寄稿「放射能汚染の除染作業に従事する人々の健康診断を始めて」


放射能汚染の除染作業に従事する人々の健康診断を始めて

公害環境対策部 部員 加藤純二

 近所にある建設会社が福島県の除染作業に作業員を送りたいので、作業員の健康診断をしてほしいと頼まれた。平成24年10月のことで、小生には除染が継続的な効果をもたらすとは考えられなかったが、社長さんが知り合いなので引き受けた。除染作業に応募してくる人々は宮城県が一番多く、他に、山形県、沖縄県、宮崎県、大阪府、愛知県、青森県、秋田県、北海道などが多く、男性が殆どだが、女性や夫婦で来る人々もいる。日本国籍は持っているが名前や言葉の微妙な違いで分かるが、韓国人、中国人、インド人もおり、皆、日本語は上手である。年齢は10歳台から60歳台後半までと幅広く、入れ墨をしている人々が小生の診療所の場合、1割程度はいる。
1)求職と就業の仕組み:
加藤純二先生提供写真3 当診療所に健康診断を依頼してくる会社は現在12社くらいで、すべて中小企業である。インターネットでいくつかの会社のホームページを見ると、求人広告が掲載されていた。求職する人々はそれらのホームページを見て、「写真付き履歴書、運転免許や各種保有資格の免許証のコピー」を送付し、次いで、直接あるいは電話での面接により、採用に向けた手続きとなる。求職する人もこのやりとりを通じて信用できる会社かどうか判断するという。除染作業の場合、スムーズにいけば1週間くらいで仙台に来て、健康診断をして、他の必要な書類を揃え、福島県の各地域を受け持つゼネコン(大手建設会社)に送る。
 除染作業の場合、ホームページには日給12,500~16,000円などと書いてあるが、実際には基本給が約1万円、プラス、放射能汚染の程度によって危険手当が現在は0~10,000円加算され、その金額は減ってきているという。除染以外の仕事も多種あり、解体、造成、宅地への電気・ガス・水道の工事、U字溝、道路の補修など。各種の資格がものをいい、基本給が高くなるという。しかし「月収・例30万円」と書いてあるので、期待して作業して、宿泊費や食費が毎日引かれて、天候により作業日数が少なかったり、危険手当が少ないと、1カ月後、会社によっては2カ月後、支払われる給与が期待外れとなる。ことに会社が悪質だと、例えば、天引きの種類や額が多かったり、支払いが延期されたりと、トラブルが多い。
 ある会社の健康診断を3カ月にわたって30人ほど行った。しかし料金は最初の1カ月分だけで、2カ月分が滞納となった。そのうち、渡したばかりの健康診断書の再発行をしてほしいという人々が続出した。聞いてみると、他の会社へ移るためだという。何が問題なのか詳しくは分からない。他にも未払い10人で連絡がとれなくなった会社もある。
2)健康診断で問題になること:
 健康診断には2種類あり、詳しい方は、早朝・空腹時の採血で貧血、肝臓、脂質、白血球像、血糖値を調べ、身体計測、尿、心電図、胸部レ線写真、視力、聴力の検査を行い、あと問診・診察をする。簡単な健康診断の方は「電離放射線健康診断」といい、除染のためと、6カ月おきの経過観察のために行うもので、採血により、貧血、白血球数とその形態を調べ、あと問診と皮膚・爪・目などの診察をする。詳しい方と簡単な方の健康診断の両方を行う事が多い。異常値が多く出て困るのが、中性脂肪、γGTPで、前日までの過食、過飲が原因で、会社の担当者に何度注意してもダメな人はダメである。中には酒臭い人も来る。経過観察の健康診断は繰り返し行ったが、今までのところ白血球数の著減も病的白血球(白血病)が現れた例はない。最初の頃は求人の条件が緩く、だれでもいいから人数を集めたいという感じだった。それが次第に、健康診断の結果が悪いと、「治療中」とか「治療の必要はない異常である」との証明書が必要となってきた。
 仕事上の会社とのトラブルを相談されることもあり、時には除染の管轄をしている環境庁の「除染110番」という窓口の電話番号を教えたり、労働基準監督署のことを教えたりすることもある。
3)作業の実際:
 現在、放射能汚染地域の環境庁直轄工事には16,300人ほどの作業員が入っているという。汚染地域を分割してそれぞれを大手ゼネコンが受け持ち、実際の作業は5~6人1組、1人は放射能測定器を携帯する。帰還予定地の住宅を重点的に除染している。一つの住宅では、まず屋根を高圧水で洗浄し、放射能の高い雨樋、軒下、庭や通路は水が流れるところのドロなどを除去する。汚染の強い草木も対象なので、かなりの量の廃棄物がでるが、それを専用のビニール袋に入れる。作業が終わると、それぞれの場所の放射能を再測定し、作業員の衣類の放射能汚染もチェックして記録するという。測定が正しく行われているかが問題だが、形式的にはこのようにして除染作業が進んでいく。現在、仮(り)置き場は満杯で、ある作業員に聞いたら、仕事は「仮(り)仮(り)置き場」を作っているという。
4)作業員の健康問題、被曝と脱水、ハチ、肺がん:
 放射能は地表と地下に浸透・沈着している。地上1メートルで0.23μSV/hour以上が除染の対象だが、作業員の被曝については、しゃがめばすぐ4倍くらいの被曝になり、地面に尻餅をつけば数十倍の被曝をしてしまう。また放射能は大小様々な粒子に付着して存在するので、ホコリやチリ・ゴミを吸い込まないことが大切で、マスクを着用することが必要である。「除染作業で放射能被曝を避けるには」という手作りのメモを全員に渡している。
 もう一つの危険は熱中症である。風通しの悪い防護服を着ての作業だから、多くの人が大量に水を飲む。スポーツドリンクや缶飲料には糖分が多いので、いわゆる「ペットボトル症候群」を起こしやすい。また、ただの水ばかり飲んでいると塩分不足を来し、「低張性脱水症」を起こしやすい。昆布茶を薄めて飲むのが最も安上がりで安全だと、これも手作りメモを渡している。他に危険なことはハチにさされることで、スズメバチとアシナガバチが特に危険で、希望者には抗体の測定をしている。ただそれ以上に問題なのは、宿舎での過飲・過食であろう。
 また将来的に大きな問題は、作業員の放射性粒子の吸引による肺癌の発生である。放射性セシウムが粒子に付着して吸入されると、内部被曝を起こす。放射能は正常組織にミクロン単位の距離で接しているので、影響は大きいはずである。アスベストとは比較にならないほどの発癌性を示すであろう。今後の継続的な疫学的な調査が必要だと思う。
5)何のための除染か:
加藤純二先生提供写真2 除染は放射能汚染された地域から避難している住民に帰還してもらうために行っている。小生は浪江町に放射能測定器を持って避難住民に同行したことがある。雑草が生えた広い農地の向こうには野山が続く。家を捨てて逃げたままの家並みが廃墟になっている。浪江駅前の広場には「安心して暮らせるやさしいまち」と書かれた大きな看板が、空しく立っていた。もう原発事故から4年以上たった。たとえ住宅地の除染をいくら実施しても、広大な野山の汚染をどうするのか。除染した所など僅かな面積で、田畑と野山の放射能が風雨で平均化され、除染は「元の木阿弥」になるであろう。
 ではなぜ仮設住宅の住民をそのままに、膨大なお金でゼネコンを使って除染して「帰還可能地域」を作ろうとしているのか。年間1mSvという基準を20mSvまで無理矢理引き上げて、「安全なレベルまで除染できました、さあお帰り下さい」と言うつもりなのだろう。少数の高齢者は帰還するかも知れない。しかし多くの高齢者はあの世に行っているであろうし、若い人々は危険と考えて帰還しないだろう。行政・東電は多分「帰らないのは自己責任。補償は打ち切り」にするのではないか。除染は国税の無駄遣いで、小生は健康診断代という形でそのおこぼれをいただいている。(2015/7/1、『教育労働ネットワーク』誌No.78号に掲載されたもの。)

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