投稿「身元保証問題に物申す~急増する身寄りのない高齢者、当協会活動の一課題になることを願って~」


身元保証問題に物申す~急増する身寄りのない高齢者、当協会活動の一課題になることを願って~

理事 八巻 孝之

 近年、急な手術や入院、さらには高齢者施設への入所の際に、病院や施設側から断られる人が増えていることをご存じでしょうか。その理由は身元保証人を用意できないからだそうです。事実、私の勤務先でも、入院の際には身元保証人を求めています。あるアンケートによれが、9割もの病院や施設が同様に対応していると回答しています。身寄りのない高齢者の身元保証等の問題については従来から議論がありました。全国400以上の身元保証等の高齢者サポート事業の実態も明らかとなっています。
 2023年版高齢社会白書(内閣府)によれば、日本の総人口に占める高齢者の割合(高齢化率)は29.0%となり、総人口の減少が進む中、高齢化率の上昇はますます進み、2037年には国民の3人に1人が65歳以上になると見込まれています()。また、世帯構造の変化により、65歳以上の一人暮らしの者は増加傾向にあり、2020年にはそれぞれの人口に占める割合が男性15.0%、女性22.1%でした()。このような社会環境の中で、家族・親族の減少、近隣関係の希薄化等により、地域で孤立する人が増加しています。すなわち、同居する家族が居ない、親族も居ない又は居たとしても援助を受けられなかったり頼りたくない事情があったりするなど、いわゆる身寄りのない高齢者にとって、身元保証等の問題は実に深刻といえます。それなのに、従来のような本人を支援する家族・親族・近隣の人などがいなくなっているのに、病院や福祉施設等は家族等の存在を前提としたサービス提供を行っています。このことは、社会環境の認識に齟齬が生じているのです。
 医療・介護のサービスは、公的保険サービスです。そして、医師の応招義務や介護保険事業者のサービス提供義務などがあり、正当事由がなければ、入院・入所を拒否できないはずです。しかし現実には、入院・入所の場面において身元保証人や身元引受人がその必須条件であるかのように求めています。その結果、総務省が公表した「高齢者の身元保証に関する調査―入院、入所の支援事例を中心として―」によると、調査した病院、福祉施設等併せて9割以上が身元保証人を求めており、身元保証人がいない場合に入院を断る病院が少なからず認められています。入所を断る福祉施設等については20%を超えています()。
 身元保証人等を入院・入所の条件とすることは、病院や福祉施設等からすれば、高齢者が自身で対応できない場合の支払い、緊急時対応、医療行為、死亡時対応等についてのリスクマネジメントの一環となるでしょう。しかし身寄りのない高齢者にとっては、身元保証人等を準備できないという将来不安は非常におおきいはずです。現に、医療の現場では、何らの法的根拠もないまま、病院側がケアマネジャーや地域包括支援センターに対して、身寄りのない高齢者の金銭管理、医療同意、転院・退院時の環境調整等における事実上の対応を迫り、犠牲的な対応を取らざるを得なくなっているのです。

 身元保証等高齢者サポート事業についてインターネットで検索すると、初期投資100万円以下、1人で始めることができ、顧客1人あたりの単価200万円と高収益、地方には競合する業者が少ない等、積極的な起業を勧めています。高齢者福祉の現場では、本来、地域福祉として整備されるべき支援の不在が引き起こしてきた現状を埋めるために、こうした身元保証等高齢者サポート事業が生まれており、家族等に代わり身元保証人等に就任したり死後事務を行ったりするようになっています。さらに、身元保証等高齢者サポート事業者による高齢者の権利侵害も次々と明らかとなっています()。総務省2023年調査結果でも数多くの杜撰な対応が報告されており、消費者保護の必要性が指摘されているところです。
 高齢者には地域で安心して安全に暮らす権利(憲法第13条、第14条、第24条、第25条)があります。国及び地方自治体は、身寄りの有無にかかわらず、高齢者が必要な医療、介護、生活支援を受けることができるような体制整備を行わなければなりません。この観点から、身寄りのない高齢者が、地域で安心した日常生活を送るためには、地域で日常生活を送る上で基本的に必要な支援について、そもそも身元保証等高齢者サポート事業による対応ではなく、社会福祉制度として公的責任に基づく法的整備・体制整備が行われる必要があることを、宮城県保険医協会の運動課題としては如何でしょうか。そして、これを踏まえて民間サービスとしての身元保証等高齢者サポート事業の規制について検討することも妥当ではないかと考えます。 本論はあくまで私見ながら、こうした現状の認識と基本的視点に基づいて国や地方自治体へ提言をすることが必要です。身寄りのない高齢者が住み慣れた地域で安心して安全に暮らす権利を保障する観点から、身元保証等の問題については、身元保証等に頼る必要のない社会の実現を目指すべきではないでしょうか。

引用文献
1)総務省「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査結果報告書」(2023年8月7日)https://www.soumu.go.jp/main_content/000895038.pdf (2024.3.29供覧)
2)2023年版高齢社会白書「第1節高齢化の状況 3家族と世帯」https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/zenbun/pdf/1s1s_03.pdf(2024.3.29供覧)
3)関東管区行政評価局「高齢者の身元保証に関する調査(行政相談契機)−入院・入所の支援事例を中心として−」(2022年3月29日) https://www.soumu.go.jp/main_content/000802882.pdf (2024.4.1供覧)
4)京都地判(2020年6月26日)、名古屋高判(2022年3月22日)等

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