東北労災病院を守る会 第3回総会に参加して
宮城県保険医協会顧問 北村 龍男
3月20日午後、仙台市シルバーセンターでおこなわれた”東北労災病院を守る会第3回総会”に参加した。
この3年間の活動報告、地域住民・患者・職員・県議・市議のリレートーク、フロアからの発言があった。また、これまで5万3、560筆の署名が集められていることなど、幅広い活動の報告があった。
報告、発言の中で強調されたことは、
① 東北労災病院は、救急で重要な役割を果たしている。
② 開業医が困った時には、東北労災病院に紹介してもらうことが多い。
③ 東北労災病院がかかりつけ。富谷に移ったらどうしたら良いか。
④ 多くの職員が病院の近くに住んでいる。富谷に移ったら、遠いし病床数も減るし、続けて働けるのか。
⑤ 県立精神医療センターが築いてきた地域ケアシステムは、簡単に構築できない。
また、県知事の乱暴な進め方についても怒りが表明されていた。発言者は、これらの理由で東北労災病院の移転に反対していた。
発言にはなかったが、強調しておきたいことがある。
1)労災病院の役割は明確
労働者健康安全機構の理念は、①勤労者医療の充実、勤労者の安全向上、産業保健の強化、②我が国の産業・経済の礎を維持、発展させるとともに、労働者一人一人の人生を支える大きな役割を担う、としている
労働者健康安全機構の中で、東北労災病院は東北・北海道地区の労災病院の中核病院と位置づけられている。東北労災病院院長は、使命を次の様に述べている。
① 勤労者医療、勤労者の健康と職業生活を守るための医療を行う。
勤労者予防医療センターを治療就労両立支援センターに改称し、勤労者の治療と職場復帰の両立に力を入れている。
② 地域中核病院であり、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院、日本医療機 能評価機構認定病院として住民の健康を守っている。
③ 救急医療、災害医療にも力を入れている。DMATを立ち上げ、宮城県災害拠点病 院の指定を受けている。また、新型コロナウイルス感染症にたいしたも積極的に取り 組んだ。
東北労災病院の役割ははっきりしている。県内だけでなく、東北・北海道の労働者の健康を守るセンター的な役割などがある。そこに、県の精神医療センターとの協働的な医療活動を押しつけるのは無理がある。東北労災病院の役割を尊重すべきである。
2)何故、東北労災病院が移転・統合の対象になったか
公立病院・公的病院の統廃合の提案で明らかになったように、国は病院の統廃合で病床削減をすすめている。病床削減にあたって支援策を設けている。支援の要件は、病床削減が10%以上である。小さな病院の病床削減では、削減数が限られる。ある程度以上の規模の病院の統廃合が可能ならば、効果的である。
仙台市内の大規模病院は、仙台市立病院など最近既に改築したか、現在進行形である。残っている大規模病院は、東北労災病院と仙台赤十字病院のみである。
国の政策を先取りし病床削減をすすめようとする知事の選択肢は限られている。東北労災病院と仙台日赤病赤十字病院以外の選択肢はない。その上、県立の精神医療センターとがんセンターの病床削減を狙っている。4病院の統合・合築は知事にとって願ったり叶ったりであり、他に選択肢はない。
3)重点支援区域について
国は「重点支援区域」に選定した。国は県の申請に基づいて、仙台市や周辺自治体の医療圏を新病院の建設費の財政面や医療提供体制の分析といった技術面を優先的に支援する「重点支援区域」に選定した。重点支援区域に選定されると、医療機能の再編等を検討するための医療機関に関するデータ分析などの技術的な支援と、地域医療介護総合確保基金の優先配分などの財政支援を国から受けることができる(但し 重点支援区域の選定自体が、医療機能の再編や病床数等の適正化に関する方向性を期みる者でない。結論については地域医療構想調整会議の自主的な協議論による)。即ち病床数を10%以上削減し統廃合をすすめるために、何を支援するか。話し合いを勧める、データ整理を支援する、そして、病床削減策を作り上げる。この重点支援区域の認定はいわば国が仲人役を買って出ると言うことである。
何故国は仲人役を買って出るのか。公立・公的病院の統廃合などがうまく進まないためである。国は「経済財政運営と改革の基本方針2019」(令和元年6月21日閣議決定)において、地域医療構想の実現に向け、全ての公立・公的医療機関等に係わる具体的対応方針について診療実績データの分析を行い、具体的対応方針の内容が民間医療機関では担えない機能に重点化され、2025年において達成すべき医療機能の再編、病床数等の適正化に沿ったものとなるよう、重点支援区域の設定を通じて国による助言や集中的な支援をおこなうとされた。
要するに、病床削減が上手くいかないので、公立・公的病院の統廃合を提案し、それも上手くいかないので、国が自ら重点支援区域なるものを立ち上げ支援を始めることになったのである。
4)国・県の支援事業
「効率的かつ質の高い医療提供体制の構築」と「地域包括ケアシステムの構築」のため、平成26年度から消費税増収分を活用した地域医療介護総合確保基金が設けられた。この事業として、病床機能再編支援事業があり、単独支援給付金支援事業、統合合支援給付金支援事業、債務整理支援給付支援事業がある。
単独でも、統合でも10%以上の病床削減が要件になっている。また、統合医療機関の科の1つが廃止される場合に債務を返済するため、金融機関からの融資を補助する。
支援事業は、いずれも病床削減、10%以上の病床削減が要件になっている。しかも財源は消費税増収分である。消費税増収を使い、病床削減をする。
5)医療機関の赤字について
4病院の統合・合築の大きな理由になっているのが赤字である。赤字の原因は診療報酬が低すぎることによる。
統合・合築に対する国・県の支援事業は、建築のための費用のみである。その後のランニンングコストについての支援策ではない。赤字経営が継続するのは目に見えている。
赤字理由の統廃合は意味をなさない。
総会は大変盛り上がり、平和ビル前での宣伝、県庁前での宣伝、知事要請、守る会会員拡大、運動を支えるサポーターの募集などが訴えられた。そして、これからも4病院の移転・統合に反対し活動を続けることを確認した。
〈 資料 〉
北村龍男:国と宮城県の手厚い「支援策」、継続はできるか、宮城県保険医協会HP 2022/04/10
北村龍男:宮城県立精神医療センターの役割、移転・合築は必要ない、宮城県保険医協会HP2023/08/10
その他、厚生労働省、労働者健康安全機構、東北労災病院のHPを参考にしている。
2024/03/26