講演要旨「宮城県保険医協会 第47回『“2035年”医療の行方を占う〜急ピッチで進む医療制度改革、その鳥瞰図〜』」


講演要旨
宮城県保険医協会 第47回定期総会記念講演

「“2035年”医療の行方を占う〜急ピッチで進む医療制度改革、その鳥瞰図〜」

m3.com 編集長 橋本佳子氏

1.昨今の制度改革の代表的な動き
170528第47回定期総会記念講演講師 昨今、実にさまざまな制度改革の動きがある中で、幾つか代表的な動きを取り上げ、概説します。
⑴ 2015年 「保健医療2035」と「骨太の方針2015」
 厚労省において、「保健医療2035」という報告書が2015年にまとめられました。ここで提言された内容が今進められているさまざまな検討の土台になっています。報告書で最も言いたかったことは、2035年に向けて以下のパラダイムシフトが起きるということです。

① 「量の拡大」から「質の改善」
 医療提供体制の不足に対して進めてきた医療機関や医師の量的拡大を、データやエビデンスにより質の改善を図る動きが加速する。
②「インプット中心」から「患者の価値中心」
 多種多様な患者にどのような医療を提供するか。患者中心の医療に拍車がかかる。
③「行政による規制」から「当事者による規律」
 大きな政府から小さな政府へ。医療者および患者、国民が個々の規律によってさまざまな制度を動かしていくよう転換する。
④「キュア中心」から「ケア中心」
 高齢者が増えれば、治療しても患者が社会復帰できるとは限らず、その後のケアおよび社会復帰に向けた取り組みが重要になる。
⑤「発散」から「統合」
 医療提供体制の整備から、病院間や病院と診療所間の連携、医療と介護の連携、福祉との連携と量的な整備、統合が進む。

 「骨太の方針2015」は、2016年から2018年までの3年間を集中改革期間として位置づけ、高齢社会に向けて社会保障費の伸びを3年間で1.5兆円程度に抑えるということを閣議決定しました。これを基に2016年度の診療報酬改定が実施され、2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定もこの枠組みの中で行われます。

⑵ 2016年度 診療報酬改定、新専門医制度とオプジーボ問題
 2025年に向けた地域包括ケアシステムと効率的・効果的な質の高い医療提供体制の構築を図るという位置付けで、2016年度の診療報酬改定は実施されました。
 勤務医の関心が非常に高い新専門医制度は、2017年4月から開始する予定でしたが、「新たな仕組みの導入によって地域医療への影響が大きいのではないか」「大学や大病院に医師が集中するのではないか」など、制度への懸念が呈せられ開始を延期し、さまざまな場で議論され、関係者の合意に近づきつつあります。
 2016年の後半から2018年度の診療報酬改定に向け、政府と医療界、特に製薬業界の関心が高いのが、薬価制度の抜本改革です。発端は「オプジーボ」。もともとこの薬は希少疾患である悪性黒色腫に開発された薬です。その後、非小細胞肺癌に適応拡大され、1兆7500万円(年間3500万円×約5万人)が薬剤費としてかかるという推計もあり、国家財政に対する影響が大きいということで、薬価制度の抜本改革に向けた議論が一気に高まりました。
 オプジーボ問題を端に薬価制度の抜本改革が、2016年12月の4大臣合意と経済・財政諮問会議で決まりました。オプジーボのように薬価収載された当初から効能・効果が拡大された場合、年4回の薬価収載に合わせた薬価引き下げ、薬価の毎年調査などが盛り込まれています。
 薬価の在り方以上に、医師の立場として注目すべきなのが、「最適使用推進ガイドライン」が、オプジーボのように高額薬剤・機器で策定されるようになったこと。策定も、その遵守も、またガイドラインで対応しきれない症例についても対応するのは医師。プロフェッショナルオートノミーが求められる時代になっていると言えます。

⑶ 2017年 医療費の地域格差と医師の働き方改革
 2017年4月6日に厚労省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が報告書をまとめました。「保健医療2035」と繋がるもので、パラダイムシフトが必要という精神が貫かれていて、おおまかに3つの柱にまとめることができます。
 第一は「能力と意欲を最大限発揮できるキャリアと働き方のサポート」。第二が「地域主導で医療・介護人材を生み育み住民の生活を支える」。第三が「高い生産性と付加価値を生み出す」。異論が出ている一つが、医師の仕事の一部を看護師等へ移譲するタスク・シフティング。本当に医師がやらなければならない仕事は何か、どこまであるか、それを見極めた上で各職種と役割分担し、連携していくべきではないかという考えが根底にあります。
 「骨太の方針2017」が近くまとまると思いますが、医療費の地域格差というキーワードが打ち出されているのが特徴の一つです。厚労省の研究班と内閣府の検討会で進められていますが、ナショナルデータベースやレセプトデータにより、さまざまな医療行為の地域差が分析できるようになっています。。疾病構造の違いか、診療の習慣の違いか、その理由は分かりませんが、医療費に地域格差があることは事実です。「骨太の方針2017」から2018年度診療報酬改定にかけて、これを縮小する圧力が強まると思います。
 診療報酬と介護報酬の議論が具体化する中で、医療者自らが考えなければならない問題に、医師の働き方改革の動きがあります。医師は適用外になりましたが、2年後から新たに法律が施行され、一般職・一般企業は時間外労働の上限規制が導入されます。医師は現時点で長時間労働であり、医師法に基づく応招義務等の特殊性を踏まえた対応が必要であることから、施行5年間の猶予が設けられました。応招義務の在り方も含め医師の仕事、医師の働き方、医療の在り方が今後の検討でどうなるか、注目されるところです。

2.20年前と20年後
 将来を見通すためには、需要(人口構成、疾病構造変化)、供給(医師数、医師の役割の変化)、価値観(患者の考え、医師の働き方)――という3つの視点から考えていくことが必要です。
 1990年と2000年の人口構造、2035年の予想を比較すると大きく変化しているのが分かります。1990年はまだ40代以下の人口が相対的に多いと言えます。しかし2000年は、圧倒的に65歳以上の人口が多数を占めています。2035年は65歳以上が人口の3人に1人になると推計されています。人口構成が変われば、おのずから疾病構造も変わります。
では、供給である医師数は今後どう変化していくか。20年前は医師過剰時代が到来すると医学部の定員を一時期減らしました。しかし、医療崩壊が叫ばれ、深刻な医師不足や医師の過剰労働が問題になり、2008年度から医学部定員増へ舵を切りました。この10年間で医学部定員は1795人も増加し、2016年厚労省は2024年くらいには医師の需給が均衡すると推計しました。さらに先述した「保健医療2035」で打ち出されたようなパラダイムシフトや価値観の変化が加速するのが今後の20年間だと考えます。

3.制度改革を読み解き、対応するためのキーワード
 さまざまな動きに横串を刺し、5つのキーワードにまとめてみました。
(1)データ
 地域医療構想では、2025年の医療提供体制に向けて地域医療をどのように構築していくか、データの可視化を進め、議論が進められています。
診療報酬改定でも、エビデンスに基づく議論が行われるほか、一部の医薬品と医療機器に費用対効果評価が導入されます。
 診断支援や創薬に活用しようとAI(人工知能)も注目されていますが、その基になるのは、日常診療から蓄積されるデータです。電子カルテやレセプトデータを基に、人工知能を使って診断のロジックを作り、診断支援をする取り組みが進んでいます。そのほか、国民一人一人が自身の保健医療のデータ管理をする「EHR、PHR」の導入も検討されています。

(2)インセンティブ
 予防に力を入れて病気になる被保険者を減らすというミッションのもと、各保険者が特定健診や特定保健指導に取り組んでいます。それにより医療費の抑制や何らかの成果を上げた保険者に対しては高齢者支援金を減算する。保険者が健康予防、ダイエットなどに取り組む加入者に対してヘルスケアポイントを付与するという取り組みもあります。このように保険者と国民に対するインセンティブ改革が今後、高まってくるのではないかと考えます。

(3)患者(主権)
 「EHR、PHR」は、患者主権の取り組みの代表例です。
 患者自身が自分の健康問題に対して関心を持つことが重要であり、市販薬でも一定程度管理できるのではないかという考えのもと、進められているのが、スイッチOTC化やセフルメディケーション税制。ただし、これも行きすぎると病気なのに自分で治そうとして、受診する時には重症化してしまう恐れもあります。
 また、個人の選択に応じた負担や応能負担の考え方も導入されつつあります。

(4)地域(主権)
 地域包括ケアシステムが、2025年に向けて地域単位で構築が進められています。
 さらに、今まで厚労省が一極集中で全国統一の仕組みでやってきたものを、地域によって医療事情や財政事情が違うということから、都道府県のガバナンス強化も進みます。医療計画も地域医療構想も、地域単位です。ほかにも、都道府県単位、市町村単位という枠組みがさまざまなものに適用されてくると考えます。診療報酬の地域差もあります。地域差を解消するための議論だけでなく、地域によって診療点数を変えても良いのではないかという意見もあります。

(5)プロフェッショナリズム
 高額薬剤の「最適使用推進ガイドライン」、新専門医制度、医療事故調査制度、生殖補助医療、出生前診断、再生医療、AI(人工知能)、終末期医療や看取り……。プロフェッショナリズムが求められるが場面が多々あります。
 医療は医学の社会的適応とも言われます。医師自身は純粋なサイエンスですが、それを医療として目の前の患者に提供する、もしくは医療提供体制を構築するには、さまざまな利害関係が関係します。医療が対象とする患者・社会は複雑系で、人口の高齢化、制度も複雑化する中で、医療を提供していかなければならないことは、まさに複雑な連立方程式を解いていくようなものです。そのために求められるのがプロフェッショナリズムだと思います。

 さまざまな制度改革が進む中で、常に医療の意味を考える。しかし、社会への適用に当たっては、説明責任を果たさなければ、患者をはじめ社会から納得は得られず、合意形成できません。プロフェッショナルな存在として説明責任を果たすことも求められます。その上で実践、つまり臨床応用あるいは制度下につなげる――。常にこのサイクルを回していくことが、問題解決には求められるのではないかと日々の取材を通して感じています。

文責:宮城県保険医協会

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