東北メディカル・メガバンク事業(TOMMO)の進捗状況について


東北メディカル・メガバンク事業(TOMMO)の進捗状況について

東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター 世話人
水戸部 秀利

 2017年3月末で、地域住民コホート84073名、三世代コホート72311名と、当初の計画通り15万規模のゲノムコホートのリクルートは完了し、折り返し点を迎えました。
2017年4月1日にTOMMOの第二次全体計画が発表され、今年は登録4年目のコホート二次調査が開始されます。これによって日本で初めて、健常者を含む大規模なコホート型バイオバンクが形成されたことになります。
 この事業の柱である「バイオバンク」、すなわち宮城、岩手で集められた遺伝子情報を含む病歴や検体の研究機関への貸し出し事業については、個人情報保護法改訂との関りで足踏み状態でした。2016年度に三省合同でヒト遺伝子情報取り扱いや医学研究のガイドラインとの整合性をとる検討会が開かれ、結局「オプトアウト」(拒否申請がなければ同意したとみなす)という研究者の利便性に傾いた仕組みに決着しました。
 これらを受けるような形で、2017年の通常国会で内閣府から「次世代医療基盤法」(注1)が上程され、国民はもとより医療関係者にすら周知されないまま、共産党以外の賛成で可決されました。これによって今後、国民のゲノムを含む医療情報が「認定業者による匿名化?」されたビッグデータとして国家や企業に利用される状況になります。
 この一連の流れは、2010年の医療イノベーション会議で計画された行程表に基本的に沿う形で進められている。国家戦略の一つである「ゲノムコホート・バイオバンク」が、被災地をターゲットに推進され、TOMMOがその役割を担ってきたことがより鮮明になりました。私たちが指摘したように、被災地が国家戦略の実験場となり、その過程ではトップダウンの押し付け、被災地・被災者を対象とする医学研究の倫理規定「ヘルシンキ宣言」違反、インフォームドコンセントの不十分さなどを残しました。
 昨年からTOMMOは文科省管轄からAMED管轄(注2)となり、国策としてのライフイノベーションの柱の一つに明確に位置付けられ、予算も別枠になりました。(ゲノム医療推進課プロジェクト 102億円)
 一方、TOMMOは、リクルートの条件として遺伝子情報の一部回付を約束していました。諸検討を重ね、2016年末から遺伝子情報の回付のパイロットスタディを行っています。家族性高コレステロール血症の3つの遺伝子に限定しての回付です。今後、どの遺伝子情報を、どのように知らせるかTOMMO自身も試行錯誤の状況にあります。しかしそのプロセスを誤るととんでもない人権侵害や差別にむすびつく危険性があります。
 残念ながら、日本には「遺伝子差別禁止法」など悪用を防ぐ法体系はまだなく、利用する研究者や事業者のモラルに依存することになります。
 今後、遺伝情報回付や研究機関や企業での利活用が行われる中で、TOMMOに協力した被災地住民の人権やプライバシーが危険にさらされることがないか、引き続き事業の経過をみていく必要があります。同時に、ゲノム研究や医療が専門特化し市民の知らないところで暴走しないためにも、市民的な学習・宣伝、議論が欠かせません。

注1) 「次世代医療基盤法」 2017年通常国会で成立
注1)「次世代医療基盤法」2017年通常国会で成立

注2)AMED(日本医療研究開発機構) 2016年設立
日本版NIHとも言われ、先端医療を国家戦略として推進する機構(独立行政法人)
注2)AMED(日本医療研究開発機構)2016年設立

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