シリーズ「女川原発廃炉への道」
原発の臨界事故と東海第二原発の再稼働問題
公害環境対策部員 加藤 純二
福島第一原発の南の茨城県の東海村にJCO(日本原子力発電)原発がある。東京に近く、30Km圏内の人口は約94万人である。ここでは1999年9月末、核燃料製造中に臨界事故を起こし、周辺住民10万人の屋内退避と換気装置の停止、道路の閉鎖、鉄道の運休などの措置が取られた。作業員が正規のマニュアルでなく、作業を簡素化する裏マニュアルの手順を用いていた。結局、この事故は被ばく者総数667人、日本国内で初めての事故被ばくによる2人の死亡者を出した。2003年、水戸地裁はJCOへの罰金、管理責任者6人に執行猶予付き有罪判決を出した。親会社の住友金属鉱山は倒産寸前まで追い込まれたという。
実は死者はでなかったが臨界事故は北陸電力滋賀原発で同年6月にも起こっており、関係者は事故を隠蔽し、8年後に発覚した。
東日本大震災の津波被害で停止していたJCOの東海第二原発の再稼働を巡り、2012年7月に訴訟が起こされた。争点は起こり得る地震動の大きさ、原発老朽化、避難計画などで、水戸地裁は2021年7月に再稼働不許可の判決を出した。
再稼働を巡っては2018年3月、原発が立地する東海村のほか、那珂市や水戸市を含む計6市村が事前同意権を持つ安全協定を原電と締結していた。この年の10月、海野徹那珂市長は再稼働反対を表明した。前年度の町民アンケートで市民65%が再稼働反対という結果を尊重したと言明した。しかし11月10日、翌年2月初旬に予定されていた市長選に立候補しないことを表明した。理由は「家族が反対している」と述べた。2019年10月、東京電力はJCOへの資金援助(工事費2200億円)を表明した。今後JCOは再稼働へ向かうであろう。
一方、欧州(英仏)では原発の建設再開の機運が起こりつつあるという(日経新聞、令和3年12月28日)。原発に脱炭素効果があるというのが理由である。原発は有益であろうがそれは目先のこと。より長い目でみれば取り返しのつかない惨劇をもたらす。
1979年3月には米国スリーマイル島で原発事故が起きた。この時、日本の経済界やマスコミから「初歩的なミス、日本では起こりえない、日本の運転員は優秀、原発やめたら大停電」などという論評が沸き上がり、朝日新聞には「(今度の事故で)いったん事故が起これば壊滅的、悲劇的になるといった危険神話が崩れた」という論評まで現れた。滋賀原発の臨界事故では、原発と原爆を分けたのは数本の制御棒があるか抜け落ちたかの人為ミスだった。女川原発の再稼働による危険性を宮城県知事のように交通事故と同列に軽く考えれば、我々は大きなしっぺがえしを食らうであろう。
本稿は宮城保険医新聞2022年1月25日(1771)号に掲載しました。