投稿「国が目指す診療報酬改定について 診療報酬の引き上げの活動強化が必要」


国が目指す診療報酬改定について

診療報酬の引き上げの活動強化が必要

宮城県保険医協会顧問 北村 龍男

はじめに
 現在、医療機関にもとめられていることは、コロナ禍の立て直し、必要な医療の提供体制の維持し、新たな医療展開の備え、医療職の賃上げである。
そのためには、診療報酬の引き上げが欠かせない。
国は医療費の削減を目指し、特に財政審分科会は、(診療所の)診療報酬引き下げを提言している。
診療報酬改定を通じて国が目指していることを確認・整理し、診療報酬の引き上げの活動-署名活動、パブコメ参加など-を強化したい。

1.中医協と介護給付分科会の審議      2023年3月~5月、計3回
今回は、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの同時改定(トリプル改定)であり、この審議では主に以下の内容の審議がおこなわれた。
・地域包括ケアシステムの推進 医療・介護。障害サービスの連携
・リハビリ・口腔・栄養
・要介護高齢者の急性期入院医療
・施設における医療
・認知症
・人生最終段階の医療・介護
・訪問介護

2.社保審医療保険部会・医療部会(23/9/29)への厚労省提案
2-1.基本認識(案)には以下が盛り込まれた
①物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応
②全世代型社会保障の実現や、医療・介護・障害高齢サービスの連携強化、新興感染症への対応など医療を取り巻く課題への対応
③医療DXやイノベーションの推進等による質の高い医療の実現
④社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和、

2-2.基本的視点(案)。それぞれに具体的方向性(案)が示されている。
①ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進。
具体的方向性(案):「地域医療構想・地域包括ケアを踏まえた医療機能や患者の状態 に応じた入院医療の評価」「かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機 能評価」

②現下の雇用情勢を踏まえた人材確保・働き方改革等の推進。
具体的方向性(案):「医療事業者の人材確保や賃上げにむけた取り組み」「働き方改革に向けた取り組み」

③安心・安全で質の高い医療の推進
具体的方向性(案):「食材費をはじめとする物価高騰を踏まえた対応」「アウトカムにも着目した評価の推進」

④効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
具体的方向性(案):「(リフィル処方などの)医薬品関係」

3.予想されるトリプル改定の評価するポイント
3-1.地域包括ケアシステムの推進:医療・介護・障害サービスの連携
・”住み慣れた地域で自分らしい暮らしを、可能な限り人生の最期までつづけることができる体制”を2025年までに構築。
・地域包括ケアシステムの実現・推進にむけ、患者・利用者の療養場所が移ることにともなう情報提供・連携に係わる評価および、各関係機関の”日頃から顔のみえる”連携体制の構築。

3-2.医療・介護DXのさらなる推進
・ 医療提供体制と地域包括ケアシステムの構築において、ICTの活用は有効な手段であり、医療・介護DXの推進。
・全国医療情報プラットフォームの整備し手オンライン資格確認等システムを拡充することで、電子カルテの情報だけでなく介護情報、健診・予防接種等様々な情報共有がスムーズになり、質の高い医療を効率的に提供。
・共通算定モジュールで診療報酬改定の効率化する取り組み。診療報酬の施行日を後に倒し、システム改修コストを低減。

3-3.第8次医療計画との関連
・生産年齢人口の減少に対応する「マンパワーの確保」、ICTデジタル化推進による効率的な医療提供体制の構築。
・COVID-19で問題になった地域医療機関の強化・連携の重要性を認識し、オンライン診療、特にへき地医療での取り組み。
・ターミナルケアへの参画。

3-4.医師の働き方改革との関連
・医師の働き方との関連では 労務管理、労働時間の短縮、業務移転、連続勤務の制限、勤務間インターバルの確保などの取り組み。
・医療事務作業補助体制加算の見直し。
・リフレ処方箋、医師から薬剤師のタスクシフト・連携。

3-5.地域包括ケアを支える多職種連携の強化
・急性期→回復期→慢性期・在宅の連携から、かかりつけ医、地域ケアを支える病院・有床診療所、介護などのと連携の推進。
・これらの連携体制では、医療DX,ICTの活用。

追)診療報酬、介護報酬のプラス改定?
・23/5/26の政府の経済財政諮問会議で、加藤厚労相は「大幅な引き上げが必要」と表明した。しかし、財政審での提案のように、マイナス改定を主張する声もある。

〈参考資料〉
全日病ニュース、2023年10月15日号 青島周一:ファルマラボ、2023.10.16

追)財政審の見解について
 財務省は財政審分科会において「直近2年間の診療所の利益率も急増している」、「現場従事者の処遇改善等の課題に対応しつつ診療報酬本体をマイナス改定することが適当」と主張した。
一方日本医師会は「この3年間はコロナ禍の変動が顕著であり、コロナ特例による上振れが含まれている。コロナ禍で一番落ち込みが酷かった2020年をベースに比較することは恣意的である。また、コロナ特例の内容は、5類移行後 大幅に引き下げられている。一過性の収益を前提に恒常的なフローを議論するのは不適切である。今年の春闘・人事院勧告分の穴埋め、来春の春闘に匹敵する対応が必要である。」と述べている。

日本医師会の分析(グラフ参照)と主張
・コロナ対応分を除くと利益率は3.3%であり、コロナ流行前より若干悪化している。
・今後、コロナ特例の見直しにより経営環境が悪化の可能性がある
・診療所は医師一人が多く比較的事業規模が小さいことを考えると、妥当な利益率である。
・財政審は診療所の利益余剰金が約2割を超えたと主張しているが、「利益余剰金を削るということは、その法人が赤字と言うことを意味する。赤字になれば必要な返済や投資ができなくなる」と強調。そもそも利益剰余金は大規模修繕等にあてる。また、法人解散時には国庫等に帰属する。
・今年の春闘・人事院勧告分の穴埋め、来春の春闘に匹敵する対応が必要である。
・3年間の特例的な支援は、不眠不休で未知のウイルスに立ち向かい、通常の時間外の発熱外来、ワクチン接種、自宅・宿泊療養者の健康観察に対する支援である。この3年間の利益の返還を求めるのはあまりにも酷い意見である
・利益率が50%以上 自由診療を行っている診療所が含まれている。
・診療所のみによって支えられている地域。医療機関の閉院が相次いでいる地域があり、診療所の経営の健全化が必要である。

〈参考資料〉日本医師会記者会見、23年11月2日、11日

まとめ
・今後、医療・介護を安定的に提供するためには、診療報酬の引き上げが必要である。物価高騰・賃上げのため国も診療報酬の引き上げの必要性を認めている。財政審分科会での財務省の主張は、あまりにも恣意的である。
・地域包括ケアシステムの構築-多職種連携、医療DX ICTの利用を何としてもすすめようとしている。これらは、患者・医療者の立場で取り組むか、あるいはコストカットを目標に取り組むかで、全く異なる結果をもたらす。慎重な検討が必要である。
・医療を国民のものとするため、点数表は患者を含め利用者に分かりやすいものにすることが必要である。また、加算等での政策誘導は避けるべきである。
・診療報酬引き上げの署名活動、診療報酬点数表(案)のパブコメに積極的に参加したい。

(2023/11/12)

This entry was posted in 活動. Bookmark the permalink.

Comments are closed.