらない。一律休校は、子育て中の親に大きな負担をかける。子育て中の医師・看護師ら医療関係者で働けない数は少なくない。感染症対策としても問題である。
 感染の拡大を防止するために、PCR検査の拡大は重要である。首相は29日の会見で「全ての患者がPCR検査を受けることができる十分な検査能力を確保する」と発言した。3日の参院予算委員会では共産党小池議員へ「今すぐできるとは言っていない」などと答弁している。首相の発言はその場しのぎで、発言内容に責任を持っているとは言えない。
 今回の新型コロナの発生当初から、自民党の一部からは緊急事態法などの話が出ていた。しかし、先に述べたように、クルーズ船対応などのこの間の混乱は、専門家の意見を聞かず、政府が独自に方針を決めてきたことに大きな原因がある。
 新型インフルエンザ対策特別措置法(以下、特措法)を改正し、緊急事態宣言を行えば、方針決定過程は一層不透明化するであろう。毎日新聞によると特措法改正案のポイントは、①特措法に新型コロナウイルス感染症を追加、②新型コロナへの適用期間は2月1日から2年間で、政令により定める、③政府は、国民の生活や経済に甚大な被害を及ぼす恐れがある時、緊急事態を宣言する、④緊急事態宣言が発令された場合、都道府県知事は外出自粛や、学校の休校、公共施設の利用制限などを要請できる。しかし、緊急事態宣言で行える措置のうち、休校要請、イベント自粛の要請、外出自粛要請、マスクの売り渡し指示などは既に行われている。特措法改正は、意味がない。
 首相は更に何を目指しているのか。首相に権限を集中? 権限の集中、独断での方針決定が混乱を広げることは、一律休校の要請の例を見ると明らかである。特措法改正は不要である。特措法では緊急事態宣言が行え、人権の制限が伴う。もしも、特措法を改正するとすれば、慎重な審議が必要だ。審議不十分で決めるのは悪例を残す。
 専門化会議の見解や基本方針に基づき、専門家の意見を生かし、医療・教育をはじめあらゆる面で当事者の意見を聞き、対策を立ててゆくことが求められ、その対策を実施する財政措置を行うのが国の役割である。
 この間、国会はほとんどその役割を果たしていない。国の方針を決めるに当たって、国会で十分な審議を行うことは不可欠である。

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