シリーズ「女川原発廃炉への道」
「原発漂流」(河北新報)に寄せて
理事長 井上 博之
「原発漂流」は河北新報が2020年9月から2021年4月まで連載した記事の表題です。連載終了3カ月後に単行本になっています。
東電福島第1原発事故から10年を迎えようという時期に掲載された検証報道です。私は、2021年4月9日の最終回の記事に注目しました。
「あなたたちのおかげで助かった。ありがとう」と東北電力女川原発所長が、高野博女川町議に語ったというのです。2011年5月14日のことです。その10数年前に高野さんたちは、津波対策として、原発前の海の水深に余裕を持たせるように再三指摘したそうです。その後東北電力は海をしゅんせつし、水深は6・5㍍から10・5㍍と深くなりました。それから12年後の3・11の津波は女川原発の敷地にあと80㌢にまで迫りました。「しゅんせつをしておいて良かった。助かった」という想いは、高野さんにも東北電力にも共通する想いだったはずです。でも、河北新報の取材に対して、東北電力もその発言をした所長も10年前の言葉を認めようとしません。記事でそのことを知って、私はこういう企業の不誠実な姿勢に落胆しました。そして、こういう企業が原発の再稼働をする資格はないと強く思いました。
高野博さんは、当会の女川原発現地視察会でも案内役をしていただき、誠実な人となりをよく存じ上げています。今回の記事で再確認するところとなりましたが、女川原発の過酷事故を防いだ、宮城県民にとっては恩人といってもよい人だと思います。もしも女川原発がこのときに事故を起こしていたら……女川原発から西へ37㌔地点に住む私は、冷や汗ものです。
女川原発をめぐる大事な事実を、連載最後に紹介した河北新報の見識に拍手を送りたいと思います。
本稿は宮城保険医新聞2022年9月25日(1793)号に掲載しました。