東北地方への医学部新設 東北6協会の会長・理事長に聞く


東北地方への医学部新設について、東北6協会の会長・理事長よりご意見を寄せてもらいました。掲載しているご意見は2014年5月28日締切でいただいたものです。

国立気仙医科大学をめざそう

青森県保険医協会 会長 大竹進

 東北地方は震災前より医師不足は深刻であったが、岩手県では開業医が犠牲となり、福島県では医師が避難するなど、医師不足はさらに深刻になっている。
 2012年の人口10万人当たりの医師数は全国平均で226・5人に対し、宮城県は218人だが、岩手県は191人、福島県は173人と医師が不足している。
〈医師偏在〉
 さらに、偏在も医師不足に拍車をかけている。10万人あたりの医師数でも偏在は明らかだが、人が住むことができる可住地100平方㌔当たりの医師数ではさらに偏在が明らかとなる。
 2012年の可住地面積当たり医師数は、全国平均で238人だが、岩手県は67人、福島県83人、宮城県は162人となっている。
 面積当たりの医師数が少ない地域では、通院に時間がかかる、専門医が一人もいない2次医療圏があるなど、その質においても医師不足は深刻だ。
〈宮城県に研修医が集中〉
 医師偏在の原因として「研修医が都市に集中するため」と指摘されている。
 14年に卒後研修医になったのは08年に入学した医学部生だ。08年の入学定員と14年の研修医数から定着率を求めた。青森県65%、秋田県58%、岩手県76%と低迷している中で宮城県だけが119%と研修医が集中し、偏在がさらに拡大している。
 仙台に新設を目指す目黒泰一郎氏は、毎年30人の研修医を東北各地に派遣するシステムを提唱している。しかし、その程度の仕組みでは医師偏在に歯止めは掛かからない。
〈国立気仙医科大学を〉
 被災地の医師不足解消と復興に主眼を置くなら、被災割合のもっとも高い陸前高田市がある気仙医療圏に医学部を新設してはどうだろう。学園都市をつくることで医師確保はもちろん、被災地の高齢化を食い止め地域経済の再生も可能だ。
 前例から考えれば、「国立気仙医科大学」は実現不可能かもしれないが、過疎地の病院経営モデルを作り出すことは国に課せられた責務であり、そのための規制撤廃ができるのも国だけだ。是非挑戦してもらいたい。

宮城県における医学部新設について

岩手県保険医協会 会長 箱石勝見

 村井宮城県知事は「34年間、医学部の新設が認められていない固い壁を破る」として、医学部の新設について実現に強い意欲を示しており、宮城県の複数の大学と福島県の財団法人が新設構想を発表しているが、医学部の新設には多数の医師を教員等のために確保せねばならず、慢性的な医師不足の問題を抱える岩手県においても、地域医療に従事している医師が、指導医として多数招聘されることが予想され、ますます医師不足による地域医療崩壊が深刻になることが懸念される。
 他県の知事のことではあるが、誤解を恐れずに言うならば、震災対応等をみても、地域医療のことなど頭の欠片にもないように思えてならない村井宮城県知事が、東北地方の自治体病院の深刻な医師不足解消の切り札として、医学部新設構想を提唱しているとは到底思えない。むしろ、外国人富裕層を相手とする医療ツーリズムなどの特区構想の一環であるという面を強く感じる。いろいろ弊害があると思いつつも、現状の医師不足の解決を期待する仙台市民や病院関係者の気持ちはわからないでもないが、岩手県の立場でいうと、繰り返しになるが、現在直面している岩手県を含む東北の医師不足問題がさらに深刻となることはあっても、医師不足の解消には繋がらないと考える。
 政策として、医学部新設により医師不足を本気で解決したいということならば、特に医療過疎が深刻な被災地に国立、県立の大学を新設するということなら、話がわからないでもない。しかし、今回の構想のような私立大学による新設は、歯科医師過剰問題に先行されるように、将来、医師過剰という問題が発生した場合、容易に廃校させられないという点から、問題解決の障害になりかねない。医師不足の解決には、まず、制度の改正や充実を検討した後、医師数などの数字で判断すべきであり、当面の医師数の確保であるならば、現存する医学部の定数増員で充分対応できるはずである。

医学部新設

宮城県保険医協会 理事長 北村龍男

 政府は昨年12月5日「好循環実現のための経済政策」を決定した。国が復興のまちづくりのため、「東北地方における復興のための医学部新設の特例措置〈予選措置以外〉」を認めた。それをうけ復興庁などは「基本方針」を発表し、「震災からの復興、今後の超高齢化と東北における医師不足、原子力事故からの再生といった要請を踏まえつつ、将来の医師需要や地域医療への影響も勘案し認可を行うことを可能とする」とした。この趣旨は賛成である。
被災地は深刻な医師不足で医師数増が求められる
 2012年の人口10万人あたり医師数は全国平均は227人で、宮城218人、岩手191人、福島173人である。被災地の復興、医師不足の解消は早期に求められる。
 国は医学部新設は、〈予算措置以外〉としたが、「基本方針」からすれば国が責任を持って設立すべきで、国立大学医学部が求められる。
申請母体について
 5月30日に3件の申請があった。引き続き考慮検討すべき課題を提起する。
①被災地、医学生の負担軽減
 今後設立に当たり、強く国に支援を求めるのが筋である。
 奨学金の基金等で、被災市町村へ拠出金を求めるのは問題がある。この点でも国、県は積極的に動いて欲しい。特に被災地からの入学を期待すれば一層この点を強調したい。
②趣旨からみた設立地域
 復興復旧、原子力事故からの再生は重要な新しい医学部の責務であり、福島第一原発事故のあった放射線医学の集積は考慮されるべきテーマである。
③設立のための準備
 地域に根ざした医学部、医師養成を行うには、地域、被災地・被災者の意見の積み上げが重要である。福島の「誘致を考えるシンポ」は重要な取り組み、このような取り組みを続けて欲しい。
 以上3点はどこが設立母体になっても考慮し、復旧復興のため地域住民の声に耳を傾ける医学部になることを望む。
医療制度の充実と共に
 公的医療保険の充実なしには、地域医療の充実はない。国会で審議されている医療・介護総合法案では、公的医療の役割は狭められる。医療機関は医療供給体制がとれず、国民は必要な受診ができず、「医師過剰」が起こる。この法案を廃案とする事が、新しい医学部が地域医療に貢献するためにも不可欠である。

東北に話題を!

秋田県保険医協会会長 三浦 利治

 昨今、医師不足を憂いているのは医師、患者だけではない。当然為政に携わる方を含めた全国民が夫々の立場で深く心を悩ませているものと考える。
 医師不足緩和の方策として今回のような医学部新設はもっとも単純で、すぐ思いつくことと思う。
 1970年、戦後初の新医学部として県民の熱望により認可され、当秋田県に秋田大学医学部が設置された。続いてこれは政府からの要望として地域医療の質の向上を目的とした一県一医科大学構想のもと1973年山形県にも待望の医学部が設置され、医師増強が図られた。
 しかし現在の医師不足は医師の絶対数不足もさることながら、医師駐在地域の偏在と診療科の偏重を考えなければならない。
 どうもこういうことの対策は、何時の世でもその筋によるその場しのぎの対応が多く、弥縫策といわれるものに帰することが多い。
 この度の政策起因は東日本大震災の復興支援策の一環という。
 ここまでたどり着くには時間もかかり会議に対する努力も多く、費用対効果を考える時、短絡的とか発想の貧弱とかご意見があろう。
 それでも今回の考えは東北の一地方人として、ありがたい発想であり方策と思う。
 地元や遠くから来られた学生さんが医師として働いていただくには10年以上の年月を要するが、医学部には教員スタッフの頭脳や技術が集まる。そしてその家族や友人達の意識が集まる。秋田県には直接恩恵がなくとも東北地方には多くの人の目が集まる。多くの方々の関心が集まるのは何もしないで衰退を待つより余程効果があるものと考える。
 特に最近我が秋田県は何事においてもワーストワンが付きまとい、人口減少に歯止めがかからないし、新しい産業誘致もままならない。
 何か一つ東北人として夢を持ち、話題が欲しいのが本音である。
 新しい医学部の卒業生が東北地方に残る確率は当然ながら非常に低い。また現在大都会仙台に医学部一校というのはいかにも寂しい。いろいろ相反する結果要素があるにも関わらず、仙台へは一番遠い位置にある秋田県からも今度の医学部新設を心から願っている。

医科大学新設について

山形県保険医協会 理事長 國井兵太郎

 東北地方に医科大学を設立しようという動きがあります。
 確かに医師不足によると考えられる、困った現象が起きていることは間違いありません。私が開業している山形県寒河江市ですが、近くの公立総合病院の河北病院では、かつては月間80件もの出産を取り扱っていましたが、医師が減ったため、現在は出産を扱っていません。合併症のある出産は車で30分以上かかる山形市の県立中央病院へ行かなければなりません。小児科に関しても同様で、同じ河北病院の小児科医師が、常勤一名に減少したために夜間の救急には対応出来ず、夜中に子どもが急病になれば、山形市まで足を運ばなければなりません。
 このような現象が単純な医師不足によるものなのか、医科大学を増設すれば解決するものなのか。私はそうは思っていません。それでは何が原因なのか。一つは新しい医師研修制度による医師の偏在です。かつては大学の教室が医師の配置に気を配っていました。しかし現在ではそのような配慮は全く行われないので、単に待遇や症例数の面で有利な都市の大病院に医師が集中しているのです。医師のような公共性が高い職業にはある程度地域による偏在を規制する制度も必要かと思います。
 各診療科の特殊な事情もあります。産婦人科や小児科は仕事がきついせいか志望する医師が少ない傾向があります。産婦人科では、拠点病院に多くの医師を集めて、集中的に出産を扱おうという考えになりつつあり、拠点病院になり損ねると医師が急に減ってしまうというわけです。
 小児科の場合は、山形地区に新生児集中治療室(NICU)という多くの医師を必要とする施設が三カ所出来ました。このため多くの小児科医が集められ、医師の少ない地域が出来てしまったのです。
 医科大学を新設するとなると、学生を指導するスタッフが大勢必要となるので、全ての診療科でこのような現象が起こることは目に見えています。現在医学部の定員はかなり増員されており、全体数はそれで十分と思います。

地域偏在の是正こそが緊急課題

福島県保険医協会 理事長 酒井学

 福島県においては、東日本大震災・東電福島原発事故もあり、勤務医は県中、および相双地区で大きく減少し回復していない等、「医療崩壊」が危ぶまれるような状況となっている。
 ご存じのように1980年代「医療費亡国論」が振り撒かれ、医療費を減らすには医師数を増やしてはいけないとして、1984年以降、医学部の定員を最大時に比べて7%削減を23年間も継続した。
 ところが2004年に導入された新臨床研修医制度をきっかけに、医師の地域・診療科偏在による医師不足が各地で深刻化(顕在化)し、それまでの抑制政策が見直され、2007年度には7625名にまで減っていた全国の医学部入学定員数が2008年度から徐々に引き上げられ、2013年度には9041名となり、約1400名(約14校分・2割増し)が増加した。福島県立医科大学も80名から2013年度は130名と6割増しの定員となっている。しかし、医師になるためには教育、研修、経験・研鑽を積み、独り立ちするには15年ほどかかる。定員増した効果が表れるのは2020年代に入ってから2030年頃にかけてである。
 こうした定員増の一方で深刻なのは東北地方における研修医不足・医師不足ではないのか。福島県における2013年度臨床研修医の採用は77名とほぼ震災前の水準に回復したが、募集152名の約50%、都道府県別順位43位にとどまっている。確かに医学部が設置されればその県・地域は一定の改善が図られるかもしれないが、東北全体としてはどうだろうか。改善に向けて見直しの始まった研修医制度、不足が深刻化する小児科医・産科医・麻酔科医の育成と地域偏在の是正こそが緊急課題ではないだろうか。
 この定員増も、多くは2019年度までの時限付となっている。2025年・団塊の世代のピークとその後を見据えての措置とみられるが、人口減も喧伝される中、冷静な需給判断が求められている。

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