投稿「4病院の統合・合築は医療の縮小・削減 知事が目指すのは国の統廃合の先取り」


4病院の統合・合築は医療の縮小・削減

知事が目指すのは国の統廃合の先取り

宮城県保険医協会顧問 北村 龍男

 宮城県社会保障推進協議会誌から投稿を依頼されました。保険医協会会員の先生方にも読んで頂きたく、協会ホームページにも掲載させて頂きます。

 

はじめに

 知事が提案している4病院の統合・合築は通院している患者さんばかりでなく、特に4病院の周辺住民に不安・混乱をもたらしている。
 村井知事は何を根拠・基準に統合・合築を進めるのか。宮城県発表の文書などで知事の意図・目指していることを確認する。
 その上で、県の政策に対する私見を整理した。(この部分から読んで頂いても良いと思います。)
 また、国も医療費削減のため地域医療構想の実現を目指し、公立・公的病院の統廃合を進めている。知事の意図との関わりを見てみる。

1.村井知事の主張、動機

 宮城県は3病院の連携・統合で「がんを総合的に診療できる病院」の実現を目指していたが、知事選直前の2021年9月9日、突然「政策医療の課題解決に向けた県立病院等の今後の方向性について」(以下、「県の方向性」)を発表した。
 その後、仙台市と県の間で以下の様な文書のやりとりがあった。
 仙台市は21年11月15日に「宮城県が公表した『県の方向性』に関する本市の考え方」(以下、「仙台市の考え方」)を発表した。
 県は21年12月20日に「仙台圏の4病院の統合・合築に係わる宮城県の考え方」(以下、「県の考え方」)を公表した。
 市は22年3月31日に「宮城県が公表した『県の方向性』に関する本市の考え方(追加・修正版)」を発表した。
 県は22年7月1日「4病院の再編に係わる新病院の具体像について」を示した。
 市は22年9月13日「仙台医療圏の4病院再編案における諸課題について」を発表した。
 県は22年11月10日「仙台医療圏の4病院の統合・合築に係る宮城県の考え方」を発表し、仙台市外への移転の意義を強調した。
 以下、「県の方向性」を中心に、その後の「県の考え方」を踏まえ、県の主張、動機を確認する。

註)政策医療とは、国がその医療政策を担うべき医療であると厚労省が定めているもの。19の医療分野がある。国立高度専門医療研究センター及び独立行政法人国立病院機構は民間病院に任せるだけでは不十分と考えられるこれらの分野に特化した医療を提供するのみならず、臨床研究、教育研修、情報発信等を行っていくことを目的としている。政策医療分野には、国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)が担う分野と、国立病院機構の高度専門医療施設(準ナショナルセンター)が担う分野がある。準ナショナルセンターは、国立病院機構のネットワークにおける中心施設に位置づけられている(Wikipediaより引用)

〇少子高齢化と人口減少が進行する。2025年には「団塊の世代」が後期高齢者となり、超高齢社会となる。限られた医療資源の中で、政策医療の課題を解決し、適切な医療や介護を持続的かつ安定的に提供するため、将来的に必要な医療機能等を見据え、地域の医療機能の補完・連携を一層進める。
〇政策医療の現状と課題
(1)救急医療
・救急搬送受け入れ機能が仙台市内に偏在し、地域バランスの改善が必要である。
・再編後は新病院が(仙台市外からの)軽症・中等症の大部分を受け入れ、更に救急医療体制を医療圏全体で活用することで、仙台市内の体制に余裕が生じ、医療圏全体で搬送時間の短縮化が図られる。
・三次医療施設に入る重篤事例は救急搬送の3.8%で、分析に当たって大きな影響はなかった。
(2)周産期医療
・県内全域で安心して出産できる体制を構築する。それが出生数の増加につながる。
・みやぎ県南中核病院は分娩を休止し、地域周産期母子センターもない。
・総合周産期母子医療センターは仙台市以外にない。新病院は総合周産期母子医療センターとなり、通常の分娩もこれまで通り継続する。
(3)災害医療
・災害拠点病院が仙台市に集中し、分散化によるリスク軽減が必要である。
・黒川地域には災害拠点病院がない。名取・岩沼地域にはGMATの体制が限られている。
(4)精神医療
・精神医療センターは老朽化している。また、身体疾患を伴う患者には一般病院との連携が必要である。
・全県からの入院患者の受け入れが可能になる。
・センターを利用している方々が、継続して必要な医療を受けられるよう、地域の病院やクリニックと連携しながら、県内の精神医療体制の全体的向上に取り組む。
・合築により、身体合併症患者対応が可能となり、相互の往診体制、機器の共同利用によるコスト削減ができる。
(5)がん医療
・総合的に診療できる機能を有する拠点病院となり、新病院はがん診療連携拠点病院の位置づけを引き継ぐ。
(6)新興感染症
・第8次医療計画に位置づける。
〇課題に向けた検討
(1)施設の老朽化があり、建て替え時に政策医療の課題の解決と持続可能な経営の実現の検討を行う。
(2)人口減少等により、周辺病院との競合、患者数の減少、病床稼働率の低下、業務委託費の高騰等で経営の合理化が必要である。
(3)仙台医療圏における医師・病床機能・医療施設の偏在解消が求められる。
(4)国の三位一体革(「地域医療構想の実現」「医師・医療従事者の働き方改革の推進」「実効性のある医師偏在対策の着実な推進」)に対応・推進する。
〇地域医療
・地域医療支援病院は仙台市内に集中し、バランスの取れた地域連携体制が必要である。
・新病院は急性期を担う病院で、医療の質向上、経営の安定化の観点からも必要である。
・移転後に通院困難となる患者は、他医療機関に紹介する。
・新病院の機能は各運営主体で協議中である。
・今回の病院再編では救急医療強化、新興感染症対応を目指し、大規模な感染拡大時に対応できる医療供給体制確保の一助になる。
・県としては、医療圏全体に必要な機能の確保を目指している。
・救急医療、地域包括ケアシステムの課題については仙台市に協力する
・4病院の再編は、課題の検討・分析を踏まえて第8次地域医療計画に反映する。
・急性期病床を回復期病床に変換する場合は財政的支援を行う。
〇病床数
・仙台医療圏は2020年をピークに人口が減少する。一方で高齢者人口は増加し、医療需要は増え、ピークは2040年頃である。回復期病床は不足し、必要病床数に比べ急性期病床は過剰となる。新病院の役割や移転先の医療ニーズ、地域医療支援病院等の機能を担うに必要な規模(病床数)を設定する。
・(仙台市内は)急性期病院が集中し、受け入れ患者数が減少し、収入・医師確保が難しい。急性期病院の再編・集約化で救急受け入れ体制を強化する。
・二つの枠組みは、市町村単位でなく、二次・三次医療圏で検討すべきである。
〇今後の進め方。
・新病院の具体的な内容は可能な限り情報提供に努める。しかし、協議の最中は協議内容
の広報は困難である。具体的な内容の説明は、運営主体が行う。
・医療需要の変化により、医療従事者の確保が難しくなる。新病院は一定の年月を要するので、政策医療の課題を先延ばしせず取り組むことを表明した。
〇まとめ
・政策医療の課題解決には、仙台市以外の周辺地域も含めた医療圏全体の視点が重要であ
る。
・拠点病院が存続するための再編と地域バランスのとれた医療供給体制を目指すことが必要である。
・仙台医療圏では、回復期病床が不足しているが、急性期の病床は過剰となっている。
・スケールメリットを生かした診療内容の充実や医療従事者の確保を図り、県民に質の高い医療を提供する。

 以上、県の見解について確認し整理した。
 この問題について各方面からの発言があるが、以下、①県救急医療協議会、②仙台市長の記者会見、③県議会での金田県議の質疑、④患者・住民の意見・提案について見る。
〈県救急医療協議会〉22年11月17日
・県は新病院では「可能な限り受け入れ要請を断らない救急」と強調し、仙台市からの搬送も想定している。
・出席者からは「『要請を断らない救急』には救急医や総合診療医の配置が必要」といった意見が出た。
〈郡和子仙台市長〉定例記者会見22年11月15日
・県が回答書で仙台市外の消防本部の全搬送者に占める重症患者の割合を1割程度とした見解に、「現場の実情を分かってほしい」と述べた。
・救急隊が現場で重症かどうかの判断をするのではなく、病院搬送後に重症であるかどうかが分かると説明し、「病院側の結果を示す県と、限られた時間の中でどこに患者を搬送するのかという数字を示す仙台市では、救急搬送の考え方が違ってくる」と指摘した。
〈金田県議との質疑での知事の回答〉県議団ニュース、2022年12月
・仙台市とは「基本合意」が出た後に具体的に調整してゆくと回答した。
・今回の「構想」は50年先ぐらいを見越してのもので、高齢化が進み、人口が、若い人たちが減っていく。病院をどう維持していくのか、地域医療を維持して行くのかということを外すわけにはいかないと強調した。
〈主な患者・住民の意見・提案〉(河北新報他の報道他、多くの集会等での意見)
〇(仙台医療圏北部〈富谷市他〉、南部〈名取市他〉に病院が必要ならば、そこに県立病院を。
〇県立医療センターに関連する意見を中心に。
・(家族として)環境が変わることで受けるダメージでパニックに陥ることが心配。患者を置き去りにしないでほしい。
・30歳代で統合失調症になった。幻聴が聞こえなくなるのに約20年かかった。デイケアに毎日通って人前で話せるようになった。
・村井知事は「働いている人、通院や入院している人も重要だが、その後にいる大勢の県民を最優先に考えたい」と述べているが、いまいる患者は見捨てるのか。
・富谷移転は『病院を移れ』と言われているのと同然である。
・精神疾患は先生を信頼して通っているので他には行けない。
・医師:統合失調症などの重症患者は急に興奮することがあるため、車で1時間前後かかる富谷に通えるのは「感覚的に2割くらい」。
・重症患者のサテライトは分院レベルの拠点が必要、人手不足でカバーできない。

2.宮城県の4病院統合・合築方針に対する私見

〇統合・合築の目的が不明。
・3病院の統廃合は「がんを総合的に診療できる機能を有する病院」の実現が課題となっていたが、4病院統合・合築は「政策医療の課題解決」がテーマとなった。知事の本当の目的は何か? 医療提供体制-病床数-の縮小か。
・「政策医療の課題解決」を目的としているが、国は19の分野で取り組みを進めている。
 それらの取り組みと、今回の県の取り組みはどのような関係になっているのだろうか?
 県の文書の中には見つけられなかった。
〇医療提供の在り方は、県民全体で検討が必要。
・医療提供体制は、命と健康に関わる重要なテーマである。医療関係者、県民・医療圏住民の理解と納得を得ながら進めるものである。
・「基本合意」の検討過程を含め、県民・医療圏住民に全面的情報提供が必要である。
・仙台市は「基本合意」前の意見交換の希望している。当然である。
〇この構想を勧めているのは誰か。
・診療科、病床数についての具体案は示されていない。県の文書では、新病院の具体的な内容は、運営主体が行うとしている。運営主体は誰にしようとしているのか?
〇患者・住民の声
・4病院共に、地域に深く根差している。地域住民からのいろいろな声があり、不安になっている。また、高齢者が多く、遠方の病院に通院することは困難である。特に、精神医療センターの患者は、通院、救急搬送が難しく、「見捨てられる」と感じている方が多い。
・通院患者の変化に合わせ、回復期病床を増加させて行くことは必要であろう。
〇検討はいま必要か?
・医療需要は今後も増加し、ピークは2040年頃であると県はいっている。従って、急ぎ統合・合築を決める必要はない。将来の展望をもって検討することが望ましい。
・知事の言うように、先々を考えた計画であれば、県民を巻き込んだ検討を行い、20年、50年先を見越した計画を立てるべきである。
・仙台医療圏北部、南部に救急病床が必要であれば、そこに病院設立を検討すべきである。
〇少子化対策、人口減少対策なしに展望はない。
・50年先を見越しているとしているが、県の合計特殊出生率は東京に次ぎ下から2番目である。一層人口減少は進む。4病院の後にくる提案は更なる縮小・削減を避けられない状況である。県は真剣に少子化対策に取り組んでほしい。
〇地域間のバランス
・医療圏内でのバランスを強調しているが、大切なのは平均化ではなく、充実である。一つの医療圏をあえて仙台市内と市外に分け論づるのは、地域間の分断をもたらす。仙台医療圏北部、南部の充実こそが求められている。
〇救急医療。
・高齢者が増え救急搬送が増えており、今後も急性期病床の需要も増える。当面は仙台市内の急性期病床の削減は見合わせるべきである。
・急性期病床数は必要病床数に比べ過剰か? 必要病床数は、各医療機能毎に2025年の医療需要の推計(構想区域の2013年の入院受療率*2025年の推計人口)に稼働率を割り戻して推計する。受療率は国の診療報酬削減の影響を強く受け、国の医療費削減政策を強く反映したものである。必要病床数は住民が必要としている数ではない。国が都道府県に削減の目安として示している数である。例えば、救急搬送困難事例などを考えると、現場の実態にはあっていない。
〇精神医療。県立医療センターの移転は、中止すべきである。
・県立精神医療センターの地域ケア体制、ネットワークなどの連携した活動は、長年の積み重ねで築きあげられたものである。現在の連携・協働の活動なくして患者・家族は医療を受け、生活することも難しい。一方、転居先の地域で患者・家族を受け入れるためには計り知れない努力が予想される。
・センターの患者の通院、救急搬送は困難である。救急を含めた県北の精神医療については、これまで通り民間医療機関に役割を分担していただきたい。
・県は岩手県の精神科病院(県立南光病院)と総合病院(県立磐井病院)を合築成功例として紹介している。この例は同じ県立という運営母体であり比較対象とならない。
・老朽化に伴い早急な建て替えが必要なのは、4病院の内精神医療センターのみである。ならば最も移転が困難な精神医療センターの移転は避け、早急に建て替えてほしい。
〇周産期医療
・周産期医療の現地の問題は、産婦人科医の不足である。施設を移転しても、解決しない。
・出生数の増加をこの政策で期待できることは多くない。
〇経営問題
・いずれの病院も経営的に困難を抱えている。その原因は明らかに、医療費抑制である。
・病院の統廃合にはいろいろな財政的支援策がある。それらは再編・病床削減が前提である。医療提供体制の縮小をもたらす。また、建築後も引き続き支援策があるわけではない。国に対し医療費削減策を止めさせることなしには、安定した医療経営は作れない。
〇三位一体改革
・地域医療構想は、病床削減、更に医療費適正化を目指すものである。働き方改革では、他の職種と同様に、本来は時間外労働の上限は月45時間、年360時間を目指すべきである。医師不足の原因は絶対数の不足であり、医師偏在ではない。
・三位一体改革では、医療供給体制は確保できない。

3.国の政策:公立・公的病院の統廃合

・国は2012年に社会保障と税の一体改革関連法を成立させ、その後、医療介護総合確保促進法(2014年6月公布)をつくり、地域医療構想を各都道府県が2016年度末までに策定させることにした。
・財務省は、「地域医療構想の推進→病床削減→医療費適正化」を期待し、地域医療構想の実施を迫っている。高度急性期・急性期▲21万床、回復期+22万床、慢性期▲7万床を示している。厚労省は財務省の圧力を受け、2019年9月に再編・統合に向けた検討が必要な公立・公的病院として424病院(後に436病院に修正)を名指しした。県内19病院が対象になった。
・骨太方針2019では、重点区域の設定が提案されている。地域医療構想の実現のため、全ての公立・公的医療機関等の具体的対応方針の診療実績データの分析を行い、2025年において達成すべき医療機能の再編、病床等の適正化に沿ったものとなるように、重点支援区域の設定を通じて国による助言や集中的な支援を行う。
・医療法改正(2021年5月21日成立)には、消費税を財源に統廃合などで病床削減した医療機関を財政支援する財政制度の恒久化も含まれている。
・公立・公的病院の統廃合に用意された支援策は、病床機能再編支援事業、病床機能分化
・連携推進基盤整備事業、地域医療構想に基づき選定する重点支援区域の選定がある。いずれも病床削減(適正化)が支援の要件になっている。

 宮城県の4病院は厚労省公表の対象になっていないが、この統合・合築は、国の病床削減計画、「医療費適正化」計画に沿い、その先取りとなっている。4病院統合・合築は宮城県の医療を改革しようとするものではない。

まとめ

・4病院の統合・合築は宮城県の医療の縮小・削減を目標とするものである。
・宮城県の合計特殊出生率では20年後、50年後の人口減は避けられず、更なる医療の縮小・削減が必要となる。
・第8次医療計画基本方針は、人口減少・高齢化、医師・医療従事者不足に対する対応でもあるが、それによって人口減少・高齢化を乗り越えようとする政策ではない。
・県立精神医療センターの早急な現地、あるいはその周辺での建て替えを求める。
・4病院の統合・合築を白紙に戻し、県民挙げて宮城の医療の将来について、意見交換・検討を開始すべきである。その過程の情報提供は必要不可欠である。
・患者・住民の不安・困惑は、国の地域医療構想の有り様を示すものである。
・社会保障と税の一体改革が、「地域医療構想→病床削減→医療費の適正化」の路線をもたらしている。社会保障と税の一体改革は辞めるべきである。
・短期的には、窓口負担金を引き下げ、県民が必要な医療を受けられるようにし、診療報酬を引き上げ、医療機関の経営状態の改善を図る必要がある。

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