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歯科会員学習懇談会 講演要旨「適正な歯科医療のコストはこれだ!!〜歯保連試案で考える〜」今井 裕氏(2017.7.11)*会員専用

歯科会員学習懇談会
「適正な歯科医療のコストはこれだ!!〜歯保連試案で考える〜」
歯学系学会社会保険委員会連合(歯保連)前会長、獨協医科大学名誉教授・特任教授 今井 裕
 わが国では、1961年に国民皆保険が達成され、「誰でも・どこでも・いつでも」医療を受けることが可能となり、以来、医療保険制度は国民の健康維持・増進に大きく貢献しています。この医療保険制度における診療報酬は、医療行為に基づいて計算されていますが、診療は医学・歯科医学の学問的基盤に基づいて行われるため、これに対する報酬も学術的根拠に基づき合理的な方法によって決定されるべきことは明らかです。しかしながら、診療報酬がどのように決定されているのか、これまで明確な根拠が示されていません。そこで、医科では昭和42(1967) 年日本口腔科学会を含む9学会により外科系学会社会保険委員会連合(以下、外保連)が結成され(現在は 101の外科系学会が加盟)、手術報酬に対する適正・合理的な診療報酬はどうあるべきかを学術的に検討を始めました。その結果、手術料は、技術度(難しさはどの程度か)、協力者人数(ど のような資格の人が何人必要か)、所要時間(何時間かかるか)の3要素から算定することとし、昭和57(1982)年これら3要素に基づいた各手術の報酬を算出し、外保連試案(初版)として上梓されました。その後、様々な改定が行われ、現在は進化した外保連試案(第8.2版)まで公表されています。
 翻って、歯科における診療報酬を鑑みると、医学的根拠に基づいた診療報酬の評価が行われているとは考え難く、歯科においても、純粋な学問の立場から、国民からも理解が得られる適切な歯科診療報酬体系の再構築が喫緊の課題と思われました。そこで、歯科でも医科と同様な組織、すなわち、「最新の学術的根拠に基づく歯科診療報酬体系を提示して、医療制度の健全な運営を図るための組織」を創り、活動することを目的に、平成21年8月17日歯学系の27学会により歯学系学会社会保険委員会連合(歯保連)が設立されました。
 歯保連は独立した組織として、1)全ての情報を公開し、それらを皆が共有すること、2)広く意見交換を行うこと、3)あらゆる組織と対峙しないこと、を申し合わせ、1.「外保連試案」に習いつつも歯科の独自性を担保した「歯保連試案」の作成、2.現在の歯科診療報酬評価項目の再検討、3.新たに歯科診療報酬で評価すべき項目の検討、を活動目標として掲げ、活動を始めました。当初は私個人の能力不足も相俟って、その趣旨を理解していただくことができず、遅々として活動が進みませんでした。しかしながら、多くの先輩方のご指導と仲間の支えを得て、徐々にではありましたが「歯保連試案」作成の輪は広がり、平成27年上梓することができました。
 以下に、「歯保連試案・詳細版、技術名:永久臼歯抜歯」の概略を記します。なお。人件費、技術度等の算出方法については、「歯保連試案2016」をご参照下さい。
技術の概要:永久歯の上下臼歯の普通抜歯
1.所要時間:40分
2.医療材料の総和:3,023円
 材料費:2369円
 穴あき覆布(中)980円、手術手袋160円×3、帽子23円×3、
 マスク38円×3、ディスポゴーグル115円×3、替え刃230円
 紙コップ1円、注射針150円、
 間接経費:260円、
 歯科診療台:470×24/60=188円
 薬剤;206円
 ビテングルコネート20% 10ml 48円、
 ヒビテン液5% 10ml 19円、イソジンガーグル7% 1ml=3円、
 キシロカインCt(1.8ml)136円
3.人件費:総計:18,030円
 人件費単価:術者歯科医師(B):397×40=15,880円
 介助歯科医師:0円
 歯科衛生士/看護師:43×50=2,150円
 歯科技工士:なし
4.診療報酬額:医療材料+人件費総額:3,023円+18,030円=21,053円
5.高額医療機器または特殊器材名:なし
6.ガイドライン無、技術の普及度、普遍的、治癒率:確立した技術である。
 
 現在の歯科診療報酬では、大臼歯の抜歯は260点ですが、「歯保連試案」では21,053円(2100点)と算出されました。この乖離をどのように考えるかは、ここでは議論しませんが、少なくとも「歯保連試案」は、信頼性の高い根拠に基づき技術度、人件費、材料費、所要時間等を勘案した結果であることは明らかです。
 今後、歯科診療報酬を協議するに当たり、「歯保連試案」を参考にしていただき、結果、国民からも理解される歯科診療報酬が構築され、何よりも国民の健康に寄与することができれば、「歯保連試案2016」作成に関わったひとりとして望外の喜びであります。

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第243回歯科学術研究会 講演要旨「東北大発の新規骨再生材料の開発から製品化に向けて」鎌倉 慎治氏(2017.11.11)*会員専用

第243回歯科学術研究会
「東北大発の新規骨再生材料の開発から製品化に向けて」
東北大学大学院医工学研究科骨再生医工学分野教授 鎌倉 慎治
 東北大学で開発された新規骨再生材料とはリン酸オクタカルシウム・コラーゲン複合体(OCP/Collagen)を指し、それらはリン酸オクタカルシウム(OCP)と医療用コラーゲンを複合した骨再生を促す足場材料である。
 骨欠損に対する治療法開発は歯科・口腔外科、整形外科など多くの領域で重要な課題であり、歯科・口腔外科領域では、顎裂部(唇顎口蓋裂患者)や顎骨腫瘍切除後等の骨欠損、抜歯窩、嚢胞腔、病的骨吸収(歯周病等)、萎縮歯槽堤などが対象となる。通常、抜歯窩などの小さな欠損は自己修復機能で補われる部分が多く、機能障害が顕在化しないため問題視されることは少ないが、自己修復の望めない大きな欠損は、それらを放置することで機能障害(発音・咀嚼・審美障害等)が生じる。現状では大きな骨欠損に対しては、患者自身の腸骨などを口腔内の骨欠損に移植する自家骨移植が標準的治療法とされている。しかし、自家骨移植は採骨のため健常部に外科的侵襲を加えること、採骨量の制限から広範な骨欠損では対応不能なこと、そして多くの場合入院加療が付随することなど、患者にとって負担が大きい。
近年、骨修復の三要素として、その直接的な担い手である「細胞」、細胞の分化・増殖を制御する「シグナル分子」、および前二者の機能を発揮させる「足場」(生体材料などの担体)が重要な役割を演じ、これらの協調によって効率的な骨修復が行われることが明らかになってきた。私は歯科領域における骨再生治療の特徴的背景は、その比較的低い緊急性、患者さんの許容が低リスク・高効果であること、そして高い外来診療の依存度にあると考えており、それらを実現するためには「足場」の活用が最も効率的であると考えた。
 骨の無機成分を構成する骨アパタイトに構造が類似するリン酸カルシウムにはハイドロキシアパタイト(HA)やOCP、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)などが含まれ、既に人工合成のHAやβ-TCPが開発・臨床応用されている。しかしながら、上述のように未だに自家骨移植が標準治療と捉えられており、それらに代わり得る骨代替材料は存在していない。
 OCPは生体内での骨アパタイトの前駆物質として知られ、人工合成したOCPを実験的骨欠損に埋入すると、それらは骨再生の核となり、積極的に骨再生に関わり、かつ生体内で吸収性を示す優れた骨再生材料であることが示唆されていた。しかし、OCPは構造上、焼結・成形が困難で賦形性・操作性に難があり、臨床応用の道は閉ざされていた。そこで OCPと他の材料との複合化によってそれらの欠点を補おうと考え、「生体骨組織は無機成分である骨アパタイトとコラーゲンなどの有機成分から構成される複合体である」ことに着想を得て、OCP/Collagenが開発された。それらは人工合成したOCP顆粒と医療用コラーゲンを複合化・凍結乾燥後、スポンジ状に成型することで賦形性、操作性を改善した。
 OCP/Collagenは前臨床研究で安全性を確認するとともに、小動物を用いた有効性試験で優れた骨再生能や吸収性を示すこと、細胞や成長因子の補充なしで骨再生を実現すること、OCP/Collagen由来の再生骨は既存骨と同等な性質を示すこと、そして使用法が簡便で煩雑な操作や管理体制が不要で優れた費用対効果を持つことが明らかになってきた。その一方で臨床症例に即した大型動物のさまざまな骨欠損モデル(抜歯窩、顎裂、永久歯萌出、インプラント接合など)を用いてOCP/Collagenの有効性を検証した。その結果、抜歯後の歯槽形態が再生骨によって保たれること、OCP/Collagenを埋入した顎裂部は周囲の既存骨と骨架橋がなされ一体化するとともに、既存骨に類似した骨梁構造を復元すること、永久歯の萌出を妨げず、永久歯の萌出位置の低下や歯槽頂の減弱が見られないこと、そしてOCP/Collagen埋入部と歯科用インプラントの界面は新生骨で直接的に強固に結合することを確認した。
 それら前臨床試験の安全性・有効性データの蓄積を基に、2011年より東北大学病院口腔外科で成人の嚢胞腔・抜歯窩に対する探索的臨床研究を行い、安定した術後経過を示すことや顕著な有害事象を認めないこと、そしてエックス線所見による骨再生能を確認した。その後、2015年より東北大学大学院歯学研究科顎顔面・口腔外科学分野を主幹施設とし、口腔外科領域の骨欠損を対象とした企業主導による多施設共同治験を開始し、医療機器として2018年度の製品化を目標にしている。
 現在はOCP/Collagenの製品化の実現で、医療現場のニーズ(必要性)と研究者のシーズ(技術や材料)が繋がり、東北大学発の研究成果が社会に還元できることを期待するとともに、医科領域での骨欠損修復への応用や日本発の医療技術として世界への展開を目指している。

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第242回歯科学術研究会 講演要旨「口腔に不定愁訴(医学的に説明困難な口腔症状)を訴える患者への対応」安彦 善裕氏(2017.9.30)*会員専用

第242回歯科学術研究会
「口腔に不定愁訴(医学的に説明困難な口腔症状)を訴える患者への対応」
北海道医療大学歯学部生体機能・病態学系臨床口腔病理学分野教授
北海道医療大学国際交流推進センター長
北海道医療大学病院「口腔内科相談外来」担当  安彦 善裕
はじめに
 不定愁訴に相当する言葉として、近年、Medically unexplained symptom (MUS:臨床的に説明困難な症状)との言葉が使われてきている。MUSとは、「何らかの身体疾患が存在するかと思わせる症状が認められるが、適切な診療や検査を行っても、その原因となる疾患が見いだせない病像」のことである。すなわち、明らかな医学的病因、生物学的病因、心理学的病因(明らかな精神医学的病変)がないにもかかわらず、さまざまな身体症状を訴える疾患である。口腔領域の生じたMUSはMedically unexplained oral symptom (MUOS)ということになり、これまで言われてきている「歯科心身症」の概念とほぼ一致している。
―MUS患者の背景
 医科の一般臨床医でも日常的にMUSのような患者に極めて頻回に遭遇するが、このような患者に対して身体科医は「心身症」や「自律神経失調症」といった曖昧な病名をつけたり、「プシコ」や「不定愁訴を訴える人」といった差別的で乱暴なラベルを貼ったり、「医学的には異常はない」と切り捨ててしまうことが多いようである。逆に精神科医はそれに該当する適切な病名がないため、「身体表現性障害」という病名を比較的多くつける傾向にある。仮にこれらの患者が歯科医師にとって専門外と判断され、「リエゾン」という名のもと精神科や心療内科へ丸投げされると、患者は歯科医師、医師両者から見捨てられた形となり、路頭に迷うこととなる。正確なデータは示されていないが、現実にはこのような患者はかなりの数に上るものと推測される。
―MUOSへの対応
 MUOSへの初期対応で、まず考えなくていけないことは、病変が本当にないのか、病変はどの程度なのかを明らかにするということである。病変の有無や病変の程度を明らかにした結果、MUOSとの診断に至るべきであるので、むしろ他の疾患よりもより詳細な検査を行う必要がある。その結果、身体的には問題がないとの判断がされた場合、さらに詳細な問診や心理検査を行うことによって背景の精神疾患の有無を判断する。うつ病(大うつ性障害)や高度の不安障害、統合失調症などの精神疾患が強く疑われたときや、精神疾患の既往のある場合、自殺念慮のあるときなどは、精神科医へ紹介し連携が必要となるが、それ以外は歯科医師による積極的な治療介入が重要である。精神疾患の有無を判断するために、内科医による精神疾患の診かたをマニュアル化したPIPCセミナーで用いられているMAPSO診断が有用である(http://pipc-jp.com)。合わせて心理検査も有用であり、うつ病ではSDS、不安障害ではSTAIなどが用いられることが多い。
 精神科的疾患の疑いはなく、MUOSと診断された場合、歯科医師による治療介入が必要になるが、治療の主体は心理療法と薬物療法になる。心理療法の基本である「支持的精神療法」やロジャーズの「クライアント中心療法」などの概念は、心因的背景のある患者への対応の際には常に心がけておくべきものである。
 薬物療法には、抗うつ剤や抗不安薬などの向精神薬が多く用いられるが、これらが有効な症例では、一般的にうつ病や不安障害の治療に用いられるよりも低容量で効果を示すことが多い。投与の前には、処方される薬はうつ病や不安障害を治療するためではなく、あくまで口腔症状を緩和するためであることを説明する必要がある。また、向精神薬は副作用がみられることが多く、充分な知識をもって慎重に用いられるべきである。
-精神科・心療内科への紹介、連携の際に注意すべきこと
 精神科的疾患の合併した例では、精神科に紹介し連携が必要となる。紹介の際に、精神科への通院に抵抗を示す患者には、「うつ病の疑いがあります」のようにしっかりと病名を出しながら説明することや、「他の患者さんも何人も精神科に通院することで症状が改善しています」のように、同様の訴えをする患者の多いことを説明しながら、紹介するとスムーズに行くことが多い。また、精神疾患で精神科・心療内科での治療が開始された場合でも、患者が口腔症状を主訴として歯科医院を初診したのであれば、出来る限り並診の形は崩さず、定期的に来院していただき話を伺うのも患者との信頼関係を継続するためには必要であろう。
おわりに
 歯科医療は外科的治療が主体をなしている分野である。外科では、悪いものは取り、取れば必ず治る、治さなければならないとの概念があり、歯科でも抜く、削る、治す、治すためには必ず手をつけるという概念が一部で定着しているように思う。これらの歯科医師による行動がMUOS患者の症状を複雑化し、治療を困難にしていることが多い。内科には、生活習慣病に代表されるように、症状の維持・緩和を目指した治療が存在し、精神科や心療内科での疾患は完治を目指すよりも緩解をめざすような概念での対応のものが多いようである。MUOSの対応には、外科的な考えから結論をすぐに求めるのではなく、患者と長く付き合い、症状の緩解を目指すような心構えでの対応が大切であろう。

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第8回いい歯デー市民のつどい 講演要旨「噛むと脳が若返る」小野塚 實氏(2017.10.15)*会員専用

第8回いい歯デー市民のつどい 講演要旨
「噛むと脳が若返る」
日本体育大学保健医療学部教授、神奈川歯科大学名誉教授 小野塚 實
 超高齢社会に入ったわが国において、介護支援を必要とする認知症の高齢者は、今後10年間で約100万人増加すると推計されており(厚生労働省調査)、今や認知症対策は最も喫緊に解決しなければならない課題になっています。
 近年、全身健康に果たす口(とくに噛む力)の役割が科学的に分析されるようになり、噛む働きが栄養摂取だけでなく、認知という脳の最も知的な機能に関わっていることが明らかになってきました。例えば、入院中の高齢者の栄養摂取において、経口から経管や点滴に切り替えると認知症の出現率が高まるといわれています。一方、軽度な認知症状のある寝たきり高齢者の義歯の調節など口腔環境を改善し、介護の手を借りながらも経口摂食を積極的に行うことにより、QOL(生活の質)の向上や認知症状の軽減が認められる例が多数報告されています。
 一般に高齢になると、目、耳、触覚など五感の感受性が落ち、動きも鈍くなり、意欲がなくなり、若い頃に比べると外部からの情報量が減少します。外部からの感覚情報が減少すると、それを受け取る脳の神経細胞は徐々に死滅します。これが、“名前がすぐに出てこなくなった”“物忘れがひどくなってきた”などの要因です。つまり、脳のネットワーク機能がうまくいかなくなるのです。脳出血や脳梗塞などでは、このネットワークが寸断され、時として認知症に陥ります。しかし、噛むことを積極的に行うことにより五感情報を上昇することができます。ですから、十分咀嚼して脳の神経細胞の衰えを防ぎましょう。日常的には、唯一五感を同時にフル活用することができる「食事」を通じて、積極的に同時に脳へ情報を送り込むことを念頭に置いてほしいと思います。
 また、日本人に多いⅡ型糖尿病になると、細胞膜のインスリンレセプターの感受性が弱まり、ブドウ糖を細胞内に取り込むGLUT4が細胞膜の内側に移動できなくなって、ブドウ糖が細胞内に入りにくくなります。その結果、細胞は死滅し、血中のブドウ糖濃度が高まり糖尿が出現するようになります。この現象が脳で発生すれば、神経細胞の死滅による脳萎縮が起こり、認知症のリスクを高めます。これが糖尿病の合併症としての認知症です。しかし、噛む力は、肥満や生活習慣病を抑制するだけでなく、HbA1cも減少するので、十分咀嚼して脳の神経細胞死を防ぎましょう。
 さらに高齢になると、寂しさ、孤独感、膝・腰痛などによる慢性ストレスが増加し、結果的にストレス性認知症のリスクが上昇します。ストレス状態では、脳の血液がサラサラからドロドロに変化します。ドロドロになれば、血流がゆっくり状態。その結果、血栓が起こり易くなり、細い血管では詰まるようになります。いわゆる、米粒大の脳梗塞(隠れ梗塞)です。これは症状が全くありませんが、繰り返し起こると、脳が萎縮し認知症を招きます。
 最近の私たちの研究で、ストレス負荷で上昇した血中のストレスホルモン(ノルアドレナリン、アドレナリン、ACTH)濃度が、ガムを噛むことで減少することを見いだしました。同時に、ストレスで増強した大脳辺縁系の扁桃体活動と前頭前野の活動が、ガムチューイングで減少することもわかりました。つまり、噛む力はストレス発散に役立つことを意味しています。噛んでストレス発散。そして、認知症を予防しましょう。
 歯科医療は病気の予防に重要な役割を担っていることが徐々に解明されています。その一つに、「噛むと脳が若返る」があります。虫歯の治療、歯周病の治療、義歯やインプラントの装着は重要であることは疑いの余地がありませんが、“歯科と医科との密接な関わり合い”の新分野開拓についても注力していただきたいと願っています。

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講演要旨「宮城県保険医協会 第47回『“2035年”医療の行方を占う〜急ピッチで進む医療制度改革、その鳥瞰図〜』」

講演要旨
宮城県保険医協会 第47回定期総会記念講演
「“2035年”医療の行方を占う〜急ピッチで進む医療制度改革、その鳥瞰図〜」
m3.com 編集長 橋本佳子氏
1.昨今の制度改革の代表的な動き
 昨今、実にさまざまな制度改革の動きがある中で、幾つか代表的な動きを取り上げ、概説します。
⑴ 2015年 「保健医療2035」と「骨太の方針2015」
 厚労省において、「保健医療2035」という報告書が2015年にまとめられました。ここで提言された内容が今進められているさまざまな検討の土台になっています。報告書で最も言いたかったことは、2035年に向けて以下のパラダイムシフトが起きるということです。
① 「量の拡大」から「質の改善」
 医療提供体制の不足に対して進めてきた医療機関や医師の量的拡大を、データやエビデンスにより質の改善を図る動きが加速する。
②「インプット中心」から「患者の価値中心」
 多種多様な患者にどのような医療を提供するか。患者中心の医療に拍車がかかる。
③「行政による規制」から「当事者による規律」
 大きな政府から小さな政府へ。医療者および患者、国民が個々の規律によってさまざまな制度を動かしていくよう転換する。
④「キュア中心」から「ケア中心」
 高齢者が増えれば、治療しても患者が社会復帰できるとは限らず、その後のケアおよび社会復帰に向けた取り組みが重要になる。
⑤「発散」から「統合」
 医療提供体制の整備から、病院間や病院と診療所間の連携、医療と介護の連携、福祉との連携と量的な整備、統合が進む。
 「骨太の方針2015」は、2016年から2018年までの3年間を集中改革期間として位置づけ、高齢社会に向けて社会保障費の伸びを3年間で1.5兆円程度に抑えるということを閣議決定しました。これを基に2016年度の診療報酬改定が実施され、2018年度の診療報酬・介護報酬の同時改定もこの枠組みの中で行われます。
⑵ 2016年度 診療報酬改定、新専門医制度とオプジーボ問題
 2025年に向けた地域包括ケアシステムと効率的・効果的な質の高い医療提供体制の構築を図るという位置付けで、2016年度の診療報酬改定は実施されました。
 勤務医の関心が非常に高い新専門医制度は、2017年4月から開始する予定でしたが、「新たな仕組みの導入によって地域医療への影響が大きいのではないか」「大学や大病院に医師が集中するのではないか」など、制度への懸念が呈せられ開始を延期し、さまざまな場で議論され、関係者の合意に近づきつつあります。
 2016年の後半から2018年度の診療報酬改定に向け、政府と医療界、特に製薬業界の関心が高いのが、薬価制度の抜本改革です。発端は「オプジーボ」。もともとこの薬は希少疾患である悪性黒色腫に開発された薬です。その後、非小細胞肺癌に適応拡大され、1兆7500万円(年間3500万円×約5万人)が薬剤費としてかかるという推計もあり、国家財政に対する影響が大きいということで、薬価制度の抜本改革に向けた議論が一気に高まりました。
 オプジーボ問題を端に薬価制度の抜本改革が、2016年12月の4大臣合意と経済・財政諮問会議で決まりました。オプジーボのように薬価収載された当初から効能・効果が拡大された場合、年4回の薬価収載に合わせた薬価引き下げ、薬価の毎年調査などが盛り込まれています。
 薬価の在り方以上に、医師の立場として注目すべきなのが、「最適使用推進ガイドライン」が、オプジーボのように高額薬剤・機器で策定されるようになったこと。策定も、その遵守も、またガイドラインで対応しきれない症例についても対応するのは医師。プロフェッショナルオートノミーが求められる時代になっていると言えます。
⑶ 2017年 医療費の地域格差と医師の働き方改革
 2017年4月6日に厚労省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が報告書をまとめました。「保健医療2035」と繋がるもので、パラダイムシフトが必要という精神が貫かれていて、おおまかに3つの柱にまとめることができます。
 第一は「能力と意欲を最大限発揮できるキャリアと働き方のサポート」。第二が「地域主導で医療・介護人材を生み育み住民の生活を支える」。第三が「高い生産性と付加価値を生み出す」。異論が出ている一つが、医師の仕事の一部を看護師等へ移譲するタスク・シフティング。本当に医師がやらなければならない仕事は何か、どこまであるか、それを見極めた上で各職種と役割分担し、連携していくべきではないかという考えが根底にあります。
 「骨太の方針2017」が近くまとまると思いますが、医療費の地域格差というキーワードが打ち出されているのが特徴の一つです。厚労省の研究班と内閣府の検討会で進められていますが、ナショナルデータベースやレセプトデータにより、さまざまな医療行為の地域差が分析できるようになっています。。疾病構造の違いか、診療の習慣の違いか、その理由は分かりませんが、医療費に地域格差があることは事実です。「骨太の方針2017」から2018年度診療報酬改定にかけて、これを縮小する圧力が強まると思います。
 診療報酬と介護報酬の議論が具体化する中で、医療者自らが考えなければならない問題に、医師の働き方改革の動きがあります。医師は適用外になりましたが、2年後から新たに法律が施行され、一般職・一般企業は時間外労働の上限規制が導入されます。医師は現時点で長時間労働であり、医師法に基づく応招義務等の特殊性を踏まえた対応が必要であることから、施行5年間の猶予が設けられました。応招義務の在り方も含め医師の仕事、医師の働き方、医療の在り方が今後の検討でどうなるか、注目されるところです。
2.20年前と20年後
 将来を見通すためには、需要(人口構成、疾病構造変化)、供給(医師数、医師の役割の変化)、価値観(患者の考え、医師の働き方)――という3つの視点から考えていくことが必要です。
 1990年と2000年の人口構造、2035年の予想を比較すると大きく変化しているのが分かります。1990年はまだ40代以下の人口が相対的に多いと言えます。しかし2000年は、圧倒的に65歳以上の人口が多数を占めています。2035年は65歳以上が人口の3人に1人になると推計されています。人口構成が変われば、おのずから疾病構造も変わります。
では、供給である医師数は今後どう変化していくか。20年前は医師過剰時代が到来すると医学部の定員を一時期減らしました。しかし、医療崩壊が叫ばれ、深刻な医師不足や医師の過剰労働が問題になり、2008年度から医学部定員増へ舵を切りました。この10年間で医学部定員は1795人も増加し、2016年厚労省は2024年くらいには医師の需給が均衡すると推計しました。さらに先述した「保健医療2035」で打ち出されたようなパラダイムシフトや価値観の変化が加速するのが今後の20年間だと考えます。
3.制度改革を読み解き、対応するためのキーワード
 さまざまな動きに横串を刺し、5つのキーワードにまとめてみました。
(1)データ
 地域医療構想では、2025年の医療提供体制に向けて地域医療をどのように構築していくか、データの可視化を進め、議論が進められています。
診療報酬改定でも、エビデンスに基づく議論が行われるほか、一部の医薬品と医療機器に費用対効果評価が導入されます。
 診断支援や創薬に活用しようとAI(人工知能)も注目されていますが、その基になるのは、日常診療から蓄積されるデータです。電子カルテやレセプトデータを基に、人工知能を使って診断のロジックを作り、診断支援をする取り組みが進んでいます。そのほか、国民一人一人が自身の保健医療のデータ管理をする「EHR、PHR」の導入も検討されています。
(2)インセンティブ
 予防に力を入れて病気になる被保険者を減らすというミッションのもと、各保険者が特定健診や特定保健指導に取り組んでいます。それにより医療費の抑制や何らかの成果を上げた保険者に対しては高齢者支援金を減算する。保険者が健康予防、ダイエットなどに取り組む加入者に対してヘルスケアポイントを付与するという取り組みもあります。このように保険者と国民に対するインセンティブ改革が今後、高まってくるのではないかと考えます。
(3)患者(主権)
 「EHR、PHR」は、患者主権の取り組みの代表例です。
 患者自身が自分の健康問題に対して関心を持つことが重要であり、市販薬でも一定程度管理できるのではないかという考えのもと、進められているのが、スイッチOTC化やセフルメディケーション税制。ただし、これも行きすぎると病気なのに自分で治そうとして、受診する時には重症化してしまう恐れもあります。
 また、個人の選択に応じた負担や応能負担の考え方も導入されつつあります。
(4)地域(主権)
 地域包括ケアシステムが、2025年に向けて地域単位で構築が進められています。
 さらに、今まで厚労省が一極集中で全国統一の仕組みでやってきたものを、地域によって医療事情や財政事情が違うということから、都道府県のガバナンス強化も進みます。医療計画も地域医療構想も、地域単位です。ほかにも、都道府県単位、市町村単位という枠組みがさまざまなものに適用されてくると考えます。診療報酬の地域差もあります。地域差を解消するための議論だけでなく、地域によって診療点数を変えても良いのではないかという意見もあります。
(5)プロフェッショナリズム
 高額薬剤の「最適使用推進ガイドライン」、新専門医制度、医療事故調査制度、生殖補助医療、出生前診断、再生医療、AI(人工知能)、終末期医療や看取り……。プロフェッショナリズムが求められるが場面が多々あります。
 医療は医学の社会的適応とも言われます。医師自身は純粋なサイエンスですが、それを医療として目の前の患者に提供する、もしくは医療提供体制を構築するには、さまざまな利害関係が関係します。医療が対象とする患者・社会は複雑系で、人口の高齢化、制度も複雑化する中で、医療を提供していかなければならないことは、まさに複雑な連立方程式を解いていくようなものです。そのために求められるのがプロフェッショナリズムだと思います。
 さまざまな制度改革が進む中で、常に医療の意味を考える。しかし、社会への適用に当たっては、説明責任を果たさなければ、患者をはじめ社会から納得は得られず、合意形成できません。プロフェッショナルな存在として説明責任を果たすことも求められます。その上で実践、つまり臨床応用あるいは制度下につなげる――。常にこのサイクルを回していくことが、問題解決には求められるのではないかと日々の取材を通して感じています。
文責:宮城県保険医協会

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