女川原子力発電所 過酷事故時における避難計画についての調査結果報告書


女川原子力発電所
過酷事故時における避難計画についての調査結果報告書

宮城県保険医協会

主旨
 東日本大震災による福島第一原発の過酷事故が未だ収束せず、先行きが見えない状況下において、政府は原子力規制委員会の新規制基準を満たした原発の再稼働を認めるという方向で準備を進め、先日、鹿児島県川内原発が再稼働を行った。
 私達の宮城県においても東日本大震災による被災原発である女川原子力発電所2号機の安全審査が開始され、東北電力は再稼働に向けての準備を始めている。
 政府はこれら原発の再稼働にあたり、原発から30km圏内の自治体に事故の避難計画をつくることを義務づけており、女川原発の場合、立地する女川町、石巻市のほか南三陸町、登米市、涌谷町、美里町、東松島市の一部が30km圏内に入ることとなる。
県が示したガイドラインでは今年度内に避難計画を策定するよう各自治体に要請しており、30km圏内の住民約21万人の避難計画策定は困難を極めているのが現実である。
 このような中、原発過酷事故の際に災害時要援護者である入院患者や介護・福祉施設利用者の避難計画はさらに困難となることは明白である。
 そこで、当協会では、各施設の避難計画に関する実態を調査し、その結果を検証しながら問題点を明らかにし、解決にむけた運動を展開していくことを考えアンケートを実施した。

調査期間:7月1日〜7月18日

調査方法:対象医療機関、施設にアンケート用紙を送付し、回答は返信封筒を使用しての郵送か、FAXまたはメールで受け付けた。

調査対象:女川原発周辺自治体(30km圏内)の医療・介護福祉施設113件

内訳①:病院20件、有床診療所15件、在宅療養支援診療所(無床診)19件、介護福祉施設等59件

内訳②:女川町2件、石巻市44件、南三陸町7件、登米市32件、美里町10件、涌谷町7件、東松島市11件

回答率:全体66件(58.4%)

内訳①:病院12件(60.0%)、有床診療所8件(53.3%)、在宅療養支援診療所(無床診)9件(47.4%)、介護福祉施設等39件(66.1%)
(※有床診と介護施設等の複数回答1件、在宅療養支援診療所と介護福祉施設等の複数回答1件を含む)

内訳②:女川町2件(100%)、石巻市24件(54.5%)、南三陸町3件(42.9%)、登米市19件(59.4%)、美里町6件(60.0%)、涌谷町7件(100%)、東松島市5件(45.5%)

  • 調査対象は女川原発30km圏内自治体の医療・介護福祉施設113件

    回答数は66件で、58.4%と高い回答率を得ることができた。

避難計画調査結果1:

  • 原発からの距離では原発から30km圏内の施設が40件、60.6%を占めた。

避難計画調査結果2:避難計画調査結果3:

  • 女川原発過酷事故に際し、避難計画を既に作成されている施設は1件のみであり、しかも30km圏内の施設においては、0件であった。アンケート実施時点で未だ作成されていない施設が98.5とその困難性と施設の困惑が見て取れる結果となった。
    また、未作成の施設のうち作成予定は13件にとどまり、52件は作成の予定すら立てられないでいる現状が明らかとなった。

2−1.(2ではい)と答えられた方へ:作成の要請はありましたか?

   はい1件

2−2.(2ではい)と答えられた方へ:どこからの要請ですか?(複数回答可)

   市町1件

2−3.(2でいいえ)と答えられた方へ:作成されてない理由は何ですか?

  作成方法が分らない27件(51.9%)、作成することは現実問題無理で

  ある17件(32.7%)、その他10件(19.2%)無回答8件(15.4%)

避難計画調査結果4:

    ※複数回答あり
    ※2で作成予定の回答1件を含む
    ※その他と回答された方の内容
       ・個々の施設の問題で対応するケースではないのではないかと考える
       ・自衛隊施設であり、指揮系統で行動するため
       ・行政と共に作成
       ・圏外であるとの認識から
       ・圏外
       ・作成の要請なし
       ・必要性がないと思う
       ・特に要請がないから
       ・原発の場合遠くに逃げるしか方法がない

 
避難計画調査結果5:
避難計画調査結果6:

  • この未作成の理由としては「作成方法が分らない」が51.9と最も多く、避難計画作成の指示や説明、方法を県や自治体、東北電力が十分に行っていないことが見て取れる。
     また、「作成することは現実問題無理がある」と答えた施設が32.7と原発過酷事故に対する要援護者避難計画が机上の空論ともいうほど困難であることも結果として表れている。
     このことは、福島第一原発事故の教訓から学ぶという事を前提にして考えても、その被害規模の甚大さや、リスクの大きさを目の当たりにするとこのような結果になることも容易に想像できるものである。

3.避難計画作成に関する説明を受けたことがありますか?

 はい3件(4.5%)、いいえ63件(95.5%)

避難計画調査結果7:
避難計画調査結果8:

  • 避難計画の説明を受けたことがあるかの問いに対し、95.5%がないと答えていることは、県がそのガイドラインを今年度中に作成するように自治体に要請しているという事実からかけ離れた結果という事ができる。このことからも今後作成するガイドラインは、非常に大まかなであり、実効性のある避難計画には程遠いものである可能性が高い。
     早急に避難計画作成の詳細な説明を医療・介護福祉施設に対し行うことが強く求められる。

4.避難計画作成において難しい点は何ですか?(複数回答可)
  避難先の確保59件(89.4%)、避難ルート31件(47.0%)、人員配置38件(57.6%)、避難車両の手配41件(62.1%)、その他2件(3.0%)、無回答4件(6.1%)

避難計画調査結果9:18訂正

    ※その他と回答された方の内容
     ・全て
     ・避難方法、他多数

 
避難計画調査結果10:
避難計画調査結果11:

  • 避難計画作成において難しいものはという問いに対して(複数回答可)・避難先の確保(89.4%)・避難車両の確保(62.1%)・人員配置(57.6%)・避難ルート(47.0%)と多くの困難な課題が重複しており、要援護者避難の極めて困難な実態が明らかとなっている。
     入院患者の受け入れ先病院や、要介護者の受け入れ施設を避難計画にしっかりと確保することは重要であることは言うまでもないが、実際そのようなことが可能であるのか。このアンケート結果からも大きな問題点として提起する。
     事実福島原発事故の場合、大熊町の双葉病院では、避難先の確保ができずに長距離をたらい回しにされ、高校の体育館に運ばれた。搬送中や搬送後に21人の患者さんが命を失っている。

5.避難先の確保は既にできていますか?

  できている1件(1.5%)、現在調整中3件(4.5%、)全くできていない58件(87.9%、)無回答4件(6.1%)

避難計画調査結果12: 避難計画調査結果13: 避難計画調査結果14:

  • 避難先の確保はできていますかの問いに対して、できていると答えた施設は1件であった。この1件は在宅療養支援診療所である。
     病院や有床診療所、介護福祉施設においては全くできていないという回答がほとんどであり、87.9%に及んだ。
     施設規模が大きくなれば、それだけ避難先の確保が厳しくなることは当然であり、またその患者・要介護者の病状や重症度によって、その避難先が複数となることも考えられる。
     避難対象施設と同様の医療的管理や介護が避難先で可能かという判断もあり、困難さを一層増す状況にあると思われる。
     避難先の確保ができたとしても、そこへの避難ルート、避難方法、人員配置が確立していなければいけないのは言うまでもない。
     すなわち、前項の質問内容にあるすべてが機能してはじめて避難先へたどり着けるという事であり、より詳細な避難計画作成が求められる。
     避難ルートの確保には、緊急時にも対応できる交通網・道路の整備が不可欠となる。
     現在の女川原発周囲の道路環境では避難ルートはほとんど機能しないものと考えてもいい。
     このような意味でも、都市防災学的観点からの避難計画、更には町全体の都市計画作成まで必要となると思われる。
     また、福島原発事故の教訓から、事故発生時の放射性物質拡散状況に応じた避難ルート選定が必要となり、風向きによって全く異なる避難ルートを複数用意することも考えなければいけない。
     要援護者施設の避難という大規模かつ看護・介護を有しながらの非常に難度の高い避難は一段と大きな壁に直面することになる。

6.避難先の確保はどのように決定すべきだと考えますか?
 自院・自施設で調整・決定6件(9.1%)、市町が調整・決定20件(30.3%)、県が調整・決定38件(57.6%)、その他2件(3.0%)無回答3件(4.5%)、

避難計画調査結果15:

※複数回答あり
※その他と回答された方の内容
     ・わからない
     ・国が調整・決定

避難計画調査結果16:

  • 避難先の確保についてどのように決定すべきと考えますかの問いに対しては、県が調整・決定(57.6%)、市・町(30.3%)、自院・自施設(9.1%)という結果であった。
     広範囲にわたる被害をもたらす原発事故においては、自治体内での避難という事は考えづらい。当然のことながら、他自治体への避難を考慮しなければならないことから、県が主導し自治体間の調整決定をすべきである。
     場合によっては他県への避難も考えられることから、県が計画の作成に積極的に関わり、他県との連携を図る必要性がある。
     しかし、現在は県はあくまで自治体に避難計画を作成するように要請しており、その姿勢に問題があることは明白である。

7.女川原発の再稼働について
 再稼働に反対30件(45.5%)、再稼働に賛成3件(4.5%)、どちらともいえない32件(48.5%)、無回答1件(1.5%)

避難計画調査結果17:
避難計画調査結果18:

  • 最後に女川原発再稼働についての問いでは、再稼働に賛成はわずかに4.5である。反対は45.5%、どちらともいえないが48.5という結果になった。
     自由記載欄の内容から、どちらともいえないの回答には、原発は否定したいが、「地元経済のことを考えると…」いう主旨のものが見受けられる。
     本当は反対だが地元経済が・・・という考えは原発立地自治体に共通した多くの意見であることは否めない。
     地元住民の苦渋の判断を解決するには、「原発に頼らない自治体経済の再構築」以外に道はない。
     このことは、原発立地自治体だけの問題としてではなく、国民全体の英知で解決すべき問題と考える。
     原発立地自治体の苦しみを共有し、孤立させるのではなく、地元経済の再生を生み出すための全国レベルでの取り組みが必要ではないだろうか。

8.女川原発の再稼働や避難計画、原発問題全般についてなど、お考えやご意見をご自由にお書きください。

意見数20件(30.3%)
・原発に関して人間が最大リスクとはコントロール不能な物には絶対に手を出すべきではない。『神領域』

・これ以上、核のゴミを増やしては、処理も確立されていないので、再稼働などは考えないでほしい。

・福島の現状をみる限り、女川でトラブルがあった時は誰も何も解決策をもたないと確信している

・絶対安全であるという保障はなく、万が一の場合は、どの範囲は安全か目に見えない状況の中で混乱は避けられないと思われる。避難先の確保はもちろんであるが、まずは正確な情報をいち早く発信する事が必要である。また、過酷事故に備える計画に関するアンケートとあるが過酷事故になるおそれがあるならば、再稼働もやはりやめるべきと思う。

・原発は管理できない。将来のためにも廃棄が一番である。

・大規模災害による原発事故の避難の場合、一時的な避難では、すまない場合が出てくる。地元(登米市)密着の福祉サービスを展開する社会福祉法人としては、避難先の確保や、そこまでの移動など重度の障害や病気を抱えた利用者の避難は事実上ムリである。又、経営のための資本を失ってしまう法人の事業継続も難しい。

・女川原発を再稼働するのであれば、福島原発のようなことがありえるので、自衛隊の協力要請が必要だと思いますので、事前に念書をとりかわすなど、協力していただける体制をお願いしたい。

・原発再稼働は絶対反対です!

・原発のゴミの処分が不可能な以上、原発再稼働はすべきではない!!

・福祉施設で入居者60人、職員50人をかかえています。この人数を無事に避難させることは課題です。又、半島の末端で、市内に出るのに1時間以上かかります。

・福島の原発事故で原発の安全神話は全く根拠のないものであることが判った。今もなお、多くの方が苦しんでいる現実、今だ汚染水問題、核廃棄物の処理etc、解決されていない現状での再稼働は絶対反対である。事故が起きれば、弱者が一番の被害者になる。現在でも地震が起きるたび、不安で一杯である。

・福島原発事故の悲惨さを目の当たりにして、原発に依存しない国作りが必要と思われる。震災後ここまでこれたのだから、やれないはずはない。

・福島の原発事故が手本となる。原発は甚大な出来事、何を学んだのか!今まで原発のない中で生活できてきた(震災後)原発のない社会は作れる。自然と共に生きるのが、人間の役割と考えている。

・南三陸町の一部は30km圏内に入っているが、当施設は30km圏外である。従って自治体からの避難計画作成に関する説明及び要請もないので現時点で作成しておらず、作成の予定もない。

・人間の生命を大切にするのか、現実の生活や活動が大事なのか理解できかねます。原発を稼働させなくても、各々が何とか対応しようと太陽光で頑張ってますよね。皆、自分達の問題として対応しております。この各々の対応では間に合わないのでしょうか?私は原発再稼働に絶対反対です。

・座して死を待つのです

・地震や津波の不安が続いている、また、福島の現状を考えると再稼働は反対。高齢者が多く入居している。普段でも介護職員不足な状況で過酷事故が発生し、避難する場合、人員確保は厳しい。

・避難先を個別に調整するのは非効率なので、県で調整するべき。受入先の体制整備やガイドラインも必要。放射能測定器や受入れや転送の判断基準。

・再稼働については本質的には反対です。だけど、沢山の課題等があるので、どちらともいえないと答えました。現福島の現状を見すえると絶対に止めるべきだと思う。あらたなる行動には、かなりの能力、体力、がまんが必要であると思うが、30km圏内としては避難のすべもないのと同じと考えております。国で発表していない事も多々ある事だろうし・・・。大変な課題ですね。

・(再稼働反対理由)1福島原発の事故発生から今日までの経過を見ても悲惨な状況。即解決せず、周辺住民の方々の様子をニュースでみてもわかるように、人的被害大。後世にも大きな悪影響を及ぼす。原子力について日本の国を考え、その永久的な責任を果たす専門家がいない。企業は営利を追求し、知られたくない闇の部分は公表したがらない。女川原発の定期点検も信憑性に乏しい。いかなる場合の事故も発生から収束までのマニュアルを公表し実地訓練、抜き打ち立ち入り検査をしてほしい。人が造った物が人が管理できない化け物に進化してしまっているように感じる。 2避難については、津波は目で確認が可能だが、放射能は威力大だが見て逃げる事ができるのだろうか。実地訓練はどのようにして、何度も行うのだろうか。緊急地震速報のような、電波で避難勧告を呼びかける、防災無線等で行うのが大混乱、交通渋滞、二次災害も予測できる。どんな天災と一緒になって発生するのか被害は想像を超える。このたびの東日本大震災と同様な規模の事故、また、その避難におびえる生活は最大限避けたい。いつも、建物内で仕事をしている人ばかりでなく、また、迅速に避難できる人ばかりではない。安全の保障は非常に低い。避難したとしても、その避難所からすぐに自宅に帰れるのか?年中24時間受入可能な場所と運営の確保はできるのか。半径、30km圏内に位置する勤務地で働く人がいなくなり、事業継続が危ぶまれる。メリットは何か考えると、原発の恩恵がある、極ヶ少数人口では。デメリットは、人への被害、自然破壊、解決が長期化し、終わりが見えない、費用も莫大。 3日本国の安保法案が可決すれば、原子力発電所は外国の攻撃対象になる可能性もあるのでは。 以上ですが、解釈に誤りがありましたら、お許しください。また全国の原発所を安全に閉鎖し、それに代わる発電についての考えは持ち合わせておりません。

おわりに
 以上述べたように、原発の過酷事故における避難計画は健常者対応のものでも作成は難しい。ましてや、入院患者や要介護者などの要援護者の避難計画は困難を極める。
 国は原発から30km圏内の自治体に対し、避難計画の策定を義務づけている。
 しかし、原子力規制委員会の再稼働審査基準にはこの避難計画に対する審査は対象となっていない。
 先日再稼働した川内原発周辺自治体の避難計画も非常に大まかな内容であり、実際に過酷事故があった場合に、その実効性には甚だ大きな疑問が残る。
 原発というハード面の審査は行うものの、万が一事故が起こった際の命や健康を守るための評価を全く行わないまま、再稼働審査を行うという事自体に大きな疑問と憤りを感じる。
 国は万が一の事故があった場合、国が前面に立って責任を持って対応するというが、この避難計画策定に関しては自治体に丸投げの状態だ。
 被害が広範囲に及ぶ原発事故に関して国民の命と財産を守るべき立場にある政府は、この避難計画の策定に責任をもって関わることが当然であり、放射能拡散情報の迅速且つ正確な提供や、自衛隊の組織的な行動計画など、より実効性のある避難計画を作成するために国の関与は欠かせない。
 ひとたび事故を起こすと甚大な被害を何十年という長い期間にわたってもたらす原発はゼロにしなくてはいけない。
 原発の再稼働などは到底容認することはできない。
 しかし、原発は稼働していなくても過酷事故を引き起こす可能性があることは言うまでもない。
 使用済み核燃料がある限り、常に大きな危険と隣り合わせである。
 原発を廃炉にし、その危険性がなくなるまで長い年月が必要とされるこの現状では、事故によるリスクをより小さくするために、より実効性のある避難計画策定は急務である。再稼働していなくてもあり得る事故は、いつ起こっても不思議ではない。
 原発再稼働のための避難計画策定ではなく、今ある原発が廃炉になるまでの期間に起こりうる事故に対する避難計画であるという事を、我々は再認識しなければならない。
 現在、社会保障費削減のため、病院のベット数の削減が進み、療養型病床の廃止までも今後行っていく動きがある。
 介護保険も改悪が続き、介護施設は人員の確保や施設自体の存続にも苦労しているのが現実だ。
 このような状態の中で、入院患者や要介護者の避難受け入れ先の確保は一段と困難を極めることは明らかである。
 在宅療養患者にとっても同じことが言える。
 とりわけ重度の要介護者の場合、自宅から避難した場合の受け入れ先は、当然病院や施設でなければならない。
 医療・福祉介護にかかわる社会保障削減は、このような事故発生時や大規模災害時に、必要且つ十分な救いの手を差し伸べることすら困難にしてしまう側面もあるということを、最後に付け加えさせていただく。

以上

文責 公害環境対策部 杉目博厚

(関連資料)女川原子力発電所過酷事故時における原発30Km圏内自治体にある医療機関・介護施設等における避難計画に関する意見書

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