投稿「地域包括ケアシステムと医師・歯科医師の役割」


地域包括ケアシステムと医師・歯科医師の役割

宮城県保険医協会地域医療部

はじめに

 年明けに、A地域包括支援センターの担当者から「Kさんが12月28日に腹痛でB病院の救急科を受診したら、胃穿孔でした。前から医療・介護サービスの利用を勧めていたお母さんが一人暮らしになったので、元日に行ってみたら具合悪そうでした。2日にも行ってみたら、心肺停止の状態でした」と電話があった。Kさんには、地域包括と連絡を取りながら、繰り返しお母さんの医療・介護セービスの利用を勧めてきた。
 NHKで「見逃される”困窮死”痩せ細った72歳と66歳の兄弟死」の放送があった。(NHK NEWS WEB 2020/02/06)
 このような状況の下で、国は社会保障と税の一体改革(以下、一体改革)の下で地域包括ケアシステム(以下、システム)を医療・介護・福祉の柱としている。
 保団連は「地域包括ケアシステムに対する見解」を発表し、真の地域包括ケアシステム(以下、真のシステム)を提唱している。真のシステムの構築は差し迫った課題である。
 地域の医師・歯科医師(以下、医師ら)は、どのような活動を期待されているか? 日医のかかりつけ医(以下、か医)応用研修会の資料と仙台市の資料で確認する。その上で、宮城県保険医協会会員の活動の経験を踏まえ、真のシステム構築のための医師らの役割を検討する。
1.医師・歯科医師が期待されていること
11.日本医師会が期待するか医の役割
 日医か医機能研修制度の2019年度応用研修会の講義・資料を基に、日医の見解を確認する。
 「システムの構築には行政と医師会が車の両輪となり、か医は多職種連携のまとめ役が求められる」とか医を位置づけている。
111.システムの定義と深化
 システムは「高齢者が医療、介護、介護予防、住まい及び日常生活の支援が包括的に確保される体制」とされている(社会保障改革プログラム法、2013年)が、現在では高齢者に限らず「全世代・全対象型」となっている。
 地域を支える負担を誰が担うかという視点で「自助・互助・共助・公助」の区別が提案された。今後、「自助」及び費用負担の制度的裏付けのない「互助」の役割が大きくなる。
 地域共生社会はシステムの上位概念で、前者は「目標」で、後者は「手段」である。全世代・全対象型のシステムが求められるのはまちづくりである。
 か医は専門職としてまとめ役となるとともに、医師会は専門職団体として行政の重要なパートナーとなる。
112.か医と医師会の取り組み
 超高齢化社会を乗り切る一体改革の2本の柱は、システム構築と地域医療構想である。日医は経済界とも協力して健康寿命の延伸に基づく生涯現役社会の構築も推進している。
 一体改革の道筋を示した社会保障制度改革国民会議の報告書が2013年8月6日に公表され、2日後に日医・四病院団体協議会合同提言が発表された。①か医の充実・強化、②地域包括ケアを支援する中小病院・有床診療所の充実が必要と位置づけられた。①は日医か医機能研修制度に発展し、②は平成30年後診療報酬改定で実現した。
 今後、高度急性期医療と地域に密着した医療が必要である。前者は高齢化・人口減でニーズが減少し、後者は超高齢社会でニーズが増加する。これをか医機能を持つ中小病院・有床診療所、診療所で担う。
 超高齢社会で高齢者医療と介護は一体化する。これが地域包括ケアであり、か医の役割は拡大する。
 か医は福祉・保健にも関わり、まちづくりにも参加し、より地域や社会に目を向けることが求められる。
 郡市医師会にはシステム構築に積極的に参加することが求められる。なかでも郡市医師会等が「在宅医療・介護連携支援に関する相談窓口」になることが重要である。
113.医療保険と介護保険の取り扱い
 2018年度同時改定で、診療報酬でシステムの構築のための取り組みの強化、か医機能の評価が行われた。
 介護報酬改定では、中重度の在宅要介護者や、居宅系サービス利用者、特養入所者の医療ニーズへの対応、医療・介護の役割分担と連携の一層の推進、医療と介護の複合的ニーズに対応する介護医療院の創設等が行われた。
 診療報酬改定では、負担の大きい24時間対応と在宅医療の提供が見直され、か医機能を有する診療所、有床診療所、中小病院の評価も行われた。更に、2カ所目の医療機関による訪問診療の評価などの様々な要件緩和、医学管理の評価などがなされた。
 2018年度の同時改定により、システム構築のツールはそろった。
114.まちづくり
 2025年を目標に、地域ごとの実践を通じて、障がい者や子どもを含む全世代・全対象型システムの構築が求められる。
 少子化対策を講じ、労働人口が減少し高齢者人口や死亡数がピークを迎える2040年に向けて、人口減少社会から再生をめざす社会づくりができるよう、システムの深化と進化を繰り返してゆく必要がある。
 全世代・全対象型システムはまちづくりに他ならない。地方では真の地域再生になり、都市部では地域コミュニティの再生に繋がる。
 日医の提案は、費用負担の制度的裏付けのない活動を医師・(歯科医師)に求め、システムを支え、一体改革を進めるものである。国の根幹となる施策を「互助」で支えることができるのか?
 日医は、か医の役割を、システムのまとめ役としている。多職種連携の組織では、医師・歯科医師はまとめ役を果たしているが、地域ケア会議の主催者は、市区町村、地域包括、CMであり、まとめ役として期待されていない。

12.仙台市に見る地域ケア会議とその機能

 仙台市の各種の地域ケア会議の位置づけ、役割を市の資料から表の様に整理した。
 この内、医師らが参加するのは地域ケア個別会議(以下、個別会議)、包括圏域会議である。その他の会議には医師・歯科医師は医師会・歯科医師会からの推薦で参加している。
121.地域ケア個別会議
 地域包括主催の個別会議は、地域の様々な困難事例について検討する。対象者が抱える課題を検討し、フォーマル、インフォーマルの連携をすすめ、自助・互助を育む。困難事例の蓄積の役割があるが、政策形成機能は期待されていない。
 仙台市が現在力を入れている区主催の個別会議は、取り上げられる対象者は要支援1,2で、状態の改善が期待できる方に限られている。「要介護者等の生活行為の課題の解決等、状態の改善に導き、自立を促すこと」ひいては「高齢者のQOLの向上」をめざし、介護サービスの利用者を減らすことを目的としている。
医師らは医師会・歯科医師会から推薦され助言者として参加する。

122.包括圏域会議
 地域包括が主催し、地域課題の抽出・ネットワーク構築・地域づくり・資源開発等が目的である。政策形成機能は担当圏域毎のニーズの集約である。
 仙台市の2018年度の地域包括圏域会議の医師参加率は全体の半数で、「会議の質の向上や医療・介護の連携を図るために医師の参加率の向上が必要」とされていた。
 真のシステムの構築には、政策形成機能が重要である。この機能が期待されているのは、介護保険審議会等の市地域ケア会議、区地域ケア会議(これらの会議には、医師会・歯科医師会推薦の医師・歯科医師が参加する)である。圏域ケア会議、個別ケア会議に参加する医師らの役割は限られており、政策機能的な役割は求められていない。

2.会員医師・歯科医師の取り組み

 協会会員は多様な形で多職種連携に取り組んでいる。また、地域ケア会議(個別会議、包括圏域会議)に参加している会員もいる。会員の取り組みについて述べる。
21.多職種連携での自主的な取り組み
 多くの協会会員が多職種連携の様々な活動に取り組んでいる。ここでは、協会地域医療部員である河瀬聡一朗氏(歯科医師)が代表を務める「男の介護教室」を紹介する。
211.「男の介護教室」
 河瀬氏は、東日本大震災後、被災地の歯科医療を再建し、障がい児・者の役に立ちたいと石巻市雄勝町に赴任した。当時河瀬氏は多くの課題に直面した。特に、要介護の妻や親を震災後の自宅で介護することになった男性は、家事・介護の知識やスキルもなく、途方にくれるばかりであった。「食に関わる歯科医師としてなんとかしなければ」と、CM等と「男の介護教室」を立ち上げた。
 男性介護者は介護していることを隠したり、手抜きができなかったり、困っても周囲に助けを求めないで、ストレスをため込み、介護虐待などの最悪の事態を招くこともある。「大切なことは、男性介護者を地域から孤立させないことで、そのためには、教室に参加して貰うことだ」と代表らは口をそろえる。
 「男の介護教室」は、座学と実習で食に重点が置かれている。2019年8月4日(於:遊学館)での「男の介護教室」を紹介する。はじめに内科医の大石千明先生の「血圧についての話」を伺い、次いで佐藤真由美管理栄養士の指導で調理実習をおこなった。6~7人のグループに分かれ、協力して夏野菜のドリア、なすとオクラの温麺、中華風豆乳茶碗蒸し、柔らか焼き肉を作った。調理したグループ毎に試食し懇談・意見交換をおこなった。その後、今回のまとめや今後の活動について、代表・事務局から話が合った。最後に、介護していた奥様が亡くなったメンバーから挨拶があった。感謝の言葉と共に、今後も参加すると話されて、拍手に包まれた。
 「男の介護教室」は男性介護者の居場所になり、県内・県外に取り組みが広がり、男性を地域社会に引き出すきっかけになり、着目されている。
 河瀬氏らは「男性介護者の実情をもっと知って、もっと考えて貰いたい。思いだけでは運営は困難で、財政上の問題があるが、このような教室開催の取り組みが全国に広がってゆくことが、最終的には、地域包括ケアの末端を支えることに繋がるのではと思っている。『男の介護教室』がきっかけになって地域コミュニティの活動が活発になってくれれば・・・」と語っている。
22.地域ケア会議への参加
221.地域ケア個別会議
 A地域包括では、毎年3回個別会議を開催している。以下、事例を報告する。
<事例、80才代、男性、一人暮らし> 
 困難事項は、受診拒否、移動動作困難、食事は主にカップ麺、ゴミ屋敷状態、年収144万円程度?
 本人は「病院はカネがかかるだけ」と言い、介護認定は未申請であった。キーパーソンは男孫。
 会議参加者は、前・現町内会長、民生委員、地域包括スタッフ、当院スタッフ。孫さんは仕事で参加できないと連絡あり。
 確認事項は、①情報共有を確認、②地域包括の月1回の訪問継続、③必要な時には往診、④健康保険証・介護保険証の確認。
 その後、介護サービスを受けるようになる。
 8月、訪れたヘルパーが、吐いて、倒れているのを発見。相談を受け地域包括と訪れる。訪ねた時には元気で、脱水症の可能性はあるが、飲料水などを置き、経過観察とした。
 翌年1月、健診で当院受診。その後、慢性心不全、慢性気管支炎、腎不全等で東北医薬大病院に紹介・入院。現在は、当院外来通院中。
<個別ケア会議参加の意義>
 困難事例には、高齢者の貧困問題が山積している。これらの人々は最も医療・介護・福祉を必要としており、「いつでも、どこでも、誰でも」の医療を確立するには、困難事例に取り組み、「個別事例として解決方法」の提案を見いだし、更に、「制度として解決すべき課題」の検討が欠かせない。

222.包括圏域会議
 B地域包括は会議を年2回開催している。
 令和元年第1回高砂地域包括ケア会議を紹介する。参加者は30名。
 テーマは、「身寄りのない方への関わりについて」であった。地域包括からの事例紹介のあと、MSWから東北医科薬科大学病院の取り組みの報告を受け、市建設公社管理課から市営住宅での状況、介護施設から福祉施設の対応の副報告があり、その後意見交換が行われた。
 司会者からは、開会にあたって、「解決の糸口が見いだせないと思うが、現状を把握し情報共有のために今回のテーマを選んだ」と話があった。
 意見交換では、特に町内会関係者から身寄りのない方が、連絡取れなくなった時の対応に困る、「地域共生社会」と言われても「個人情報の壁」がある、なんとかしてほしいと意見が出された。
<包括圏域会議への参加意義>
会議の現段階の役割は、ネットワークづくりが第1の目標になっていて、その役割を果たしている。情報を共有するだけでなく、ここで対応策が見えないことについては、政策形成につなげる意見交換ができないか?

23.これらの取り組みの意義

 困難を抱える地域住民にとっても、医師らにとっても必要なとりくみであり、強化が求められている。システムを下から支える役割を果たしている。
 医師らには、費用負担の制度的裏付けのない活動である。「関心のある」医師らの参加に止まるのではなく、多くの医師が参加するように、主治医の会議参加を前提とする、費用負担などの制度的な位置づけが必要である。
 真のシステム構築のために、多忙で困難な中ではあるが、保団連会員の参加を確保する努力をしたい。

3.保団連の真の地域包括ケアシステム

 保団連は「地域包括ケアシステムに対する見解」で、①国庫負担の拡充、②非営利とフリーアクセスの堅持、③必要な医療・歯科医療が提供できる診療報酬を含めた医療保障制度の充実、⑤医療・介護従事者、行政、住民の連携、⑥住民を含めた地域からの発信の確保などを保障した「真の地域包括ケアシステム」の実現を、国と自治体に要望するとしている。
 地域では、①多職種連携の推進、②サービス担当者会議への参加やケアプラン策定への協力、③困難事例の把握と地域包括支援センターとの連携、④地域ケア会議への参加、⑤困難事例解決に向けた制度改善要求への取り組みを強め、患者・住民が求める真のシステムを実現するとしている。

4.医師・歯科医師の役割を改めて検討する

41.医師の参加には困難がある
 多職種連携の様々な取り組みの対象は困難事例である。しかし、医師らが積極的に参加するには、過重な就労・勤務の中で時間的にも困難である。現状は「関心のある」医師らの参加に止まっている。課題は全ての医師らが参加出来る条件を作ることである。
42.如何に取り組むか
 システムは、一体改革をすすめ、支えるためのものである。真のシステムは一体改革に対抗するものとして提起されている。真のシステム構築のために何が必要か? 如何に取り組むか?
421.患者・住民の利用困難の原因を明らかにし発信する。ビックデータの隙間を埋める
 医療・介護のビックデータは、医療保険、介護保険を利用している人々のデータである。医療・介護を利用出来ない人々のデータは入っていない。医師らはこの点を理解し、その隙間を埋めることを意識的に取り組む必要がある。
 多職種連携の集まりや個別会議、包括圏域会議で充実した意見交換・検討をおこなうには、保団連の提起している待合室での取り組みを、連携する多職種にも発信し、困難事例の背景についての意見交換ができる状況を作る日常的な取り組みが欠かせない。
422.社会保障と税の一体改革、
 システムに展望はあるのか?「少子・高齢化が大変だ。持続可能な社会保障改革には消費税増税が必要だ。社会保障の削減が必要だ」としている。しかし、少子・高齢化の解決策は示していない。一体改革は国民を犠牲にした当面で当てであり、日本の現状を切り開く政策になっていない。
 医師らが役割を果たし、真のシステム構築のために必要なことは、多職種連携への自主的な活動とともに、地域の医師らが参加できる地域ケア会議で政策形成解決機能は付託されていない状況を乗り越え、自らそのために情報発信者となることが必要である。

5.今なぜこのような提起が必要か。改めて確認する。

51.全世代型社会保障検討会議。
 消費税10%の準備と平行して進められた全世代型社会保障検討会議(以下、検討会議)の初会合が2019年9月20日に行われた。
 検討会議のメンバーは、経団連会長・経済同友会会長ら財界人、及び政府内の関係審議会で社会保障・労働法制の改悪を牽引してきた顔ぶれである。
 議論の焦点は、介護や医療など社会保障の給付削減と負担増である。政府は団塊の世代が75才になり始める2022年の前に、社会保障抑制の仕組みを作ろうとしている。
 全世代型社会保障担当大臣は経済再生大臣が兼務し、社会保障の削減と社会保障の営利化を推進する体制を敷こうとしている。
 2012年8月に社会保障と税一体改革関連法として成立した「社会保障制度改革推進法」の中で、国民の生存・生活を保障する責任は国にあるとする憲法25条が示す社会保障の理念が「国民の助け合い」に転換されたことに根本的な問題がある。
52.市民と野党の共通政策
 参議院選挙の市民と野党の共通政策は社会保障の改悪を進める政府の動きを抑えるものとして大いに期待した。しかし、13項目の共通政策の中には、医療・介護の言葉はない。
市民連合世話人の中野晃一氏は、全国保険医新聞第2794号で「社会保障分野や教育、年金政策や税制のあり方などは今後さらなる議論が必要です」と述べており、期待したい。

まとめ

 困難事例に取り組み、高齢社会の問題、少子化の問題の出口を考える必要がある。困難事例の対応だけでは、真のシステム構築はできない。政策形成のための発信が必要である。
 システムの下で医師らの役割は限定的であるが、医師らに求められる活動は計り知れない。負担は大きいが患者の困難事例とCM,地域包括らと取り組み地域ケア会議に参加したい。「関心のある」医師らの活動に止まることなく、皆が取り組めるように、制度的費用負担等が必要である。
 多職種連携の集まり、地域ケア会議では、困難事例の原因についての意見交換ができるよう、日常的に、保団連の「待合室での取り組み」の運動を連携する多職種にも訴え、関心を持って貰うことが欠かせない。
 困難事例に取り組むにあったって、常に憲法25条を意識して、政策形成に結びつける努力をしたい。

 
参考資料
保団連:地域包括ケアシステムに対する見解
厚労省:社会保障制度改革国民会議報告書
内閣府男女共同参画局:令和元年版男女共同参画白書
鈴木邦彦:医療保険と介護保険、地域包括ケアシステムの構築、日医かかりつけ医機能研修制度2019年度応用研修会

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