投稿「マイナカードと保険証の一体化がもたらす 社会保障費抑制とデータ利活用、管理社会」


マイナカードと保険証の一体化がもたらす

社会保障費抑制とデータ利活用、管理社会

宮城県保険医協会顧問 北村 龍男

はじめに
 マイナンバーカード(以下、マイナカード)と保険証の一体化で、別人の情報が紐付けられていた事例がこれまで7300件超あった。別人の医療情報を表示した事例もある。公金受取口座をひも付ける手続きで、他人名義の口座が登録された事例もある。国がマイナカード普及を強引に進めた責任は大きい。
 それでも国はマイナカードの普及のために、マイナカードと保険証の一体化を強制的に進めている。全ての国民の日常生活に必要な社会保障・医療を利用し、マイナカードの普及にまい進している。なぜか? マイナカードで国が目標としていること、マイナカードと保険証を一体化することの意味を考えて見た。

1.国は何としてでもマイナンバーカードを普及したい

1)普及のためにやっていること
 国は何が何でも、マイナカードを普及したいと考え、マイナカードを全面的に利用する人には20,000ポイント提供する方針を出した。
 しかし、普及は進まず、思いついたのがマイナカードと健康保険証を一体化し、健康保険証を廃止することである。健康保険証がなければ医療を受けられないことに目をつけ、全ての国民にマイナカードを持つようにプレッシャーを掛けている。
 一体化は、患者と医療機関に負担と困難をもたらし、その先にあるのは、社会保障費・医療費抑制と集積したデータを利活用する成長戦略である。
2)マイナンバー法等関連法案
 これまでは、社会保障、税、災害対策が利用の対象になっていた。政府は3月7日、マイナンバー法等関連法改正案を閣議決定した。
 改正法案には、①利用範囲を社会保障・税・災害対策以外に拡大する、②利用を省令で利用範囲を拡大することを可能にし、③公金受取口座を本人の同意なしに行政機関等経由登録を行えるようにするる、④マイナカードと保険証を一体化し、健康保険証廃止に向け「資格確認証」を規定する、⑤自治体による確認をあいまいにする郵便局などでの申請を可能にする個人情報漏洩リスク、国民の不安に応えないなどの問題が含まれている
3)マイナカードで社会保障・医療費を抑制
 国会の審議なしに国の思惑通りに運用し、国民の全ての情報を掴み、国民を丸裸にし、所得・資産把握による社会保障の応能負担の徹底し、顔認証を利用して国民監視し、個人情報を一元的に管理し、プライバシーを侵害する。目指すは思い通りに国民を動かすことである。
 2022年11月2日の経済財政諮問会議で民間議員は「マイナンバーを通じた所得等情報、世帯状況、口座情報の活用」、「マイナンバー利活用を前提とした給付と負担の制度改革」を提言している。国の動きはこの提言に沿っている。
 「社会保障個人会計」の導入も狙いである。幼児から社会保障の利用状況を把握し、国民一人一人にプレッシャーを掛け、社会保障費・医療費を抑制を目指している。
 この動きに対し、個人情報を受取り、集積する側が何に利用しようとしているか、誰が監視するのかなど、透明性を確保することが不可欠である。

2.マイナカード利用のサービスと国民の負担

1)電子証明書でサービスを利用
①マイナカードで利用できるサービス
 マイナカードの利用では、マイナーポータルを通じ、健康保険証機能、住民票の受取、保育所など行政サービス情報利用、確定申告がデジタル利用等が可能になる。多くの場合時間の節約になる、大変便利ではある。
②国民の負担
 この利用のためには、電子証明書が必要である。電子証明書はマイナカード申請と同時に申請することが可能で、2つのパスワード(4桁と6~16桁の2種)を追加して覚えておくことが必要になる。
 マイナカードは10年ごとの更新であるが、電子証明書の有効期限は5年で5年ごとに更新
する。更新のたびごとに直接行政に行き、本人確認することになる。
 この電子証明書の申請、更新は高齢者等にとり、手続きが困難・不可能が予想される。そのためか、代理交付の要件緩和、幼児の顔写真省略、郵便局・在外公館での申請可能などの緩和がされている。情報漏洩リスク、なりすましのリスクが増大する。
 マイナカードを紛失した場合は、デジタル庁コールセンターに連絡、警察に遺失物届け出、役所に再発行申請、手数料は1,000円である。再発行まで1~2か月かかると言われている。この間、無保険者扱いで、医療費は全額窓口負担?
2)プライバシー保護の後退
 日弁連は「マイナンバーカードは住基カードに比べてプライバシー保護の観点が著しく後退している」、「カードを日常的に携帯するようになり、提示の機会が増加すれば、盗み見や紛失、盗難などが急増し、個人番号や個人識別情報を他者にしられることが日常化し、さらにカードが不正使用される危険性が高まる」などと警鐘を鳴らしている。
 国は個人情報の一元管理をめざしているが、個人情報は極力分散管理することが鉄則である。個人情報が国と企業に共有され、利活用されるデジタル社会が実現すると、情報漏洩や不正利用がおきた場合、甚大な被害につながる。

3.社会保障、医療分野での国の狙いは?

 国は、マイナ保険証のオンライン資格確認(以下、受付システム)を医療DXの基盤としている。マイナ保険証受付システムを拡充し、国が個人の医療情報を集積・管理・利活用する巨大ネットワークを作ろうとしている。
 本来、マイナ保険証の対応は健康保険法の改正が必要である。医療機関は健康保険証かマイナカードで患者の保険資格を確認する。ところが22年9月、厚労省令を改正、23年4月から、マイナカードに対する受付システム体制を整備しなければならない(オンライン資格確認義務化)と定めた。受付システム整備には国の補助があるが、ランニングコストは医療機関の負担で、医療機関にとっては新たな負担が生じる。
1)狙い① 医療費抑制政策の推進
 社会保障と税の一体改革では、自己責任が基本になっている。疾病予防や健康管理を自助や助け合いに任せるための政策を展開し、国や地方自治体の公的責任をあいまいにする。
 健診結果、レセプト情報、お薬手帳の情報を集め、国民一人一人にプレッシャーを掛け、医療費抑制を目指している。
 マイナカードと保険証の一体化により、この操作が極めて容易になる。医療費抑制のために諸々の手立てが生み出され、自己責任を楯にとって、ああしろこうしろと追求される。
2)狙い② 新たな産業基盤として活用
 個人情報、個人データは、企業にとって利益を生み出す重要な資源になる。新たな成長戦略の原動力として医療DXを柱に据えている。
 例えば、個人の胎児期から亡くなるまでの健康状態、学校・社会教育における学習履歴などの個人情報をデータ化し、企業や行政の持っている個人データを紐づけし、データ共通基盤に集積しようとしている。
 集積されたデータは量が増えれば増えるほど正確性が増す。膨大な個人データを、企業や行政がAIを使って自動的に分析、評価・差別・選別し、企業がビッグデータとして利活用しようとしている。
 財布の中だけでなく、体の隅々まで国と企業に知られてしまう。保険のセースルスから「(あなたの)このような健康状態の人は、この保険が良いですよ」などと言われることになるかもしれない。

4.患者への負担

 マイナカードと保険証の一体化で、健康保険証、短期保険証が廃止される。このことで患者に何がもたらされるか。
 まず、本年4月~12月まで、従来の保険証で受診した場合、窓口負担が3割負担の場合、6円値上げされる。ペナルティである。
 マイナカードによる受診では、毎回カードを使用する。紛失の心配があり、受付システムのトラブルも予想される。マイナカードで受け付けている医療機関では、併せて現在の保険証も持ってくるように要請しているところもあると聞いている。
 本来、保険料を支払った被保険者に対し保険証を発行することが義務図けられている(健康保険法)。一方、マイナカードの取得は任意である。
 5年ごとの電子資格証明書の申請漏れで、「資格喪失」「無保険」となる。保険者資格があり、保険料を払っていても、保険診療を利用できないことが起こる。この状態を避けるためにも、国民の受療権に係る健康保険証の廃止は撤回すべきである。
 高齢者の多くにとってマイナカード、電子資格証明書の申請は煩わしく、難しい。代理交付、申請補助、第三者(施設長などによる)管理、パスワードの取り扱いなどの運用を緩めることになる。個人情報保護、プライバシー保護の点から問題となる。個人情報の流出、不正利用が懸念される。マイナカードの所持を強制することには無理がある。任意とすべきである。
 尚、厚労省は介護保険証もマイナカードと一体化し、25年度以降の運用を目指している。

5.医療機関の負担

1)窓口での負担
 人手不足の医療・介護現場の負担がさらに多くなる。
 医療機関の窓口では、マイナカードの保険証利用で、受付業務がスムーズになったとの声も聞かれる。一方、マイナカードを忘れた、パスワードを覚えていない、また受付システムのトラブルなどで、職員の負担は多くなり、これまでの健康保険証の持参を要請している医療機関もある。
2)受付システムの義務化(オンライン資格確認義務化)
 医療機関には、受付システムのために準備しなければならないことがある。医療機関の中には、対応できないと閉院を決めているところもある。地域医療の崩壊につながりかねない。
 東京を中心に、一部の保険医がオンライン資格確認義務化撤回の訴訟を起こしている。
 なお、厚労省はオンライン資格確認原則義務化の猶予措置を示している。以下の6類型。
 ①システム整備中、②ネットワーク環境事情、③訪問診療のみ、④改築工事中・臨時施設、⑤廃止・休止予定(令和6年秋まで)、⑥その他困難事情(高齢、レセプト枚数月50件以下など)。

6.国がめざすデジタル社会

 「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」(2020年12月25日閣議決定)では『デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会』を掲げ、『誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化』をすすめるとしている。しかし、具体的記載、具体化はなし。説明もなし。現在おこっている諸々のマイナカードに関するトラブルを見れば、国の掲げている基本方針は守られていないのは明白である。国の基本方針は、イメージのよいキーワードが並べられているだけである。特に問題なのは、様々な目的・理念・原則等が並べられているが、プライバシー権や人格権保障が明示されていない。
 マイナカードと保険証の一体化の問題を見てきたが、国はさらに先を目指している。
 マイナカードの問題点として、①本人確認情報・顔写真・個人番号が全て券面に記載されている:個人情報漏洩で大きな被害。2021年には上場企業とその子会社で137件、574万9773人分の個人情報漏洩があった。名寄せされた個人情報の販売され、例えば、特殊詐欺などに利用される可能性がある。②多目的利用推進による情報の「一元管理」化:利用制限のない危険性がある。③顔認証システムとの連携:プライバシー侵害、監視が容易になる。④マイナンバーカード取得の事実上の強制。⑤プライバシー保護の後退した個人番号カード普及策の本末転倒である。
 監視国家化の懸念については、①個人の行動履歴のほとんどがデータとして記録される、②行政機関個人情報保護法では、相当若しくは特別の理由があれば、他の行政機関に個人情報を提供できるとされており、捜査を理由に個人データが警察に無制限に流れる危険がある。国家による個人情報の集積が監視社会につながる。将来はマイナカード → スマホ → 顔(生体)認証が考えられている。利便性が高まる一方、中国と同様の顔認証システムによる市民管理が可能となると言われている。
 これに対し、安全・安心のマイナカードのためには、透明化の必要である。国としてあらゆる政策の①目的を明確化、②説明責任・情報公開、③公文書を適正に保存管理ことが求められる。この間の安倍・菅・岸田政権には全く欠けている。

7.まとめ(要求、要求運動)

 全ての国民が医療を利用できるように、引き続き健康保険証の利用を保障する。一人の閉院・廃業も出さないために、保険証廃止を前提とした義務化の経過措置の改善は不可欠である。
 健康保険証の廃止方針撤回で、地域医療を守り、患者・国民の命と健康を守り、すべての医療機関の経営と権利を守る。
 国民が求める医療DX、デジタル化のために、個々の政策の目的を明確にすること、説明・情報公開を行うこと、公文書を適正に保管すること。そのためにまず、国会審議を十分に行うことを求めたい。

主な参考資料
①寺尾正之:マイナンバーカードの保険証利用「マイナ保険証」導入の狙いと背景、生活と健康、2023.3.15(No.1150)、P2
②日本弁護士連合会第64回人権擁護大会シンポジウム第2分科会実行委員会:デジタル社会の光と陰~便利さに隠されたプライバシー・民主主義の危機~(基調報告)、2022年9月29日
③保団連事務局メモ:第163回社会保障審議会医療保険部会(20230224)報告などの保団連発信の諸資料。

2023/05/28

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