談話
医学部新設 東北の地域医療に貢献する医師養成のためには
理事長 北村龍男
昨年12月17日復興省、文科省、厚労省の3省は東北地方における医学部設置の基本方針を発表した。「震災からの復興、今後の超高齢化と東北地方における医師不足、原子力事故からの再生といった要請を踏まえつつ、将来の医師需要や地域医療への影響を勘案し認可を行うことを可能とする」としている。文科省の新医学部構想審査会は8月29日、東北医科薬科大学を設置者と決めた。
東北地方−特に津波被災地−では大震災前から、医師不足、医師偏在の影響が指摘されてきた。一方、医学部新設には人的・財政的に大きな投資が必要であり、反対、疑問の意見がある。
医師増員だけで被災地の医療が充実しない。地域医療の充実のためには、社会保障−医療・介護・福祉−の拡充が必要である。社会保障の削減により、住民は必要な医療を受けられなくなっている。東北地方、特に被災地・被災者に必要な医療を届けるためには、医師増員とともに社会保障分野の充実が欠かせない。
構想審査会は認可の条件として、運営協議会、医師偏在解消、総合診療医養成、教員・医師・看護師確保対策、修学資金、入学定員・定員調整など7項目を挙げている。これらの項目は新設医学部の準備の課題として当然であるが、不十分である。地域医療に貢献する医師養成のため以下の提案をする。地域医療に貢献する医師養成の提案
被災地・被災者をはじめ地域住民の声を直接聞くこと構想審査会は、東北各県・各大学、関連教育病院、地元医療関係者等との協力のもと運営協議会を立ち上げることを求めている。しかし、被災地・被災者、医師不足・偏在の影響を強く受けている人々の意見を聞く仕組みがない。住民が直接参加できる説明会、パブリックコメントをきめ細かに実施し、設立準備に生かすを提案する。
地域に残る医師の修学資金は、学生、受け入れ自治体に負担をかけないこと
東北地方、特に被災地での地域医療を担う意気込みがあれば誰でも、修学資金の心配なく学べることが重要である。東北地方特に被災地で医療を担うのに多額の入学金、授業料の準備が必要では目的は達せない。地域定着のため入学者に負担をかけないこと。
卒業医師を受け入れた病院を経営する自治体等に償還負担を求めないこと。医師不足の病院等に対し、医師充足のための補助を行うことが必要である。入学者に地域枠をつくること
被災地、東北地方に一定の入学者の地域枠を設け、合否判定の透明性を高める仕組みを作ること。
国の責任
政府は昨年12月5日「好循環実現のための経済政策」を決定し、その中で医学部新設が位置づけた。この新設は他の施策と違い<予算措置以外分>とされている。基本方針を実現する医学部新設であるならば、本来国が責任を持つこと。審査し、許可するだけでなく、財政的にも支援が求められる。審査会は、7項目について適切に対応できていると認められるまでは、設置認可が行われないことを求めている。国は自らの基本方針−震災からの復興、医師不足、原発事故からの再生−に対応する積極性を発揮すべきである。最低限、被災地、東北地方の地域医療に取り組む学生に対する修学金援助(奨学金など)を十分に行うこと。
宮城県の果たす役割
宮城県に医学部が新設されることになった。宮城県には復興基金として多額の残があると言われている。新設医学部支援に十分な役割が果たすことを求める。
宮城県は被災者一部負担金免除について、「対象者の限定は困難」「県独自の予算措置は難しい」「国に特別財政措置を要請」などと極めて消極的であった。また、県のこども医療費助成制度は、通院が3才未満、入院は就学前を対象としている。2002年以降、「国がやるべき事業」「財政が厳しい」という理由で引き上げをしていない。
宮城県の医療・介護・福祉に対する施策を抜本的に改善することなしに地域医療の充実はない。県民、特に被災地・被災者への配慮があってこそ、必要な医療を提供できる。宮城県の役割は大きい。カリキュラム、研究テーマについて
新設医大では、以下のカリキュラムが必要であろう。地域の医療機関に教育の負担をかけないため、教員が学生と共に地域に出て行くことを求める。
総合診療医の養成
原発含む災害(震災)復興論、被災者支援論
医療・介護総合法の下での地域医療論保険医協会は地域医療の充実を目ざし必要な医療の提供に寄与する医師養成が行える医学部となる求め以上提案する。
これらの実践なしには、養成された医師が地域に根付く保障はなく、国が勧めようとしている先進医療などの分野に進路を選ぶことになる。それは人的にも、財政的にも壮大な無駄となる。宮城県保険医協会、保団連東北ブロックの役割
被災地、東北地方には医師不足だけでなく、医師偏在、看護師不足など医療・医療供給体制の課題は多岐に亘る。
今回の医学部新設の検討を機会に、宮城県保険医協会には、多岐に亘る意見が寄せられた。引き続き、協会ホームページなどで意見交換を行い、東北医科薬科大学をはじめ国・県に要望を届け、実現を図って行きたい。