投稿「2020年度診療報酬改定の焦点と改善に向けた課題」


「2020年度診療報酬改定の焦点と改善に向けた課題」

保団連夏季セミナー(第2日第1分科会)報告

宮城県保険医協会理事 北村 龍男

 7月13−14日、保団連夏季セミナー(於都市センターホテル、砂防会館別館)に参加した。住江憲勇会長の基調講演、木村草太氏の記念講演、医師提供体制に関するシンポジウムに感銘と刺激を受けたが、ここでは、第2日第1分科会での日経ヘルスケア編集部二羽はるな氏の「2020年度診療報酬改定の方向性と医療制度改革の現状」と題した講演について報告する。
 二羽氏ははじめに、消費税増税・参院選があるため検討が遅れていて、方向性が見えにくいと切り出し、3つのテーマについて講演した。配られた資料は「7月10日時点の情報を基に作成し、次期改定の方向性は、取材と中医協の検討会の議論・資料をベースに紹介し、予告は記者の私見」であると断っていた。この報告は二羽氏の配布して資料と私のメモに基づいて、また、保団連新聞の記事などを参考に、二羽氏の報告の要点を伝えることを目的に作成した。

1.2025・2040年に向けた医療提供体制の整備方針
 まず、中医協で、どのようなテーマが、どのような論点で議論されているかが報告された。以下、要点を述べる。
 ①2025年に向け、高齢者が住み慣れた地域で継続的に生活することを目指す地域包括ケアシステムの構築が進められている。
 ②75才以上の高齢人口の増加などで疾患構成が変化し、肺炎・心疾患など中程度の医療資源の投入が必要な医療ニーズが増える。こうしたニーズに対応できる病床機能の充実が求められる一方で、急性期医療のニーズは横ばいないし減少する。
 ③地域医療構想により病床の機能分化が進み、2025年の一般病床及び療養病床数は2015年に比べ3.3万床減る見込み。高度急性期及び急性期の病床は4.6万床減るものの72万床に上ると見込まれている。
 ④医療区分1や医療資源投入量の少ない患者は在宅医療や介護施設などで対応されるとされており、在宅医療の担い手や医療必要度の高い患者を受け入れ可能な介護施設を確保する必要がある。
 ⑤年間死亡数は2040年頃にピーク(予測:166万人)になり、医療機関以外の看取りのためにも在宅医療の担い手や介護施設の確保が急務である。
 ⑥2040年に現役世代の人口減少が顕著に。2018年度改定では専従要件の緩和やICT化による効率化が図られた。
 ⑦働き方改革関連法が2019年4月から順次施行。医師の時間外上限規制は2024年からだが、今から取り組みを進める必要がある。

2.2020年度診療報酬改定の方向性
 このテーマに関し、講演では、1)中医協総会における検討状況・スケジュール、2)入院医療等の調査・評価分科会における検討状況が話された。
21.中医協総会における検討状況・スケジュール
 第1ラウンド(春~夏)においては、報酬項目にとらわれすぎない活発な議論を促進する観点から、①患者の疾病構造や受療行動等を意識しつつ、年代別に課題を整理、②昨今の医療と関連性の高いテーマについて課題の整理を行うことを基本としている。第2ラウンド(秋以降)では、外来・入院・在宅・歯科・調剤といった個別テーマについて、これまでの改定の検討項目、2018年度改定にかかる答申書付帯決議意見、他の審議会の議論等を踏まえた具体的な検討を進める。
 第1ラウンドでは、どのような取り組みが考えられるか、これまでの取り組みについて「どうかんがえるか」と問いかけ検討している。
①青年期・中年期の論点
〇生活習慣病の早期かつ継続的な管理のためにどのような取り組みが考えられるか。
〇生活習慣病、精神疾患、女性特有の疾患、がん等を含め治療と仕事の両立のための産業保健との連携として、どのような取り組みが考えられるか。
〇成人のう歯、歯周病、破折による抜歯等の減少・重症化予防のためどのような取り組みが考えられるか。
②高齢期の論点
〇高齢期の特性に応じた取り組み、高齢者の希望・医療提供体制を踏まえ今後の体制の構築をどのように考えるか。
〇根面う歯対策、口腔機能管理推進、歯科通院困難な高齢者に対する取り組みはどのように考えられるか。
〇薬局の訪問薬剤管理指導の取り組みについて、様々な患者のニーズに対応するためどのような取り組みが考えられるか。
〇高齢者のポリファーマシー対策のためにどのような取り組みが考えられるか。
③人生の最終段階の論点
〇患者の意思決定支援の取り組み状況を踏まえて、人生の最終段階における医療体制についてどのように考えるか。
〇多職種による医療・ケアの取り組みについてどのように考えるか。
④在宅ターミナルケア加算の算定状況
〇自宅患者に対して算定するケースが多い。患者の居住場所に応じた手間を踏まえて評価が見直される可能性がある。
⑤医療従事者の勤務環境改善の取り組み推進
〈院内での取り組み〉
 診療報酬において、病院勤務医の負担軽減・処遇改善に資する体制への評価、個別にはタスクシフティングの推進・人員配置の合理化・チーム医療及び複数主治医制等の推進、書類作成及び研修要件等の合理化を行ってきた。これらについて、働き方改革の方向性や医療の質を確保する観点等を踏まえどう考えるか。
〈地域全体での取り組み〉
 都道府県の医療計画策定、救急・小児・周産期医療で医療提供体制の確保の取り組みを診療報酬で評価、小児・周産期においては集約化・重点化が必要とされ、診療報酬で手厚い人員配置に対する評価を行っている。これらについて、働き方改革の方向性や、質の高い医療を確保する観点等を踏まえながらどう考えるか。

22.入院医療等の調査・評価分科会における検討状況
 2016年診療報酬改定が2018年11月1日時点でどのように影響していたかの調査結果について報告された。
221.急性期一般病棟入院基本料の見直しの影響
 ①改定前に7対1を届けていた病棟のうち、96.5%が急性期入院料1を届けていた。
 ②急性期一般入院料1以外では、急性期一般入院料2の届け出が多かった。急性期一般入院料2、3に転換した理由は、「看護必要度の基準を満たすのが困難」が最も多く、次いで「看護婦の確保が困難」であった。
 ③在宅復帰率は急性期一般入院料1~3では「90%」が多かった。
 ④急性期一般入院料1では、入棟元・退棟先のいずれも「自宅(在宅医療の提供なし)」が最も多かった。
222.地域包括ケア病棟入院料の見直しの影響
 ①地域包括ケア病棟入院料・入院医学管理料を届けていた病棟のうち、改定前に異なる入院料を届け出ていた病棟・病室では、7対1一般病棟入院基本料の届け出が4.8%と最も多かった。尚、改定前に地域包括ケア病棟入院料を届け出ていたのは68.3%であった。
 ②同病棟・病室を届け出た理由は「より地域のニーズに合った医療を提供できる」が最も多く、次いで「経営が安定する」が多かった。
 ③同病棟・病室の利用方法は「自院の急性期病棟からの転棟先」が最も多かった。
 ④在宅復帰率は、地域包括ケア病棟入院料1・2では施設基準の「70%以上」を大きく上回る病院が多数存在した。
 ⑤同病棟・病室では、入棟元は「自院の一般病床」、退棟先は「自宅(在宅医療の提供なし)」が最も多かった。
223.回復期リハビリ病棟入院料の見直しの影響
 ①ほとんどの同病棟は、改定前から同入院料を届け出る病棟であった。
 ②改定前後のリハビリ実績指数を比較すると、全体に上昇傾向あった。
 ③在宅復帰率は、同入院料1~2では、施設基準の[70%以上」を大きく上回る病院が多数存在した。
 ④入棟元は「他院の一般病床」、退棟先は「自宅(在宅医療の提供なし)」が最も多かった。
224.療養病棟入院基本料の見直しの影響
 ①改定前、療養病棟入院基本料1の病棟は療養病棟入院料1、療養病棟入院基本料2では療養病棟入院料2の届け出が多かった。
 ②改定前に療養病棟入院基本料(経過措置)の病棟は、療養病棟入院料経過措置の届け出が最も多かった。
 ③医療区分2,3の患者割合は、療養病棟入院料1で約9割、入院料2で約7割を占めた。④療養病棟入院料2の26.2%、療養病棟入院料経過措置の60.6%が他の病棟等に転換の意向がある。移行先としては介護医療院が最も多かった。
 ⑤医療区分3の該当項目としては、「中心静脈栄養」が最も多く、次いで「酸素療法(常時3L/分以上)」が多かった。7~9割の患者は、3ヶ月以上これらの医療処置を受けていた。
 ⑥入棟元は「他院の一般病床」、退棟先は「死亡退院」が最も多かった。

3.診療報酬改定以外の医療制度改革の現状
 ここでは、三位一体改革と医師少数区域勤務の評価について報告する。いずれも社保審・医療部会で議論された。
31.三位一体の改革
 骨太方針2019を受け、厚労省は、①地域医療構想の実現、②医師・医療従事者の働き方改革、③医師偏在対策を三位一体改革と名付け、医療需要が急激に増大する2025年を経て、支え手不足が深刻な人口減少社会への対応が求められる2040年を展望した医療供給体制を進める方針を示している。
32.医師少数区域勤務の評価
321厚労大臣の認定
 医師少数区域等に一定期間勤務し、その中で医師少数区域等における医療の提供のために必要な業務を行った医師を厚生労働大臣が認定する制度が検討されている。
322.この認定医に対するインセンティブ
 ①一定の病院の管理者としての評価:地域医療支援病院のうち医師派遣・環境整備機能を有する病院の管理者は、認定医師でなければならない。
 ②認定医師や医療機関に対する経済的インセンティブは今後検討する

フロアーからの質問

 講演のあと、フロアーからは、主に中医協で以下のような発言があったかどうかという形で質問が出された。
 ?薬剤費を問題にする意見は出されていたか。
 ?医療費総枠を拡大すべきという意見はあったか。
 ?絶対的医師数の不足についての意見はあったか。
 ?診療報酬の周知期間を長くすべきとする意見はあったか。
 ?診療報酬をわかりやすべきとする意見はあったか。

 他に、医師確保計画を通じた医師偏在対策について、PDCAサイクルを実施することについて、PDCAサイクルの手法に疑問を投げかける質問もあった。

おわりに

 分科会を振り返ってみて、以下の点を強く感じた。
 ・2040年に向けての議論では、少子化・人口減少の問題について、何ら方針のないまま、対策が検討されている。少子化にきちんと向き合い政策をつくることが必要であり、安倍政権の進めてきた政策を換え、社会保障を充実させるなどの政策を方向を前提に、診療報酬の在り方、医療制度改革の方向を考える必要がある。
 ・医師不足、社会保障の削減が進む現状を受け入れたまま対策を立てては、国民に必要な医療を提供することはできないのではないか。

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