投稿「COVID-19の抗原検査、PCR検査 地域の無床診療所の取り組みから見えること」


COVID-19の抗原検査、PCR検査

地域の無床診療所の取り組みから見えること

北村神経内科クリニック 北村 龍男

PCR検査 症状のある方と症状のない方
 当院での発熱患者は、11月1日から12月2日に16名である。他に対応できないと判断しお断りしたのは少なくとも3名あった。これまでのところ、抗原検査もPCR検査も幸いなことに全て陰性であった。受診した発熱患者は、呼吸器症状だけでない。これまで、胆嚢炎(東北医薬大病院に入院し手術)、虫垂炎(東北医薬大病院を受診、精査し通院治療)、急性胃腸炎と診断したのは3名、膀胱炎と診断した例もある。尚、16名のうち虫垂炎と診断した方は新型コロナの検査はしなかった。
症状のない方のPCR検査も当然感染のリスクを避けて検査を実施する。
しかし、症状のある方の検査はそれだけに止まらない。発熱などの原因を診断することが求められる。例えば、虫垂炎と診断したケースは、発熱外来に置いてあるベッドに横になってもらい、腹部の診察を行うことで疑うことができた。ドライブスルー、駐車場で車の中での対応では、症状のある方の診察は難しい。

高齢者のPCR検査
 医療機関、介護施設の職員の社会的検査の提案がある。唾液による検査は、十分説明し、ご本人に採取してもらうことが可能なので、これらの人々の検体採取は難しくないであろう。
しかし、高齢者の場合は、唾液検査が難しい方が多いのではないか。自分でうがいすることが難しい、唾液が少ない、唾液を小さな容器に採取することができるのか。介護施設入所中の高齢者のPCR検査は、検体採取者の負担が大きい。
施設入所者の高齢者では、個人差はあるにしても鼻咽頭ぬぐい液による検査の方が確実なことが多いであろう。

発熱した在宅患者の検査
在宅患者の娘さんが、「発熱しました。」とクリニックに来た。症状は、発熱の他に食欲がなく、尿が汚い。膀胱炎? 脱水症? 娘さんは、ディサービスを利用していることもあり、検査を強く希望した。
結局、ガウンなどで防護し、娘さんの車で送り迎えをしてもらった。皮下点滴を行い、抗原検査を行った。唾液によるPCR検査は、唾液採取が難しく、無理と判断。患者宅で行った抗原検査は、幸い陰性だった。PCR検査は、経過を見て、必要ならば鼻咽頭ぬぐい液で改めて行うことにした。

少ない「診療・検査医療機関」 宮城県内433カ所
金田県議の情報によると、11月20日現在、宮城県「診療・検査医療機関」は433カ所、そのうちかかりつけ患者のみ対応は262カ所である。
症状のない方の検査は、ドライブスルー方式などでもよいが、発熱など症状のある患者さんは、医師の診察が必要である。しかし、かかりつけ医を受診しても断られる患者さんもいる。これから冬を迎え発熱患者さんは増える。なぜ、「診療・検査医療機関」は増えないのか。私は以下のように考える。
① 隔離、動線分離が難しい。② 時間がかかる。③ 人手の確保が難しい。④ 患者を発見すると、風評被害の恐れがある。⑤ 濃厚接触、或いは職員の患者発生で休診の恐れがある。
これらへの対応を、医療機関任せでなく、国が対応し、保障することが求められる。

「発熱外来診療体制確保支援補助金」について
この「補助金」については、患者を診れば診るほど減額され、20人を超えると「ゼロ」となることが問題になっている。まず、保団連の要望書(抜粋)を紹介する。
1)保団連の要望書(抜粋) 厚生労働大臣宛、2020年12月7日
① 発熱患者等を受け入れれば保険診療があるとして補助金が減額され、1日20人(か  かりつけ患者等のみを受け入れる場合、1日5人)以上診察した場合は補助金がゼロ  になるのでは、現場で大変な思いをして対応した医療機関がむくわれない。最低給付  額を設け、受診者が基準患者を上回っても補助金がゼロにならないようにすること。
② 「診療・検査対応時間」において下記の患者を診療した場合に「発熱外来診療体制確  保支援補助金」を減額する取り扱いを止めること。
ア.別の診療室で他の疾患等の患者の診察を行った場合(1人診察する度に、     13,447円の2分の1を減額する)
イ.発熱外来専用の診察室で他の疾患等の患者診察を行った場合(1人診察するたび  に、13,447円を減額する)
国の姿勢は、「労に報いると言うよりは、ともかく手を上げればOK、やってもやらなくてもOK」というもので.真剣にPCR検査を増やす意思は見えない。保団連のこれらの要望は当然である。
2)1回のPCR検査の実質収入は12,000円
PCR検査を行うと、検査料1、800点、判断料150点、初診料250点、院内トリアージ実施料300点で、計25、000円である。費用は、機材料約500円、当院の場合は委託検査料12、500円で計13、000円である。他に検体輸送の容器などの準備の費用がかかる。(個人防護具は国から配布されることになっている)。医療機関にとって1回の検査での収支は25、000円-13、000円で計約12、000円である。
「補助金」について確認する。診療体制をとった時間により、補助金対象の患者数が決められており、その数に満たないときのみ補助金が支払われる。発熱外来対応は7時間で20人見ることが補助金対象の上限である。対応時間7時間の場合、患者1人を診察すると補助金13,447円減額され、20人以上診察すれば補助金は「ゼロ」になる。
診察した場合の収入と補助金の関係を整理する。患者1人診察すれば1回あたり収支は12、000円である。一方補助金13、447円減である。診察するたびに実収入は1、447円減少する。
行政検査に手を上げることにはインセンティブがあるが、PCR検査を行うことにはインセンティブはない。検査を実施すると収入が減少するのでは”診療体制確保支援補助金”とは言えない。
3)補助金の支払い
補助金は、原則として2回にわけて支払われる、1回目は申請額の5割、1月頃に実際の診療状況を確認し大きく変動している場合は変更申請、事業完了(3月末)後に実績を報告し補助金を確定する。煩雑で、医療機関に大きな負担がかかる。
4)提案
この制度は、煩雑で医療機関に大きな負担を掛ける。この制度の混乱のおおもとは、受け入れ体制(設備、人員)に対する補助と検査実施に対する補助の二つの側面を混在させていることにある。受け入れ体制について必要な補助をした上で、検査実施に対し補助金を出し労に報いることを求める。
より小さな施設での診療の合間を縫っての負担は大きいことを考え、検査実施に対する補助金は以下の様に提案する。
1日毎に請求・支払いを行うこととし、検査10名までは1人当たり15,000円、11~20名は1人当たり10,000円、21名以上は1人当たり5,000円を提案する。

(2020/12/12までの情報で記文)

This entry was posted in 活動. Bookmark the permalink.

Comments are closed.