東日本大震災、12年を迎えて
宮城県保険医協会顧問 北村 龍男
東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センターは、2023年3月11日、「東日本大震災からの復興と課題」の視点で、平和ビル前でリレートークを行いました。以下は、当日のトーク原稿です。
保険医協会の北村です。震災以来12年経ちました。この間、被災地近くの宮城野区と若林区で診療に当たって来ました。多くの思いがありますが、特に二つのことについて述べたいと思います。住まいのことと、医療費(窓口負担金)です。まず、住まいのことです。
・地域包括支援センターの方から地域の現状を聞きました。被災者の現状には住まいのと関わりで3つの傾向が見受けられるとのことでした。
① 自宅を再建した被災者は、2重ローンはあるにしても、生活は落ちついている。② 災害公営住宅が市営住宅となり、負担が生じたが、市営住宅にとどまっている被災者は、家賃が負担になっている。③ 家賃負担が担えず市営住宅から出ることになった被災者は、古いアパート、マンションなどに移っている方が多い。
この古いアパート、マンションに元からいる方は、若い時に家族で暮らしていたが、今は高齢者家族、或いは高齢一人暮らしが多くなっている。ここでは、移ってきた被災者と元からの住民の間で軋轢があるそうです。これまで支援を受けていた被災者に厳しい目を向ける元からの住民が少なくないと聞きました。分断が起こっているとのことでした。
被災者はこの12年間住まいの問題で翻弄されてきました。元からの住民を含め、住まいの最低限保障は当然ですし、そうすれば分断はなくなると思います。
・一方、昨年12月の県議会に「県営住宅等の集約に伴う移転支援の方針(中間案)」が報告されました。老朽化した県営住宅の建て替えは行わず、この分野から県は撤退するというものです。101団地548棟9048戸のすべてを対象に団地ごとに廃止を決め、その10年前から移転のための説明や意向調査を行うとしています。
・住まいは、最低限保障すべき課題です。県民センターの活動でも大きな位置を占めてき
ました。震災後の住宅問題の教訓からは県営住宅の廃止の方針は出てきません。県営住宅
廃止には強く抗議したいと思います。
もう一つは、医療費(窓口負担金)です。
・昨年から後期高齢者の窓口負担金が2割になり、受診抑制が起こっているという報告があります。震災後、私たちは2つの窓口負担金「ゼロ」を経験しています。
・一つは、被災者に対する窓口負担金免除です。窓口負担金免除は、被災者の健康を守る上で大きな役割を果たしました。受診数は増加し、診療点数に見られるように診療内容も充実しました。歯科で歯痛の処置だけでなく、入れ歯を作る人が増えました。対症的な治療に留まらず、根治的な治療が行われるようになりました。
2013年3月の免除終了時期には、「3月中に治療が終わるようにしてほしい」「薬を長く処方してほしい」「3月中に必要な検査は終えてほしい」などの要望がだされた。仮設居住者へのアンケートでは、4月以降「受診回数を減らした27%」「受診科を減らした7%」「受診を止めた10%」と大きな影響が見られました。
・もう一つは、新型コロナ感染症です。新型コロナ感染症の国の対策は不十分ですが、それでも発熱外来への受診、PCR検査が陽性でコロナ感染症と診断された場合は、入院治療を含め医療費(負担)が「ゼロ」であったことは、積極的な受診・検査をうながし、感染拡大を防ぐ大きな力となりました。負担「ゼロ」は必要不可欠であったと思います。
・この二つの経験からも必要な医療を全国民に提供するためには、窓口負担金を「ゼロ」にすることは重要です。
・ところが、昨年10月から75歳以上で一定所得以上の人は窓口負担が2割に引き上げられました。保団連のアンケート調査では、2割負担の14.9%の人が「受診回数を減らした」と言っています。
・コロナ感染症の位置づけを5類に変更することで、国は検査・外来・入院等に患者負担を求めます。また、病床確保料や診療報酬特例措置などの医療機関支援も順次縮小します。受診控えが起こり、医療機関の経営は難しくなります。
教訓に学なび「住まいの保障」と「窓口負担金ゼロ」を震災で学んだ「住まいの保障」「窓口負担金ゼロ」の二つは生かされていません。これからの災害でも、日常生活でもこの二つを生かすよう運動を続けたいと思います。