女川原子力発電所過酷事故時における 原発30Km圏内自治体にある医療機関・介護施設等における避難計画に関する意見書


10月8日付で以下の意見書を県知事に対し、提出しました。また同日、県政記者クラブにてアンケート調査結果と意見書について、記者発表しました。
意見書は県知事のほか、内閣府特命大臣(原子力防災)、宮城県議会議員、女川町長、石巻市長、南三陸町長、登米市長、涌谷町長、美里町長、東松島市長、各市町村議会議員へ郵送しました。

 

女川原子力発電所過酷事故時における
原発30Km圏内自治体にある
医療機関・介護施設等における避難計画に関する意見書

2015年10月8日
宮城県保険医協会
理事長 井上博之
公害環境対策部長 島 和雄

はじめに
 宮城県保険医協会は、「保険医の生活・権利と経営をまもり、国民医療の向上、医療保障の充実をはかり国民の健康を確保すること」を目的に、県内1630名の医師・歯科医師が参加、活動している団体です。
 当協会(公害環境対策部)では、今回、医療機関・介護施設等の避難計画に関する実態を調査すべく女川原発から30km圏内(以後、UPZと記述)自治体にある各機関・施設等113件を対象に、郵送によるアンケート調査を行いました。
 その結果、66件(58.4%)の回答を得、内65件(99.5%)で避難計画を持っていないことが明らかになりました。
 当協会は、この調査に基づいて若干の知見が得られましたので、内閣府特命担当大臣(原子力防災)、宮城県知事、宮城県議会議員、女川町長、石巻市長、南三陸町長、登米市長、涌谷町長、美里町長、東松島市長、各市町議会議員に対して以下の通り意見書を提出致します。

意見の趣旨
 県が示したガイドラインでは今年度内に避難計画を策定するよう各自治体に要請していますが、UPZの各自治体における住民約21万人の避難計画策定は遅々として進んでいません。
 福島第一原発事故における経験でも明らかなように、原発過酷事故の際に災害時要援護者である入院患者や介護・福祉施設利用者の避難は想像以上に困難となることは明白です。
 事実、大熊町の双葉病院では、避難先の確保ができずに長距離をたらい回しにされ、高校の体育館に運ばれましたが、搬送中や搬送後に21人の患者さんが命を落とされました。
 災害時要援護者を抱えるUPZ自治体内の各医療機関・介護施設等における避難計画に関わる点について早急に改善、検討、実行するよう求めるものです。

意見1.国の対応
 国においては、この避難計画の策定に責任をもって関わり、より実効性のある避難計画を作成するために積極的関与が必要である。

意見2.避難計画の目的
 避難計画は、今ある原発を廃炉にし、その危険性がなくなるまでの期間に起こりうる事故に対する避難であり、原発再稼働のために策定されるのではないことを銘記すべきである。

意見3.予算処置
 県並びにUPZ自治体は、事故発生時や大規模災害時に当該医療機関・介護施設等が充分対応できるよう予算処置を行うと同時に国に対しても働きかける必要がある。

意見4.情報提供と説明責任
 避難計画の策定に当たり、県並びにUPZ自治体、東北電力は、各機関・施設等に対して策定に必要な情報と説明、経済的保障を早急に提示すべきである。

意見5.県の主導責任
 避難計画策定においては、県が主導して自治体間の調整と他県他地域自治体との連携を図り、具体的な行動計画、準備を提示する責任がある。

意見の説明
意見1.国の対応
 国は、万が一の事故があった場合、国が前面に立って責任を持って対応するというが、この避難計画策定に関しては自治体に丸投げの状態であり、そのことが計画策定を困難にしている要因となっている。
 被害が広範囲に及ぶ原発事故に関して国民の命と財産を守るべき立場にある国は、この避難計画の策定に責任をもって関わることが当然であり、放射能拡散情報の迅速且つ正確な提供や、自衛隊の組織的な行動計画など、より実効性のある避難計画を作成するために国の積極的関与が必要である。

意見2.避難計画の目的
 今回の調査では原発の再稼働に対しての賛成は僅かに4.5%であり、このまま再稼働などは到底容認することはできないが、仮に稼働していなくても使用済み核燃料がある限り、常に大きな危険と隣り合わせである。長期に渡り甚大な被害をもたらす過酷事故の可能性を考慮しなければならない。
 避難計画は原発再稼働のために策定されるのではなく、今ある原発を廃炉にし、その危険性がなくなるまでの期間、起こりうる事故に対する避難計画であるという事を認識すべきである。事故によるリスクをより小さくするために、より実効性のある避難計画策定は急務である。

意見3.予算処置
 現在、社会保障費削減のため、病院ベッド数の削減が進み、療養型病床の廃止までも今後行っていく動きがある。介護保険も同様であり、介護施設は人員の確保や施設自体の存続にも苦労している。
 このような状態の中で、入院患者や要介護者の避難の受け入れ先確保は一段と困難を極めることは明らかである。
 在宅療養患者にとっても同じことが言える。とりわけ重度の要介護者の場合、自宅から避難した時の受け入れ先は、当然病院や施設でなければならない。
 医療も介護も労働集約型産業と言われている。つまり医療機関・介護施設等における緊急時の避難措置はそこで働く人の数とスキルに求められる。これを日常的に保障しなければ、突然起こるであろう原発事故からの避難は考えられない。しかしながら、医療・福祉介護にかかわる社会保障削減は、医療機関・介護施設等で働く人とスキルを圧迫し、事故発生時や大規模災害時に適切な対応を行う努力の足枷となっている。
 県並びにUPZ自治体は、事故発生時や大規模災害時に当該医療機関や施設が災害時要援護者に必要且つ十分な救いの手を差し伸べることができるよう予算処置を行うと同時に、国に対しても働きかける必要がある。

意見4.情報提供と説明責任
 今回の調査で明らかになったことは、UPZ自治体にある医療機関・介護施設における避難計画策定は、1介護施設を除き全くの手付かず状態で有り、その理由として、「作成方法が分らない27件(51.9%)、作成することは現実問題無理である17件(32.7%)」が上げられている。一民間機関・施設が独自にできることではないと言うことである。しかしこれは当然のことで、避難計画の説明を受けたことがあるかの問いに対し、95.5%がないと答えている。
 県は、そのガイドラインを今年度中に作成するように自治体に要請しているだけで、避難計画作成の指示や説明、方法を県や自治体、東北電力が十分に行っていない事実が浮き彫りになっている。
 県並びにUPZ自治体、東北電力は避難計画の策定に必要な情報と具体的な説明と保障を早急に提示すべきである。

意見5.県の主導責任
 「作成することは現実問題無理である」という回答に通じる問題であるが、避難計画作成において難しいものはという問い(調査設問5.)に対して、「避難先の確保(89.4%)・避難車両の確保(62.1%)・人員配置(57.6%)・避難ルート(47.0%)」と多くの困難な課題が重複しており、要援護者の避難計画策定が極めて困難な状況にあることが明らかとなっている。
 施設規模が大きくなれば、それだけ避難先の確保が厳しくなることは当然であり、またその患者・要介護者の病状や重症度によって、その避難先が複数となることも考えられる。
 避難対象施設と同様の医療的管理や介護が避難先で可能かという判断もあり、困難さを一層増す状況にあると思われる。
 仮に避難先の確保ができたとしても、そこへの避難ルート、避難方法、人員配置が確立していなければいけないのは言うまでもない。
 すなわち、調査設問5.の内容にあるすべてが機能してはじめて避難先へたどり着けるという事であり、より詳細な避難計画作成が求められる。
 避難ルートの確保には、緊急時にも対応できる交通網・道路の整備が不可欠となる。
 現在の女川原発周囲の道路環境では避難ルートはほとんど機能しないものと考えてもいい。
 このような意味でも、都市防災学的観点からの避難計画、更には町全体の都市計画作成まで必要となると思われる。
 また、福島原発事故の教訓から、事故発生時の放射性物質拡散状況に応じた避難ルート選定が必要となり、風向きによって全く異なる避難ルートを複数用意することも考えなければいけない。
 要援護者施設の避難という大規模且つ看護・介護を有しながらの非常に難度の高い避難は一段と大きな壁に直面することになる。
 また、避難先の確保についてどのように決定すべきと考えますかの問いに対しては、「県が調整・決定(57.6%)、市・町(30.3%)、自院・自施設(9.1%)」という極めて常識的な結果である。広範囲にわたる被害をもたらす原発事故においては、1自治体内での避難という事は考えづらい。
 当然のことながら、他自治体への避難を考慮しなければならないことから、県が責任を持って主導し自治体間の調整決定をすべきである。しかし、現在は県は各UPZ自治体に避難計画を作成するように要請しているだけであり、その姿勢に問題があると言わざるを得ない。

おわりに
 以上の通り、我々の避難計画についての意見は、今ある原発を廃炉にし、その危険性がなくなるまでの期間に起こりうる事故に対応すべく、県並びにUPZ自治体に積極的かつ具体的関与を求めるものです。原発再稼働のために策定されるものではないことを改めて強調します。
 避難計画は、まず広域における公的立場での計画が策定され、その計画に合わせて地域の計画が立てられ、そこで初めて個々の民間での対応方法が考えられるのではないでしょうか。
 県並びにUPZ自治体は、避難先、避難路や避難方法、手段等についての要件を提示すだけでなく、どの医療機関・施設は何処の避難先に向けて、どの径路をたどり、車輌であればどの様な車輌を何台準備して置くのか、どの様な順番で、誰が誘導するのか等々の具体策が必要です。また他県、他地域自治体と密に連携を図り、現実的な行動計画、準備を提示する必要があります。そのためには、県の責任において、地域の医療機関、介護施設等の要望を具体的に汲み取り、連携して進むべきではないでしょうか。
 当然これは在宅においても必要ですが、いずれにせよ一民間機関・施設が独自にできることではないことは明らかです。
 最後に、医療・福祉・介護にかかわる社会保障削減は、このような事故発生時や大規模災害時に、必要且つ十分な救いの手を差し伸べることすら困難にしてしまう側面もあるということを改めてくり返させていただき、国への働きを強力に推し進めるよう要望します。

−以上−

別添資料)女川原子力発電所 過酷事故時における避難計画についての調査結果報告書

 

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