シリーズ「女川原発廃炉への道」No,54


シリーズ「女川原発廃炉への道」

廃炉の先延ばし、廃炉後も続く原発のリスク

理事 八巻 孝之

 エネルギー資源に乏しいフランスは、2011年の東京電力福島第1原発事故を契機に、国内東部のフェッセンハイム原発の廃炉を決めた。しかし国が原発を推進し、いわば迷惑施設を引き受けてもらった地域が振り回され続けるという例でもあるようだ。原発が立地する地域にとっては、原発事故のリスクと引き換えにさまざまな経済支援を受けてきた。現状では、フェッセンハイム原発のように廃炉を機に経済的便益を失ってしまうと、廃炉後の地域経済も負のリスクを負い続けることになる。
日本でも、廃炉作業そのもので経済再生を目指す議論がある。しかし、雇用数も期間も限られていて全く現実的とはいえない。一方、原発事故以外のリスクは、廃炉作業期間中はもちろん、廃炉作業開始後も続く。作業員の被ばくリスクは、運転時より増すという。使用済み核燃料が残り、解体時に放射性廃棄物も出てくる。原発依存の経済をつくったのは国であり、廃炉作業の先にも続く原発のリスクを想定すると、国には廃炉後の地域経済の自立を最後まで支援するまでの責務があると思うが、包括的なアプローチは全くない。これは、フランスにも日本にも当てはまるようである。
日本は原発の運転期間を最長60年以上に延ばした。しかし、古い原発の事故のリスクは増すにちがいない。使用済み核燃料も増えていく。地球温暖化対策で運転時に二酸化炭素を排出しない原発のメリットばかりが強調されるが、必ず来る廃炉作業に今からの備えが見えない。国の責務として、地域の経済的自立の支援とともに環境汚染を防ぎ、失業者を支える社会保障政策を確立すべきだが、これには予想だにしないコストがかかるであろう。国民の理解を得るにも困難が伴う。現政権が、再生可能エネルギー導入の拡大を目指さず廃炉を先に延ばしたのは、莫大な原発のリスクを放置する行為にほかならない。ましてや、エネルギー移行に関する法整備を進めるのは不可能に近い。

本稿は宮城保険医新聞2024年4月25日(1842)号に掲載しました。

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