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投稿「改定医療法が成立したが・・。」(2026年1月27日)*北村龍男
改定医療法が成立したが・・。
宮城県保険医協会顧問 北村龍男
2025年12月5日、参院本会議で改定医療法が可決、成立した。改正法には医療法、健康保険法など24本の関連法案があり、本来法案ごとに審議すべきものである。改正法について、厚労省の「医療法等の一部を改正する法律の成立について(報告)」、厚労省の中医協での報告資料「医療法等改正を踏まえた対応について、2025年12月24日」等について通読した。改正医療法は特に以下の点が危惧される。
改正医療法についての見解表明が少ない。少なくとも国民、特に医療関係者の間での意見交換が必要と考え見解を表明する。
改正の「趣旨」に関して
高齢化で医療のニーズが変わったこと、人口減少が改正の根拠になっている。2040年頃を見据えた政策とされているが、政府には高齢化・人口減少に対する政策・方針がないままであり、その頃には一層人口減少が進み医療提供体制は更なるダウンサイジングを目指すことになるほかないだろう!!
1.「地域医療構想の見直し等」に関して
① 地域医療構想について
【地域医療構想調整会議】
・地域医療構想調整会議(以下、調整会議)の構成員に市町村を明確化することは、地域の声を反映することだと受け止める。しかし、「概要」では在宅医療や介護との連携等を議題とする場合の参画を求めるとされている。市町村はすべての議題で参加すべきでないか。
・地域医療構想を進めるにあたって、厚労大臣、都道府県知事の権限が強すぎないか? 住民のための地域医療構築のためには調整会議の権限を強化すべきと考える。
【医療機関機能報告】
・医療機関機能報告は必要である。しかし、データに基づき計画を策定すべきで、医師総数が不足する下で登録制度・認定制度の制定、医療提供体制の縮小の根拠とするおそれが危惧される。医療機関機能報告は調整会議の検討資料として活用すべきである。
【病床削減】
・都道府県が経営安定のため緊急に病床削減することを支援することができるとし、病床削減をしたときには基準病床数を削減するとしている。経営安定のためには国庫負担を増額し病床を維持すべきでないか? 経営安定のための病床削減が、基準病床の削減になるとは調整係数が変更されるということか?
・コロナ禍で経験したように、平時には非稼働病床を維持しておくことが必要である。
・附帯決議では、精神科病床の場合非稼働病床の範囲に留まることなく、より計画的かつ効率的に適正化・機能分化等を推進することとされている。緊急時の対応のために平時には一定の非稼働病床が必要である。更なる削減には危惧を感じる。
② オンライン診療について
【オンライン診療の位置付け】
・医療法で位置づける前に、これまでのオンライン診療の検証が必要である。
・診療の基本は対面診療である。少なくとも一定の対面診療を確保すべきであり、オンライン診療は対面診療を補完するものとすべきである。精神療法についても同様である。
【受診施設】
・オンライン受診施設は届け出制でなく、認可制にすべきである。
・オンライン診療の受診施設(公民館・郵便局・ドラッグストアなど)を法律で位置づけ、営利産業の参入を認めている。営利産業がオンライン診療を主導しているのが現状である。これが良質で適切な医療を提供する構築か? プライバシーは守られるのか? 医療の質、感染防止、防犯、プライバシー保護機材管理など医療安全管理が曖昧になる。
・オンライン診療の受診施設を届け出制とすれば、営利企業(ドラッグストアなど)が、集客、集患の一環として取り組むのは明白でないか?
・オンライン診療医療機関の管理者が、オンライン受診施設のオンライン診療基準の適合性を確認するとなっているが、適合性については行政が責任を持ち認可制にすべきである。
・オンライン診療受診施設の管理者と運営者の役割の違いはなにか? 地域の関係者の役割は? それぞれの権限・責務は?
・保険薬局、ドラッグストアが受診施設となれば、薬局への誘導が起こり医薬分業がないがしろにされる。
・オンライン受診施設は、当面「医師を確保すべき区域」などに限るべきである。受診施設の拡大にあたっては、それまでの検証を踏まえた上で行うべきである。
・附帯決議には、「時間・距離・対面診療の割合等について過剰な規制を設けないこと」、「容態急変の事態に、近隣の医療機関との受け入れ合意取得について過剰な規定を設けないこと」とあるが、これらの規定は必要なことである。
2.「医師偏在是正に向けた総合的な対策」に関して
【医師総数の不足】
・医師不足は、医師総数の不足により起こっている。まず偏在是正対策ではなく、医師増員対策が必要である。
日本はOECD加盟国の中で医師数が少ない。人口1000人あたり医師数は、OECDは平均3.6人、日本は2.5人であり、加盟国38カ国中33位である。人口10万人あたりの医学部卒業生は、OECD平均13.2人、日本は7.1人で最下位である。まず解決すべきは、医師数の偏在ではなく、絶対的不足である。
・改正医療法の医療提供体制では、人口減少を理由に、医療機関の整理・統合を行う色彩が濃い。人口増のためにも地域の医療提供体制の充実は不可欠である。医師増員を考慮する必要がある。尚、医師偏在があるのも事実である。医師増員を前提に対策を検討する必要がある。
【外来医師偏在指数】
・外来医師偏在指数は計算式により算出し、相対的なものである。
・外来医師過多区域は医師過剰か? 外来医師偏在指数が1.5SD以上、かつ、可住面積当たり医師数一定以上が外来医師過多区域で、もともと相対的な指数である。過多区域でも、予約診療時間の遅れや長い待ち時間、救急のたらい回し、手術のタイミングの遅れ, 医師の過重労働、専門医の不足などが見られる。
①【重点医師偏在対策支援区域の手当】
・都道府県は医療機関の維持が困難な地域などを「重点的に医師を確保すべき区域」として選定できると規定している。公的医療保険料を財源に、区域で勤務する医師に手当てを支給するとした。国・都道府県の補助金で手当すべきである。医師不足の責任は保険者・被保険者にはない。
・附帯決議では、保険者の機能の棄損、被保険者の負担の公平性、保険者が実施状況等の確認・検証、現役世代の保険料負担を抑えることに配慮するよう求めている。また、保険料財源を充てる前例とせず、更なる規制的な手法を検討すると共に、必要な見直しを行うこととしている。先に述べたように、手当は保険料からではなく、補助金により支出すべきものである。
②【外来医師過多区域】
・外来医師過多区域の診療所への対応を強化するとして、新規開業時の6か月前事前届け出制、行政との事前協議の場への参加、行政からの業務の要請勧告、従わない場合の医療機関名公表、保険医療機関指定期間を3年とする短縮を行うとしている。
・しかし、医師過多区域にも先に述べたような医師不足の問題があり、外来医師の多い地域に「新規開院規制」対策を盛り込んでいるが、地域住民に対する医療提供体制の責任を放棄するものである。絶対的な医師不足を放置しており、根本的な解決にはならない。
・尚、医師数は対面診療ができる体制を保証することが必要である。
3.「医療DXの推進」に関して
①電子カルテ
・2030年末までに電子カルテを約100%まで普及するように政府に義務づけた。電子カルテ導入に伴う高額な費用を低収益の医療機関に押し付ければ、引退・閉院・廃院を迫ることになりかねない。
・2023年の医療施設調査による医科診療所での電子カルテ導入は57,662施設、残り47,232施設は導入していない。都道府県別のデータでは、電子化率は全国平均43.26%、電子化予定なしは全国平均40.81%である。また、電子化率が3割台の都道府県は20都道府県で、電子化予定なしが5割の都道府県は18都府県である。東北、北陸、四国、九州などの人口減少で外来患者数減少が進展する地域で電子カルテ導入が少ない傾向がある。この状況での電子化の義務化は、医療提供体制の構築を促進するためとしているが、電子化の義務化により、引退・閉院・廃院など地域の医療空白が生じる可能性が多くなるのではないか?
・附帯決議では、最低でも5割程度の普及率に達するまでの基盤整備期間中は、国において必要な財政支援を行うこととしている。電子カルテの整備費用は、100%普及まで支援を行うことを求める。
②医療情報の二次利用
・個人の医療データを研究・政策立案に使うことには、以下の様な懸念がある。プライバシーは守られるか? 倫理審査・本人同意をどのようにとるか? 同意の仕組みの構築は? データの漏洩・悪用のリスクはないか? マイナカード、マイナ保険証の政府の取組を見るとこれらの懸念は払拭できない。
③医療情報基盤・診療報酬審査支払機構
・「社会保険診療報酬支払基金」が「医療情報基盤・診療報酬審査支払機構」に解消され、システム運営を担い、レセプトの収集、分析などを行う。データの利活用のあり方が危惧される。
・マイナカード、マイナ保険証には、社会的弱者の取り残し、個人情報の流出、政策の費用対効果が不明瞭との問題がある。マイナカード、マイナ保険証の利用については、一度立ち止まって検討する必要がある。
・医療機関同士で、3文書(健康診断結果、診療情報提供書、退院時サマリー)、6情報(傷病名、薬剤アレルギー等、その他のアレルギー等、感染症、救急や生活習慣病などの検査、処方)を電子的に共有できるようにする。医療個人情報が含まれる。
・ビッグデータの漏洩が危惧される。特に病歴・障害などのデータは要配慮データとされている。
④ 医療情報化推進方針
・電子カルテの普及、医療情報の標準化、電子処方箋の導入、遠隔医療の普及、PHR(Personal Health Record)の活用などをすすめる。使い勝手は良くなる。特にデータを管理する側には政策誘導にも大きな力を発揮する。
・一方、個人情報の保護・セキュリティ、システムの標準化が必要、医療従事者の負担増、小規模医療機関でIT導入のための資金・人材不足、また、制度や法整備の遅れが指摘されている。
・IT化は、診療報酬では必要な補償がされていない。IT化のためには継続した支援が必要である。
4.その他
【介護・障害福祉従事者の賃金】
・現役世代の保険料負担を含む国民負担の軽減を図りつつ介護・障害福祉従事者の人材確保を図るため、適切な処遇の確保について検討を加え、所要の措置を機動的に講ずるものとしている。保険料の範囲でなく、大企業の内部留保、超富裕層に法人税・所得税により負担を求めれば、十分な財源は得られる。
【地域医療介護総合確保基金の運用】
・附帯決議では、「医療機関の施設又は設備の整備に関する事業」及び「医療従事者の確保に関する事業」を行うモデル事業を実施し、基金の運用のあり方、事業のあり方を検討するとされている。基金を病床削減のために運用するよりはよい。しかし、消費税を財源とすることは容認できない。
【85才以上の高齢者の医療需要】
・附帯決議で以下のことが求められている。85才以上の高齢者の医療需要の増加に対応すること。入院しないですむ在宅医療を強化すること。肺炎についてはワクチンや治療のアクセスをよくすること。高齢者の食事に治療食が普及するよう診療報酬上加算の評価を含め検討すること。これらは必要な対応であるが、高齢者は個人差が大きく、高齢者の治療方針の決定にあたっては、本人の意思の確認を丁寧に行う必要がある。
感想-まとめに代えて
改正医療法については、拾い読みに留まった。以下に感想を述べる。
衆議院厚労委員会での審議開始は2025年10月21日、衆議院本会議での議決は11月27日であり、参議院厚労委員会での審議開始は12月1日、参議院本会議での議決は12月5日である。余りにも審議期間が短くないか。
改正医療法だけでも、膨大で、多岐にわたっている。丁寧にパブリックコメントなどを実施すべきだったのではないか? パブリックコメントは一部の法案に留まっていたようだ。
改正医療法は、国がこれまですすめてきた社会保障・医療費削減の方針を維持し、当面2040年までの医療政策を方向付けたものである。医療提供体制をいかに縮小するか。医療情報の二次利用をいかにすすめるか。これらのテーマを追求したように見える。医療費の財源を国の負担を少なく、保険料等国民の負担でまかなおうとしている。それでは国民が必要とする医療提供体制は作れない。今必要なことは、大企業の内部留保、超富裕層に法人税・所得税の上限引き上げで応分の負担を求め、社会保障・医療政策の財源とすることである。
<主な参考資料>
厚労省:「医療法等の一部を改正する法律の成立について」(報告)
厚労省(中医協への資料):「医療法等改正を踏まえた対応について」2025年12月24日
保団連:「『医療法案の一部改正する法律案』に関する要望」2025年4月4日
保団連:「電子カルテ義務化で地域の医療機関が淘汰される」2025年11月19日
2026年1月27日(文責:北村龍男)
