投稿「4病院再編の疑問と見解」


4病院再編の疑問と見解

2022/01/31版

宮城県保険医協会顧問 北村 龍男

 

はじめに

 4病院の再編問題は、県の発表以来各方面から、多くの疑問が投げかけられている。宮城県保険医協会の1月27日の県保健福祉部医療政策課課長遠藤圭氏を招いての政策学習会等でこの問題について情報を集めてきたが、疑問はかえって広がっている感がある。
 医療機関の統廃合は、周辺住民に大きな影響がある。もしも、医療機関を移転、或いは廃するならば、そのことで起こる受診困難に対策が不可欠である。身近に医療機関があったとしても、病気を抱えている住民にとって、受診先を代えることの負担は大きい。
 一方、国は公立・公的病院の統廃合を手始めに病床削減を行おうとしている。このような国の政策が、県民にどのような影響があるか議論が必要であり、県は見解をきちんと示す必要がある。

註)宮城県の仙台医療圏4病院の統合・合築に係わる宮城県の考え方(令和3年1月20日)からの引用は、以下県の見解と表示する。

 以下、疑問について列挙する。

5者の協議について
*5者(県、県立病院機構、日本赤十字社、労働者健康安全機構、東北大)の協議の法的な位置づけは? 私的な協議だった?
*5者には現場の医療機関が入っていない。少なくとも地域医療を検討しているとは言えない。

情報の開示、丁寧な説明について
*保険医協会の「県立がんセンターあり方検討会議」の開示要求に対する議事録のコピーはほとんど全面が黒塗りの意味は? 本当に発言があったのか? という疑問さえ残る。
*参加者の保護とすれば、名前のみ伏せれば良い。また、自分の発言に責任を持ち名前を出せない人をメンバーに選んで良いのか?
*県の見解では、「今回の県の公表は、協議を開始することを関係者間で合意できた時点で、まずもって、そのことをすみやかに公表したもの」とされている。知事選に当たっては具体的な知事の提案もあったが、そのことは個人的な見解であり、何ら決まっていないことが明らかにされたものと考えてよいのか。
*一方、県の見解では、「協議を重ねていく過程で、運営主体、診療科や病床規模、立地場所など、新病院の具体的な内容について、可能な限りの情報提供に努める」、「医療機関にとっては、病床規模等の経営判断、現有施設の老朽化や競合病院の立地を踏まえた今後の事業展開の検討、将来に向けた雇用や人材育成の方針などを踏まえた総合的な意志決定が必要ですので、県からは協議の最中に具体的内容を公開することは困難」、「それぞれの病院の患者や医療従事者、地域住民、地域の医療機関などへの説明については、新しい病院の具体的な姿が定まった段階で、運営主体が責任を持って行うべきもの」としている。しかし、本来必要なことは協議の過程でその都度情報を開示し、地域の意見を活かし協議すべきである。

経営悪化の原因について
*経営基盤悪化の原因は低い診療報酬である。引き上げを要請すべきで、診療報酬の引き上げを要望せず放置し、統廃合、病床削減に向かうのは無責任である。
*一方、新病院建設のための土地の取得費、建設費、さらにその後の運営費などの財政負担の展望、経営改善計画の見通しはあるのか?

第8次医療計画、地域医療構想との関連について
*地域医療調整会議への提案のための案を作ったということか?
*第8次医療計画、地域医療構想で位置づけられることになるものであろうが、方針が確定するのは、それらの検討の後か?
*検討されているのは、仙台医療圏内の医療格差についてあるが、他の3つの医療圏との格差がより緊急性があるのでないか。
*地域の均衡とは、低い方に合わせることか?
*国は1月10日に都道府県に対し令和5年度までに各医療機関の対応方針を策定するよう求めている。全県の地域医療構想と提案されている4病院の再編の整合性をどのような観点で構築しようとしているのか? それぞれ別個に検討するのか?

救急医療について
*県の見解では、新たな拠点病院が富谷市、名取市に整備されることで仙台市内への搬送が減少し、仙台市内の救急受け入れ能力に余力が生じるとされているが、黒川地区・塩釜地区・名取・あぶくまからの仙台市内への搬送は減少するが、搬送先が近くなっただけで仙台市内に余力が生じるわけではない。
*仙台医療圏以外の医療圏の救急医療の体制は一層深刻と思われる。まず、全県の救急体制から検討する必要があるのではないか?
*県の見解では、救急受入を増やすには救急科専門医の配置を増やせば対応できるとしている。また、移転後には医師の配置等の強化が必要と述べている。展望はあるのか?

災害医療について
*県の見解では「人口規模のみによるのではなく、医療圏や県全体としての均衡にも配慮した総合的な災害医療体制の構築を目指すべき」としている。この分野についての県全体の検討開始が急がれる。

周産期医療が検討課題になっているが。
*この問題は仙台医療圏でも検討課題であるが、県内の他の3医療圏では一層深刻な 問題である。他の3医療圏での検討がより緊急の課題と考えていないのか?
*総合周産期母子医療センターと地域周産期母子医療センターの役割は異なるのではないか? 日赤が移転して2つのセンター機能を兼ねるのには医師・看護師の増員が必要であり、2つの機能を兼ねることにより混乱を招かないか?
*県南では現在みやぎ県南中核病院では搬送受け入れを停止している。まず、この地域での地域周産期母子医療センターの受け入れが求められる。

精神医療センターについて
*統合と合築に違いはなにか?
*県立精神医療センターの病院名は残すのか?
*利用している患者の中には、移転先の近くに転居すると考えている患者もいると聞く。受診継続のための対策は?

感染症病床
*仙台医療圏では急性期病床が過剰とされている。しかし、コロナ禍では医療の逼迫を招いた。これは日常の急性期疾患に対する病床が診療報酬に合わせた運営になっているためである。パンデミック等を準備した病床が必要である。少なくとも、感染症病床については、コロナ禍の検証を踏まえた上で検討すべきである。

公立・公的病院の統廃合についての見解について
*宮城県の医療を考えるにあったって、仙台医療圏の問題を切り離して検討することはできない。厚労省が示している公立・公的病院の統廃合について整合性のある検討が必要である。

人口減少、少子高齢化について。
*この再編案を作る根拠の一つに人口減少がる。
*宮城県は特殊出生率は全国第46位で1.21(最下位は東京1.13)である。人口減の対策を持とうとしているのか?

今後の検討の進め方について
*第8次医療計画、地域医療構想に位置づけるための、今後の検討スケジュールを明らかして欲しい。これまでのこの問題はどこで検討されているか明らかにされず、検討結果を突如発表し、当該医療機関でもメディアの発表で知ったとされている。極めて遺憾である。現場の医師をはじめとする従事者の協力をうるためにも、現場での検討は不可欠である。

県知事の権限について。
*知事には多くの権限が与えられている。当選は全権を委任したわけではない。それぞれの政策に、賛成・反対あっても現段階では、相対的により支持できるものに舵取りを委任しただけである。一つ一つの政策決定に当たっては、県民の意見を丁寧に効くべきである。

国・厚労省の見解?
*県は国・厚労省とどのようなやりとりをしているのか? もしも国・厚労省がこの動きに無関心であるはずがない。もしも無関心であるとすれば、怠慢である。

その後について
*この再編案は、いつからいつまでの医療計画、地域医療構想に位置づけようとしているのか?
*その時期が終わる頃の人口はどうなっていることが前提か?
*人口が減っているとすれば、次の時期の医療計画、地域医療構想では、更なる病床削減をすすめるのか?

まとめ
 県の説明や意見交換、情報を通じて明らかになったことは、

  1. 医療機関が危機に瀕していること。主たる原因は社会保障の削減によることは明らかである。
  2. 県民により充実した医療を提供する検討のないまま、医療削減で問題解決を図ろうとしている。
  3. 国の医療計画、地域医療構想に沿って方向を模索している。地域医療の充実には、国の社会保障政策を変換させることが不可欠である。

 村井知事のやろうとしていることは、何ら新しいことでもなく、地域医療改善を目指すものでなく、国の社会保障政策の先取りであり、地元に諸々の困難をもたらすことが浮き彫りになってきている。

 

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