講演録
投稿「地域経済の循環で、少子化・人口減少に歯止めを」(2025年10月14日)*北村龍男
地域経済の循環で、少子化・人口減少に歯止めを
宮城県保険医協会顧問 北村龍男
はじめに
宮城県知事選が行われている。各陣営が少子化・人口減少を争点としている。
少子化・人口減少は確実に起こっており、地域・自治体の衰退・消滅がみられる。
更に、少子化・人口減少を前提に、政策が形成されている問題がある。国の政策もそうだが、村井県政ではこれが目立つ。
①少子化・人口減少を前提にしている政策について、 ②少子化・人口減少が何故起こったか、 ③少子化・人口減少に歯止めを掛けている地域について、④地域経済の活性化について、考えてみる。少子化・人口減対策についても触れる。
注)地域経済の循環の定義:地域内の企業、農家、協同組合、NPO等が、生産・販売・支出等の活動を通じて、地域内でお金を回す仕組み。この循環を強化することで、地域内の所得の定着と拡大をめざす。
1.少子化・人口減少を前提にしている政策
第8次宮城県地域医療計画では「宮城県の人口は、平成17年国勢調査において、調査以降初めて減少に転じ、その後の国勢調査においても減少傾向となっています」と述べている。この認識の結果、国の公立・公的病院の統廃合の政策に乗ったのが、4病院問題である。真に、地域に必要な医療提供体制を考えるならば、富谷・名取に医療機関を移転するのではなく、その地域の医療提供体制を如何に充実するか検討すべきである。また、県北・県南の医療提供体制も検討しなければならない。少子化・人口減少を防ぐためには地域の医療提供体制充実は不可欠である。
医療提供体制だけではない。知事選では、水道問題における「みやぎ方式」も争点になっている。この水道問題も少子化・人口減少が口実になっている。
県営住宅の順次廃止方針も同様である。
少子化・人口減少を前提に考える政策は、ダウンサイジングにならざるをえない。ダウンサイジングの政策の下では、余裕の財源を、住民に必要のないところに使える。
2.少子化・人口減少は何故起こったか。
宮城県の合計特殊出生率は2024年には1.00で、東京に次いで全国ワースト2位である。出生率の低下の一番の原因は、派遣等の非正規雇用の拡大政策で、成年層の不安定就業化、低所得化の結果である。雇用形態と結婚の関係をCopilotに聞いてみた。30才代前半男性の未婚率は、正規雇用:41.0%、非正規雇用:77.7%である。30才代前半女性では、正規雇用:48.1%、非正規雇用:34.5%である。男性では正規雇用の方が既婚率が高く、女性は非正規雇用の方が既婚率が高い。女性が結婚後に非正規雇用になるケースが多いためであろう。
地域経済の衰退を起こしたのは、大企業の海外シフト、農林水産・中小企業製品・エネルギーー資源の積極的輸入、大型店の規制緩和などである。更に少子化・人口減少に対し地方自治体の行財政基盤を強化する目的で行われた平成の大合併もかかわっている。合併では、旧市町村も個性や文化が薄れ、活力が失われた地域が増加したと言われている。新市町村の中心部に人が集まり、周辺部では人口減少が起こった。
人口減少がおこった農山村など地方の小さな市町村・地域で、生活を維持することが困難な状況がつくられた。その結果、若者は大都市に出て行った。その対策を立てられず、大企業、大都市の要望に応え、若者を東京・大阪・愛知等に送り出した。残ったのは、中高年である。人口の維持は難しく、確実に人口減少は起こった。その結果限界集落が生まれた。
災害の続発、コロナ禍もあいまって、これらの結果起こったことは、住民の格差・貧困、孤立化、社会の不安定化の進行である。その結果、年金が下ろせない、生鮮食品が買えない、医者にかかれない、公共交通機関がない地域が増加した。更に少子化・人口減少は進んだ。
一方この間に、大企業の内部留保は増え、富裕層の資産が増えている。少子化・人口減少をすすめた政策は大企業・富裕層の目先の利益のための政策だったのだ。
3.少子化・人口減少に歯止めをかけている元気な地域
しかし、全国を見渡すと、地域が活性化し、なんとか出生率が上向き、あるいは人口が増えている地域、市町村がある。
それらの地域の特徴は、旧市町村単位などでの中小企業、農家、協同組合などの連携・協力が盛んといわれている。そしてその地域の特色を生かした特産物などを生み出していることが共通しているといわれている。この連携・協力を作り上げるのには、自治体が地域住民の方を向いているか、地域住民のものになっているかが重要といわれている。
以下、岡田知弘京都橘大学長の講演 ²)より具体例を紹介する。
★宮崎県西米良村
1994年時点での2010年の将来推計人口は748人であった。2013年4月の同村の人口は1249人となっていた。西米良型ワーキングホリデー事業や第3セクター「米良の庄」の村づくり事業の創造、高齢者を中心とした多様な事業展開を行い、若者のIターンを生んでいる。黒木村長は、西米良村の目標は「村民の幸福度の向上」で、人口問題ではないと述べている。
★新潟県上越市
昭和の合併の際の旧村単位28の地域自治区があり400人の市民が協議員として参加している。2010年から地域活動支援金制度(総額2億円)が設けられ、1区あたり500~1400万円配布している。旧市町村単位の地域に即したまちづくりを行っているといわれている。
国の政策の大きな転換を求めると共に、住民の命と暮らしを第一にする地方自治体を建設することが地域経済の循環には不可欠である。
4.地域内での金回りを考え、地域経済を活性化する。
地域経済を元気にするにはどうするか。地域内でお金が回るようにする。
・身近な商店の利用。
・地産地消。
・スーパー、ドラッグストアは地元資本の店を利用。生活協同組合の利用をすすめたい。
・通販の利用も避けたい。
私は仙台市泉区長命ヶ丘に住んでいる。長命ヶ丘にあるスーパー、ドラッグストアは、カワチ、マツモトキヨシ、ヤマザワ、ウエルシア、隣の団地にはヨークベニマル、みやぎ生協がある。どの店を選ぶか? 品揃えのちがいもあるが、本社・本店がどこにあるかが問題である。利益がどこに行くか。アメリカ、東京に行くのか? 宮城・福島や山形に残るのか。地元に残れば、それは地元の活性化に繋がる可能性が増す。
イオンの店が東北大農学部の跡地にできた。仙台の店も多く入っているらしい。しかし、高い賃料で、利益の大部分がイオンのものになるのではないか?地域の活性化に繋がると思えない。
宮城の企業の99.8%、従業者の86.1%が中小企業<2021年、経済センサス>といいうデータがあるそうだ。宮城県民の力を発揮するには、中小企業の力を引き出すことが大切だ。更に、農業協同組合、漁業協同組合、生活協同組合、NPO等。これらは県民の力をまとめ、地域内経済循環に重要な枠割りを果たせると思う。
県営住宅の建て替えは地域経済を潤す
以下、遠州壽美氏の 住みよい県営住宅をつくる県民の会第2回総会 (2025年10月4日) 講演 ³)より紹介する。
公営住宅の建替事業には、国の予算措置がある。建替事業は、地元建設業者、設備業者、畳・襖・建具屋の仕事をつくる。
建替による土地利用の効率化は、福祉・子育て支援拠点施設、多世代交流拠点施設の整備に有効でまちを元気にする。その上、100戸以上の公的団地の建替にともない併設する保育所・高齢者生活支援施設の整備費は公営住宅整備事業の補助対象だそうだ。県営住宅の建替は、地域経済の循環をすすめる。
また、用途廃止し民間に売却した土地は、決して戻ってくることはないとの指摘もある。
村井県政の富県宮城戦略はどうか。
村井知事候補の訴えに「富県戦略をぶれずに推進する」とある。「富県戦略の推進に不可欠な半導体関連企業の誘致も道半ば」と、立候補を決断する基準としたと述べている。
しかし、PSMC社の誘致は2025年9月27日に宮城県での半導体工場建設から撤退するとの表明があった。投資総額9000億円を超えるとされていた事業が頓挫した。
帝国データバンクの発表は以下のとおり。東北6県の25年度上半期の負債1000万円以上の倒産件数は286件、前年比10件増、3.6%増と発表されている。県別では宮城県が78件。物価上昇が企業の価格転嫁の状況後退、人手不足・人件費上昇、金利動向で一層倒産が増加することに注意が必要と指摘されている。大企業の誘致策で地域経済を活性化するのには無理がある。
これらの宮城県での問題を考えると、特殊合計出生率が東京に次いで全国2位の状態を克服することは困難である。県政は変えなければならない。
5.少子化対策
少子化対策も必要である。学校給食の無料化、こども医療費の県助成拡充、教職員「未配置」の解消、少人数学級の推進・教員増員、私学助成の拡充、県独自の給付型奨学金制度などいずれも重要である。しかし少子化対策と言えば補助、支援であるが、これで出生率を上げ、少子化を克服できるとは思えない。
18才までの子育ては国が子育てに責任をもつ。結婚を前提にしないことも大切であろう。少なくとも子育て環境は国が整備する。この点で親の責任は問わない。シングルマザーの困難は減り、人工妊娠中絶も減少する。出生率は上向くのでないか。
まとめ
村井県政の継続では、地域経済は元気にならず、少子化・人口減少に歯止めはかけられないことは明らかである。
少子化・人口減少の問題から考え、少子化対策だけでなく「中小企業や第一次産業が地域の主役」「県営住宅廃止方針の撤回」「水道事業の再公営化」「病床削減を促進する地域医療構想撤回」を掲げ候補者が知事になることを願っている。
主な参考資料
1)岡田知弘氏:「『人口減少』社会にどのように立ち向かうべきか」
学習の友 2025年9月 15頁
2)岡田知弘氏:講演『人口減少問題とまちづくりをかんがえる』
仙台戦災復興記念館 2025年9月13日
3)遠州壽美氏:講演『くらし、まちの再生 県営住宅』
住みよい県営住宅をつくる県民の会第2回総会 2025年10月4日
2025年10月14日 (文責:北村龍男)
