女川原子力発電所過酷事故時における避難計画に関する要望書


女川原子力発電所過酷事故時における避難計画に関する調査結果を基に、以下の要望書を県知事へ提出しました。

2017年1月20日

宮城県知事
村井 嘉浩 殿

宮城県保険医協会
理事長 井上博之

公害環境対策部長 島 和雄

女川原子力発電所過酷事故時における避難計画に関する要望書

【はじめに】
 宮城県保険医協会は、「保険医の生活・権利と経営をまもり、国民医療の向上、医療保障の充実をはかり国民の健康を確保すること」を目的に、県内1640名の医師・歯科医師が参加、活動している団体です。
 宮城県の「避難計画〔原子力災害〕作成ガイドライン」では、避難計画を立案するにあたり、各医療機関・介護福祉施設等(以後、「機関・施設等」と称す)に対して「自力による避難に努め」、県及び関係市町と連絡等連携するよう要請しています。しかしながら、民間の立場だけで実効性のある計画立案が可能なのか、当協会は同じ医療に携わる者として、きわめて難しい課題であると言う感触を持ちました。
 当協会(公害環境対策部)では、昨年に引き続き二次調査として女川原発から30km圏にある自治体(以下UPZ自治体と称す)にある各「機関・施設等」114箇所を対象に、避難計画に関する実態を調査すべく、郵送によるアンケート調査を行いました。
 その結果、各「機関・施設等」での避難計画作成の困難性、責任の所在、また連絡体制等連携状況について明らかにし(別添資料)、UPZ自治体内の「機関・施設等」での意見・考え方等を忖度した上で、以下の通り要望をまとめ、提出いたしますので、ご対応を宜しくお願い申し上げます。
 なお、本要望書は、今ある原発を廃炉にし、一切の危険性がなくなるまでの期間に起こりうる事故に対応した避難計画とすべく、県並びにUPZ自治体に積極的かつ具体的関与を要望するものであり、女川原発再稼働のための要望ではないことを改めて強調致します。
(添付資料)
女川原子力発電所過酷事故時における原発から30km圏にある医療・介護福祉施設等の避難計画に関する調査(二次)報告  

【要望事項】
1.各「機関・施設等」の管理者が避難計画を策定するために、県は責任者を明確にし、「機関・施設等」の規模・内容等について調査をおこない、搬送(移送)元・搬送(移送)先双方に対し移送と受け入れが可能であることの根拠を示して避難(転医)先を確保し、その上で搬送(移送)元・搬送(移送)先双方に状況を公表してください。(避難受け入れ体制)
2.「機関・施設等」は公立・民間を問わず情報の共有は必須です。県が中心になって各「機関・施設等」に対し説明会、意見交換会などを企画してください。(意見交換・説明会)
3.女川原発において福島第一原発と同様の事故を想定し、看護師、介護士等スタッフも含め、寝たきりの方や車いすの方の搬送のための車輌等を、県の責任で手配をしてください。(避難車輌の確保)
4.女川原発において福島第一原発と同様の事故を想定し、一般市町民の避難行動も加味し、避難所までの情報の収集や誘導体制を提示してください(連携の確立)。
【要望の説明(責任と根拠)】
 今回の調査では、避難計画作成上困難な点として「避難(転医)先の確保」「情報の収集や誘導体制の確立」「車両等避難手段の確保」が上位を占めています。
 つまり、各「機関・施設等」の管理者が策定するとしても、まず、はじめに困難な点の解決、もしくは見通しの裏付けがないままでは、実効性ある避難計画の作成を進めることが難しいと言うことを示しています。
 ご承知の通り民間は行政機関と異なり、様々な考え方と価値観、形態、事業規模(資本)等に基づいて運営されております。患者・入居者の移送先の選定・確認を民間で個々に行っても、重複や対応漏れなどの過不足が生じやすく、そこを公が調整するとしても、「機関・施設等」に対する確認作業や選定作業を、改めてやり直す必要があることなど、二重三重にコストがかかるものと推測できます。ましてや、避難車輌等搬送(移送)手段については、今回の調査報告書でも触れたように、民間の「機関・施設等」での対応ではきわめて困難な状況が考えられます。
 一方、統一的、集約的対応が可能である行政機関(県)は、移送先とそこへのルート、移送手段等を無駄なく明示することができるものと考えます。各「機関・施設等」の管理者が避難計画を策定するためには、県は責任(責任者を明確にするなど)を持って「機関・施設等」の規模・内容等について調査をおこない、移送と受け入れが可能であることの根拠を示して避難(転医)先を確保し、その上で搬送(移送)元・搬送(移送)先双方に状況を公表していくことが必要と考えます。

 宮城県は、脱原発ひまわりネットの第6次質問状「第4の1.入院患者・入居者の搬送手段と搬送先を確保できたかどうかの調査」に対して、「医療施設や社会福祉施設の避難計画については、関係市町の避難計画が作成された後、その避難計画と整合性を図りながら、各施設の管理者が策定すること」と回答しています。また、同質問状「第4の2.搬送手段と搬送先が確保できなかった場合の対応について」に対しては、「・・・病院の転院先については、県が国の協力の下に医師会等と連携し、予め転院先の調整方法を定めることとされており、災害時の状況に応じて転院先を決定すること」としています(回答:平成28年4月28日付環境生活部原子力安全対策課長)。
 しかし、「予め転院先の調整方法を定める」と言うことは、その先の転院先決定は自己責任で行えと言うことにほかなりません。「災害時の状況に応じて転院先を決定する」と言うことに至っては、災害が起きてみなければ何も決まらないと言うことと同義です。このままでは機関・施設等の管理者に実効性ある避難計画を作成せよと言っても不可能なことは、今回の報告書を見ても明らかです。これは、予め転院先が決まるよう県が責任を持って保障しなければならないと定めるべきであって、上記回答は撤回すべきです。
 さらに、「各施設の搬送手段や社会福祉施設の受け入れ先については、避難計画を策定する施設の管理者が確保する・・・困難な場合には、県は国及び市町とともに支援を行う」としています。今回の私たちの調査では「困難」であることが明らかになっています。これに対し「支援を行う」ことは当然としても、個別の立場で受け入れ先施設の規模、スキルを調査し、確保するには多大な時間と労力を必要とします。一体、県は何をどのように支援しようとしているのでしょうか。
 いずれにせよ今回の私たちの調査では、避難計画の作成上困難な点の解決は、県もしくは関係市町のいわゆる「公」の責任で行うべきとする回答が70%以上であり、「搬送・移送に必要な資機材の確保」については、95.0%もの回答者が「公」での責任を求めており、「公」に依拠するところが大きいと思われます。
 以上のように、「公」にとってどのような解決策を持って責任性を明確にするか、県民にとっても注視すべき重要な課題と考えています。
 今回のアンケートは、大多数の民間医療機関・介護福祉施設等のみでの避難計画を立案することは、はじめから不可能であることを訴えております。県は何を根拠に「自力による避難」が可能と考えているのか、その根拠を示すべきであると考えます。

以上

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