投稿「新型コロナ禍と日本の医療 (市民連合政策討論集会発言)」


市民連合政策討論会集会発言

新型コロナ禍と日本の医療

北村龍男(仙台市泉区在住、医師)

 市民と野党の共闘で闘うための政策討論会集会(9月12日、東京エレクトロンホール)で、発言の機会がありました。当日の発言に加筆し投稿します。

 

1.新型コロナ禍のもとで起こった院内感染、医療逼迫、医療機関の経営困難、受診抑制

11.院内感染は、①PCR検査が制限され感染者が未検査で受診し、入院後感染が分かったこと、②感染症に対応する病床が少なく、隔離できなかったこと、③医師・看護師不足に加え、防御対策が不十分だったことによる。この院内感染が医療者バッシングの原因になった。
12.医療逼迫は、医療・公衆衛生の分野に市場原理を持ち込み、①公立・公的病院の病床削減を進め、②保健所は1992年の852カ所から2019年472カ所に大幅に減らし、③国の感染症対策の中核を担う国立感染症研究所の予算を2009年60億円超えから2018年40億円超えに減額するなど、医療供給体制、感染症対策の軽視による。
 この期に及んでも、公立・公的病院の統廃合が進められている。宮城県では「県立がんセンター、労災病院、日赤病院」「みやぎ県南中核病院、刈田病院」の統廃合計画の報道がある。また、2021年4月に、栗原・登米保健所の「支所化」が予定されている。
13.医療機関の経営困難は、新型コロナ患者の受け入れ・受け入れ準備のための病床稼働率低下と受診抑制による。東北地方のある病院では、6床を感染症用に変更し、救急・健診・手術を減らした。4~5月の外来患者数は前年より25%近く減り、、5月の赤字は約1億円と<朝日200720>は報道している。補填が必要である。
14.受診抑制で市民が必要な医療を受けられないことを示す。
 宮城県保険医協会が行った医科のアンケート調査では、5月は前年比で93%の会員が外来患者数が減少したと答え、30%以上減少したとの答えは20.9%に上った。
 インスリン利用中の患者が低血糖による意識障害を起こしたなど持病の悪化の例を聞いた。保険医新聞への投稿では、咽頭痛で内科受診したが駐車場での診察で咽頭炎と診断され、症状が続き耳鼻科を受診し咽頭腫瘍だった例を経験した会員がいる。心筋梗塞での受診が減ったとの調査報告(日本血管インターベンション学会)がある。専門家は発症しても我慢しているのではと危惧している。患者受け入れの準備のため、予定されたがん手術延期の報道もあった。早期発見・早期治療と真逆である。
15.受診抑制の原因は当初は医療機関での「密」を避けるためであったが、経済的理由での受診抑制が増加している。日本の医療の特徴として評価されてきた皆保険制度が機能していないことを示している。厚労省の調べ(2018年6月1日現在)では国保料滞納は全体の15%、269万世帯に上っている。国庫支出金が減り保険料があがったためである。窓口一部負担金も問題である。諸外国と比べ高額である。このような時こそ必要な医療を受けられる一部負担金免除が必要である。

2.PCR検査の拡充と必要な準備・体制、社会経済活動制限の補償

21.PCR検査、抗原検査は「偽陰性」など限界のある検査であるが、検査を拡大し、できる限り実態を把握し、その上での対策が求められる。
 尚、陽性者・周囲の濃厚接触への影響は大きい。感染の確定のためには、再検など慎重な対応が必要でないか。そのためにも、PCR検査は速やかに行える体制の拡充が必要である。
22.地域の医療機関で無料で受けられるようにすること。特に感染が見られる地域では幅広く検査を行える体制をとること。そのためには、医療機関に、隔離室、患者の動線分離が必要であり、マスク・手袋・ガウンなどを医療機関十分に配布することも欠かせない。
23.医療機関の整備を含めこれらの検査費用は国が責任を持って必要な財源措置を行うことは不可欠である。
24.PCR検査を含め新型コロナの検査は限界があり、ワクチンも特効薬もない。手洗いやマスク着用の標準的予防を行うと共に、社会経済活動の規制も求められる。
 社会経済活動の規制に当たっては、「立憲野党の政策に対する市民連合の要望書(以下、「要望書」)に示されているように、「経済危機による格差の拡大を阻止するための政策」「だれでも平等に検査・診療が受けられる体制」づくりが必要である。

3.「要望書」の実現を

31.特に「Ⅱ 生命と、生活を尊重する社会経済システム」の中の「4.利益追求・効率至上主義の経済からの転換」「5.自己責任社会から責任ある政府のもとで支え合う社会への転換」「6.いのちを最優先する政策の実現」は医療、更に介護・福祉に関わりが深く、当然の要望である。実現すれば、現状を打開する力になる。
32.財源の問題では、消費税を引き下げること。国は補正予算を国債で賄おうとしているが、国債は結局は国民の負担である。国民は耐えられるだろうか? 税制を変える必要がある。現状では大企業の内部留保の活用を強く求める。

2020/09/22

This entry was posted in 活動. Bookmark the permalink.

Comments are closed.