投稿「かかりつけ医の在宅医療」


かかりつけ医の在宅医療

宮城県保険医協会顧問 北村 龍男

はじめに

・団塊世代の高齢化、在院日数の短縮、診療報酬での「施設から在宅へ」の誘導で在宅医療の需要は増加する。在宅医療に取り組む診療所も増加する。特に在宅医療を専門に行う診療所が増加が目立つ。
・これまでの北村神経内科クリニック、多賀城あかざクリニックでの在宅医療の経験を踏まえ、24時間対応の在宅療養支援診療所から一般診療所まで、かかりつけ医の各々の条件と機能に応じた在宅医療について考えて見た。
・これから在宅医療に取り組む医療機関に参考にして貰えればうれしい。

1.これからの在宅医療
11.高齢者の状況と在宅医療

・後期高齢者(2030年には19.7%)、単身高齢者世帯(2030年には37.7%)、死亡者数(2025年には年間160万人)、要介護高齢者(2030年、19.8%)認知症高齢者の急増(2025年には470万人、その50%が居宅で暮らすと予測される)が推定される。これらは在宅医療の需要拡大をもたらす。
・介護認定でも要介護高齢者が増加、認知症高齢者の増加は、通院困難者が増え、在宅医療の希望増加が見込まれる。
・在宅医療の患者さんは多疾患である。疾患以外にも多くの課題を抱えており、在宅医療では、患者・家族の人生とも向き合わねばならない。
・治癒不可能な病態を持った患者さんを、終末期まで生活の質を確保しながら医療対応する課題もある。
・在宅医療では、訪問して診療するだけでは高齢者を支えることはできない。診療外の色々な対応が求められる。
・入院・精査のための医療機関、訪問看護、訪問歯科診療、訪問薬剤管理、訪問リハビリステーション等との連携が必要である。
・地域包括ケアシステムの下で、医療と介護の連携が不可欠である。

注)在宅医療では、患者の生活そのものを支える医療が求められ、訪問して診察するに留まらない。診療、診療外の課題、把握すべきことを整理する。
〈 診療 〉
 診察、検査、治療、予防対策、ADL/QOLの向上、障害の改善・悪化予防、延命、最終段階での希望、看取り方針、等
〈 診療外 〉
本人:生きがいやこだわっていること、家族への思い・期待、介護サービスの考え、介護との連携、看取り方針の確認、等
家族:本人への思い、経済的な問題を含めた生活環境、介護サービスの考え、家族との関係、等
医療連携:入院・精査のための医療機関、入院設備、他科への往診依頼、等
介護連携:CMとの連携、地域の介護資源の理解・把握、介護保険の理解、サービス担当者会議・地域ケア会議・在宅患者緊急時カンファレンス等への参加、等

12.診療報酬などでの国の誘導

 2022年の診療報酬改定の在宅医療に関し、以下の様な改定(要旨)があった。
(在宅療養支援支援診療所・在宅療養支援病院)
・すべての在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院(以下、支援診、支援病)の施設基準に、看とりに関する指針を定めることが追加された。
・機能強化型支援診・支援病は地域ケア会議、サービス担当者会議、病院や介護保険施設等との多職種連携に係わる会議等に参加することが望ましい旨が施設基準に追加された。
・機能強化型の支援病の施設基準変更され、「後方ベッドの確保及び緊急の入院患者の受け入れ」又は「地域包括ケア病棟1若しくは3」の届け出あれば良いとされた。
(在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料)
・訪問による対面診療と情報通信機器による診療を組み合わせた点数が新設された。オンライン診療に見られるように、直接的な診療を免除する動きが見られる。
・継続加算が在宅療養加算「1」「2」に再編された。地域の医師会、市町村の当番医制に加入することで24時間連絡体制を確保で加算が認められるようになった。
・在宅データ提出加算が新設された。
(救急搬送診療料)
・重症患者搬送加算が新設され、重症患者搬送チーム若しくは複数医療機関の医師の搬送が要件である。
(その他)
・訪問看護指示書が変更され、訪問看護ステーションの理学療法士等が訪問する場合、実施時間及び実施頻度を記載することとなった。
・外来在宅共同指導料が新設された。外来医療から在宅医療に移行するに当たり、患家において、外来医療を担う医師と在宅医療を担う医師が連携して指導等を実施下場合算定する。
・在宅患者緊急時等カンファレンス料は、1者が患家においてカンファレンスに参加すれば、その他はビデオ通話が可能な機器での参加でも良いとされた。
・在宅医療に外来感染対策向上加算が新設された。初・再診料の同加算を届け出た診療所は、在宅患者訪問診療料等を算定した場合月1回算定できる(連携強化加算・サーベイランス強化加算も同様)。
・訪問診療により外来診療に関する加算の要件になる項目がある。地域包括診療加算、機能強化加算など。
*在宅看取り、地域での市町村・医療機関間の連携、多職種連携、オンライン診療、リハビリの重視し、入院から在宅への誘導を行おうとしている。

13.外来医療と在宅医療

・かかりつけ医の外来患者から在宅医療の依頼は増えると予想される。
・入院中から、退院時からの在宅療養になるケースがある。
・在宅・介護施設での看取りが増える。
・より多くの医療機関が在宅医療への参加が求められる。外来患者に関わってきた医療機関は、多くの医療・介護職種と連携すれば、在宅医療に取り組むことは可能である。
・支援診以外の訪問診療も重要である。
・前述のように外来診療と比べると、患者さんの生活全体、人生そのものと係わることが多い。外来医療と比べるとより一層、診療以外の諸々の課題に目を配る必要があり、より一層医療機関(医療職)・介護サービス(介護職)・行政など福祉関係者との連携が求められる。

14.在宅医療の報酬

・在宅医療の診療報酬は複雑で多くの診療報酬の項目がある。訪問診療報酬には多くの規定があり、その都度確認して頂きたい。患者の居住の形態、医療機関の体制によって診療報酬は大きく異なる。在宅患者訪問診療料と在宅時医学総合管理料、施設入居時等医学総合管理料は、どのような体制で在宅療養に取り組むかを考える上で重要である。在宅患者訪問診療料1と在宅時医学総合管理料、施設入居時医学総合管理料の単一建物診療患者数一人、月2回訪問、病床なし、末期癌・気管切開管理などを行っていない症例について例示する。
①在宅患者訪問診療料1:
同一建物居住者以外888点
同一建物居住者213点
②在宅時医学総合管理料:強化型支援診、強化型支援診以外、その他で異なる。
強化型支援診(在宅/施設入所) 4,100点/2,900点
強化型支援診以外(在宅/施設入所) 3,700点/2,600点
その他(在宅/施設入所) 2,750点/1,950点
・この様に、在宅医療の報酬は、患者の居住、在宅医療を行う医療機関の体制によって異なる。かかりつけ医(かかりつけ医療機関)の場合は、強化型支援診以外、あるいはその他が選択されると思われる。十分検討し、どのような居住に、どのように体制を整え在宅医療に取り組むか検討が必要である。

2.在宅医療に取り組む視点

・最良の解決策を見いだすために、チームをつくり、情報を共有し、他医療機関・多職種との連携が不可欠である。
・在宅医療は、患者さんの生活スタイルや生き方、家族・生活環境にも関わる。
・これらの課題に取り組むには、持続的なチーム作りが欠かせない。
・チーム内での情報の共有が何よりも重要である。そのために定期的なミーティングが必要である。
・医科・歯科医療機関、ケアマネジャー(以下、CM)、訪問看護師、ヘルパーなど多(他)職種、行政との連携が不可欠である。地域によって、連携の状況は異なる。地域の状態を知るためには、地域の包括支援センターと連絡をとることをすすめる。
 中でも、CMとの連携は重要で、可能な限りサービス担当者会議に参加するようにする。
 いわゆる顔の見える関係を築きたい。
・これらの活動をすすめて行く上で、専任看護師が要となる。

・医療機関は第一に診療を求められが、訪問診療でどの分野を担うのかを明らかにしておくことも重要である。介護中心の患者さんか、医療処置が必要な患者さんか、看取りを目的とする患者さんか。重症・難病の疾患にどう取り組むかも検討しておく。
・患者さんは「後は看取り」の方だけでない。ほとんどの方が急性症状が出ても回復する方達である。連携医療機関を持つことは重要である。
・急性の変化に対しては、ほとんどの病状変化は、電話対応で可能と思われる。しかし、必ずフォローが必要である。翌日の電話連絡、往診が必ず必要である。今後は、オンライン診療の活用も検討したい。

3.かかりつけ医の在宅医療の取り組み

 かかりつけ医がどのような体制で在宅医療に取り組むか。在宅支援診療所は届け出が必要である。ここでは、強化型以外の支援診、支援診の届け出は行わないモデルで考える。

31.強化型以外の支援診

検討のモデル
・外来医療に取り組みながら、強化型以外の支援診としてに取り組む場合。
・対象患者数は20名以上。24時間体制。医師は1から2名。
診療の在り方
・直接診療することが重要。多疾患が多く、訴えだけでは判断が難しい。また、訴えがはっきりしないことがある。
・補助的な診療としてオンライン診療は有用であろう。しかし、後日の症状確認、経過観察が必要である。
・患者の疾病のみでなく、生活全般を把握し、支援を要する。
「診療外」の取り組み
・前述を参考にして頂きたい。ここでは特に強調したい点を述べる。
・少なくとも、病状、生活状況、家族の介護体制、介護サービスの利用状況、趣味・楽しみ、他について話題にし、記録する。
・医療機関との連携、最近の受診歴、入院歴。
・介護サービスのケアマネジャーなどとの連携が欠かせない。訪問診療時には、居宅療養
管理指導の情報提供を行う。
在宅医療チームの構成
・医師、看護師(複数)、事務員(保険請求)が最小限必要である。
・チームリーダーは医師。患者の全体を把握していること、訪問診療の方針をまとめること。
・専任看護師。医師が全日関われない場合はチームリーダー(代行)。在宅医療を優先して業務に当たれること。役職として位置づけること。業務として位置づけ、手当が必要。医療機関として在宅医療に積極的に取り組むためには不可欠な職種である(対外的活動のため、名刺、名札は必要である)。拘束を兼ねて担当する場合、極力時間外勤務は避ける(24時間勤務が前提であるため)。
・情報を共有するため、定期的なミーティングを設ける。
・拘束は業務として位置づけ、手当を支給すること。(勤務時間外の)往診対応は時間外勤務とすること。拘束は複数体制が望ましい。専任看護師が主たる拘束者となり、医師がバップアップすることは可能であろう。
・医師事務作業補助業務:訪問に同行する看護師が担当する(医師事務作業補助者の業務に準じた作業:医療文書の作成代行、診療記録の代行入力、医療の質向上させるための事務作業、行政の対応、但し、加算のためには有床が要件)。
連絡網(再確認)
・本人・家族→拘束担当者(専任看護師の兼任が望ましい)→拘束の医師に連絡。拘束者が何らかの理由で電話を受けられない場合は、医師に転送する。

32.一般診療所での取り組み(在総診:その他)

検討のモデル
・診療所が診療の一部として在宅医療に取り組む場合。在総診の届け出をしていない場合。
・一人医師の診療所。24時間体制は取れない場合もあることを患者に明示する。
特徴
・外来診療に引き続き、訪問診療をすることは、患者さんのこれまでを知っている、診療所の職員皆が知っているという大変価値のある情報を持っている。
・患者さんに合った訪問診療をおこなえる。月1回の訪問とするなど。患者の負担(金)を減らすことが出来る。
診療の在り方、連携は強化型支援診以外と同様。
在宅医療に取り組む体制
・診療所全体で取り組む。
・院長、あるいは看護師長をまとめ役と位置づける。
・情報を共有するため、業務の分担のために、定期的な診療所のミーティングで、在宅医療の患者さんの課題を取り上げる。
・院長の出張などで、看護師に拘束を依頼する場合、拘束手当を支給すること。また、病状把握のため患家に赴く場合は時間外勤務とすること。
連絡網
・本人・家族→医師、又は看護師長に連絡。

まとめ

 最良の解決策を見いだすために、チームをつくり、情報を共有し、連携する。要は専任看護師。

追)
・在宅医療では、患者さんのご家族などとの生活全体の様子、介護ザービスの利用などを把握し、患者さんの希望に添えるようにすることが求められます。この様な取り組みは、チームとしての取り組みが欠かせません。
・最近は専門的に在宅医療に取り組む診療所が増えている。在宅医療の依頼があり、必要な体制が取れない場合は、CMあるいは地域包括支援センターの相談するのが良いと思う。

2022/09/20

〈参考資料〉
・保団連:第28回医療研フォーラム、在宅医療セミナー
・保団連:点数表改定のポイント、2022年4月
・日本医師会:かかりつけ医の在宅医療

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