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「特措法改正~補正予算にみる 安倍政権の緊急事態宣言」
宮城県保険医協会理事 北村 龍男
1.特措法改正
安倍首相は3月4日に主要野党との党首会談で新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法)の早期成立の協力を求めた。11日の審議開始から3日間で成立させた。この短期間で内容ある審議が行われたと思えない。法の目的が限定されているとは言え、私権の制限が盛り込まれている。当然十分な審議が必要であった。
11.特措法の目的
特措法の(目的)第1条は、新型インフルエンザ等の発生時において国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにするとしている。また、緊急事態宣言による私権の制限が盛り込まれている。(基本的人権の尊重)第5条は国民の自由と権利に制限が加えられる時であっても、その制限は必要最小限のものとするとしている。これらの位置づけは当然である。
〇安倍政権の政策は、その主旨に沿うものであったか?
12.改正のポイント
以下の2点であった。 (ニッセイ基礎研究所2020年3月17日より引用)
1)新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)を、新型インフルエンザ等と見なし特措法を適用する。
2)国・都道府県・市町村がすでに定めている新型インフルエンザ等対策行動計画等は、新型コロナ行動計画としても定められたものと見なす。
13.補償について
私権の制限による十分な効果を上げるためには、制限に対して十分な説明と補償が求められる。少なくとも、補償がなければ広く国民の賛同・実行は得られない。以下、特措法における私権の制限と補償について整理する。
補償の対象
以下の条文で、補償の対象について記載している
(停留を行うための施設の使用)第29条 検疫を行うものが増加し、停留を行うための特定病院等(病院、診療所、宿泊施設)
(医療等の実施の要請等)第31条 医師、看護師その他の政令に定める医療関係者に対し、医療を行うよう要請。特定接種の実施に関し必要な協力の要請、要請に応じない場合は患者等に対する医療等を行うべきことを指示する。
(土地等の使用)第49条 臨時の医療施設の開設では、同意を得ないで土地等の使用、特定物資の収容処分。
(物資の売り渡しの要請等)第55条 医薬品、食品その他の政令で定める特定物質の要請、収容。
〇特措法で補償が関係する条文は、ほとんどが医療等に関わっている。
表(厚労省資料)参照
損失補償、損害補償
(損失補償等)第62条第1項 上記した第29条,第49条、第55条が対象になっている。
第2項 第31条が対象で要請応じ、または指示に従って患者等に対する医療等を行う医療関係者に対し、実費を弁償しなければならない。
(損害補償)第63条 第31条が対象で要請等に応じ、または指示に従って死亡した場合等(死亡、負傷、疾病に罹患、傷害の状態)となったときは、損害を補償しなければならない。
〇補償の範囲は極めて限られている。〈以上、条文は要旨〉
新型コロナ患者受入れによる病院の減収要因 (志位氏による)
以下の様な要因が病院の減収要因として指摘されている。
・コロナ患者の受け入れベッドを空けておく
・医師・看護師の特別体制
・特別の病棟・病室の整備
・一般の診療や入院感謝数の縮小
・手術や健康診断の先延ばし
〇これらについては、補償の規定はない。これらが医療崩壊を招く。
補償のない自粛
(感染を防止するための協力要請等)第45条で、多くの業種が休業要請されたが、それらに補償はない。都道府県等で休業に対する協力金はあるが、要請に対する補償ではない。
パチンコ店が営業を続け、店名公表が行われたが、補償がないことが主な原因と店側は主張している。
〇自粛と補償は一体という主張は当然である。
14.立法事由はあったのか。
厚労省は特措法に関する実施要綱を2月18日に改正し「新型インフルエンザ等」と「等」を加え、政府の備蓄品を新型コロナ対策にも使えるようにしていた。(TOKYO Web 2020年03月05日)
3月4日の参院予算委の審議で特措法実施要綱の改定などで既に新型コロナに適応できるようになっていることが明らかになった。このことにより立法事由がなく、提出は断念すべきだったという主張がある。
3月4日以前に、休校の要請が突然行われていた。
〇特措法改正は必要であったか。
〇特措法に基づく補償範囲は極めて狭い。
〇特措法に基づく、要請は、国民に負担を掛け、効果が十分でない。補償と一体が必要。
〇単なる 改憲の地ならしか。
2.憲法の位置づけ
安倍政権は事業者・個人に自粛を要請する一方で、補償にについては拒否の姿勢を貫いている。日本国憲法第29条では、財産権について以下のように記述されている。新型コロナ拡大防止のために休業をもとめ、犠牲が生じているから「自粛と補償はセットだろう」という声は憲法の下で当然である。
日本国憲法第29条
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