講演要旨「宮城県保険医協会 第46回定期総会記念講演『沖縄問題と日本』」


講演要旨
宮城県保険医協会 第46回定期総会記念講演

沖縄問題と日本

沖縄国際大学大学院教授 前泊博盛

160927前泊博盛はじめに
 米軍基地を抱えている都道府県は31あります。日本には132の米軍基地がありますが、その中の31が沖縄にあります。圧倒的に多い数ですが、それでも100は本土にあります。本土にある100の基地についてはほとんど認識されていません。そしてそこでも沖縄と同じように基地問題は起こっています。
沖縄国際大学は普天間基地の真横にありますが、学生にテストすると8割ぐらいが普天間基地の場所がわからないという結果でした。身近にありすぎてわからなくなってしまっています。これは沖縄の31の基地がそうですが、全体の132についても日本中のどこに基地があるか、ほとんどの日本人が意識しなくなっています。

世界一危険な基地?普天間
 普天間基地は世界一危険な基地と安倍首相も菅官房長官もよく言います。「この危険な基地を撤去するためには移設するしかない。その移設先が辺野古なのだ」と言います。辺野古に移転すればもう大丈夫だというのですが、普天間が「世界一危険」である理由を尋ねると誰も答えられません。なぜなら、アメリカのラムズフェルト国防長官が、ヘリでちょっと視察した際に「このような危ないところで大丈夫なのか。世界一危険だ」と発言したことから世界一危険となってしまい、それ以来誰も検証していないからです。米軍機の事故件数をみると1972年から2015年までの間に沖縄県内では米軍機事故は676件起こっています。事故を基地別にみると普天間基地は15件。これで世界一です。一方で、嘉手納基地ではその30倍、462件起こっています。しかし嘉手納基地については誰も「世界一危険な基地」とは言いません。撤去しろとも言いません。普天間は本当に危険なのかというと基地が危険というよりも、基地から飛び立った米軍機が危険なのです。米軍機事故は海上で52件、民間空港36件、住宅付近で20件起きています。普天間基地内での墜落はほとんどなく、基地の外で事故は起きています。基地ではなく基地飛び立ち訓練している米軍機が危険なのにそのことを議論しないのです。基地を移しても危険性は沖縄の中にとどまっています。普天間基地をわずか60㌔北に移動しただけの「辺野古移設」では解決にならないのです。安倍首相も菅官房長官も譫言のように「世界一危険な普天間基地」と言っています。では30倍危険な嘉手納はどうするのか。私はこの20年間、普天間移設問題あるいは普天間撤去問題は「フェイク(誤魔化し)」と言ってきました。絶対にこれは普天間に目を向けさせ、重要な嘉手納基地が反基地のターゲットにならにようにする企みだったのではないかと疑っています。

環境アセスだけではない辺野古新基地移設
 辺野古の新基地建設は環境アセスだけが問題ではありません。法的な合理性もありません。環境アセスの不備で裁判になっていますが、建設費用についてもなぜ辺野古に造る新しい基地を日本国民の税金で造るのかという問題があります。この議論がまったくされません。あれはタダでできるわけでもアメリカが作るわけでもありません。日本国民の血税で造るのです。皆さんの税金が使われるのにそれがまったく議論されないのです。埋め立てだけでも3000億円かかります。維持管理まで含めていくと今後約1兆円の費用がかかっていきます。それなのに一切国会の中で議論されません。アメリカが造れと言ったから造る。なぜ日本がその費用を出さなければならないのか。法的な合理性も、経済的な合理性もありません。

党の恫喝でねじ伏せられる沖縄の民意
 政治的な合意性では、辺野古の新基地建設に沖縄県民は反対です。選挙で明確にその意思を再三示しました。地元の名護市長選では反対派の市長が二期当選しています。市議会議員選挙は反対派が多数を占めています。沖縄県知事選挙では移設反対を掲げる翁長雄志知事が移設容認の前知事を10万票もの大差で破り当選しました。知事選直後の衆議院選では沖縄全4選挙区で移設反対候補が当選しました。この衆議院選では9人の候補者が沖縄選挙区で立候補しましたが、移設賛成の5人も比例で全員が復活当選しています。国会では沖縄出身・選出の国会議員は、移設反対4人、賛成5人。地元の意思を無視して比例当選し、多数決の原理では5対4。このような選挙民主主義の矛盾、限界を沖縄選挙区は抱えています。
 2013年の衆議院選挙、参議院選挙で当選した沖縄の自民党所属議員たちは、選挙では「県外移設」を打ち出していました。「(普天間基地は)最低でも県外(移設)」を掲げ政権を奪取したはずの民主党政権の公約違反に懲りた沖縄県民は、次の選挙では自民党に回帰しました。ところが、当選した自民党議員らに何が起こったか。当時の石破茂幹事長に党の大会に呼びつけられ、「普天間基地の県外移設をすぐ撤回しろ、そうでなければ除名する」と迫られたそうです。全員がその恫喝を受け、公約を放棄し県内移設に転換しました。選挙公約はあっさりと党によってねじ伏せられました。日本の選挙民主主義というのは、このような状況です。恫喝によっていくらでもねじ伏せられる。選挙民との約束は党が決めればそれに従うという恫喝型の政治が蔓延してしまっています。沖縄はこのような痛い目に何度も遭っています。

国民が知らない米軍優先の航空管制
 羽田空港を飛び立つと民間機は急上昇するか伊豆半島まで迂回します。横田ラプコン(米軍航空管制エリア)があるからです。日本の領空・領土内、しかも首都圏のど真ん中に日本人が使えない、日本の主権が及ばない米軍が支配する空域があります。このような空域の存在を国民は知りません。沖縄にも嘉手納ラプコンというものがあって那覇空港に入る民間機は低空飛行を余儀なくされていました。沖縄本島が見えてくると民間航空機は高度を下げます。米軍機がより安全な高度を使うので、民間機はその下を飛ばされる。本来安全な上空を民間機が使い、脱出装置もある米軍機は下を飛ぶべきなのに、嘉手納ラプコンで米軍に管制権を握られていたこともあり、米軍優先の航空管制を強いられてきました。沖縄県民はこれに長年異議を唱え、5年前にやっと管制権を日本に移管させました。ところが、米軍優先の状況は変わりません。なぜか。管制権移管の交渉の際、「運用はこれまで通り」という条件に日本が合意したからです。安全な空域を使うためのラプコン返還交渉だったのに、「運用はそれまで通り」では意味がありません。そういうネゴシエーター(外交官=外交交渉人)たちの失態も表に出てきません。米軍機の低空飛行エリアは北海道から沖縄まで伸びています。このようなエリアを作られているのも日本だけです。ドイツやイタリアでも同じようありましたが、事故を起こしたら猛反発を受け低空飛行訓練が事実上禁止する地位協定の改定が行われています。イタリアでは低空飛行をする場合はイタリア政府の許可を取らなければなりません。ドイツは国内の航空法を守るよう指示し低空飛行訓練は禁止しています。日本はなぜそれができないのか。米軍に国民を標的にされ訓練されていることに対して何の抵抗もない国民とは何だろうと思います。政府もそれをほったらかしです。

被害に抗議すらできない政府
 2004年に沖縄国際大学で米軍大型ヘリの墜落事故がありました。消火活動後、大学の構内なのに米兵たちが大学内の事故現場を封鎖してしまいました。地位協定上、アメリカの財産についてはアメリカに管理権があるとヘリの残骸を自分たちの財産だと主張したからです。実はヘリに使われていたストロンチウムやセシウムなどの放射性物質が含まれる部品が飛び散り、米軍は極秘に調査・捜索していました。一部の米兵たちにも被曝の事実は知らされませんでした。もちろん大学にも日本の外務省にもです。米軍は、アメリカ政府は本当に信用できるのか、と疑いたくなる対応です。
 同じようなことが、原子力潜水艦が寄港する米軍ホワイトビーチでありました。地位協定上は入港のときにガイガー検知器で放射能漏れがないかチェックすることになっていますが、実は3回放射能漏れを起こして寄港していました。ホワイトビーチだけでなく佐世保や横須賀にも寄港していました。再三周辺海域を汚染していたのに、そのことを知らされたのは10年後でした。日本政府はなぜ厳重に抗議しないのかわかりません。今日の講演の前にも女性が元軍属により殺害される事件が起きましたが、犯人が逮捕された時点でメディアが首相官邸で総理に対しコメントを求めましたが何も述べませんでした。島尻安伊子沖縄担当大臣も「いろいろ聞いているがコメントはしません」とだけです。これに対しアメリカ政府は「彼は軍に雇われている者でなければ米兵でもない」とコメントしましたが、「しかし地位協定上守られる身分(軍属)にあり、われわれは責任を負う」といっています。犯罪者でも守ってくれるアメリカに対して、被害に対し抗議すらできない日本政府。国民を元米兵の軍属に殺されても抗議のコメントすらしない首相とは何だろうと思います。せめてこんなときぐらい怒れと思いました。

おわりに
 安保法制の議論が始まっていたときのアメリカの国務省の資料に「国務省は外国人の退避について他国の政府と正式な協定を提供することを控えているすべての外国政府に対して自国民の退避のための計画を作成すること、合衆国政府に対して自国民退避を依存しないことを強く要請する。そして海外における危険的事態において合衆国政府の第一義的な関心は合衆国市民の保護である」というものがあります。アメリカは自国民を守るために米軍を使うのであって、他国を守ることはしないということです。それなのに安倍首相は、戦場で逃げ遅れた親子をアメリカ軍が助けに行くとパネルを使って説明していました。そんな事態はありえないのに日本人を助けに行くアメリカを日本が助けないのはおかしいという道議論を展開し、国民も納得させられ安保法制が通ってしまいました。アメリカは守る気はないと言っているのに、それを守るために集団的自衛権の議論をしているのです。国会は何をやっているのかと思います。
 アメリカは集団的自衛権の行使を解禁したとしても、日本を助けるために行使する可能性はないかもしれません。その証拠に尖閣問題は不関与です。北方領土問題はロシアが実効支配しているので手が出せません。竹島問題では同じ同盟国の韓国と争っているため、やりません。3つの領土問題について、アメリカはまったく手出ししないということです。安保条約が適用されるのは日本の領土内としていますが北方領土、竹島、尖閣は除外地域というのが実態です。このような事実があると残念ながら尖閣問題などでアメリカは日本を守ってくれない可能性があります。なにしろ中国と日本との貿易量は3倍も違います。日本を助けるために、アメリカが中国と戦争するとアメリカも中国も経済的に破綻する危険性がでてきます。日本にとっても中国は米国に倍近い貿易量があります。アメリカと中国を比較して、日本はどっちを取るでしょうか。このような選択をさせるのを安倍首相は好みます。軍事安保か経済安保か。「中国を取るか、アメリカを取るか」と安倍政権は迫ってきます。本来なら「アメリカも、中国も」というのが、日本がとるべき選択です。そういうところをしっかりと見定めた上でこの政権と付き合っていかなければならないと思います。

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