寄稿「ミャンマー国軍の蛮行に強く抗議し、民主的な政治体制の早期回復を求める」


寄稿

ミャンマー国軍の蛮行に強く抗議し、民主的な政治体制の早期回復を求める

理事 今田 隆一

 2021年6月8日、衆議院は「ミャンマーにおける軍事クーデターを非難し、民主的な政治体制早期回復を求める決議」を上げた。6月11日に参議院でも同様の決議が上がっている。
 2021年2月1日のクーデター後、早々にミャンマー国軍への非難と必要な経済制裁を行った欧米諸国に対して、4カ月を過ぎて上げた決議については、遅きに失した感は免れない。しかし、民主化後のミャンマーに対して最大の支援国であり、この間、外務大臣や与党幹部がミャンマー国軍の最高幹部と会談をもち、「独自のルート」を持っていることをほのめかしたものの具体的対応は「何もしていない」といわれてきたわが国も、ようやく欧米諸国と肩を並べて国際世論の後押し役になったことについてはそれなりに評価したい。
 2021年2月1日にミャンマー国軍が起こしたクーデターは、「選挙不正があった」ことを理由にはしているが、国内の民主勢力の伸長によって国軍の存在基盤が危うくなったことがその真の理由だとされている。ミャンマーの国民はそれに対して非暴力の「市民的不服従運動」(CDM)によって抵抗した。しかし国軍は野蛮で非人道的な暴力で答えたのである。銃弾によって子ども含む、数百名の命が奪われ、その事態は今も続いている。
 こうした国軍による攻撃は、医療者や教育者に対しても向けられている。イギリスのランセット誌は3月と5月の2回、その状況をレポートした。とくに後者では、医療者に向けられた攻撃とその内容は、国連安全保障理事会の決議(2286号)に対して強く違反するものとなっており、世界中の医療者がその事実を受け止め、ミャンマー国軍を非難すべきである、としている。
 私が所属している新医協(新日本医師協会)では、ミャンマーの事態を会員からの情報とランセット誌の記述から知ることになり、医療と介護・福祉・教育に働くものという立場で、ミャンマー国軍の蛮行に強く抗議し、日本政府に対しては実効性のある対応を求めるための声明を3月31日と5月11日の2回、発表した。本紙には5月11日の声明を掲載している。
 宮城県保険医協会の会員のみなさんから、現在も困難な中で闘っているミャンマー国民への熱い連帯のエールを挙げていただければ幸いである。

 

ミャンマー国軍によって行われている医師ならびに医療介護従事者への迫害に抗議する

新医協(新日本医師協会)
2021 年 5 月 11 日

 私たち新医協(新日本医師協会)は、ミャンマー国内において、軍政によって行われている医師ならびに医療介護従事者に向けられた迫害に対し、これを強く非難する。今、多くの国際的な医療団体が迫害の即時中止を求めている。新医協は連帯して以下のような声明を表明する。

 Megan Tatum(2021年)はランセット誌の中でこう述べている。2021年2月に握った政治的権力によってミャンマー国軍は、医師ならびに医療介護従事者に対する迫害をエスカレートさせている。国際的な医師の団体であるPhysicians for Human Rightsが把握しているデータによれば、4月13日から20日までの間に少なくとも 160通の、医師ならびに医療介護従事者に対する逮捕状が請求された。
 Sandra Mon(Johns Hopkins大学、The Center for Public Health and Human Rights)医師によれば4月23日までに逮捕状は260通まで増えており、対象は「市民的不服従運動」(CDM)へ加入していることを、軍が疑った医師全般に及んでいる。中には、抗議行動に参加し、負傷した市民を治療した、というだけで逮捕された医師もいる。救急医の一人はランセット誌に以下のように証言している。「抗議行動が盛り上がって来ていることに対し、業を煮やした軍は、負傷者を治療した医師に対しては厳罰を科す一方、武装勢力を救急病院に駐屯させることによって軍政に抗議しているものたちを病院から排斥し、必要な治療を受けられなくさせている」
 そして今や、逮捕状は医療介護従事者だけでなく、広く市民、例えば学校の教師、詩人、僧侶にまで向けられている。

 医師の逮捕や迫害は、国連安全保障理事会決議2286号などの国際規約に直接的に抵触するものである。日本を含む80の加盟国で批准された決議2286号によれば、武力紛争地において、医療従事者に対して向けられるあらゆる攻撃に対して、これを非難する、とされている。

 私たち新医協(新日本医師協会)は、同様の観点から、軍政による人権への侵害の事実に、重大な懸念を抱いている。その上で私たちは、次のことを切に求める。
(1)ミャンマー国民の医療と介護のために働く仲間と、そして民主主義と正義を求める人たちとの団結を固め、ミャンマー国民については、当然のことながら軍政に対して支持するか支持しないかによらず、安全に医療を受けられることが保障されなければならない。
(2)医師や医療介護従事者については、迫害の恐れなく、必要な人に必要な医療・介護が提供できるようにされなければならない。

 最後に、日本政府には、勾留されているミャンマーの医師と医療介護従事者たちを即時釈放すること、またミャンマー市民に対する非人道的な扱いに関わる責任を明確にすることを軍政が実施するよう、働きかけることを強く求める。

参考資料
Megan Tatum:Outcry over persecution of health workers in Myanmar,The Lancet,vol.397(20285),1609,May1,2021,London
 

【同声明 英語版(本文のみ)】
We, Shin-ikyo(New Japan Medical Association), strongly condemn the persecution of doctors and health-care workers in Myanmar by the military regime.
As various international health organizations are calling for an urgent end to the persecution, we, health-care workers and members of Shin-ikyo, make a following statement.
Megan Tatum(2021)reported in The Lancet that a growing number of doctors and health-care workers face persecution in Myanmar since the military regime seized control of the country in February. At least 160 arrest warrants have been issued for doctors in Myanmar between April 13 and 20, according to Physicians for Human Rights.
Sandra Mon from the Center for Public Health and Human Rights, Johns Hopkins University(Baltimore, MD, USA)says that, as of April 23, 260 arrest warrants have been issued for doctors whom, the military suspects, are affiliated with the Civil Disobedience Movement(CDM).Some physicians face arrest simply as a result of providing care to injured protesters. One emergency medicine physician working in the country spoke to The Lancet that as protests had increased, the military forcibly cracked down on any doctors suspected of treating the injured, with members of the armed forces even stationed at the emergency hospitals to prevent protesters from gaining entry and accessing care.
Arrest warrants are now issued for not only health-care workers, but also many citizens, like school teachers, poets, and Buddhist monks and so forth.
Arrest and persecution of doctors is in direct conflict with international rules, especially UN Security Council Resolution 2286. Resolution 2286, co-sponsored by more than 80 member states including Japan, condemns any attacks on health workers in armed conflict.
The citizens of Myanmar must have safe access to medical care regardless of whether they support the military or not. Doctors and health-care workers must be able to provide care for those in need without fear of persecution. We, the members of Shin-ikyo, are deeply concerned for the infringements of human rights by the military regime.
We must stand in solidarity with our medical and health-care colleagues as well as citizens seeking democracy and justice in Myanmar.
Finally, we strongly urge Japanese government to pressure the military regime in Myanmar to release immediately doctors and health-care workers who have been detained, and to hold the military regime accountable for its inhumane treatment of the citizens of Myanmar.

 

新医協(新日本医師協会)のホームページはこちらをクリック

 

本稿は宮城保険医新聞2021年6月25日(1753)号に掲載しました。

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