投稿「HPVワクチン接種勧奨について 保団連地域医療対策部会(2018/05/28)討議参加報告と私の見解」


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HPVワクチン接種勧奨について

保団連地域医療対策部会(2018/05/28)討議参加報告と私の見解

保団連地域医療対策部員、宮城県保険医協会理事 北村龍男

はじめに
 HPVワクチンについて接種勧奨再開を求める動きがひろがっている。5月27日の保団連地域医療対策部会(医科)で、HPVワクチンについての討議がおこなわれた。保団連理事会で「ワクチン接種再開の動きが出てきているので、保団連でも(接種推奨の)声明を出せないか」という意見が出され、また、「資料収集と議論を行う必要ある」などの意見があり、2018年3月の理事会で「HPVワクチンに関する担当は、これまで確認している地域医療対策部会とする」とされ、当日の討議がおこなわれた。保団連斉藤副会長の「HPVワクチンにまつわる簡単な経過と資料説明」の後討議が行われた。色々な観点でからの意見がだされ、充実した内容であった。会議の結論は「討議の結果、現時点では HPV ワクチン積極的接種再開を求める保団連声明を出せる状況にないことが確認され、理事会に報告することとした。なお、HPVワクチンに関する資料収集と議論は今後とも行う必要があることも合わせて確認された」であった。
 宮城協会理事会、医科理事懇談会でもこの問題の意見交換の機会があった。宮城協会でも、結論は出していない。今後引き続き意見交換が必要であると考える。私は日常診療で全く子宮頸がんに関わりはないが、保団連地域医療対策部会員であり、広く意見交換が行われることを期待し、保団連地域医療対策部会の討議を踏まえ、そこに提出された資料を中心に整理し私の見解を述べる。意見交換の参考にして頂きたい。協会会員のご意見は保団連の討議に反映したい。
 

1.子宮頸がんの予防

 子宮頸がんの予防として、ワクチン問題が取り上げられ、その他の予防策については、あまりふれらてていないように感じる。

11.生活習慣

 HPV 感染の 0.15 %ががんになるといわれている。HPV 感染は性的接触が主な感染機会であるから、早い時期からの教育が必要である。HPV 感染の可能性について理解していることにより、対応が異なると考える。

12.検診

 子宮頸がんは異形成が発見可能であるため、予防可能といわれている。
 細胞診検診、HPV 検診があり、受診率を引き上げる施策を求める。
 両方の検診を実施するには、費用の問題、受診者の費用のみでない負担、更に検査の間隔、組合せなどの検討課題があると思われる。専門医の提案を期待する。

 

2.ワクチンの条件・位置づけ
21.予防効果

 予防効果が十分であることが必要である。ワクチンにより前がん病変の減少は確認されている。但し、前がん病変から子宮頸がんになる確率は高くない。

22.副反応

 他のワクチンと比べ、副反応の頻度が高くないか? サーバリックス 100 万人対170人、ガーダシル 150人。麻疹は50人。
 効果があれば、副反応があっても構わないということにはならない。少なくとも、HPVワクチンには改善の必要があり、痛みを含め副反応の少ないワクチンの開発を求めることになる。

23.安全、安心

 接種時の強い痛みなどについて、是認してよいのか?
 対象者が安心して接種を受けるためには、副反応が表れた時に、きちんとした補償をすることが欠かせない。被接種者の体質を問題にするならば、どのような体質の人は接種を回避すべきか明示する必要がある。

 

3.いくつかの主張、見解について

 多くの意見・主張がある。ここでは保団連地域医療対策部会資料のいくつかを紹介する。

31.池田研究班(研究代表者信州大学池田修一教授)の発表

 厚労省研究事業成果発表会、平成28年3月16日、東京
 池田班は脳機能障害が起きた患者の8割弱で免疫システムの関わる同じ型だったと報告し、ワクチンの成分と症状の因果関係は不明だが、接種前に遺伝子を調べることで副反応を回避できる可能性があると発表した。
 池田班のまとめは以下のように記載されている。「子宮頸がんワクチンの副反応の成因
・病態はまだ不明な点が多い。また、発症時期と症状も多様である。常に、その時期の病態にあった治療を行うことが必要(対症療法、免疫療法などの様々な治療を適切に選択することが重要である)。診療科(神経内科、精神科、婦人科、小児科、麻酔科など)、各 施設、研究班での相互協力、連携が不可欠である」
 尚、信州大学を子宮頸がんワクチンの副反応疑いで受診したのは123例、副作用が否定出来ない症例は98例である。
 池田班には“ワクチンの成分との症状の因果関係は不明だが、接種前に遺伝子を調べることが反応を回避する可能性がある”、あるいは“マウスに複数のワクチンを接種し、HPVワクチンを接種したマウスの脳のみに神経細胞に対する抗体が産生した”という報告が含まれている。このうち後者については、「不正を疑う通報があった」ため信州大学は調査 委員会を設置し、「捏造や改ざんはなかったが、(例数が少なく)不適切な発表」と結論した。
 池田教授は斉藤貴男氏のインタビューで「厚労省は Organic Change イコール治らない病態というふうにとらえている。だから器質的でなく心身の反応、心の問題だ、ワクチンに大きな副作用はないと強調したかった」との述べている。

 

32.牛田研究班(研究代表者愛知医大牛田享宏教授)の発表

 厚労省研究事業成果発表会、平成28年3月16日、東京
 牛田班のまとめは「痛みを引き起こす物理的・身体的原因があるから、精神心理的問題が起こる。精神心理的な要因があると、一時的な機能的変化が起こり、難治性の身体的変化を起こす。痛みなどによる生活障害を有する患者を診療するが、痛みがあっても生活ができる事を先ず第一の目標とする。学際的・集学的チームによる多角的アセスメント、全人的なケアと体つくり」が必要としている。
 牛田班の診たHPVワクチンの関与の可能性が否定出来ない症例は150例、フォロー出来たもの98例。
 牛田班は慢性疼痛について述べており、HPV ワクチン接種との関わりについて踏み込んでいない。
 しかし、斉藤貴男氏とのインタビューでは「ワクチンは免疫応答をわざわざ誘発するものですから、細胞がガーッと活性化するのは当然なんです。痛みも当然ありますが、HPV ワクチンの場合、痛みだけでなく、成分がトリガーになったということも言えると思います。それがアレルギーを起こしたということかもしれません」と述べている。その上で「接種勧奨を中断したままでは、日本はますます遅れてしまう」と主張している。

 池田教授と牛田教授では、勧奨再開に対する見解はことなる。しかし、研究方法がことなるが、ワクチンの副反応があると認めている点では変わりない。また、それぞれ治療方法を模索し、一定の効果を上げているのは素晴らしい。

 

33.村中璃子氏の主張(WEDGE INFINITY,2016年3月24日)

 「プレゼン合戦の結果は、池田班の圧勝だった。メディアは池田班の発表だけに触れた。科学的な意味を持たないデータでも「遺伝子」「白血球型」といった科学的なワードを使って不安を煽るデータを出せば、メディアは進んで書く。言い方さえ気をつけていれば、問題になっても「メディアが勝手に書きました」と言える。牛田班が公然と池田班を批判しないことは分かっていただろう。神経に障害がなくても痛みが生じることや、子宮頸がんワクチン導入以前から、原因不明の長引く痛みを訴える子供が多数いることを紹介した牛田班の眠たげなデータに触れたメディアはなかった」
 何故こんなに感情的なのか?
 村中氏は「女性の健康の守護者 村中医師」として2017年ジョン・マドックス賞を受賞した。Nature誌2017年11月30日プレスリリースによると「困難や敵意にも関わらず、公共の利益に資するサイエンスとエビデンスを広めた人物に与える国際賞、ジョン・マドックス賞を日本の村中璃子医師が受賞した。ジャーナリストであり京都大学非常勤講師でまある村中氏が、子宮頸がんワクチンに関する一般的な議論にサイエンスと科学的エビデンスを持ち込んだ功績に対するものである」とされている。
HPVワクチン接種勧奨から勧奨中断なでのあまりにも短い政策的転換を顧みると、異常な政治力がかかったり可能性は否定出来ない。一般にはメディアに対する批判が強いが、その裏に何らかの力を感じる。村中璃子氏に対する“脅迫”の類があったであろうか。
 一言付け加えれば、WHO とか、ジョン・マドックス賞とかの権威をかざして事をすすめようとする動きには違和感を感じる。

 

34.HPV ワクチン接種、「多様な症状」との関連なし

鈴木貞夫名古屋市大教授に聞く、「医療維新 m3.com 2018.4.4配信、聞き手・まとめ橋本佳子
 「HPVワクチン接種の有無と、接種後に現れたとされる症状の有無の両方のデータがえれれる調査」であり、「調査の実費は名古屋市が負担、名古屋市が被害を訴える団体等 の要請を受けて実施」した。「調査対象中学 3 年から大学3年(7万人、回答29846人(回答率43.3%)、24の症状の発症率がHPVワクチン接種で有意に高いという関連は認められなかった。最も高い“月経不順”:接種群26.5%、非接種群25.6%、最も低い“杖や車椅子が必要になった”接種群0.2%、非接種群0.2%。各症状については、接種群と非接種群の発症率にほとんど差がなかった」としている。
 この調査には、「全数調査ではなく、標本は無作為ではなく、回答は回答者の意思等に左右されるアンケート形式である。そのため標本(回答者)に偏りが生じる可能性がある」などの批判がある。結果発表の経過について問題指摘もある。

 

35.HPVワクチン論文撤回 サイエンティフィック・リポーツ

 2016 年 11 月に掲載された論文が撤回された。HPV ワクチン接種後に脳や神経に異常が起きるかを解明するため、ワクチンと百日咳毒素を注射したマウスと対照群を比較する試験を実施。脳の異常などを確認したとする結果をまとめた。
 撤回理由は、「HPV ワクチンだけで起こる神経系の損傷を明らかにするため、多量のHPVワクチンと百日咳毒素を使うのは不適切な方法」とした。
 この論文については「そもそも論文の評価があまかった」との厳しい指摘がある。
 この論文では、HPVワクチン接種に慎重な立場の西岡久寿樹教授も共著者となっている。

 保団連で収集した資料を中心に読んだ。議論の最中と言う印象である。このような研究
・議論が定期接種化、接種勧奨の前に行われればよかった。

 

4.求められること
41.無過失補償制度

 積極的な認定が必要である。副反応がでた場合にはしっかり補償すべきである。接種後 1 ヶ月をこえて症状がでた場合認定していないことは問題である。仮に、研究がすすみ被接種者の体質が副反応を起こす要因になっていたとしても、自己責任ではない。

 

42.国の責任を明確に、 新リーフレット(厚労省)の説明は不十分

 以下のような問題点が指摘される。「多様な副反応症状が記載されていない」「医療従 事者向けと本人・保護者向けに違がある」「他のワクチンとの比較が記載されていない」
「接種後 1 カ月以上立ってからの副反応の可能性」「効果推計:前がん病変の減少はがんそのものの減少ではない、ワクチンの効果期間」等々。

 現在の状態は、2017年9月3日 保団連地域医療対策部会提案文書の「HPVV は現在、定期接種でありながら積極的勧奨中止により接種が滞っている。国民が安心してワクチン接種ができるように、国が責任を持って接種環境の体制を強化すること。併せて副反応疑いに対して一層の施策を講じること」に止まっている。

 

43.細胞診検診、HPV検診

 子宮頸がんは身近ながんであり、若年女性の罹患が多い。積極的な対策が必要で、検診の充実をもとめる。
 仮にワクチンを接種しても検診は必要であり、2つの検診の時期・組み合わせを工夫し、費用負担対策も含めて積極的に取り組むべきである。
 

5.混乱の根底にあるもの、目立つビッグファーマの動き

 サーバリックスが厚労省より製造販売承認取得(09年10月16日)、異例の早さだったと指摘されている。この裏になにがあったのか、疑問がある。主に斉藤貴男氏著書より紹介する。「 」内は斉藤貴男氏著書子宮頸がんワクチン事件:集英社インターナショナル、2015年より引用。
 

51.合同会議(2014年1月)

 「法制化に当たって有効性と安全性を保証した厚生科学審議会『予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会』と薬事・食品衛生審議会『医薬品等安全対策調査会』の合同会議は全委員15人のうち9人が、GSKないしMSDの両メーカーのいずれか、あるいは両者から金銭を受領していた事実を確認した。合同会議の内規によりこのうち3氏は議決の参加できなくなった。委員職を解かれることはなく、会議では誰もが意見を述べた。この日にHPVワクチンの諸症状を『心身の反応』と位置づけている」この日の議事録は公開されているのだろうか。

 

52.当事者能力

 「厚労省が2007年3月にまとめた『ワクチン産業ビジョン-感染対策を支え、社会的期待に応える産業像を目指して』のとおり展開された。だだし、舞台には国産メーカーの影も形もなく、外資系メガファームがなにもかも仕切っていた。このワクチンが日本の少女たちに打ち込まれて行った過程において、官僚も、政治家も、医師や研究者たちもほとんど当事者能力をもちあわせていなかった」

 

53.費用対効果についての論文。

 今野らの論文(産婦人科治療、2008年)では、12歳58.9万人全員にワクチン接種すれば190億円の医療削減としている。5人の共同執筆の内2人がGSKの社員であった。
 『若年女性の健康を考える、子宮頸がん予防ワクチン接種の意義と課題』(厚生の指標、2009年9月号)の共同執筆にはGSKの課長の名があるが、アルバイト先の肩書で発表されている。
 両論文とも厚労省の検討会の資料とされている。お手盛り感が否めない。両論文については、保団連資料でもとりあげられている。
 

54.市民運動

 「HPV ワクチン推進に影響力を行使した団体はきわめて多い。2010年7月に当時の長妻昭厚労相に要望書を提出した団体だけでも 23団体にのぼっている。どの団体も基本的には会員の善意で運営されているのだろう。しかし、現実はそう言い切よいほど単純ではないようだ」。

541.「子宮頸がん征圧をめざし専門家会議」

 「子宮頸がん検診の確立と HPV ワクチン接種率向上・キャッチアップ世代へのワクチン接種推進を目標に掲げる『子宮頸がん征圧をめざす専門家会議』に対して、薬害オンブズパーソン会議は、2014年7月17日『ワクチンメーカーとの経済的関係に関する公開再質問状』を提出した。専門家会議は 2013年度にGSKから1500万円、MSDから2000万円の寄付を受けていたことが、明らかになっていたためである」。
 「専門家会議は『委員は個人の意思でこの征圧会議に参加しており、・・・当会議は各企業との事業活動とは独立した活動をおこなってきております。』と回答した」
 「薬害オンブズパーソン会議等は次のような声明を発表した。『専門家会議は HPV ワクチンの推進運動の総本山ともいうべき活動をし、立法、行政、及び世論形成に多大な影響を与えてきた』のであるから、深刻な副作用に苦しんでいる少女たちに対して、『利益相反関係を説明するべき責務がある。専門家会議は社会的責任を自覚して真摯に回答すべきである』と厳しく批判した」。

541.リボンムーブメント

 ピンクムーブメントはピンクリボンに関わる東洋大学と慶応大学の女子学生が立ち上げたとされている。2003年からは朝日新聞が取り仕切るようになった。子宮頸がんの領域を担う新組織の誕生を演出したらしい。リボンムーブメントは 2012 年度にMSDから100万円の寄付を受けていた。
 
 斉藤貴男氏によると多くの市民レベルの活動がある。それぞれなんらかの形で製薬資本が介入し、「製薬会社はスポンサーとなっていることを概ね隠している」「(トーマス・マ レー氏を引用し)自発的な草の根組織であるようにみせかけている」と述べている。

 

まとめ

・国・厚労省に副反応、およびその被害者に真摯に向き合う姿勢が見られない。
・日本での定期接種導入の経過は、外資系ビッグファーマによるロビー活動、ビッグファーマが身をかくした市民活動によるもので極めて透明性に欠ける。
・まともな補償制度が作られていない。
・一方、勧奨中断の決定も不透明であった。
・引き続き意見交換が必要である。
・将来検討できるような丁寧な検討、経過記録の保存が必要である。
・拙速な判断による接種勧奨再開決定は、これまで同様な事態を繰り返し、禍根をのこす。

 以上により、現段階で接種勧奨再開に同意出来ない。

 

主な参考資料

保団連地域医療対策部会(2018年5月27日)資料
中島幸裕(保団連地域医療対策部会医科部長)報告:HPV ワクチン接種再開に向けた保団連の対応、及び学校健診後の受診調査について
WIKIPEDIA:ヒトパピローマウイルスワクチン
斉藤貴男:子宮頸がんワクチン事件、集英社インターナショナル、2015年

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