投稿「内部留保の活用の意義  新型コロナ禍対策の財源 」


内部留保の活用の意義

新型コロナ禍対策の財源

北村神経内科クリニック 北村 龍男

 新型コロナ対策の第2次補正予算が決まった。2020年度当初予算は約102.6兆円、第1次補正予算約25.5兆円、第2次補正予算約31.9兆円。歳出合計は約160兆円。不十分とはいえ、第2次補整予算はコロナ禍に見舞われている国民生活にたいする配慮もある。ではその財源はどうするか。安倍政権は国債発行を計画しているらしい。
 国債発行計画における市中消化分は、128兆円(当初予算)から212兆円に、約90兆円増加することになるそうだ。国債発行は将来世代に負担を先送りすることになる。このような負担に国民は耐えられるか?
 内部留保を活用すべきでる。これまで内部留保はグラフの様に増加し続けてきた。昨年3月の時点での日本企業全体(280万社)の内部留保は463兆円で、そのうち大企業(資本金10億円以上、約5000社、金融・保険業を除く)では、234兆円に達している。2001~2018年度には、それまでと比べ2.8倍の内部留保が形成されている。この間の内部留保増加の主な要因は図の様に、売り上げ増ではない。要因は、人件費削減分、法人税減税分である。内部留保は労働者の犠牲と国民の負担によって作られた。

 しかも、内部留保は、特定の業種では新型コロナ禍の中でも増加し続けていると言われている、
 内部留保をコロナ禍対策費として活用するのはハードルが高いようだ。小栗崇資氏によれば、会社法では内部留保(利益剰余金)は株主のものと解釈される。仮に内部留保を利益に戻すことができても、利益として再び課税される。これは、毎期の業績を適正に測るという会計の原則を崩すことになる。このような原則は大切にしなければならないらしい。現状では、いったん内部留保になったものを取り崩すのは難しいといわれている。
 しかし、国民生活の危機の時には、救国策が求められる。コロナ渦の関連で、所得税・法人税への特別賦課・資産課税が一部では論議されていると言われているが、内部留保活用も検討すべきである。そのためには、社会的に要請される支出には、内部留保を取り崩して充てることを認めるという変革が必要になる。コロナ対策費に同額を充てれば、収支相応なので、企業は課税もされないし、損益計算にも影響しない。企業の社会的責任を発揮できる。これは企業の在り方を変える一歩となる。しかし、このやり方が企業の自発性に期待するものである。
 内部留保の増加分への課税する方策が取れないか。更に、これまでの蓄積分への臨時的課税も行ってよいのではないか。仮に、234兆円の大企業の内部留保に20%の課税をした場合単純計算では47兆円の税収が生まれる。この間の内部留保激増の要因を考えると、無茶な要求ではない。コロナ危機収束時に、再び元の利潤追求の経済ではなく、国民主体の経済と変わる方策となりうる。
 また、新型コロナ禍に乗じて、一部の企業は多額の利益を上げている。富裕税の創設も検討すべきである。フランスの経済学者ピケティが提唱する富裕層の所得への累進的な富裕税である。特別課税も実施すれば良い。志位氏は講演の中で以下のような情報を伝えている。世界のビリオネア(資産10億ドル以上)の資産合計は、3月18日時点で8兆ドルだったのが、4ヶ月後の7月10日には10.2兆ドルへと2.2兆ドル(約230兆円)増えている。一方、7月13日には、世界の富豪83人が「私たちに大幅な課税を」という訴えを出したことを紹介している。高率の超過利益税を課すべきである。
 タックスヘブンを利用した巨大企業や大富裕層の税逃れを厳しく制限する必要もある。
 これらの内部留保の活用、累進的な富裕税、タックスヘブンの利用禁止は、格差の拡大を防ぐ。日本の、そして世界の大企業、富裕層から大きな反発があると思われる。志位氏が紹介しているような動きもある。これができれば、格差を拡大しない社会に進む大きな一歩になる。国民の負担が少なくなり、企業は社会的役割が果たせる。
 
 このような対応・変革ができなければどうなるか?
 新型コロナなどのエボラ、サーズ、マーズ、新型インフルエンザ等は、毎年起こる豪雨災害の原因である気候変動と同様に、利潤を追求する自然破壊~地球破壊の活動がもたらした。利潤のために自然破壊~地球破壊を容認し、格差を一層広げるような社会を変えなければ、新型コロナをなんとか抑えても、数年後には新たな感染症が起こることが予想される。方向転換の時である。
 コロナ禍対策の財源はどうするかは、それぞれの国で異なるであろう。日本ではどうするか。法人税、所得税の検討も欠かせない。なかでも、内部留保の活用は、最も大きなテーマであり、この取り組みは社会変革の一歩となりうる。格差社会を許さない一歩となる。(2020/07/27)

主な資料
小栗崇資:危機の経済;内部留保の形成・激変、赤旗、2020/6/9
     危機の経済:「内部留保の出番」、赤旗、2020/6/10
     危機の経済:富の再配分に活用  赤旗、2020/6/911
合田寛;危機の経済;異常時こそ合意が可能、赤旗、2020/5/22
小黒一正:YAHOO!ニュース、2020/5/30
志位和夫:講演「コロナ危機をのりこえ、新しい日本と世界を」、赤旗、2020/7/17

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