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投稿「ベンゾジアゼピン受容体作動薬の減薬・中止に加算を」
Posted on
2019年5月15日
by
adminhok
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ベンゾジアゼピン受容体作動薬の減薬・中止に加算を
北村神経内科クリニック 北村 龍男
はじめに
ベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下、BZDs)は、2018年4月の診療報酬改定で、不安の症状又は不眠の症状に対し1年以上連続して同一の成分を1日当たり同一用量で処方した場合に減算とする規定(以下、減算規定)が、2019年4月1日から適応された。反対する意見が多い。私はBZDsの減薬・中止に当たっては丁寧かつ慎重な対応がもとめられるので、現状維持を減算にするのではなく、減薬・中止した場合は、加算を新設すべきと考える。
内科でも不眠を訴える患者が多い。内科医にとって専門とはいえない不眠の対応を求められる。健康を維持する上で良い睡眠は重要であり、内科疾患の治療上も良好な睡眠は必要である。しかし、よく知られているように不眠症治療時に処方されるBZDsには副作用がある。BZDsの利用には十分注意が必要である。
不眠症治療は、BZDsなどの睡眠薬をいかに利用するかだけでない。専門医ではなくとも、丁寧な問診の上で、よい睡眠を得るための日常生活の提案など、睡眠衛生指導が必要である。さらに最近では、休薬を前提とする不眠症診療が求められている。
このように不眠の治療には課題は多く、診療にあたる医師の負担は大きい。減薬・中止時の加算新設により、患者には減薬・中止による健康上の利益がえられ、医師の努力も報われる。
BZDs処方には慎重な対応が求められる
医薬品医療機器総合機構PMDAは次のように指摘している。①漫然とした継続投与による長期使用を避けてください、②用量を遵守し、類似薬の重複処方がないことを確認してください、③投与中止時は、漸減、隔日投与等慎重に減薬・中止を行ってください。
長期使用、重複使用への対応と共に、慎重な減薬・中止を呼びかけている。担当する医師の負担は大きい。
BZDsの副作用
ふらつき、転倒、記憶障害、依存症、耐性、反跳不眠、離脱症状、脱抑制、せん妄などが指摘されている。以下、特に離脱症状と転倒について触れる。
離脱症状
BZDsの離脱症状は、脱力、筋緊張、食欲低下、倦怠感、悪寒、振戦、けいれん、頻脈、焦燥感などのいろいろな症状がある。あえて言えば何でもありである。また、元々の内科或いは精神疾患の悪化と紛らわしい。医師が離脱症状であることに気づくことが離脱症状であることを見逃さないポイントと言われている。
睡眠薬の減薬・中止をする場合に、医師は離脱症状についても説明するようにと言われている。離脱症状があらわれると、睡眠薬の継続を強く求め、減薬に恐れを抱くようになるためである。更に、離脱症状がきっかけで患者-医師の関係性が崩れることも懸念されると指摘する専門医もいる。離脱症状の説明を忘れてはならない。
転倒
高齢患者が転倒し、大腿骨骨折などを起こすことはまれでない。最近では整形外科の素早い対応で、元の日常生活をとりもどす患者もいるが、骨折をきっかけに日常生活動作が悪化する患者も多い。転倒の原因がBZDsと断定できないにしても、BZDsを使用している患者が多い。一方、不眠が転倒の原因という指摘もある。
グラフのように、不眠があると転倒リスクが高まる。睡眠薬服用でも転倒リスクが高まる。睡眠衛生指導や睡眠薬の適切な使用で、よい睡眠を取れるような診療を行うことは重要である。
離脱症状、転倒の問題を考えただけでも不眠症の治療に当たっては極めて慎重な対応が求められる。
患者からの希望、家族・介護支援者からの希望
BZDsを服用している患者に、減薬を勧めると患者・家族・介護者はよい睡眠を期待しBZDsの継続処方を希望することが多い。患者は不眠の経験があるので、服薬しないと眠れないという不安がある。更に、何回もトイレにおきる、翌日うつらうつらする、血圧が上がる等の訴えもある。
睡眠衛生指導と共に、患者・家族、介護支援者との丁寧な意見交換が必要である。
減薬・中止にひつような意見交換、説明
薬には、特にBZDsには多くの副作用がある。また、BZDsを必要とする高齢者の場合、複数の疾患を持って、多剤併用であることが多い。減薬を常に心がける必要がある。
睡眠薬はBZDsのみでなく、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬、さらに漢方薬など種類が多い。それぞれ特徴、欠点がある。効果もあり、副作用がある。それらの利用も検討する必要がある。
繰り返しになるがBZDsの減薬に当たっては、検討すべき課題が多い。①よい睡眠をとることが前提であり、減薬が目的ではない。②副作用は多彩で多い。③減薬により併存疾患が悪化する場合もある。④多くの場合、患者は、減薬に不安があり処方の継続を期待する。⑤家庭・施設などで家族・介護支援者が服薬を管理する場合、患者の状態を把握し服薬管理する負担は大きい。
このような状況で、BZDsを適切に使用することが必要であり、減薬するには、患者・家族・介護者との十分な話し合い、説明が必要である
私は、長期使用の患者さんには必要な時だけBZDsを利用することを提案する。寝る前には睡眠薬という習慣を止め、必要な時にはBZDsを利用すると考えるよう提案する。もしも、なかなか寝付けないときには、BZDsを改めて服用しても良いと伝える。このようにして、1ヶ月処方のBZDsを28日処方にするなどいろいろな試みをしている。
減薬に対して診療報酬上の評価を
2018年の診療報酬改定でBZDsに関する減算規定では、患者は服薬を継続すれば負担金は減額されることになる。一方、医師は患者に丁寧な説明、話し合いを行って、減薬・中止しても加算されない。この関係は、現在の窓口負担金の矛盾である。しかも、2時間程度の研修を受ければ、「適切な研修を修了した医師」としてこの減算規定の対象とならない。真剣にBZDsの問題に取り組む規定とは思えない。減算規定は廃止した方がよい。
以上見てきたように、BZDsの減薬・中止には医師の診療上負担が大きい。減薬・中止は患者さんには健康上の利益があり、医師が患者と話し合い減算・中止の処方を行った場合医師の努力が報われるよう、診療報酬の加算を求める。
参考資料
日本老年医学会:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン、メジカルビュー社、2015
宮内倫也:ベンゾジアゼピン系薬剤を悪者にしないための使い方、週間医学界新聞、第3197号(2016/10/31)
石郷友之:薬剤の転倒・転落への影響~睡眠薬を中心に~ 日本転倒予防学会誌、5:(1) :27-31 2018
塩見利明、他:不眠症の治療と睡眠薬、CLINICIAN、66巻4号、2019
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