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投稿「2026年度予算案について 診療報酬改定は微増で、医療機関の経営改善は困難 国民・患者負担は増し、受診抑制は進む」(2026年1月9日)*北村龍男
2026年度予算案について
診療報酬改定は微増で、医療機関の経営改善は困難
国民・患者負担は増し、受診抑制は進む
宮城県保険医協会顧問 北村龍男

診療報酬改定(予算案)
 財務相と厚労相は2025年12月24日、診療報酬を全体で2.22%増とすることで同意した。本体部分(医師の技術料、人件費等)を3.09%引き上げ、医薬品の公定価格である薬価は0.87%引き下げる。全体で2.22%の引き上げである。診療報酬全体の引き上げは、14年度の消費税増税対応のプラス改定以来12年ぶりのことである。
 改定の内訳を見てみる。本体部分は、賃上げ対応プラス1.70%、物価対応プラス0.76%、光熱費(食費を含む)0.09%、過去の物価対応0.44%、医療の高度化など通常の改定分(政策改定)をプラス0.25%とした。一方、外来診療や調剤報酬の適正化でマイナス0.15%とし財源を捻出の一助とするとされている。
 
医療機関の経営状況、医療団体の要求はどうだったか。
 医療経済実態調査の結果によると、24年度の医療機関の医業収益は病院の68%、医科診療所(医療法人)の37%、歯科診療所(医療法人)の33%が赤字であり、病院・診療所の倒産数は最悪のペースで続き、医療人材の他産業への流出も起こっている。対策を立てないと、地域の医療崩壊が進む状況である。
 日本医師会、保団連をはじめ病院団体など医療団体は、物価高騰、人件費の上昇(医療従事者の処遇改善)のために、5~10%の大幅な診療報酬の引き上げを求めてきた。医療機関の経営危機に関して2年毎の診療報酬だけでなく、期中引き上げも要望した。補正予算では医療経営に対する一定の配慮も見られたと評価されている。しかし、今回の予算案と医療機関・医療団体の要求には、大きな乖離がある。
 
国民・患者の負担は大きい
 今回の診療報酬引き上げにあたって、国は保険料の負担増に繋がらない形で確保するとした。そのため、以下の様な医療費削減策を予算案に盛り込んでいる。
 国民、特に現役世代の保険料負担を減額すると言いながら、国民が医療機関を受診した時の負担を増やす政策であり、全くまやかしの政策である。
 また、11月に成立した改正医療法では病床削減をはじめとした医療費抑制政策を進めようとしている。
○高額療養費上限額を引き上げる
 26年8月から月々の自己負担上限額を引き上げる。すべての所得層で上限額を引き上げる。約4~7%引き上げである。平均所得層(年収約370万~770万円)では、現行80,100円が85,800円になる。
 27年8月に最大38%引き上げる。所得区分を細分化し、一部を更に引き上げる。平均所得層では33%増の月約110,400万円となる人がいる。
 ただし、長期間治療する患者に配慮し、年間上限額を新設する。所得に応じて18万円~168万円である。平均的な所得では53万円となる。また、長期療養者の負担軽減のための「多数回該当」は、現行の上限を原則据え置くとの配慮はある。
 この高額療養費上限額の引き上げは、治療断念に繋がる可能性がある。
 全国がん患者団体連合会、日本難病・疾病団体協議会は声明文で、年間上限・多数回該当の上限額の原則据え置きを評価しているが、月ごとの上限額は充分に抑制されていないと指摘し、治療断念・生活破綻が起こりかねないと危惧している。
○70才以上の外来受診費を軽減する外来特例は段階的に引き上げ
 自己負担を27年8月までに月額上限を8,000円~28,000に引き上げる。現行は8,000~18,000円が上限である。現行の年収約370万円までの月18,000円、住民税非課税の月8,000円の場合は、月4,000~10,000円増となる。
○OTC類似薬の患者負担見直し
 27年3月に開始。保険外しは行わないが、公的医療保険を適用したまま薬剤費の25%の負担料金を求める。保湿剤ヒルドイドゲル、抗アレルギー薬アレルギー薬、解熱・鎮痛剤ロキソニン錠など77成分約1,100品目が対象の方針である。 
 エンシュアなどの医療用補助食品についても、見直される可能性がある。
○長期収載薬(特許が切れた先発品)
 これまでも長期収載薬と後発品の差額に患者負担があったが、患者負担に上乗せする割合を差額の25%から50%に引き上げる。
○75歳以上の後期高齢者の金融所得に負担
 金融所得を社会保険料、窓口負担に反映させる。75才以上の後期高齢者で導入を先行する。
 
危惧されること
 今回の診療報酬改定で受診率の低下・治療断念が起こらないか? 医療費のため患者の生活崩壊が起こらないか? 特に、後期高齢者の負担増は大きく、継続的に受診することは難しいと思われる。
 診療報酬を引き上げたように見えるが、医療機関への報酬は増えるのだろうか? 受診率の低下に加え国が求めている”医療資源の適切な利用””セルフメディケーション”で、国民の医療機関離れが進むであろう。医療機関の維持は可能だろうか? 
 医療団体の中には、日本医師会のように「厳しい経営実態を理解頂いた」と評価する向きもあるが、日本病院協会相沢孝夫氏は「政府の思い切った決断だと思う。我々はこれを活用して、これからの医療をどうして行くか、方向付けしてゆくべきだ」と述べ、 国立大学病院院長会議は「若干延命できた」と胸をなで下ろし、日本医療労働組合連合会のように「医療現場の奮闘を顧みない政府の姿勢に抗議する」向きもある。保団連は「地域医療の崩壊を食い止めない改定率に抗議する」としている。
 
提案:大企業、超富裕層に負担を求める
 少なくない医療団体が、今回の診療報酬3.09%引き上げを歓迎している。しかしその内容は、医療機関はこれまでと違ってなんとか息がつける程度で、国民に負担を掛けるもので積極的に医療を享受できるものではない。今回の診療報酬改定では、医療崩壊への道を食いとどめるのは難しいのではないか。
 債務残高対GDP比はOECD加盟国中最悪の水準である。しかし、赤字国債の発行をやむを得ないとして、一般会計の総額122兆3000億円のうち国債の発行を29兆6000億円である。歳出は、社会保障費39兆1000億円、国債償還・利払い31兆3000億円、歳入は税収83兆7000億円、新たな国債は先に述べたように29兆6000億円である。将来に借金を残す極めて無責任な予算案である。この様な予算案で、将来を見通した診療報酬改定を望むことは不可能である。
 予算案は、先に述べたように中小零細企業等、国民に負担を求めている。国民に負担を掛けずに診療報酬を引き上げるためには、国庫負担増が不可欠である。このための財源は国の将来を考えれば、大企業・超富裕層に応分の負担を求めるのが当然である。大企業・超富裕層はこれ以上内部留保・資産を増やす必要は無い。法人税・所得税の上限の引き上げを求めれば、国債を大幅に減らすことが可能であろう。
 消費税は社会保障の財源とされている。この間の経過を見ると消費税は大企業の法人税・所得税の穴埋めになっている。法人税・所得税を元に戻せば、消費税の減税・廃止は十分可能である。保険診療は非課税であり、医療機関が医療機器・薬剤等を購入した際の消費税は控除されず、医療機関の負担となり経営悪化の一因となっている。消費税が矛盾を内蔵した税であることを示しており、この問題は消費税の減税・廃止で解決する。
 医師会を中心とした医療費引き上げの活動は積極的であったが、活動の範囲・対象が狭かったのではないか。今回診療報酬改定が不十分であったのは、国の社会保障削減、医療費削減政策を反映したものである。しかし、この度の一部の活動は政府自民党に対する働きかけに留まっていたように見受ける。社会保障・医療費削減政策を止めさせる必要があり、政党の枠組みを乗り越えた社会保障・医療費に関心のある政党に働きかけ、力を発揮してもらう必要があるのではないか。
 
主な参考資料
厚労省:「診療報酬改定について」2025/12/24
日本医師会松本会長:「診療報酬改定について」You tube 2025/12/24
保団連:談話「地域医療の崩壊を食い止めない改定率に抗議する」2025/12/26
2026年1月9日(文責:北村龍男)

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