投稿「病院統合・合築の『支援策』で、経営難を克服できるか」


病院統合・合築の「支援策」で、経営難を克服できるか

宮城県保険医協会顧問  北村 龍男

4病院の経営状況
 4病院は経営難に苦しんでいる。経営難の原因は、人口減少、他院との競合、医療需要の減少(患者減)、医師偏在、病床稼働率の低下などが指摘されている。当事者からは指摘されていないが、最大の原因は、長年の医療費削減政策による診療報酬の引き下げであろう。
 この経営難の結果、築40年を超え建物の老朽化がすすんでも、資金不足で建て替えや耐震工事が出来ない。赤十字病院は2015年~19年、当期純損益9000万~11億7000万円の赤字。労災病院は16年を除く4ヶ年で約2~9億円の赤字を計上。宮城県はがんセンターには毎年20億円以上、精神医療センターには約8億円の負担金を拠出している。
 国、県はこの経営難を踏まえ、統合・合築、病床削減を進めようとしている。移転後の新病院の詳しい内容は明らかになっていない。従って、利用できる支援事業も特定できないが、準備されている「支援策」には、病床機能再編支援事業、病床機能分化・連携推進基盤整備事業、地域医療構想に基づき選定する重点支援区域がある。

国・県が準備している「支援策」
 病床機能再編支給事業は、地域医療介護総合確保基金の事業の一つである。地域医療構想調整会議等の合意を得て病床数の最適化(削減)に取り組む際の財政支援を実施するもの。単独支援給付金支給事業、統合支援給付金支給事業、債務整理支援給付金支給事業の3事業がある。
 単独事業は、2018年7月1日の病床機能が高度急性期機能、急性期機能、慢性期機能(以下、対象3区分)と報告した病床数を減少した場合に対象となる。再編後の対象3区分の許可病床数が、2018年の病床機能報告の稼働病床数の合計が90%以下が要件である。
 統合事業は、複数の医療機関が病床数の削減を実施し統合する場合、当該統合に参加する病院に給付金を支給する。統合計画に参加する医療機関が、2018年7月1日時点の病床機能の対象3区分を減床し、統合関係のうち1以上が廃止となること、統合関係医療機関の対象3区分の総病床数が10%以上減少することが要件である。
 債務整理事業は、統合によって廃止となる医療機関の未返済債務を返済するために補助を行う。
 病床機能分化・連携推進基盤整備事業は地域医療介護総合確保基金の事業の一つと位
置づけられている。
 対象事業は、①急性期病床から回復期病床への転換、これに付帯する施設や設備の整備事業と、②急性期病床の削減に伴う事業(病室の他用途への変更、特別損失、退職金割増相当額)である。補助率は、2分の1以内。
 地域医療構想に基づき選定する重点支援区域は骨太方針2019において、地域医療構想の実現のため、全ての公立・公的医療機関等の具体的対応方針の診療実績データの分析を行い、2025年において達成すべき医療機能の再編、病床数等の適正化に沿ったものとなるよう、重点支援区域の設定を通じて国による助言や集中的な支援を行うとされた。
 優先して選定する事例は、①複数設置主体による再編統合を検討する事例、②できる限り多数の病床数を削減する統廃合を検討する事例、等である。財政的支援内容は、地域医療介護総合確保基金の優先配分、新たな病床ダウンサイジング支援を一層手厚く実施する。2020年1月の1回目に選定した区域の宮城県関連は、仙南区域(公立刈田総合病院、
みやぎ県南中核病院)、石巻・登米・気仙沼区域(登米市立登米市民病院、登米市立米谷病院、登米市立豊里病院)である。

経営難の克服には診療報酬の引き上げを
 見てきたように国・宮城県は統合・合築、病床削減に手厚い「支援策」を設けている。これらの「支援策」は、医療介護総合確保促進法の実現を目指す国の方針に沿ったものであり、「地域医療構想の推進→病床削減→医療費適正化」を目指したものである。
 従ってこれらの「支援策」は、統廃合、病床削減のためのものであり、その後の継続的運営に対する提案ではなく、医療費適正化が目的である。長い目で見ると医療費適正化で一層経営難は進む。経営難の克服には医療費削減政策を止め診療報酬の引き上げが不可欠である。

〈参考資料〉
宮城県HP
石坂友貴、他:東洋経済ONLINE, 2022/02/16
福岡龍一郎:朝日新聞デジタル、2021/11/20
河北新報ONLINE NEWS、2021年9月10日、2021年12月12日

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