シリーズ「女川原発廃炉への道」
原子力発電は本当に安いのか
公害環境対策部 部員 宇根岡 實
2月19日、東北電力は女川原発2号機の再稼働時期を9月(営業運転再開は10月)ごろと発表した。同社は23年5月19日、女川原発2号機の再稼働による電気料金の低減効果を「年372億円程度」と公表している。しかし、原発の再稼働によって電気は本当に安くなるのか、疑問である。
東北電力は女川原発2号機の再稼働費用として、既に安全対策工事費に5700億円、特定重大事故等対応施設に1500億円、維持管理費を加えると1兆円を優に超える額を費やしているのである。原発の発電単価に造詣の深い龍谷大の大島堅一教授による、河北新報(1月28号)に「女川原発2号機の再稼働が電気料金を底上げする」との分析記事が掲載された。
同記事によると以下の通りである。東北電力は電力供給に必要な人件費や燃料費といった費用の合計となる「総原価」は年間1兆9343億円。女川2号機の再稼働により、市場から電力調達を減額などして、1年につき372億円削減できると見込んでいる。しかし、同社が自社の原発の減価償却や修繕などにかける費用は年間1352億円。さらに東京電力柏崎刈羽原発と日本原燃東海第二原発から電気を購入する契約を結んでおり、両原発が停止中で受電量がゼロでも年間265億円払っている。これらのコストを計算すると標準家庭の電気料金として、原発の費用分月額611円を支払っていることになる。同社は2号機の再稼働による電気料金の低減効果は372億円としているが、これは標準家庭で140円程度に過ぎず、トータルで考えるといかに不合理なのか明らかであると論じている。
電力会社は原発の発電単価については他社との競争に関わるとして公表していない。原発による発電コストについての研究は推進か反対かの立場で大きく異なるようである。
『原子力発電と会計制度』の著者であり、原発の会計学研究者である立命館大金森絵理教授によると、電気事業会計は「電気料金を前提とした会計制度であり、電力会社のみを保護、優遇する一般に認められていない会計」であると喝破し、さらには有価証券報告書上での原発コストが安いのはバックエンド費用が過少評価されているからであると著書で述べている。
バックエンド費用とは使用済燃料再処理費、特定放射性廃棄物処分費、原子力発電施設解体費(廃炉費)など発電後に生じる費用を指すが、これらの大部分が将来に発生する費用であり、現時点では見積もることは難しいと記されている。
本稿は宮城保険医新聞2024年3月25日(1840)号に掲載しました。