村井知事の4病院2拠点病院化
国の政策の先取り、まず必要なのは検討・協議過程の透明化
宮城県保険医協会顧問 北村 龍男
突然の提案
村井知事は、9月9日記者会見で突然仙台医療圏の4病院を再編し2拠点病院に整備すると発表した。なぜこの時期の発表になったのかの問いには、「知事選への出馬に当たり、県民に施策の是非を問いたい」と答えている。知事選で当選すれば、この案は支持されたと主張するつもりらしい。4病院を2拠点病院にすることを、将来を考えたと称している。背景には、患者減による経営難、地域間の医師偏在(仙台圏は医師多数区域であるが他の3医療圏は少数区域)があるとしている。更に、2拠点病院化の理由は「合理化ではなく、県全体の医療バランスや将来を考えた」、「今後、急性期の病床が余り、慢性期の病床が不足してくる」とも述べている。二つの拠点病院の役割は、①県立がんセンター、仙台赤
十字病院→がん医療、周産期医療、救急医療、災害医療、新興感染症対策、②県立精神医療センタ-、東北労災病院→精神医療、災害医療、救急医療、がん医療である。「合併症を持つ患者ががんの治療を受けたり、医師の引き留めにもつながったりし、大きなメリットがある」としている。
宮城県保険医協会顧問 北村 龍男
突然の提案
村井知事は、9月9日記者会見で突然仙台医療圏の4病院を再編し2拠点病院に整備すると発表した。なぜこの時期の発表になったのかの問いには、「知事選への出馬に当たり、県民に施策の是非を問いたい」と答えている。知事選で当選すれば、この案は支持されたと主張するつもりらしい。4病院を2拠点病院にすることを、将来を考えたと称している。背景には、患者減による経営難、地域間の医師偏在(仙台圏は医師多数区域であるが他の3医療圏は少数区域)があるとしている。更に、2拠点病院化の理由は「合理化ではなく、県全体の医療バランスや将来を考えた」、「今後、急性期の病床が余り、慢性期の病床が不足してくる」とも述べている。二つの拠点病院の役割は、①県立がんセンター、仙台赤
十字病院→がん医療、周産期医療、救急医療、災害医療、新興感染症対策、②県立精神医療センタ-、東北労災病院→精神医療、災害医療、救急医療、がん医療である。「合併症を持つ患者ががんの治療を受けたり、医師の引き留めにもつながったりし、大きなメリットがある」としている。
参考資料:①記者発表資料:政策医療の課題に向けた県立病院等の今後の方向性について、令和3年9月9日、宮城県、②河北新報21年9月10日、他
3病院の連携・統合の断念
3病院(県立がんセンター、東北労災病院、仙台赤十字病院)の統廃合に県立精神医療センターが加わっただけであるが、よりもっともらしい理由がついている。考えて見ると、第7次計画基本方針、更に検討が開始されている第8次医療計画基本方針に沿ったものである。
註:医療計画は、厚労大臣の基本方針に基づき都道府県が作成する。
3病院の統廃合は、地元の大きな反発を招いた。そのため、村井知事は3病院統廃合は話し合いを進める中で難しい面がでてきたとし、新病院が県民に一番メリットがあると判断したと述べている。しかし、4病院2拠点病院化の検討・協議については、その内容も、何時から検討・協議を始めたかもは明らかにしていない。なぜ検討・協議の内容・開始時期を開示出来ないのか? 3病院の連携・統合を進めることは知事選を前にして得策でないと判断しただけなのか?
第8次医療計画基本方針の先取り
国は第8次医療計画基本方針の検討を始めている。第8次医療計画基本方針では、5疾患・5事業及び在宅医療に加え、令和6年度からは「新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加し6事業を提起している。国の医療計画基本方針に基づき各県が作る医療計画は、病床規制を主な目的に、二次医療圏ごとの病床数や病院の整備目標、医療従事者の確保などを定めるため1985年に導入された。2006年の医療法改正で、疾病・事業ごとの医療連携体制を記載することになり、2016年の医療法改正で、地域医療構想が明示された。2018年の医療法改正では、「医師確保計画」と「外来医療計画」が加わった。第8次医療計画基本方針の検討では、新型コロナの感染拡大を踏まえた改正医療法により、医療計画に新興感染症等に関する医療供給体制に関する事項が加わった。第8次医療計画基本方針もこれまでとおり病床規制を主な目的とすることを堅持すると思われる。
参考資料:全日病ニュース、2021年7月1日号
知事の提案を、宮城県の第7次医療計画(2018年度~2023年度)の実現のための対応という観点から見てみる。同計画では基準病床数、必要病床数、既存病既存病床数床数が示されている。同計画の第4編医療圏の設定と基準病床数でみると、仙台圏の療養病床及び一般病床の基準病床数は12,059、既存病床数は12,101である。第6編地域医療構想に見ると仙台圏の2025年の必要病床数は13,201である。基準病床数は既存病床数とほぼ同じ、必要病床数は少し上乗せが必要となっている。4病院の2拠点病院化は、病床数や診療科は今後の検討とされているが、病床数は削減されると推測され、第7次宮城県医療計画の実現のための対応とも言えない。
資料:第7次宮城県地域医療計画(最終案)の概要
村井知事からみれば、検討開始された第8次医療計画基本方針の先取りは、病床削減になるし、知事選の目玉になるし、知事選でこの政策を掲げ当選すれば、この4病院・2拠点病院化は実現しやすい。
このようにみると、4病院・2拠点病院化は、私たち県民に取っては、寝耳に水であるが、裏では十分根回しした案ではないか。昨年8月以来、日本赤十字社、独立行政法人労働者健康安全機構、宮城県立病院機構、東北大学、宮城県の5者で協議してきたと発表している。
この案は先に述べたように、国が医療・介護・福祉の分野で勧めてきた社会保障削減を一歩前に進めるものである。このような進め方は、東日本大震災後目立った、国の路線を先取りし宮城県に持ち込むことの一つである。
これまでと同じように第8次医療計画基本方針は、人口減少・高齢化、医師・医療従事者不足に対する対応であるが、それによって人口減少・高齢化を乗り越えようとする政策ではない。当面の対策で、後は野となれ山となれである。人口減少・高齢化を解決する政策を持てず、あるいは対策を持とうとしないことを前提とした政策である。当面の対策にはなっても、その先を見通した対策ではない。
県民の反応
河北新報などの報道によると2拠点病院化は「内容が分からない。」「患者やまちづくりへの影響が大きい。」「赤十字が仙台市で果たす周産期医療の機能をどう維持するのか?」「地域医療の重要性が分かってきた中で、効率性ばかり求める姿勢が信じられない」「県民が納得できる情報を出しながら、県民の意見を取り入れつつ検討して欲しい。」などの意見がある。
また、2拠点病院が仙台市外の整備が予想されるなかで、仙台市の戸惑いは大きい。仙台市長等は「新型コロナウイルス感染症で医療供給体制が課題の中、突然公表されて非常に驚き、大変遺憾だ」「仙台赤十字病院、東北労災病院が年間4000人以上の救急患者を受け入れ、仙台市の1割に該当、移転すれば搬送体制全体に影響する」「両病院は地域医療支援病院に指定されている。紹介先に影響が出る」と述べている。
3病院の地域では住民の反対運動が、4病院2拠点病院化に対しても巻き起こっている。当然である。
検討の透明化を
4病院2拠点病院化の検討内容・経過を村井知事は明らかにしようとしていない。検討経過を県民に知らせ、県民の意見を聞く必要がある。そうすることにより、はじめて県民の納得した県民のための医療供給体制ができる。
県立がんセンターについて県は在り方検討会議を立ち上げ検討してきた。19年初めから検討会議を行い、19年12月あり方に関する報告書をまとめ報告している。あり方検討会の議事録が開示されていないため、宮城県保険医協会は本年1月7日県に対し議事録の開示請求を行った。期限内の開示に関する決定は困難として延期され、7月21日付けで「一部を除いて開示する」との決定通知があった。開示内容は保険医新聞(2021年9月5日付け)で紹介したように、ほぼ全面黒塗りで、確認出来るのは冒頭のあいさつ部分のみであった。協会は引き続き開示を求め審査請求書を県に提出した。
尚、このような病院の統廃合等に関しては地域医療構想調整会議での検討が必要でないか? 「地域医療構想の実現プロセス」によれば、「1.まず、医療機関が地域医療構想調整会議で協議を行い、機能分化・連携を進める」「2.地域医療構想調整会議での協議を踏まえた自主的な取り組みだけでは、機能分化・連携が進まない場合には、医療法に定められた都道府県知事の役割を適切に発揮」とされている。今回の村井知事の役割は超法規的ではないか?
資料:(参考資料)地域医療構想の進め方について、医療計画策定研修会、平成30年2月9日