投稿「被災者の医療費一部負担金免除の継続、再開を 本来、医療費一部負担金は『ゼロ』 国も仙台市も国保財政の見直しを」


被災者の医療費一部負担金免除の継続、再開を
本来、医療費一部負担金は「ゼロ」
国も仙台市も国保財政の見直しを

宮城県保険医協会理事、北村神経内科クリニック 北村龍男

はじめに
 東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター(以下、県民センター)、宮城県保険医協会などは被災者医療費一部負担金免除(以下、免除)継続、再開を目指して活動を強めている。県民センターの災害公営住宅などでのアンケートでは、多くの住民が免除を希望し、継続している9市町での継続、免除を取りやめた仙台市などでの再開を求めている。新年度からの全県の国保・後期高齢者医療制度での免除継続、再開を求める。
 免除の継続、再開のために、被災者の多くが要望していることと共に、なぜ村井知事、奥山市長は反対できるのか、一部負担金は当たり前、本来は「ゼロ」であることが共通認識になっていないこと、国保、特に仙台市国保に財源はあることを検討する。

被災者に免除継続、再開は必要
医療費一部負担金は受診の妨げになっている

 大震災後、被災者の健康の維持に大きな役割を果たした免除は、現在県内9市町の国保のみで実施されている。後期高齢者医療制度では全県で実施されていない。
 県民センターなどがに行った災害公営住宅、仮設住宅、みなし仮設住宅入居者に行った葉書アンケート調査(平成28年5月から11月実施、21自治体680名から回答)、宮城民医連の災害公営住宅訪問調査(平成28年9月実施、7自治体29カ所、563名回答)では、「公営住宅に入居できたが、年金では家賃と生活費で医療に回らない」「医療費が払えないので受診を止めるしかない」「病気が心配で眠れない」「持病があるので受診回数を減らせない」などと訴え、免除継続を求める回答が74%の被災者から寄せられている。特に、高齢者ほど生活や健康不安は深刻である。これまで宮城保険医協会などが行ったアンケート調査でも、免除継続がなければ、受診断念、受診回数を減らすなどの実態が数多くよせられている。
 この間の免除で学ぶべき教訓は、免除は被災者の健康維持に大きな役割を果たしただけでなく、医療費一部負担金は必要な医療を受ける妨げになっていることである。新年度を迎えるに当たって、全県の国保・後期高齢者医療制度での免除継続、再開を求めたい。

村井知事、奥山市長はなぜ免除を拒否するか
 しかし、村井知事も奥山市長も免除再開に反対している。何故こんな主張が出来るのか。少なくない県民の間で、免除の継続に異議がある為である。これには大きく二つの理由がある。
 第1は、財源には限りがあるとの宣伝が行き届き、本来「ゼロ」であるべき医療費一部負担金が余りにも高額になり、更に医療・介護の負担金を増やそうとしていることにより、多くの県民・市民がこれ以上の負担は無理、わがままと捉えているためである。
 第2は、国は平成24年2月までは特例措置として支援を行ってきたが、平成24年3月以降は加入している健康保険によって対応が異なった。組合健康保険の大部分はこのとき打ち切りとなった。国保、後期高齢者医療制度、協会けんぽは免除を続けたが、平成25年10月以降、特別措置による支援を止め、既存の災害支援によるとした。その結果、被災自治体に免除のうち2割の負担を求めた。平成25年3月までは国保、後期高齢者医療制度は免除継続した。このような被災程度、社保・国保・後期高齢者など保険の違いなど被災者支援にばらつきが生じ、同じ家の中でも、仮設住宅の隣同士でも、免除者・非免除者がいることになり、被災者間に分断をもたらした。
 平成26年4月からは免除が再開されたが、要件が狭められ、対象が「非課税世帯、大規模半壊以上」で限定的になった。大震災直後の対象は「生計維持者収入なし、全半壊以上」で、後期高齢者も社保も免除されていた。免除対象者は6分の1程度に減少した。
 当院で平成27年5月中旬から約1ヶ月間行った患者アンケートでは、平成26年4月以降も免除を受けている群では79.4%が免除は必要と考えているが、当初は免除・平成26年4月以降非免除の群では免除が必要と考えているのは54.7%であり、当初より免除非該当群では免除継続の必要と考えていたのは28.0%であった。このように被災地近くでも少なくない市民が免除継続の必要性を受けとめていない。被災者の実態が知らされず、「甘えている」などの意見もある。免除非対象となった被災者の中には、津波に襲われた土地を買い上げられ、その代金が収入と認定され、免除が打ち切られたケースもある。生活再建を妨害し、健康維持を困難にする措置である。

医療費一部負担金は本来「ゼロ」
 OECD加盟国では、加盟国の3分の1が、入院や一般開業医の医療に対する患者の一部負担金はない。一部負担金がある場合でも、多くは「定額」や「年額上限つき」で、「定率」は少なく、高齢者、児童、妊産婦、障がい者、低所得者には免除している国が多い。「定額負担」とされているルクセンブルクでは、一般開業医0.5割、入院は1日10ユーロから15ユーロである。これらの国では、元々医療費一部負担金は大きな問題ではないと思われる。日本では医療費一部負担金が高額であるため、被災者の医療費一部負担金免除が大きな役割を果たしている。この間の状態を考えると、本来医療費一部負担金は「ゼロ」であるべきで、少なくとも1割未満の負担にすべきである。
 また、多くの被災者が免除で助かったと述べるだけでなく、免除を受けた被災者が、それまで受けられなかった歯科治療などを受ける方が増えたことを考えると、この間の経験を踏まえ、国民に必要な医療をきちんと提供する為には、医療費一部負担金は「ゼロ」とすべきである。「ゼロ」の運動の拡がりがないと、県民の支持、支援をひろげ、知事、市長に翻意させるのは難しいのではないか。
 尚、宮城県保険医協会は平成25年6月1日の第43回総会で、医療費一部負担金「ゼロ」をめざすことを決定した。「ゼロ」の意義は、①国民、特に被災者の強い願いである、②必要な医療を全ての国民が利用するには「ゼロ」が必要である、③「ゼロ」は安心が得られ国民の健康状態を改善する、④「ゼロ」には多くの国民の支持があり、「医療改悪」反対運動の大きな力にばなると考えている。

国保、特に仙台市の場合
 国保に対する国の支援には、①国保44条による支援、②調整交付金がある。調整交付金には、普通調整交付金、特別調整交付金、都道府県調整交付金がある。このうち特別調整交付金は「特別な事情、例えば災害等による保険料の減免額等が高額である場合」などに交付される。

国保44条による免除
 この措置を利用し、岩手県は医療費一部負担金のうち県が1割負担、市町村の1割負担で現在も免除を継続している。宮城県は平成28年4月以降の負担を県が拒否したため、9市町村での継続に留まり、仙台市国保などと後期高齢者医療制度で免除が中断している。
 仙台市の場合、平成27年度の免除額のうち仙台市の負担は2.0億円であった。震災後の仙台市の国保の剰余金(この点は次項で述べる)を考えると十分免除可能であったと考える。

財源はある 震災の為の支援は被災者医療に
 国保への国の支援、平成28年度の特別調整交付金については、12月19日付けで厚労省の通知が出され、平成28年度も被災3県のみ医療給付費の負担増加割合が3%以上の場合、財政支援を続けることになった。仙台市の場合、震災に関連した国の国保への支援は平成27年度は32.5億円、平成28年度は26.0億円である。
 ところで、奥山市長は国の支援を求めている。国は国保44条による災害時の財政支援を行ってきたし、特別調整交付金も交付している。その結果、仙台市の国保会計は大震災後の5年間で剰余金累計が129億円になっている。市も剰余金が生じたのは震災後国から交付されている特別調整交付金が増えたことによると説明している。市は平成27年度剰余金27億円は一般会計繰り入れ金(法定分)の一部に充てた(「流用した」というべきか)と説明している。大震災による国保への支援増は、免除継続、被災者に対する国保料の減額など被災者医療に優先的に使うべきである。免除継続は可能である。
 追)この間の仙台市国保の財政黒字化については、被災者医療費一部負担金免除との関わりに留まらず、全面的な検討が必要と思われる。

国保料賦課限度額を上げ、大企業・高額所得者は応分の負担を
 医療・介護には新たな負担計画が目白押しである。財源には限度があると言うのが、免除中断の主な理由である。格差は拡大し超高額所得者が増えている。高額所得者・大企業に応分の負担をして貰う。そこから生まれた財源で高額所得者以外の医療・介護保険料を下げ、医療費一部負担金の「ゼロ」をめざすことが必要である。仙台市の国保料を例に考えてみる。
 国保料は医療分(基礎賦課額)、支援分(後期高齢者支援金等賦課額)、介護分(介護納付金賦課額、40才以上65才未満の加入者のみ)から成っている。それぞれ所得割、均等割、平等割がある。所得の多い人が国保料は多くなることになっている。しかし、それぞれ賦課限度額があり、医療分では54万円、支援分では19万円、介護分では16万円で合計すると総限度額は89万円である。仮に50才で被保険者が本人のみの場合は基準総所得金額が医療分では575万円、支援分では775万円、介護分では650万円を超えると賦課限度額に達してしまう。所得が575万円を超えると医療分は増加しなくなり、650万円を超えると介護分は増加しなくなる。775万円を超えると支援分も増えなくなり総限度額は89万円である。それ以上の所得者は、例えば基礎賦課額がいくら所得が増えても89万円の賦課に留まる。賦課限度額を引き上げることによって、高額所得者に応分の負担をして貰えば保険料収入は増え、低所得者への負担は減らせる。
 また、大企業に対する法人税、高額所得者に対する所得税などを公正にすることにより、税収は増え、当然社会保障に回せる予算も増額できる筈で、医療費一部負担金「ゼロ」は可能である。

国保財政への国庫負担割合を医療費総額の45%に戻すことを求める
 国保については、よく知られていることであるが、もう一つ指摘しておかねば成らない。国保は本来自営業者、農林水産業者など雇用者以外の人が加入する制度であったが、今や無職者が50%を超え、被用者保険に入れない雇用者が25%で、自営業者は15%、農林水産業者は4%と言われている(2006年)。このような加入者構成では国保財政が赤字になるのは当然である。国庫負担割合の減額により、国保の滞納者が増えるのは当然である。国保は社会保険であり国が責任を持って援助し、国保料が払えない、医療が受けられない事態を生じさせてはならない制度である。早急に、国庫負担割合を45%に戻すべきである。
 国保の赤字には、その気になれば解決の方策がある。医療費一部負担金「ゼロ」は可能である。当然、免除継続は可能である。
〈参考〉2010年3月に小池晃参議院議員が予算委員会で行った質問の折に示した「図1,国保会計の国庫負担率と保険料」「図2,国保料収納率と資格証明書発行数」を以下に示す。
免除再開・継続と「ゼロ」図1 免除再開・継続と「ゼロ」図2

まとめ 医療費一部負担金免除継続、再開を実現するために
 大震災の被災者医療費一部負担金免除を経験し学んだことは以下の通りである。①免除は必要な医療の受診を可能とし、被災者の健康の維持に寄与する。②一方、生活再建ができていない中での一部負担金は必要な受診の妨げになる。③一部負担金をあれやこれや理由をつけて、免除・非免除など格差をつけると、市民の間に分断をもたらす。本来医療費一部負担金「ゼロ」であり、国民の共通認識となるよう運動をすることが必要である。
 被災者の要望に添い新年度からの全県での国保・後期高齢者に対する免除継続、再開を求める。更に、大企業・高額所得者の応分な負担により、医療費一部負担金「ゼロ」など社会保障に充実を求める。継続、再開の実現のためには、この二つの運動を表裏一体として勧め、県民の支持を広めことが必要である。

参考資料
①保団連:グラフで見るこれからの医療(月刊保団連、臨時増刊号、No884、2006)
②早川幸子:ダイヤモンド・オンライン(2013年3月14日)
③東日本大震災復旧・復興支援県民センター:東日本大震災による被災者医療等一部負担金免除の継続・復活を求める要望書(2017年1月18日)
④仙台市ホームページ、国民健康保険、保険料はいくら(平成28年度)
⑤日本共産党仙台市議団:緊急!国保市政報告会~高すぎる国保料引き下げよ~(2016年10月20日)
⑥宮崎市議会:国民健康保険財政への国庫負担割合を医療費総額の45%に戻すことを求める意見書(平成22年3月19日)
⑦小池晃:参院予算委員会での質問(しんぶん赤旗2010年3月10日)
⑧北村龍男:大震災4年後の被災地診療所に見られる外来患者への大震災の影響・状況(日本臨床内科医会会誌30:680-682、2016)
⑨北村龍男:窓口負担金「ゼロ」をめざす(みやぎの社会保障33号、2013年6月21日)

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