投稿「気仙沼の『ゆるーい関係の在宅医療』(第30回 KNOAH Agenda 参加報告)」


気仙沼の「ゆるーい関係の在宅医療」

(第30回 KNOAH Agenda 参加報告)

理事長 北村龍男

 3月27日、第30回KNOAH Agendaに参加させてもらったので報告する。
 当会の会員でもある村岡正朗先生は、大震災直後は避難所で診療活動を行い、その後巡回療養支援隊の活動に取り組み、12年5月には新たな診療所を建設し、診療を行っている。一方、大震災の年の11年12月から、歯科医師、薬剤師、ケアマネージャーら数人で勉強会を始めた。当初は「気仙沼在宅ワーキンググループ」と名付けていたが、2014年7月からKNOAH(気仙沼network of all homecare)と呼び、普段は35名から45名の参加がある。
 大震災直後から村岡先生たちの在宅医療の取り組みについては、強い関心を持っていた。先日県医師会主催で在宅医療対応力強化研修会の折に、村岡先生の講演(「ゆるーい関係の在宅医療」)を伺い、機会があったらその勉強会に参加したいと考えた。次は27日と伺い、27日の午後の予定を少々調整すれば、時間が取れることが分かったので、出席させていただくこととした。
 当日のプログラムには、長崎県の保健師の岩本さん、気仙沼保険福祉事務所の高橋さん、広域介護サービス気仙沼の小松さんの講演が予定されていた。
 司会は村岡先生、参加者は43名(医師は私も含め6名)、会場はバイタルネット気仙沼だった。

長崎からの報告 岩本美鶴保健師
 長崎の岩本美鶴保健師は、大震災後気仙沼に支援に来ていた。長崎の在宅医療の取り組みの報告をした。気仙沼まで来て長崎?との思いもあった。しかし、長崎は、在宅医療、特にネットワークの先進県であり、興味深く伺った。長崎県は、高齢化率が高い、要支援が増えている。日本一だそうだ。保険料も高い。全国が60年に到達する高齢者の状況が40年に届いてしまう。介護認定では、特に要支援が多い、それだけ積極的に介護保険が利用されているということだろうか?
 長崎市ではまちんなかラウンジがH23年に設立された。総合相談窓口である。H15年より連携ネットワークづくりがすすめられ、まちんなかラウンジの創設につながった。
 岩本さんは03年のDRネットの創設から、長崎のネットワークづくりが進んだと報告した。長崎は坂道が多く、訪問診療は歩くことが多い。そのため訪問診療に取り組んでいる医師同士の協力が必要と設立された。坂道が多いことがDRネットの原点と話していた。DRネットの先生方の患者さんそれぞれには、主治医と副主治医がおり、緊急時あるいは主治医不在時のバックアップ体制が整っているようだ。
 DRネットの活動に刺激されて、長崎では在宅医療に関わるいろいろなネットが作られた。
 あじさいネットは大村市から開設され、現在、インターネットの利用は在宅訪問先から接続可能になっている。更に他県への広がろうとしている。HPで見ると「あじさいネットとは地域に発生する診療情報を患者様の同意のもとで複数の医療機関で共有することによって各施設における検査、診断、治療内容、説明内容を正確に理解し、診療に反映させることで安全で高品質な医療を提供し地域医療の質の向上をめざすもの」と説明されている。
 歯科医師、薬剤師のネットもできている。管理栄養士、栄養士は人材バンクを作っており、日常の診療への派遣だけでなく、在宅へも人材の派遣を行っている。
 ナースネットは、訪問看護STが立ち上げ、空き状況が把握でき、素早い対応ができる。
 さらに、まちんなかラウンジの役割について次のように話した。相談業務を主とし、長崎市が設置して、運営は市医師会で行っている。ワンストップ機能をめざし、啓発業務、在宅医療提携機関との連携も行っている。地域包括ケアシステムの構築支援も行っている。長崎市は細長い街なので、基幹型包括支援センターを3か所つくる。

入院時情報提供書、介護保険の改正の報告
 気仙沼保険福祉事務所の高橋さんと広域介護サービス気仙沼の小松さん

入院時情報提供書は村岡先生を中心に準備が進められ、4月1日から利用が開始される。在宅の患者さんの情報を前もって記入しておき、入院時の入院先に提示すれば患者さんの情報が、医療・介護・福祉の全般に分かるように工夫されている。ケアプランの変更時の情報収集で内容を充実させてゆく。様式の統一により、情報を漏れなく、生活全般を俯瞰できるものになっていると自負していた。
 さらに進んで、今使用されているケアマネージャーからの連携連絡票に、医療機関からの情報も加えられないかと考えている。まだ「案の案」の段階だが、紙1枚で医療・介護・福祉の連絡をできないかと、検討が始まっている。
 実際に、入院してもケアマネに連絡を寄越さない患者がおり、情報共有のメリットは大きいと強調していた。
 厚労省は時間がどれだけ短くなったかなどの観点だけで取り組みを評価しようとしているが、情報の共有の重要性、作業を単純にするのが重要と指摘していた。

 介護保険報酬改定に関しては次の様に説明していた。
 マイナス改定4.48%であり、介護職員の処遇改善は、介護職員にしか使えない問題があると指摘していた。
 制度改正では、地域支援事業を市町村がやる、予防にも市町村が取り組む。市町村の格差について心配していた。
 介護報酬改定では、特養に入れるのが要介護3以上になる、介護保険料があがる、低所得者のみ支援強化とされているが、収入が280万、所得160万円以下でないと対象にならないと、厳しく話された。
 同一建物の問題にも触れていた。気仙沼ではこれまでマンションなどは少なかったが、復興住宅、軽費老人ホームも対象になるので要注意と話していた。

離任する方の挨拶
 年度末で、これまでともに活動してきたて(行政職からの)離任する方のあいさつがあった。
 この会は、これからどうしようという観点で取り組み、学ぶことが多かったと感謝していた。
 また、介護保険では、通所のサービスが遅れてきている。通所サービスの課題に取り組んでゆくことが必要でないかと提案していた。

気仙沼医師会長森田先生の話
 最後に気仙沼医師会長の森田先生の挨拶があった。
 今回の医療・介護改正法案では、医療・介護は困難が増すばかりであり、この動きを変えるためには、地方選挙は重要と話された。
 日経3月26日の「患者情報、地域で共有」の記事では「厚労省は4月から、病状や服薬歴など病院が管理している患者の情報を、地域の看護師や介護士が共有する仕組みをつくる。全国の市町村にシステム設備を義務付ける。末期がんや寝たきりの患者が看護師や介護士のケアを受けながら、自宅で安心して療養できるようにすることが狙い」と報道している。この記事に関して森田先生は、情報の共有は必要であり、宮城県でもMMWINの取り組みがあると紹介し、それを義務化するのは問題であると強調し、戦時中みたいだと指摘していた。

 大変有意義で、熱気あふれる集まりに参加させて頂き感謝している。

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