当会は、8月12日付で以下の声明を決定し、内閣総理大臣、厚生労働大臣、宮城県選出国会議員に送付しました。
2021年8月12日
【声明】
新型コロナウイルス感染症
「自宅療養を基本とする入院制限」方針の撤回を求めます宮城県保険医協会
理事長 井上博之政府は8月2日、新型コロナウイルス感染症への対応で、感染者の多い地域では原則、入院対象を重症者や特に重症化リスクの高い患者だけに絞り込み、中等症以下は自宅療養を基本とする方針を公表しました。治療に関する指針を無視する暴挙であり、強く抗議します。
菅首相は8月3日、医療関係団体と首相官邸で面会した際、「地域の診療所が往診やオンライン診療で患者の状況を把握し、適切な医療を提供するようお願いする」と述べていますが、新たな政府方針は医療現場に大きな衝撃と混乱をもたらしています。在宅では中等症患者の症状把握や急変時の対応が困難であり、死の危険に繋がります。家庭内で感染が広がるリスクもあり、最低でも医療従事者が常駐する宿泊療養を基本とするべきです。
政府はこのような重大な方針転換を、国会や医療の専門家に諮ることもなく、突如として発表しました。多くの国民から批判が相次ぎ、野党だけでなく与党からも撤回要求が出されています。新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は8月4日の衆院厚生労働委員会の閉会中審査で「政府とは毎日のようにいろいろなことで相談、連絡、協議しているが、この件に関しては特に相談、議論したことはない」と述べました。批判の中、厚労省は8月5日、「酸素投与が必要な患者は入院可」などの修正をおこないましたが、方針は撤回されていません。
これまで中等症Ⅰ(呼吸不全なし)は「入院の上で慎重に観察」、中等症Ⅱ(呼吸不全あり)は「高度な医療を行える施設へ転院を検討」とされてきました(厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の手引き」第5.2版)。東京では既に自宅療養者が1万9千人を超え、今後さらに増える可能性があり、中等症患者を自宅療養にすれば死亡者が激増する危険があります。政府は今回の方針について、デルタ株の広がりに伴う感染者増による病床逼迫を回避するためとしていますが、そもそも長年にわたる政府の医療費抑制策・病床削減・医師養成制限、保健所機能の縮小政策により入院治療体制が脆弱であること、新型コロナ感染症発生から今日まで医療提供体制の抜本的改善を怠ってきたことが招いた結果です。一方で東京五輪の「バブル方式」では、選手や大会関係者らに延べ約60万件の検査をした結果、陽性率は0.02%であり、組織委員会幹部は「先手先手の対応」が功を奏したとの見解を示しています。今必要なのは、国民に入院制限を強いる方針転換ではなく、感染を広げない、感染数をどのように減らすかという立場での抜本的な検査体制の構築です。
コロナ感染者が入院できず自宅に取り残されることは、まさに「医療崩壊」状態にほかなりません。私たちは宮城県民のいのちと健康を守る医師・歯科医師の団体として、「自宅療養を基本とする入院制限」方針の撤回を求めるとともに、コロナ病床・人員確保のためのさらなる公費投入、徹底したPCR検査の実施、接種を希望する方への早急なワクチン確保、治療法の開発を要望します。