シリーズ「女川原発廃炉への道」No,11


シリーズ「女川原発廃炉への道」

県民の意思と掛け離れた議会、首長判断

副理事長・公害環境対策部長 杉目 博厚

 女川町議会は9月7日、石巻市議会は同月24日にそれぞれ本会議で、「女川原発2号機早期再稼働を求める陳情」を賛成多数で採択し、再稼働同意を示した。それを受け、両首長も再稼働容認の意思を表明した。当会は3度にわたる医療機関や介護施設に対する避難計画の実態調査を行い、結果としてこの避難計画は実効性がなく、破綻していることを明らかにした。加えて今後も実効性のある避難計画は作製不可能だと判断し、さまざまな形で再稼働反対の運動を行ってきた。また再稼働の地元同意を行わないことを求める会員署名を実施し、その署名と共に8月27日、宮城県知事および立地自治体首長あてに要請書を提出し、記者会見を行った。
 実効性のない避難計画は重大事故発生時における住民の被ばくを意味するものだ。
 また避難先への住民の移動完了時間においても、膨大な時間を要することが明らかになり、避難中の被ばくは容易に想定される。この計画に盛り込まれている屋内待避はある一定程度の被ばくを住民に強いるものであり、到底容認出来るものではない。被ばくありきの避難計画であることは明白である。
 福島第一原発事故の教訓は何処にいってしまったのであろう。原発事故の被害は立地自治体に留まらない。南相馬市(原発から20~30㎞)、浪江町(30㎞圏)、飯館村(40㎞圏)等では甚大な被害を受けている。群馬大学早川教授の福島第一原発事故の放射能汚染地図を女川原発にそのまま転写した場合、仙台市でも2µSv/h程度の汚染となる。原発再稼働可否の判断を女川、石巻の立地自治体だけの問題ではないのである。また万が一過酷事故が起こった際、高濃度汚染された土地は住むことが出来なくなる。それだけではない、農林水産業は壊滅的な被害を受けるという事実は福島第一原発事故で明らかになっている。その覚悟が立地自治体や宮城県民に本当にあるのか。目先の利益のみを考え、未来に対し責任を負わないという選択でよいのだろうか。隣県福島で起こった悲劇を我々はもう忘れてしまっているのか。今般の採決前の討議において、賛成派議員の「温暖化対策で日本の役割を果たすため、CO2を排出しない原発の再稼働が必要」や「国策に対して地方が口出しすることはできない」などの発言があったと報道されている。未だこのような主張をしていることに驚きを隠せない。今の時代、原発以外にCO2を排出しない方法はないとでも言うのであろうか。太陽光や風力、その他多くの再生可能エネルギーがあるではないか。原発はCO2を出さないがトリチウムを海洋に排出する。温排水により海洋温度を上昇させる。核のゴミを生み出し、事故が起これば多量の放射能を大気中にばらまく。温暖化対策=原発可動というのは一昔前の原発神話の復活でしかない。また「国策」という言葉を発した議員に対しては、全くの認識不足と言わざるを得ない。2018年閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」には、「まず2030年に向けては『エネルギーミックス』の確実な実現を目指していきます」とされている。その中で原子力発電については「依存度をできる限り低減するという方針の下」という文言が明記されている。一方、再生可能エネルギーは、その目標を22~24%としている。東北電力の2019年度電源構成を見てみると、FIT電気(電気買い取り制度)を除く東北電力自体の再生可能エネルギーは7%に過ぎない。大きすぎるリスクを生む原発再稼働より前に、この再生可能エネルギー比率を国が示す22~24%にさせることが先ではないのか。そもそも原発再稼働は、東北電力という事業体が国に申請を行うことにより発するものである。原発立地、稼働、再稼働すべての決定は自治体によって決定される。「自治体政策」そのものであり、原発は「国策」というのは自治体や地方議員の言い逃れであり、責任転嫁である。原発事故が起こった際には新規制基準合格を示した国、事業体である東北電力、そして最も責任が大きいのは実際に稼働することを可とした自治体である。この原稿を書いているのは10月1日である。会員の皆様の目に触れるとき(10月25日)には県議会もこの判断を示している可能性がある。どういう判断をしていますか? 河北新報が今年4月に報じた宮城県民有権者に行った世論調査の結果は、●女川原発再稼働に「反対」「どちらかといえば反対」は61.5%、「賛成」「どちらかといえば賛成」は36.3%。●原発の安全性については「不安」「やや不安」が74%、「安全」「ほぼ安全」は25.3%。不安感は女川町でも55.1%、石巻市では84.8%。●女川原発再稼働に必要な「地元同意」の範囲について、「県と立地自治体の女川町、石巻市」が適切だとする回答は7.6%「県と立地自治体に原発30㎞圏内の5市町(登米市、東松島市、涌谷町、美里町、南三陸町)を加えた範囲」との回答29.8%、「県と県内全ての自治体」との回答が60.8%●「住民投票実施」に賛成は79%であった。このような結果を見ても、現状は県民の民意と大きく乖離している。いずれにしても当協会は医師・歯科医師の団体として、県民の命と健康、財産と生業を守り、安全安心な未来のため「女川原発再稼働は許さない」という確固たる信念に基づき活動していく。
 未だ日本は原子力緊急事態宣言が発令中である。

 

本稿は宮城保険医新聞2020年10月25日(1732)号に掲載しました。

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