投稿「働くことの意味と休むことの意味」


働くことの意味と休むことの意味

宮城県保険医協会理事 八巻 孝之

 一日の中で一番長く時間を使っていることは何だろうかと尋ねたら、多くの人が仕事と答えるでしょう。一日8時間労働で計算すると一年間で約2000時間です。人生の大部分を占める仕事、それに意味付けをすれば人生を充実したものにできるのでしょうか。
 近年、社会に貢献したいという企業が増えています。社会性が求められ、世界的にも多くのグローバル企業がこの考えに賛同しています。そして、世の中で起こっている課題を直視し、その問題解決に役立つ存在であることに意味を見出しがちです。しかし、一層複雑化した昨今の日本社会においては、職場で体調不良を訴える人が活動休止したり、休職せざるを得ない緊急事態等の、ストレスによる適応障害やバーンアウトシンドロームが顕在化しております。

◆◇バカンスのある国◇◆
 では、休むことの意味を考えてみましょう。休むとは、心身の疲労を癒して元気な状態に回復させることです。世界には、オランダ・スペイン・フランスのように、一カ月以上のバカンス休暇は当たり前という国があり、羨ましい限りです。なぜ、日本では長期休暇が根付かないのでしょうか。著者の友人が多いオランダ社会では、バカンス取得が労働者の権利です。多くの友人から、「TAKA(著者)は、不健康になるために働いているのか?」「病気になればどこでも診てもらえる日本だけど、まずは健康でいたいと考えるべきでは?」などとよく言われます。そして、時間外労働をするオランダ駐在の日本人は、「働き方の効率が悪い、日中手を抜いているのだろう、能力が低い」などと揶揄されてしまいます。残業する人=仕事ができない人と捉える傾向が強いのです。
 フランスでは、すべての労働者がバカンス休暇を取れるよう法律で定められています。遡ること80年前、2週間の有給休暇をフランス労働者に与えた「バカンス法」から、1980年代には25日間の有給休暇を与える制度へと変化していきました。この法律を守らない企業には罰則が科せられています。このように、長期休暇制度が浸透したヨーロッパの国では、結果的に国内インフラ整備が進みました。
 オランダの友人Marcoは、著者に「オランダやフランス、スペインは、ライフ偏重型の人が圧倒的に多く、仕事を最優先させることはあまりないよ」と言います。働くことの意味を尋ねると、「仕事は人生の一部だよ。日本では、仕事=人生という価値観を多くの人が共有し過ぎているよ」と教えてくれます。すなわち、1カ月以上のバカンスは、仕事以外のことを楽しみ、自分に刺激と活力を与える時間であり、働くことの意味を考える労働者としての当然の権利なので、無くてはならないものなのです。さらに、権利としての長期休暇をどう充実させるかが極めて重要だといいます。自己研鑽や自己投資に使える時間が増えれば、自然に社会貢献や地域貢献についても考えられるようになるといいます。まとまった長い休暇を取る社会のコンセンサスは、仕事はもちろん、個人の将来のキャリア形成においても良い効果をもたらすと考えています。

◆◇バカンスのない日本◇◆
 一方、日本では、労働=美徳という価値観や考え方が根強く、長期休暇の文化がなかなかなじみません。そして、日本人は働き過ぎという話をよく聞くわけですが、なぜ、日本では長期休暇が根付かないのでしょうか。
 日本企業では、著者の職場も同様に、リフレッシュ休暇が3日間、5日間という最低ラインの有給取得義務化が相場です。長時間働く国民を働き者と評価・賞賛する文化があります。企業のトップリーダー自らが働けば働いただけ利益を生み出すと考え、経験し、その全体主義は、一部の怠け者を除外し、残業をよくする部下たちを献身的と評価します。労働者自らも、社会、会社が動いているのに、自分の代わりがいないから、自分だけ長く休んでいる訳にはいかないと考えがちです。そして、社会全体で休むというコンセンサスが日本には存在しません。だから、バカンスが終わって仕事が始まった時に、自分だけ周囲から取り残されてしまうという無用のストレスを生み出します。

◆◇友の教え◇◆
 著者は、「仕事を終えた日本人は、なぜまっすぐ家に帰らず、飲み歩くのか?」とオランダの友人に尋ねられます。コロナ5類後に、「コロナを恐れずいつもどおり忙しく働いている中、リフレッシュに2~3日休暇をもらったところで、たっぷり寝て必要なDIY(日曜大工)をやれば終わりでしょ」と言われます。メリハリのあるワークスタイルを築くことも働き方改革なのでしょう。
 働く意味はその人の価値観によって異なり、自分の価値観に基づいて仕事が出来ている状態が、その人にとっての働く意味に繋がるのでしょうか。そう考えると、働く意味について自分は何をすると幸せなのか、と考えてみたくなります。一方、仕事を辞めたいと思う時、人は今の仕事を続けても幸せではない、幸せになれないと感じるはずです。その時の転職は、自分の価値観に合った生き方へ修正できれば良いのですが、この幸せの基準・価値観も、人それぞれでそこに良し悪しがありません。働く意味を考えることは、幸せの基準や価値観を再確認することと同義だと考えますが、日本社会では働き方の本質は変わっていません。
 今や、労働者のアイデアが利益を生み出す時代と言われています。いくら長時間働いても、利益が上がらないのは医療機関でも同様のことでしょう。そして今後、人口が減り人材の奪い合いの時代になります。昨今、こうした休暇のメリットに気付き始めた企業が日本でも少しずつ増えてきました。安倍政権以降、女性活用の前提として、ワーク・ライフ・バランスの取り組みも推進する動きも見られます。日本の法定休暇は他国と比べても少なくはないのですが、その取得率が50%程度と低めです。何よりも大切なのは、きちんと休める労働環境や風土を企業内、日本社会で作っていくことかもしれません。それには、働き方などの制度改革をただ受け身で待つよりも労働者自らが主張・選択し、権利を獲得していくことも重要でしょう。どんどん休みを取っても仕事できちんと成果を出すことを考えながら経験を積み人生を豊かにしていくことが、働くことの意味かもしれないと再認識しています。

This entry was posted in 活動. Bookmark the permalink.

Comments are closed.