小賀坂 徹氏 「個別指導にどう対処するかー行政手続法の視点から」


6月2日に開催した第42回協会定期総会で行われた小賀坂 徹 氏(馬車道法律事務所・弁護士)の記念講演の要旨を掲載します。(文責 宮城県保険医協会事務局)

 

「個別指導にどう対処するかー行政手続法の視点から」

1 はじめにー個別指導の帯同を経験して

昨年1年間で神奈川協会として25件、そのうち私個人は12件に帯同したが、弁護士帯同について行政側とのトラブルやクレームはなく、むしろ行政側に録音や帯同が当たり前のこととの認識が広がっているように思われる。録音や弁護士が帯同することは、指導の透明性を確保することになるだけでなく、これまで保険医が萎縮して言えなかった意見や不明点について発言できるようになり、自由な議論の場を実現している。また弁護士の立ち会いの有無により、指導官の態度が異なるということも、帯同した保険医の話から伺い知ることができる。
保険事務について、きちんと議論し互いに納得することは、行政側にとっても指導の実効性を上げることにもなる。そのような意味で帯同は相当程度意味があることであり、これが定着してきていることは大きな成果である。
しかしながら保険医の中には、行政側から不利益を被ることを危惧し、録音や帯同に対し抵抗感を持つ方も少なくないようだ。

2 「指導」の法的根拠

行政指導は、あくまで任意のもので、特別、法律上の根拠がなければ実施できないものではない。しかし保険医に対する指導に関しては、健康保険法73条、国民健康保険法41条、そして高齢者の医療の確保に関する法律66条により、法律上の根拠が定められている。
一方、監査については強制が伴い、場合によっては重い処分が課せられることもある。健康保険法や国民健康保険法等々に詳しい条文がいくつもあるが、指導に関しては「診療または調剤に関し、指導を受けなければならない」との一文だけである。それ以外のことに関しては、法律上は一切の規定がない。
このように保険医に対する「指導」は行政指導にほかならないが、そもそも行政指導は広範かつ多岐にわたる分野において様々な形で実施されている。しかし、行政指導は必ずしも個別の法令の規定に基づかずに行われたり、その責任も明確にされていないことも多く、その濫用についての批判が多かった。

3 行政手続法(1993年制定、1994年施行)による行政指導の一般原則

 1993年に行政手続法が制定されたが、それまでは行政指導の一般的な原理、原則についての法律上の定めはなく、いくつかの判例があるのみだった。行政手続法において行政指導について規定することは、行政指導を法的に認知し、かえって行政指導の濫用を招く危険があるとする意見もあったものの、現に行政指導が行われている実状において、これを放任しておくより、行政指導を行う場合の適正なルールを定めて、行政指導に一定の枠をはめることが望ましいとの考えに基づき、行政指導を行う場合の一般的な原理、原則を確認する規定を設け、行政指導のあるべき姿を明示することとした。

4 行政手続法32条の解釈

行政手続法32条に「指導」についての以下の大原則が掲げられている。その解釈が後述する(1)、(2)、(3)である。
1項 行政指導にあたっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務または所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2項 行政指導に携わるものは、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な扱いをしてはならない。
(1)「行政指導に携わる者」(1項)
個々の場面において直接指導を担当するものはもちろん、当該行政指導の責任者を含むもの。保険医に対する指導については、厚生労働大臣や都道府県知事もここに含まれる。
(2)行政指導の限界(1項)
a「当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと」
行政指導は、行政機関が一定の行政目的を実現するために、その任務または所掌事務の範囲内において一定の作為または不作為を求めるものであるので、その任務または所掌事務の範囲を超えて行政指導することができないのは当然のこと。
b「あくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されること」
行政指導は、行政機関が相手方に一定の作為または不作為を行わせようとする(行うことを求めて働きかける)行為ではあるが、処分のように当該相手方に義務を課したり、その権利を制限したりするような法律上の拘束力を有する手段によって求める内容を実現するものではなく、あくまでも相手方の任意の協力を前提としているものである(行政指導として行う以上は、相手方の任意の協力を得られる範囲内においてしか行うことができない)。
法令に規定されている義務に違反していたりする者に対して勧告等の指導により自主的な改善を求める場合はあるが、このような場合であっても、行政指導によってその改善を求める限り、当該者に改善することを強制することはできないものであることに変わりはない(ただし、監査に進むことはあり得る)。
(3)不利益取扱いの禁止(2項)
行政指導はあくまでも相手方の任意の協力を前提として、行政目的の実現を図ろうとするものであり、行政指導に従うか否か(行政指導により求められた行為を行うか否か)は相手方の自由である。よって、指導に従わないことを理由に不利益な取扱いをしてはならないことは当然。それをすれば「任意」ではなく、「強制」にあたる。

5 許認可等の権限に関する行政指導

 行政手続法32条の細則として34条に「許認可等をする権限または許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関は……当該権限を行使する旨をことさらに示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはならない。」と定められている。
厚労省は保険医の指定取消処分を行う権限を有しており、「許認可等に基づく処分をする権限を有する行政機関」に該当する。また取消処分等の措置は監査の結果行われるものものであり、指導の手続によってこれを行うことはできない。したがって、取消等の処分をちらつかせて指導に従わせようとすることは明白に同条に反する。

6 複数の者を対象とする行政指導(36条)

さらに36条に「行政機関はあらかじめ事案に応じ、行政指導方針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければならない。」という細則がある。
個別指導は当然、全ての保険医が対象者である。このような複数の対象者に対して指導を行う場合には、事前に指導の目的について指針を定め、それを公表しなければならないということを定めている。この行政手続法36条に基づいて行政内部のルールとして定められたのが、次の「指導大綱」である。

7 指導の目的と方針(指導大綱)

(1)目的
診療の内容または診療報酬の請求に関する基本的事項を定めることにより、保険診療の質的向上および適性化を図ることを目的とする。
(2)方針
保険診療の取扱い、診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底させることを主眼とし、懇切丁寧に行う。
(3)種類
・集団指導
・集団的個別指導
・個別指導ー通常の個別指導
新規個別指導
行政指導は相手の任意の協力、相手の納得によってはじめてその目的を実現するというのが、大原則である。よって、それを行うにあたっては相手が十分納得できるように懇切丁寧にこれを行わなければならない。したがって、納得もしていないのに、無理矢理従わせるようなことをしてはならないということを行政自らが、「指導大綱」により規定している。
しかし、自ら規定しながら懇切丁寧などといえる状況ではないのが実際である。弁護士が帯同していくということは、まさにこの指導の枠組み、あるいは目的や方針が法律や行政が自ら定めた「指導大綱」に沿って行われているかどうか、それを担保するためである。
以上のように行政指導は、徹頭徹尾、任意で行わなければならず、強制的側面はあってはならないものである。行政手続法において、これほどまで任意の手続であることを繰り返し確認していることからしても、指導の中での恫喝、暴言など言語道断であることは明白である。

8 監査との差違
指導とは異なるものに「監査」がある(健康保険法78条、国民健康保険法45条の2、老人保健法31条)。これは指導とはまったく異なり強制力を伴うものであり、前述の個別の根拠法規に基づき実施されるものである。
(1)監査の選定基準(監査大綱)
・診療内容に不正または著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
・診療報酬の請求に不正または著しい不当があったことを疑うに足りる理由があるとき
・度重なる個別指導によっても診療内容または診療報酬の請求に改善がみられないとき
・正当な理由なく個別指導を拒否したとき
(2)処分
・取消処分ーただし、行政手続法上、聴聞の手続が義務づけられている(13条)
・戒告
・注意

9 指導においては堂々と議論すべき
個別指導においる指摘事項中で、必ずしも納得できない指摘がなされることもあり得る。こうした点は納得いくまで議論し、曖昧にしないことが重要。実際に指導官の指摘の方に問題があったケースもある。
指導の目的が「保険診療の質的向上及び適性化」にあるのであるから、議論して内容を深めていくことは正に指導の目的に適うことである。
カルテ記載が不十分であるという指摘も、担当者の主観も大きく、その場で詳細な説明をすれば足りることも十分にあり得る。その意味で、安易に自主返還に応じるべきではない。現に医療行為を行っているのであり、請求権は厳然と存在していることを忘れてはならない。

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