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雇用管理セミナー「スタッフとの信頼関係を築くルールづくりを考える ―残業・年休、雇用契約書と就業規則―」講演要旨(2018.3.10)*会員専用

「スタッフとの信頼関係を築くルールづくりを考える―残業・年休、雇用契約書と就業規則―」
横尾社会保険労務士事務所 横尾 盛雄
 3月10日、「信頼関係を築くルールづくりを考える」というテーマでお話ししました。柱は6項目でした。以下、概要を述べます。
1、「働き方改革」・・スローガンに惑わされない真の働き方改革を
 「働き方改革」という魅力的なスローガン(オブラート)に包んで毒、すなわち過労死を招く長時間労働を助長する規制緩和が盛られています(高度プロフェッショナル制度など)。今こそ、スローガンに惑わされない地に足を着けた真の「働き方改革」が必要です。
2、労働契約の基本・・雇用管理は「原則」「基本」をしっかり踏まえて
 そのためにも労働契約の基本を踏まえることが大切です。労働契約法では原則として、第3条で、要旨①労使対等の立場における合意に基づき締結・変更する②就業の実態に応じて均衡を考慮する③遵守し、誠実に権利を行使し義務を履行する④権利の濫用はしないこと―を定めています。
 また、第4条で契約内容の理解の促進、第5条で労働者の安全への配慮、第6条で契約は合意によって成立すること、第8条で契約の変更も合意によることを定めています。雇用管理は、こうした「原則」を踏まえることが重要です。
●有期・短時間(パート)雇用契約にかかる重要なルール
①この4月から、有期雇用契約者(例えば1年契約)が更新されて通算5年を超えたら、申込みにより無期契約に転換できることになりました(労働契約法18条)。対応する準備は済んでいますか、ご確認ください。
②雇止め(契約更新をしない)は簡単にはできません(労働契約法19条)。業務内容の恒常性や、長く勤めることへの期待の合理性などが論点になります。また、1年を超えて働いている場合の雇止めは30日前の予告が必要です。いずれにしても、コミュニケーションや研修を重視して長く働いていただくことが何よりです。
③有期や短時間雇用者の待遇の原則は、職務の内容を考慮し合理的なものでなければならない(労働契約法20条、パート労働法8条)とされています。特に職務の内容や労働時間の長短に関係のない通勤手当や慶弔見舞金などに差を設けることは合理性がない、と判断されています。
3、就業規則・・重視して整えましょう
 就業規則は「経営理念」の実現のための約束事、といわれます。10人未満でも作成し周知しましょう。職員は安心して業務に励めます。4月からの無期転換ルールに対応した整備も必要です。
4、労働契約・・労働条件の明示しっかり
 『月刊保団連』の経営対策シリーズ2016(No.1229)の労働条件通知書サンプルをご活用ください。
5、労働時間管理・・把握をしっかり
 昨年1月20日、労働時間の適性な把握のための使用者向けの新たなガイドラインが策定されました。タイムカードなどの客観的な記録によることが強調されています。また、休憩時間中の電話当番や委員会活動など、「明示または黙示の指示で業務に従事する時間」は労働時間です。把握と管理お願いします。
6、職員満足の経営めざして
 価値観を明確にした「理念」の共有と「期待する職員像」を明確にすること。その上で、人間味あふれる日常の「情報の共有」「コミュニケーション」「職員の能力向上」を大事にすれば、信頼され安定した医院経営につながります。

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「か強診(かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所)」の施設基準に係る講習会」講演要旨(2018.2.18)*会員専用

「高齢者の心身の特性、口腔機能の管理-症例から診る-」
さくら歯科 院長 山崎 猛男
 要介護高齢者の歯科訪問診療の臨床現場においては、従来の歯科治療の範疇では解決しないことも多く、困惑することがあります。今回の研修では、私が遭遇した症例を基に高齢者の心身の特性や口腔機能の管理の実際を考えてみました。
1)認知症患者への抜歯等外科的対応
 2025年には認知症患者は700万人(高齢者の5人に1人)になると予想されています。歯科医療機関に来院されたときにも、認知症患者や家族が安心して受診出来得る環境整備が必要な時代になってくるでしょう。
 一方、在宅歯科医療においては認知症患者の口腔管理は喫緊の課題と言えます。全身状況も悪い認知症患者の口腔管理が疎かな場合などは、悲惨な口腔状況で放置されているケースに遭遇することは稀ではありません。このようなケースの歯科治療、口腔管理はどのように考えるべきでしょうか? まず、抜歯等の軽度の外科処置が必要なケースであっても、全身状況の把握が肝要と考えます。認知症患者に限らず高齢者は循環調節機能等が低下しており、経時的バイタルチェックをお願いします。さらに抗血栓療法、糖尿病、BP、ステロイド、向精神薬等の服用状況や循環器、肝臓、腎臓の機能等も勘案します。医科主治医に対診することも必要なことでしょう。
 その結果、全身状況によっては抜歯等を避け残根であっても歯内処置に留めることもベターな選択となり得ます。なにより重要なのは患者さん本人が治療にどの程度理解を示すか、抵抗を示される場合などは、家族とケアマネジャー等と情報共有することが歯科治療を進める上での秘訣になります。しかし認知症の病態、とくにBPSDの出現によっては一筋縄にはいきません。レビー小体型認知症、前頭側等型認知症への対応は当然アルツハイマー型認知症とは異なること、それぞれ合併症状や家族や施設スタッフの介護力も勘案し、決して無理をしない忍耐力を持っての口腔管理が必要と考えます。
 そのためには歯科医だけでなく歯科衛生士、歯科技工士等の院内チームワークと他職種との連携作業が非常に重要なキーワードになるでしょう。
2)認知症患者の有床義歯(以下義歯と記載)の作製に関すること
 訪問歯科診療での歯科医療のもっとも頻度の多い治療の一つに、義歯に関する問題があります。嚥下評価で口からの摂食が可能と判断された場合等では、義歯は単なる欠損補綴物ではないと考えます。摂食嚥下リハビリテーションの装具として果たす役割が重要なことです。ところが認知症患者の場合、せっかく作製しても使用できないケース、全く認識できないケースもあり苦慮するところです。認知症患者の義歯作製のリミットは一体何処にあるのでしょう。見当識障害が出現したら作製不可とする先生。いや原始反射出現までは使用可能とする意見。あるいは失禁出現で作製は困難とする意見。有名な先生方でも意見が纏まらない、いやむしろ纏められない。多くの医療現場で混乱しているのが実際ではないでしょうか。私は次のように考えています。
 新義歯作製を家族や本人が望む場合であっても、すぐ作製に取り掛からず、治療義歯を検討します。旧義歯があれば、一旦増歯、適正な床延長や咬合を付与し、次第に慣れてもらい、受け入れを確認できた時点で高座印象等でそっくりコピーを採得する方法等、本人が受け入れ可能なさまざまな工夫を行って対応しています。そうすることによって、義歯作製、受け入れ許容のリミットを延長することも可能なケースもあるので、最初からダメと決めつけずに忍耐強く可能な限り義歯使用を試みます。
 ここで重要なのは義歯の管理です。日常の口腔ケアとともに義歯の管理を家族、施設に十分にレクチャーすることが肝要です。もう一点、ご家族、施設では過大な期待を抱きやすいので、十分に食事状況を観察(ミールラウンド)するとともに治療方針を説明することです。これは歯科衛生士、歯科技工士とともにチームで対応することが、やはり秘訣でしょう。
3)歯科-歯科連携の必要性
 平成30年度の診療報酬改定では、初めて歯科診療所と在宅療養歯科診療所との連携に関する報酬が認められました。今後増大するさまざまな在宅歯科医療ニーズに対して、一歯科医療機関では対応困難なケースが予想されます。それぞれ得意な分野があるかと思います。地域の歯科医療機関間同士で顔の見える、技の見える関係で情報共有し対応する。まさに歯科-歯科連携が他職種連携と同時に推進していくことが求められる時代になりました。歯科医療はいつの時代でも消えることの無い、生活の質を支える重要な医療です。これからも診療室だけでなく、患者さんの生活を視点に取り組んでいきたいと考えています。
 
「医療安全の考え方と緊急時の対応」
仙台徳洲会病院 歯科口腔外科 部長 郷家 久道
 今回、医療安全と偶発症に対する緊急時の対応について2つの話をしました。
[医療安全]
 医療法第6条の12において、医療安全に対し以下のように示されています。
 「病院、診療所又は助産所の管理者は、(中略)、以下を講じなければならない。
 ①医療の安全を確保するための指針の策定②従業者に対する研修の実施③その他の当該病院、診療所又は助産所における医療の安全を確保するための措置」
 これらを踏まえ、院内においては指針の策定、研修の実施、措置をとらなければならないということです。
 1件の大きな医療事故の陰には29件の軽い事故があり、その前の障害のないニアミス的な事例が300件あるといわれるハイン・リッヒの法則があります。この障害のないニアミス的な事例をヒヤリ・ハットと言います。
 「ヒヤリ・ハット」の具体的な定義としては、
 ①:誤った医療行為が患者に実施される前に発見された事例。
 ②:医療行為によって偶発事象は生じたが、患者に影響がない事例。
 ③:誤った医療行為が実施され、軽微な処置・治療を必要とした事例。
 インシデントレベルの3aまでを指します。
 インシデントレベルの3aは、障害の持続性は一過性、障害の程度は中等度、簡単な処置や治療を要したものまで(消毒、湿布、皮膚の縫合、鎮痛剤の投与など)です。
 ヒヤリ・ハットはヒューマンエラーに着目する必要があります。ヒューマンエラーは「人的な誤り」と直訳したものではなく、結果的に何らかの不都合が生じた場合,それをもたらした行為のことを言います。
 具体的には、入力エラー(知覚・認知のミス)、見間違い、聞き間違い、勘違い。媒介エラー(判断・決定のミス)、知識不足による判断ミス、出力エラー(動作・行動のミス)です。
 院内において、医師・歯科医師とスタッフとがヒヤリ・ハットを共有し、ヒューマンエラーへの対策を考え、実践すれば大きな医療事故が減らせるはずです。
[緊急時の対応]
 歯科で経験する全身的偶発症の種類として以下のものがあげられます。
 A、既往や持病が歯科治療を契機に悪化したものなど。
 ①高血圧:高血圧脳症、脳出血、うっ血性心不全、急性冠症候群②狭心症、心筋梗塞:急性冠症候群③糖尿病:低血糖④気管支ぜんそく:ぜんそく発作⑤てんかん:けいれん⑥アレルギー:特定の薬物・材料によるアナフィラキシーショック
 B、既往や持病に関係なく発生するものなど。
 ①アナフィラキシーショック②神経原性ショック(迷走神経反射、デンタルショック)③過換気症候群④気道閉塞(窒息):気道異物、舌根沈下。
 その中で、さまざまな事故予防策を講じていたとしても致死的な偶発症に遭遇する主な病態・事態として以下のようなことが考えられます。
 a.急性心筋梗塞
 b.脳血管障害(脳内出血、クモ膜下出血、脳梗塞、脳塞栓など)
 c.薬剤に対するアナフィラキシーショック
 d.気管支ぜんそく大発作
 e.気道閉塞(気道異物、舌根沈下)
 不幸な事態にならないためには、日頃からこれらの疾患に対する心構えが必要です。モニターやAEDの使い方はもちろん、その他の救急で用いる器材の使い方、救急薬品の保管場所や使い方、使用期限など、確認しておきましょう。
 偶発症対策の一つとしては患者の全身状態の把握です。現在の服用薬、既往、今日の体調を確認します。どんなに若くて、健康そうな患者でも全身的偶発症が起こる可能性があります。飲んでいる薬は変更になっている場合があります。何かの節目に必ず確認しておくべきです。特に長く通院されている患者は確認を忘れがちです。全身状態が判断できないときやわからないときには、かかりつけ医がいれば積極的に問い合わせを行います。全身状態が悪いと判断される場合は無理せず、高次医療機関(大学病院、病院歯科等)に紹介したほうが無難でしょう。
 最後に、医療事故防止のための基本的な考え方として、①危機意識をもって業務にあたる②患者本位の医療を行う(患者の気持ちを理解する)③確認、疑問をもったら行為を中止して再確認する④記録は事実を正確かつ丁寧に記載する⑤事故の健康管理と職場のチームワークをはかる⑥教育・研修システムを整える⑦事故を個人の責任にしない(個人を暴いたり、責任追及はせず、自由に発言・報告できる環境を構築する⑧組織として「問題解決的思考」で改善をはかる
 これらを留意し院内での情報共有とチーム医療、医科歯科連携がはかれるようにすることが大切であると考えます。
 
「HIV感染者の歯科治療と院内感染対策」
入野田歯科医院 院長 入野田 昌史
 最近、歯科医療においても特に安心・安全が重要視されてきている。そして、感染対策は可能な限り完璧を目指した院内感染防止対策が望まれる。
 平成26年5月18日読売新聞の朝刊に「歯を削る機器7割使い回し」という記事が掲載された。これがきっかけとなり厚生労働省から日本歯科医師会などに向け歯科診療所の院内感染対策に対する通達が行われ、一般の社会の目も一段と厳しくなった。また、平成29年7月29日の朝日新聞の朝刊によるとHIVに感染していることがわかった時に歯科治療の途中で転院を促してトラブルとなった事例も報道されていた。
 さて、平成29年3月27日~6月25日までの約3カ月間の厚労省のエイズ動向委員会の発表によると、この期間の新規HIV感染者は265件で、その中で同性間性的接触によるものが188件で報告全体の約71%、異性間性的接触によるものが49件で全体の約18%であった。依然として男性同性間性的接触によるものが多い。それ以外の静注薬物や母子感染によるものは0件であった。年齢別では、20~40代に多くみられた。
 最近のHIV感染は以前の「死の病」から、治療薬を服用さえしていれば「慢性疾患」となってきた。そのためHIV感染者は、病気を抱えたまま社会生活を送り、在宅や介護の場でも増え続けている。現在も前年度の約1割増の感染者・患者が報告されている。新しく発見されている男性間同性愛の感染者は交渉感染の段階で発見されることが多いが、異性間性交渉の男女の場合には発病後に発見されることが多い。また、地方ほど“いきなり発病後”の発見が多い傾向がある。
 抗HIV薬の最新情報であるが、昔は免疫力が低下して感染症になって死亡することが多かったが、最近は長期服用するようになったので心臓、脳、血圧に問題を起こし死亡することが多くなっている。当時の薬は5回/日で食前、食間、食後の5剤で大きな錠剤で飲みづらかったが、現在は1回/日2錠の服用で良くなってきた。また、米国の一部ではPREP(予防投与)として、感染しそうな人に抗HIV薬を服用させることもある。
〈HIV感染者の病期と歯科治療〉
 ・初期:HIV感染者が無症状でCD4リンパ球数200/ml以上では、HIV陰性の患者と同じ一般の歯科治療が可能である。ただし未治療で血中ウイルス量が多い場合は、感染予防に厳重に注意する。
 ・後期:CD4数200/ml以下に減少した場合、この時期でも一般歯科治療が受けられるが、病状に応じ治療内容に変更が必要である(抗HIV薬などにより血中ウイルス量が検出限界以下であれば、唾液中にもウイルスはほとんど存在しないと推定できる)。
 なお、最近急増している梅毒患者の中にもHIV感染者が増えているようで、感染部位に症状が出ることが多く、オーラルセックスによる口腔内の症状にも注意が必要になってくる。
〈歯科における院内感染対策〉
 現在の院内感染対策の基本は「スタンダードプリコーション(標準予防策)」である。これは全ての患者に対して行い、血液や体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚や粘膜に対して行う感染対策のことである。
 ・スタンダードプリコーションの要素
 グローブ、マスク、ゴーグル、ガウン、口腔内・外のバキュームの使用。
 診療器具の滅菌、消毒、診療環境管理(清潔・不潔ゾーン)、外傷の予防。
 ・エンジニアリングコントロール(安全な器具や装置の使用)。
 ・ワークプラクティスコントロール(診療手技の改良を考える)。
歯科診療時の注意事項
 ・事前の消毒効果のある含嗽剤による感染率の減少。
 ・バリアテクニックやラッピングテクニックの使用。
〈グローブの使い分け〉
 ・一般治療用のグローブ(消毒)
 患者のケア、検査、粘膜に触れるような非外科的処置、技工作業時
 ・外科用滅菌済のグローブ(観血的処置や外科処置)
 ・非医療用手袋(雑用時の手袋)業務用、産業用、
〈スポルディング(Spaulding Classification)の分類〉
 ・滅菌(クリティカル)通常は無菌の組織や損傷粘膜に接触
 ・消毒(セミクリティカル)損傷のない粘膜や創部の皮膚に接触
 ・洗浄(ノンクリティカル)損傷のない皮膚に接触
〈針刺し事故による暴露後の対応〉
 一般に針刺し事故が起きた場合の対応として、できるだけ速やかに流水で傷口を洗浄するとともに血液を絞り出し、その後は傷口に消毒液を用いて消毒することが望ましいと言われている。
HBV暴露後の対応
 暴露源患者がHBs抗原陽性であるかどうか、不明であれば被暴露者のHBs抗体チェックする。被暴露者のHBs抗体が陽性なら感染の可能性は、ほとんどない。感染の可能性があればHB免疫グロブリンを1回とHBワクチンを受ける。
HCV暴露後の対応
 原則として被暴露部位の洗浄、消毒以外に予防投与は行わないとされてきた。しかし、最近は新薬が開発され治療可能となってきたので、必ず専門の医師に相談し対応する。暴露源患者のHCV感染が判明したら事故後4~6週でHCV-RNAを測定する。被暴露患者は感染の可能性がある場合には、専門外来で定期的に検査を受ける。
HIV暴露後の対応
 HIVに感染した可能性がある場合には、できる限り早め(2時間以内)にエイズ拠点病院に連絡して抗HIV薬の投与を受ける。暴露後少なくとも6週間、3カ月、6カ月後のHIV抗体検査を受ける。
 もし、針刺し事故によって暴露事故が発生した場合には、応急処置を施した後に早めに感染症科や専門の内科などの医師に相談することが必要である。

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第10回医療政策懇話会 話題提供要旨「あるべき地域包括ケアシステムの構築に向けて」今田 隆一氏(2018.2.23)*会員専用

第10回医療政策懇話会 話題提供要旨
あるべき地域包括ケアシステムの構築に向けて
坂総合クリニック宮城県認知症疾患医療センター・脳神経外科 今田隆一
はじめに
 高度高齢化社会の進行に伴って高齢者の医療・介護に対する抑制策が強化されている。政府・厚生労働省は、支援が必要な高齢者へ向けた地域包括ケアシステムの構築を進めており、関連して平成30年度からすべての自治体でいわゆる総合事業が開始される。
 今日私たちは政府・厚生労働省の政策への理念的批判のみならず、必要な対応策と具体的な対案の作成、合わせて住民ならびにサービスやシステムの担い手の要求実現へのプロセスの提示も行う必要がある。本稿は保険医協会役員会などで話題提供してきた内容を要約したものだが、住民ならびに私たちの要求・要望実現の一助になれば幸いである。
1.進められている地域包括ケアシステムに対する理念的批判
 地域包括ケアは本来、「必要なサービスを受けながら住み慣れた地域で長く生活し続けたい」という住民の当たり前の生活要求を実現するものでなければならない。しかし政府はそのための条件整備として、日本国憲法25条の立場とは異なって「自助、共助、互助、公助」の順に行おうとしている。しかしそもそもの政策的意図は医療・介護抑制政策の強化にあり、結局社会保障財政の困難を受益者本人ならびに地域コミュニティーへの負担増で乗り切ろうとする「個人責任」・「地域責任」ともいうべき公的責任放棄の政策の実行なのではないだろうか。その結果、医療・介護におけるナショナル・ミニマムの縮小と住民・自治体間の格差の拡大をもたらすことになるのは火を見るより明らかだろう。自治体行政の立場からも黙過できない重大事態のはずである。
 私たちは医療・介護における専門職の一翼として改めて日本国憲法13条、あるいは25条実現を立脚点にした「あるべき地域包括ケアシステム」の構築について具体的に検討し、実践課題としなければならない。
2.各自治体におけるシステム構築の進められ方と現状
 地域包括ケアの典型的なテーマは在宅医療と認知症医療である。こうした課題に対して厚生労働省はモデル図を作成している。しかし図1を見てもいくつかの疑問と問題点が見えてくる。

 従来は医療と介護は直接結ばれていた。しかし図1では「住まい」を中立ちとした仕組みになっている。こうした考えは現在検討中の「地域医療構想」における「慢性期医療用ベッドの縮小」と「在宅医療」への患者誘導策を思い起こさせる。また介護領域における「在宅メニューの拡大」と「施設入所の抑制」を思わせる。こうして「いつもは在宅で。時々、入院」「いつもは在宅で。時々、入所」となり、単身・老々世帯が増えて、高齢者世帯収入も伸び悩み、公的年金だけでは暮らせない状況の中では医療・介護難民が大量に発生しかねない。
 生活支援・介護予防の担い手についても不安は尽きない。モデル図では「老人クラブ・自治会・ボランティア・NPO等」となっているが、公的、私的、自主的組織が混在しており、曲がりなりにも担い手作りが公的責任の元、長い時間をかけて行われてきた医療や介護に比して極めて心もとない。
 さて市町村に対して示されているシステム構築のプロセスは図2の通りになっている。

 最初に行うべき内容は「地域の課題の把握と社会資源の発掘」である。地域の課題の把握は3点で行われる。第1に「日常生活圏域ニーズ調査」であり、通常は住民へのアンケートにて行われる。第2に「地域ケア会議の実施」であり、地域包括支援センター等で個別事例の検討を通じ、地域のニーズや社会資源の把握を行うこととされている。医療側では地域医師会へ事例検討の在り方・持ち方などが相談される。第3に「医療・介護情報の見える化」であり、通常は県の担当部署のフォーマットに各自治体ごとのデータを入力することによって行われるようである。一方、老人クラブ・NPO・ボランティア組織などの地域資源の発掘や地域のリーダーの発掘も行うこととされている。
 このプロセスを通じて明らかになった地域の課題と社会資源の現状を具体化するにあたり、県ならび各自治体の各種計画との整合性を図りつつ住民参画の仕組み(協議体設置)を作って意見・要求を聞き、一方地域ケア会議を通じて保健、医療、福祉、地域の関係者の協働を促すこととなる。
 こうした取り組みを通じて「介護サービス、医療・介護連携、住まい、生活支援/介護予防、人材育成(県が主体)」の課題を進めることとなっている。
 だがこういうプロセスで本当に、障害高齢者や虚弱高齢者でも安心して住み続けられる地域と包括ケアの仕組みを作り上げることができるのだろうか。
3.私たちの立場 保団連の提言にふれて
 保団連の提言では「私たちは地域の医師・歯科医師として、『開業医宣言』の理念に基づき、①多職種連携の推進、②サービス担当者会議への参加やケアプラン策定への協力、③困難事例の把握と地域包括支援センターとの連携、④地域ケア会議への参加、⑤困難事例解決に向けた制度改善要求などへの取り組みを強め、患者・住民が求める『真の地域包括ケアシステム』の実現に取り組んで行くものである。」とサマリーの中で述べている。このこと自体は極めて妥当でかつ時宜に適った提言であるが、上述したような地域包括ケアシステムの到達点を踏まえると、例えばサービスの内容については以下の7つの点検項目による検証が必要であろう。すなわち、①提供されるサービスの間に隙間はないか、②サービスの質はどうやって担保されるのか、③利用料負担はどうなのか、④サービス提供者(担い手)の人件費は適正か、⑤サービスの量は十分か、⑥必要時に迅速に提供されるのか、また手続きは簡便か、⑦住民への情報は行き届いているのか―である。地域ケア会議や困難事例の検討を通じて現状を振り返りつつ、改善につなげる、いわゆるPDCAサイクルを回す必要があると思われる。
4.地域包括ケアシステム構築の担い手
 ここでいう「システム構築の担い手」とは個々のサービスの担い手ではない。構築のプロセスを見るとシステムの主たる担い手は「自治体の中における担当者・部署」「地域包括支援センター」「地域医師会」「住民参画による協議体」の4者となる。要求・要望実現のためにはこの4者との関係をどう築くかも重要である。中でも「住民参画による協議体」は基本的にオープンな方法で形成・運営されるはずであり、住民の意思が直接反映される機構として注目される。加えて自治体行政という立場からは首長・議員とどういう議論を積み上げていくかも重要であろう。さまざまな機会を得て、進められる必要がある。
5.現状の把握と具体的な提案の準備を急ぐ必要がある
 総合事業はじめ地域包括ケアシステムは文字通り、地域・圏域・自治体単位で具体化され、進められていく。社会保障・社会福祉・公衆衛生のナショナル・ミニマム保障の在り方や介護保険・医療に関する全国をあげた運動課題と併せて、それぞれの地域・自治体に合ったきめの細かな取り組みが求められている所以である。本協会の中でも引き続き、研究と討議を重ねていくことが求められている。

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歯科会員学習懇談会 講演要旨「適正な歯科医療のコストはこれだ!!〜歯保連試案で考える〜」今井 裕氏(2017.7.11)*会員専用

歯科会員学習懇談会
「適正な歯科医療のコストはこれだ!!〜歯保連試案で考える〜」
歯学系学会社会保険委員会連合(歯保連)前会長、獨協医科大学名誉教授・特任教授 今井 裕
 わが国では、1961年に国民皆保険が達成され、「誰でも・どこでも・いつでも」医療を受けることが可能となり、以来、医療保険制度は国民の健康維持・増進に大きく貢献しています。この医療保険制度における診療報酬は、医療行為に基づいて計算されていますが、診療は医学・歯科医学の学問的基盤に基づいて行われるため、これに対する報酬も学術的根拠に基づき合理的な方法によって決定されるべきことは明らかです。しかしながら、診療報酬がどのように決定されているのか、これまで明確な根拠が示されていません。そこで、医科では昭和42(1967) 年日本口腔科学会を含む9学会により外科系学会社会保険委員会連合(以下、外保連)が結成され(現在は 101の外科系学会が加盟)、手術報酬に対する適正・合理的な診療報酬はどうあるべきかを学術的に検討を始めました。その結果、手術料は、技術度(難しさはどの程度か)、協力者人数(ど のような資格の人が何人必要か)、所要時間(何時間かかるか)の3要素から算定することとし、昭和57(1982)年これら3要素に基づいた各手術の報酬を算出し、外保連試案(初版)として上梓されました。その後、様々な改定が行われ、現在は進化した外保連試案(第8.2版)まで公表されています。
 翻って、歯科における診療報酬を鑑みると、医学的根拠に基づいた診療報酬の評価が行われているとは考え難く、歯科においても、純粋な学問の立場から、国民からも理解が得られる適切な歯科診療報酬体系の再構築が喫緊の課題と思われました。そこで、歯科でも医科と同様な組織、すなわち、「最新の学術的根拠に基づく歯科診療報酬体系を提示して、医療制度の健全な運営を図るための組織」を創り、活動することを目的に、平成21年8月17日歯学系の27学会により歯学系学会社会保険委員会連合(歯保連)が設立されました。
 歯保連は独立した組織として、1)全ての情報を公開し、それらを皆が共有すること、2)広く意見交換を行うこと、3)あらゆる組織と対峙しないこと、を申し合わせ、1.「外保連試案」に習いつつも歯科の独自性を担保した「歯保連試案」の作成、2.現在の歯科診療報酬評価項目の再検討、3.新たに歯科診療報酬で評価すべき項目の検討、を活動目標として掲げ、活動を始めました。当初は私個人の能力不足も相俟って、その趣旨を理解していただくことができず、遅々として活動が進みませんでした。しかしながら、多くの先輩方のご指導と仲間の支えを得て、徐々にではありましたが「歯保連試案」作成の輪は広がり、平成27年上梓することができました。
 以下に、「歯保連試案・詳細版、技術名:永久臼歯抜歯」の概略を記します。なお。人件費、技術度等の算出方法については、「歯保連試案2016」をご参照下さい。
技術の概要:永久歯の上下臼歯の普通抜歯
1.所要時間:40分
2.医療材料の総和:3,023円
 材料費:2369円
 穴あき覆布(中)980円、手術手袋160円×3、帽子23円×3、
 マスク38円×3、ディスポゴーグル115円×3、替え刃230円
 紙コップ1円、注射針150円、
 間接経費:260円、
 歯科診療台:470×24/60=188円
 薬剤;206円
 ビテングルコネート20% 10ml 48円、
 ヒビテン液5% 10ml 19円、イソジンガーグル7% 1ml=3円、
 キシロカインCt(1.8ml)136円
3.人件費:総計:18,030円
 人件費単価:術者歯科医師(B):397×40=15,880円
 介助歯科医師:0円
 歯科衛生士/看護師:43×50=2,150円
 歯科技工士:なし
4.診療報酬額:医療材料+人件費総額:3,023円+18,030円=21,053円
5.高額医療機器または特殊器材名:なし
6.ガイドライン無、技術の普及度、普遍的、治癒率:確立した技術である。
 
 現在の歯科診療報酬では、大臼歯の抜歯は260点ですが、「歯保連試案」では21,053円(2100点)と算出されました。この乖離をどのように考えるかは、ここでは議論しませんが、少なくとも「歯保連試案」は、信頼性の高い根拠に基づき技術度、人件費、材料費、所要時間等を勘案した結果であることは明らかです。
 今後、歯科診療報酬を協議するに当たり、「歯保連試案」を参考にしていただき、結果、国民からも理解される歯科診療報酬が構築され、何よりも国民の健康に寄与することができれば、「歯保連試案2016」作成に関わったひとりとして望外の喜びであります。

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第243回歯科学術研究会 講演要旨「東北大発の新規骨再生材料の開発から製品化に向けて」鎌倉 慎治氏(2017.11.11)*会員専用

第243回歯科学術研究会
「東北大発の新規骨再生材料の開発から製品化に向けて」
東北大学大学院医工学研究科骨再生医工学分野教授 鎌倉 慎治
 東北大学で開発された新規骨再生材料とはリン酸オクタカルシウム・コラーゲン複合体(OCP/Collagen)を指し、それらはリン酸オクタカルシウム(OCP)と医療用コラーゲンを複合した骨再生を促す足場材料である。
 骨欠損に対する治療法開発は歯科・口腔外科、整形外科など多くの領域で重要な課題であり、歯科・口腔外科領域では、顎裂部(唇顎口蓋裂患者)や顎骨腫瘍切除後等の骨欠損、抜歯窩、嚢胞腔、病的骨吸収(歯周病等)、萎縮歯槽堤などが対象となる。通常、抜歯窩などの小さな欠損は自己修復機能で補われる部分が多く、機能障害が顕在化しないため問題視されることは少ないが、自己修復の望めない大きな欠損は、それらを放置することで機能障害(発音・咀嚼・審美障害等)が生じる。現状では大きな骨欠損に対しては、患者自身の腸骨などを口腔内の骨欠損に移植する自家骨移植が標準的治療法とされている。しかし、自家骨移植は採骨のため健常部に外科的侵襲を加えること、採骨量の制限から広範な骨欠損では対応不能なこと、そして多くの場合入院加療が付随することなど、患者にとって負担が大きい。
近年、骨修復の三要素として、その直接的な担い手である「細胞」、細胞の分化・増殖を制御する「シグナル分子」、および前二者の機能を発揮させる「足場」(生体材料などの担体)が重要な役割を演じ、これらの協調によって効率的な骨修復が行われることが明らかになってきた。私は歯科領域における骨再生治療の特徴的背景は、その比較的低い緊急性、患者さんの許容が低リスク・高効果であること、そして高い外来診療の依存度にあると考えており、それらを実現するためには「足場」の活用が最も効率的であると考えた。
 骨の無機成分を構成する骨アパタイトに構造が類似するリン酸カルシウムにはハイドロキシアパタイト(HA)やOCP、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)などが含まれ、既に人工合成のHAやβ-TCPが開発・臨床応用されている。しかしながら、上述のように未だに自家骨移植が標準治療と捉えられており、それらに代わり得る骨代替材料は存在していない。
 OCPは生体内での骨アパタイトの前駆物質として知られ、人工合成したOCPを実験的骨欠損に埋入すると、それらは骨再生の核となり、積極的に骨再生に関わり、かつ生体内で吸収性を示す優れた骨再生材料であることが示唆されていた。しかし、OCPは構造上、焼結・成形が困難で賦形性・操作性に難があり、臨床応用の道は閉ざされていた。そこで OCPと他の材料との複合化によってそれらの欠点を補おうと考え、「生体骨組織は無機成分である骨アパタイトとコラーゲンなどの有機成分から構成される複合体である」ことに着想を得て、OCP/Collagenが開発された。それらは人工合成したOCP顆粒と医療用コラーゲンを複合化・凍結乾燥後、スポンジ状に成型することで賦形性、操作性を改善した。
 OCP/Collagenは前臨床研究で安全性を確認するとともに、小動物を用いた有効性試験で優れた骨再生能や吸収性を示すこと、細胞や成長因子の補充なしで骨再生を実現すること、OCP/Collagen由来の再生骨は既存骨と同等な性質を示すこと、そして使用法が簡便で煩雑な操作や管理体制が不要で優れた費用対効果を持つことが明らかになってきた。その一方で臨床症例に即した大型動物のさまざまな骨欠損モデル(抜歯窩、顎裂、永久歯萌出、インプラント接合など)を用いてOCP/Collagenの有効性を検証した。その結果、抜歯後の歯槽形態が再生骨によって保たれること、OCP/Collagenを埋入した顎裂部は周囲の既存骨と骨架橋がなされ一体化するとともに、既存骨に類似した骨梁構造を復元すること、永久歯の萌出を妨げず、永久歯の萌出位置の低下や歯槽頂の減弱が見られないこと、そしてOCP/Collagen埋入部と歯科用インプラントの界面は新生骨で直接的に強固に結合することを確認した。
 それら前臨床試験の安全性・有効性データの蓄積を基に、2011年より東北大学病院口腔外科で成人の嚢胞腔・抜歯窩に対する探索的臨床研究を行い、安定した術後経過を示すことや顕著な有害事象を認めないこと、そしてエックス線所見による骨再生能を確認した。その後、2015年より東北大学大学院歯学研究科顎顔面・口腔外科学分野を主幹施設とし、口腔外科領域の骨欠損を対象とした企業主導による多施設共同治験を開始し、医療機器として2018年度の製品化を目標にしている。
 現在はOCP/Collagenの製品化の実現で、医療現場のニーズ(必要性)と研究者のシーズ(技術や材料)が繋がり、東北大学発の研究成果が社会に還元できることを期待するとともに、医科領域での骨欠損修復への応用や日本発の医療技術として世界への展開を目指している。

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