投稿「5類移行後1カ月過ぎて 多くの懸念、どうする対策、考えたい検証」


5類移行後1カ月過ぎて

多くの懸念、どうする対策、考えたい検証

宮城県保険医協会顧問 北村 龍男

はじめに
 発生以来3年半、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2類相当から5類に位置づけられた。しかし、第9波、新しい変異株など不安は大きい。WHOは2020年1月30日に緊急事態を宣言し、3月11日にパンデミックを宣言した。今回(2023年5月5日)緊急事態宣言は解除されたが、パンデミック宣言は続いている。
 5類移行の大きな曲がり角で、現在の状況・懸念、今後の対策について考える。検証は国民一人一人も行うべきと思うので、自分なりの考えを述べる。

1.5類移行前の状況

 この3年半のCOVID-19は3,380万人、死亡者数は74,000人と言われている。PCR検査は追いつかず、ワクチン・治療薬開発の遅れが指摘され、医療の逼迫が起こり、繰り返し緊急事態宣言が出された。東京都では2020年1回、21年3回宣言が出された。
COVID-19に関して多くのデータがあるが、今後を考えるうえで以下の数値は重要な意味があると思う。
 感染者数と抗体保有者を比較すると、2022年11月には2,500万人と3,300万人(差は800万人)、2023年2月には3、337万人と5,300万人(差は2,000万人)とされている。見逃されている感染者が増えてきているのであろう。
 感染者数は第7波と第8波はほぼ同じであったが、死亡者数は第7波よりも第8波が多かった。その9割が高齢者であった。
 21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会(略称:21・老福連)の調査(対象858施設、回答340施設)によると、高齢者施設の53%、179施設でクラスターが発生し、感染者87%が入院できなかった。入院できないまま療養期間中に施設で亡くなった人が40施設で77人いた。施設内療養が75%までは施設内死亡はないが、85%をこえると複数の施設内死亡が出ていた。
2類相当から5類への移行の理由について
 ”病原性の高い新たな変異株が出現していない”、”死亡者数がすくない”などが理由として上げられている。オミクロン変異株XBB系統、死亡者数は第7波より第8波で多いなどの指摘があり5類移行の判断根拠に疑問がある

2.5類移行後(5月8日以降)の国の方針

厚労省が示した変更のポイントは以下のとおり

  • 政府として一律に日常に於ける基本的感染対策を求めることはない。
  • 感染症法に基づく、新型コロナ陽性者及び濃厚接触者の外出自粛は求められなくなる。
  • 限られた医療機関でのみ受診可能であったが、幅広い医療機関において受診可能になる。
  • 医療費について、健康保険が適用され1割から3割は自己負担頂くことが基本となるが、一定期間は公費支援を継続する。

(厚労省:基本的感染対策の考え方について)
 「自主的な取り組みを基本とする」とされ、法に基づいた行政からの要請・関与はなくなる。体調不良時には、まずキットで検査をとされ、その上で重症化リスクの高い人は受診が薦められている。

3.5類移行後の状況

1)宮城県の状況
 外来対応医療機関は701カ所から740カ所となった。確保病床数は、42病院622床から46病院468床となった。他にコロナを受け入れる一般病床67病院663床がある。
 患者数把握は全数把握から定点把握に変更された。この間の1医療機関あたりの感染者数は、5月8日~14日は3.18人、7月3日~9日は1医療機関あたり7.87人(前週6.05人)であった。感染者数は91医療機関から716人(前週551人)の報告があった。2週連続で増加し、5月以降では最多となっている。
 保健所等業務量は軽減している。入院調整の行政仲介は1件(6月5日迄)であり、自宅療養患者への食料・物資の配布手続きがなくなった。
下水調査による感染者予測数(仙台市)
 東北大佐野教授グループは、下水道のウイルス量で、仙台市の感染者数を予測している。
予測人数は、5月15日-21日は2,808人、7月3日~9日の予測値は10,036人であった。増加が続いている。
2)全国の状況

  1. 定点医療機関の報告
  2.  全国約5,000の定点医療機関からの報告は、5類移行直後は定点あたり2.63人であったが7月3日~9日は9.14である(前週7.24人)。5類移行直後と比べると3.48倍。尚感染者数は45,108人(前週より+9361人)であった。前の週から増加が続くのは14週連続である。尚、入院者6,096人(前週比+602人)
     沖縄の他では、九州、中国、四国では増加幅が大きい。

  3. 抗体保有率
  4.  献血時の検査検体の残余血液を用いた検査で、2023年5月17日~31日の調査では42.8%であった。同様の検査で、昨年11月時点では全国で28.6%、2023年2月には42.3%であった。尚、60代は28.8%で年齢が上がるほど保有率は低下している。

  5. 沖縄など各地の動き

 沖縄の7月3日~9日の定点あたり感染患者数は41.67人。5類移行1カ月後の6月22日発表の定点報告数は28.74人であった。既に1カ月後に第8波を上回っており、「必要な医療を受けられなくなる状況もありうる」とされていた。入院患者数の増加による病床不足に加え、数カ所の病院では医療者の感染などの院内クラスターの対応に追われている。尚、沖縄の抗体保有率は63.0%と全国で最も高い。
 沖縄臨床研修センターの徳田安春医師は、「沖縄は第9波に入った。5類移行で社会活動を止めない、大規模検査もしないために、感染しても見つからない隠れ感染者が増えた。最前線にいる医療従事者が最も感染リスクが高い。発熱者の7、8割は指定医療機関を受診している。医師不足、看護師不足があり、医療体制の脆弱さが表面化しており、医療崩壊が危惧される」などと指摘している。(しんぶん赤旗23年07月13日)
3)各方面から以下の様な懸念が指摘されている
・感染者数が増加傾向、第9波の流行が起こる可能性がある。あるいは、第9波の入り口に入っているのではないか。
・沖縄の状況が、他の地域に広がることは十分考えられる。
・入院者数、重傷者数も増えている。ワクチンの接種者数も少ない。致死率は少なくなっているが感染の伝播力は強くなっっている。亡くなる人も増えている。
・いま求められているのは、高齢者の死亡をどれだけ減らせるかである。
・抗体保有率が英国などと比べ低い。特に、高齢者では30%に満たない。
・抗体保有率が高くとも、沖縄での感染者数増加しているように、爆発的に感染者数が増加する可能性がある。
・検査代、陽性確定後の医療費の患者負担により、受診控え、治療の中断が予想される。
・公費助成の打ち切りは、貧富の差による不平等・不公平が生まれ、人命軽視につながる。
・介護施設内療養で死亡者増加の可能性がある。陽性者の原則入院徹底こそ求められる。
・クラスター防止のために、感染拡大期には、高齢者施設などでは定期的・集中的検査が必要でないか。
・地域包括ケア病棟などにも入院するようになり、院内感染は増えないか。
・感染者数が増え続けた場合、入院病床は確保できるか。入院調整機能の継続・充実が必要でないか。
・夏休みで人の移動が盛んになる、冷房で換気が徹底されなず、感染が拡大しやすい。8月に掛けて感染リスクは拡大する。
・学校でのマスク外しの推奨は集団免疫の達成を目指しているように見える。
・後遺症は実態さえも未解明である。
・変異株の流行、第9波の実態は、全数把握を辞めたため実態がつかみにくく、隠れ感染者が増えるのでないか。
・XBB/1.16は、東京都では4月第1週には0%、第4週には全体の23%。XBB.1.16が心配である。
・ワクチンの摂取率が低いが大丈夫か。
注)WHOテドロス事務局長の会見(2023年5月5日)での発言:今後起こりうる最悪のことは、どこかの国が宣言解除を口実に警戒態勢を緩めたり、構築したシステムを解体したり、国民に新型コロナは心配する必要がないというメッセージを発信することです。

4.どうする対策

 国の発しているメッセージは、第9波ではない、基本的感染対策、ワクチン接種を強調などだけである。 
 一方、第9波、さらにその先を見据えての戦術を作る必要があると言う提案もあり、国内のワクチン開発をどうするか、感染症に強い人材の養成をどう進めるかのグランドデザインを作っておくことが大事だと指摘もされている。政府にそのような動きの気配は感じられない。
 保団連は「新型コロナの検査・治療の公費負担、診療報酬特例の継続等を求める緊急要望書(2023年3月2日)」を総理大臣、厚生労働大臣宛てに出している。国民にとっても医療機関にとっても重要な要望である。
1)まずやってほしいこと
 第9波が懸念されているが、その対策で話題になるのは、ワクチン接種を薦めることマスクをどうするかなどである。他にやるべきことはないのか。
 重症化リスクの高い人にワクチン、介護施設での感染対策求められている。介護施設からは、入院が必要な高齢者は必ず入院できることが要望されている。これは施設入居者だけの問題でない。
 次の対策を求める。
・抗原キットを無料配布する。
・入院が必要な感染者は入院を可能にする。
・入院調整を医療現場に任せるのでは無く、保健所などが係わるシステムを残す。
・COVID-19に関する医療費は、当面公費負担を継続する。
・治療薬、ワクチンなどへの公費助成も継続する。
2)私の対策
 私は高齢者で糖尿病、高血圧、がん術後、アレルギー性鼻炎などがある。重症化リスクが高いので、以下の様な注意をしている。尚、タバコは喫わない。
①勤務先でのPCR検査は可能であるが、念のため抗原検査キットを準備している。
②ウイルスに近づかない、遠ざける
・マスクはつけるよう心がけている。
・三密を避けるため、会議等は可能な場合はWEBを選ぶ。人混みへの外出はなるべく避ける。 
・手洗いを頻回に行う様に心がけている。
・うがい(鼻うがい)を1.5%の食塩水を利用して、1日に1、2回実施している。
③ワクチンは6回目接種を受けた。副作用、効果に疑問があるが実施した。
④体調を整える⑴
・糖尿病のコントロールに気をつける。
・睡眠を十分に。
・体を動かすことをいとわないように。通勤、外出時にはエレベーター、エスカレーターは使わない。暑さの中では、運動は控えている。
⑤体調をととのえる⑵ (”免疫力”をあげる)
・大腸手術後であるので腸内環境を整えることを心がけている。
・食べるように心がけている物。
 ・緑黄色野菜(きのこ、海草をふくむ) 
 ・蛋白質をとるように。
  大豆製品(納豆、豆腐、きなこ)、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト)、卵、魚類、肉類。         
 ・発酵食品
  納豆、(プレーン)ヨーグルト、チーズ、ぬか漬け。

まとめに代えて、”検証について”

 この3年半の検証が必要である。しかし、国や自治体が真剣にこのことに取り組む姿勢は見えない。また、国民一人一人も考える必要があると思い、5類移行となったところで、検証の課題について考えて見た。 
 検証すべき項目は多岐にわたるが、思いつくまま列挙する。
1)政策決定過程の透明化、説明責任について。
 コロナ禍対策は、一斉休校、安倍のマスクから始まった。パンデミックに対する対応、感染症対策には私権の制限を伴うので 国民の納得と協力が欠かせない。政策決定過程の透明化が必要である。会見等では質問を途中で打ちきるようなことがあってはならない。
2)情報収集の重要性について。
 尾身氏はインタビュー記事の中で、「我々が最も強く感じた不満は、(感染者の症状や感染経路など)リスクの評価に必要な情報に迅速にアクセスできなかったことです。専門家メンバーには大学教授がいるので、自分の教室の研究者や大学院生に手伝って貰って、驚くなかれ、スマートフォンを使ってデータを集めざるを得ない状況でした。サポート体制や情報を集めるシステムがあれば、もっと良い提言が出せたのではないでしょうか」と述べている。信じられないような話である。
3)リスクコミュニケーションについて。
 専門家は、感染リスクを評価し、対策案を政府に提案する。政府は 専門家の案を採用するのか、しないのかを決定する。採用しない場合は理由を説明が必要である。専門家と政府の間のコミュニケーションが十分であったと思えない。
 政府は、一番重視したのは、社会経済活動を可能な限り維持することであり、リスクコミュニケーションをどう考えていたのか?
4)パンデミックに対する準備について。
 新型インフルエンザ後、PCR検査、保健所機能の強化、リスクコミニュケーションなどの提言がなされたが、活かされなかった。
 訓練はやられていたが、対象患者数名で初期の対応としてしか訓練されていない。「3日で破綻する準備」との指摘がある。
 感染症施設、感染症専門医、専従スタッフはパンデミックに見合うものであったか。感染症研究体制はあったのか?
5)医療介護提供体制、保健所体制について。
 医療の逼迫を繰り返した。本来、医療には余裕が必要である。しかし、医療職、特に医師・看護師不足は明らかであった。病床削減はあり得ない。医師数・看護師数の拡大は不可欠である。
 エッセンシャルワーカーの努力評価に留まらず、待遇改善が欠かせない。
 連携についてのデジタル化も必要だった。手作業の報告でスタッフは疲弊した。デジタル化はマイナンバーカードの前にやるべきことが山積している。
6)国民皆保険制度は活かされたか?
 皆保険制度で求められるのは、全ての国民に必要な医療を提供すること。例えば、自宅待機は国民皆保険制度の放棄ではないか。
 アメリカで多くの死亡者が出ている。死亡したのは、医療にアクセスできなかった人々。日本の死亡数が少ないのは、諸外国と比べアクセスの良さではなかったか。
7)臨床の場で感染症対策の原則について。
 ①感染源同定、②疑われる人の検査を速やかに、③早期に隔離、④適切な治療を行う。感染症の対応は行われたか?
8)国立健康危機管理機構について。
”日本版CDC”設立を求める声が各方面から出ていた。
 国立感染症研究所、国立国際医療研究センターを統合し、感染症に関する科学的知見を政府の内閣感染症危機管理統括庁などに提供する役割を担うとされている。その人員、予算は?
 ところで、米国CDCは役割を果たしたか? アメリカでの感染拡大、死亡者数の多さはCDCに問題があったためではないか?
9)格差について。
 コロナ禍では、非正規労働者、中小事業者、高齢者、シングルマザーなどを直撃した。格差を無くすことの重要性が改めて明らかになった。
10)死者数の増加、平均寿命の短縮。後遺症の実態の解明。
11)骨太方針、社会保障と税の一体改革について。
 コロナ禍での困難は、骨太の方針、社会保障と税の一体改革による政策が強く反映している。骨太方針に基づく政策を再検討する必要がある。

〈 主な参考資料 〉

・押谷仁:COVID-19パンデミックと医療体制の課題、仙台市内科医会総会、2023年06 月11日
・尾身茂:パンデミックの先に、毎日新聞(2023年5月2日)インタビュー
・上昌宏:日本版CDC 情報開示を、毎日新聞(2023年6月17日)インタビュー
・井上ひろみ:コロナ 高齢者施設への影響調査、赤旗(2023年05月08日)
・保団連:新型コロナの検査・治療の公費負担、診療報酬特例の継続等を求める要望書、 2023年3月2日
・その他、厚労省HP, 河北新報、赤旗、毎日新聞、NHKなどから多くの情報・意見を頂いた。

(2023/06/25)、更新(2023/07/19)

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